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番外編(本編登場人物のその後)
《砂糖菓子と王女様》後編
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10歳ほどの背丈と容姿の少女が成人女性へと姿を変え、しかも実はシャルドネ王国のエリザベス王女だったと知り、製菓店のオーナー夫妻の脳内は混乱を極めている。
そんな2人をさて置き、王女は優雅な所作でお茶をひと口飲んでから話し始めた。
「わたくし、リリーチェとは幼い頃から交流がありまして、結婚式にも招待されたんですの」
夫妻は改めてメルロー侯爵の人脈に敬服する。
シャルドネ王国は他国と滅多に交流をせず、王族の絵姿こそ出回っているものの表舞台に出てくる事は殆どない。
王家の面々は穏やかな性格をしていると言われているが、いざとなればヒラリと手を払うだけで大国すら消せるとも噂されている。
そして、つい最近エリザベス王女が次代の国主となる旨が公表されたばかり。
そんな相手に立ち食いをさせた…と夫人は顔を青くしたが、エリザベス王女は変わらずニコニコしながら砂糖菓子を口に運ぶ。
「本当に美味しい。今度、わたくしの国に来て下さらない?我が家のパティシエに是非ご教授頂きたいわ」
「よっ…喜んで!!」
「ふふっ、ありがとうございます。のちほど正式にご連絡致しますわね」
コクコクと首肯する夫に優美な笑みを浮かべ、本筋の話へと戻した。
「それで、夫人と話していた“日持ち”についてですが、わたくしをこちらの調理場に連れて行って頂けません?」
「調理場…ですか?」
思わぬ申し出に、夫妻は揃って首を傾げる。
「えぇ。夫人から、リリーチェの祝い品を“日持ち”のせいで悩んでいらしたとお伺いしました。それさえ解決すれば、砂糖菓子に妥協せず済むのではないですか?もちろん、この砂糖菓子も絶品ですけれど」
「それは…そうですが…しかし……」
「ケーキも大変美味しくていらっしゃるけど、やはり長時間移動の手土産には不向きかと。それならやはりクッキーなどの焼き菓子ですかね」
「……はい」
結論が見えず、夫妻はますます頭を悩ませた。
しかし相手はあのシャルドネ王国の国主に指名されるほどの人物で、迂闊な事は言えないと黙って王女の話に耳を傾ける。
「食材自体の“日持ち”を延ばす事も出来ますが、それではその場にある限りとなってしまう。ですから、それらを扱う調理器具に“日持ち”を齎す効能を与えてしまいましょう」
名案でしょう?と笑う王女に、夫妻はただただ呆気に取られてしまう。
そんな“魔法みたいなこと”…と思うが、実際に指を鳴らすだけで姿を変えるのを見ている。
「そんな事が…可能なのですか?」
「可能ですわ。ただ、この事はわたくしとおふたりだけの秘密にして頂きたいの。何かと面倒事になるのは避けたいので」
かくして、エリザベス王女の魔法で食材を“日持ち”させる効能を授けられた調理器具。
それらを用いて作られた菓子は、ひと月近く鮮度を保って食べられると王女のお墨付きを貰い、オーナーパティシエは歓喜する。
「長期的な“日持ち”を売りにすれば、間違いなく土産として重宝されます!!」
しかし周囲から疑問を抱かれるのを回避する為、あくまでも「特別な調理方法を開発した」として焼き菓子のみに限定し、作成するのはオーナーパティシエだけとした。
「何か結婚祝いらしいものも欲しいわね」
リリーチェとアルバートが寄り添う絵姿を手に取り暫し悩んだあと、それを“型”に変えてみる。
「これで型押しクッキーを作ってみて」
言われるままに押してみれば色鮮やかな絵姿そのままが転写され、焼き上げたあともその色合いは損なわれない。
試作品を見た王女は大興奮。
「自分で言うのもなんだけれど、わたくしって凄いわ。これ、ちょっとした贈り物にいいわね」
ウンウンと頷きながら、自国に戻ってお抱えパティシエに相談する事に決めた。
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「こちらの詰め合わせを10箱くださる?」
「わたくしは20箱欲しいわ」
国をあげての慶事となった結婚式に駆け付けた観光客が、こぞって製菓店に押し寄せては怒涛の勢いで注文をしていく。
家族はもとより近隣にも配りたいのだと言い、生産が追いつかずに後日発送の予約が殺到。
材料となる小麦粉も大量に必要となるが、公爵領では上質な小麦が広く生産されており、生産者と仲介する商会も莫大な収入を得ることになった。
「ねぇリズ。このクッキーってあなたでしょ?」
久しぶりに再会してお茶を楽しんでいた王女とリリーチェだが、出された茶菓子は件のクッキー。
「さぁ、どうかしら」
「またとぼけて…美味しいからいいけど。また勝手なことをしたって陛下に叱られるわよ?」
「予定よりひと月も早くこちらに来たせいで、既にお怒りの手紙は受け取っているわ」
「やっぱり」
しれっと答える王女にリリーチェは呆れた視線を向けるが、当の本人はぷくっと頬を膨らませる。
「だって、女王に即位したら自由に出歩くことも叶わなくなるのよ?少しくらい羽目を外したっていいと思うの」
「リズ…あなた、大人しくするつもりなんてないわよね?今回だって容姿を変えて、自分に認識阻害までかけていたんでしょう?」
「そうでもしないと、ひとりで出歩けないもん」
それなら今後も自由じゃないかと思うも、女王として執務や公務に忙しくなるのは事実。
その心情を慮り、リリーチェはこれ以上のお説教をするのはやめた。
「でもこれ、本当に凄いわね」
しげしげとクッキーを見て感心する親友の姿に、王女は満足気な笑みを浮かべるのであった。
その後、夫婦となった2人に子供が生まれるたびに新しい“型”が届けられ、かの製菓店が売り出すクッキーはその都度大反響となった。
そして王女と密やかな交流を続けたオーナー夫妻は、娘が産んだ孫に店を譲る際にその秘密を王女の許可を得て明かし、その後も製菓店とシャルドネ王家の交流は続いていったのである。
シャルドネ王国の歴史上ただひとり女王として君臨したエリザベスは、最も有能で美しかったと評され、女王主催のお茶会では宝石のような砂糖菓子が常に用意されていた。
10歳ほどの背丈と容姿の少女が成人女性へと姿を変え、しかも実はシャルドネ王国のエリザベス王女だったと知り、製菓店のオーナー夫妻の脳内は混乱を極めている。
そんな2人をさて置き、王女は優雅な所作でお茶をひと口飲んでから話し始めた。
「わたくし、リリーチェとは幼い頃から交流がありまして、結婚式にも招待されたんですの」
夫妻は改めてメルロー侯爵の人脈に敬服する。
シャルドネ王国は他国と滅多に交流をせず、王族の絵姿こそ出回っているものの表舞台に出てくる事は殆どない。
王家の面々は穏やかな性格をしていると言われているが、いざとなればヒラリと手を払うだけで大国すら消せるとも噂されている。
そして、つい最近エリザベス王女が次代の国主となる旨が公表されたばかり。
そんな相手に立ち食いをさせた…と夫人は顔を青くしたが、エリザベス王女は変わらずニコニコしながら砂糖菓子を口に運ぶ。
「本当に美味しい。今度、わたくしの国に来て下さらない?我が家のパティシエに是非ご教授頂きたいわ」
「よっ…喜んで!!」
「ふふっ、ありがとうございます。のちほど正式にご連絡致しますわね」
コクコクと首肯する夫に優美な笑みを浮かべ、本筋の話へと戻した。
「それで、夫人と話していた“日持ち”についてですが、わたくしをこちらの調理場に連れて行って頂けません?」
「調理場…ですか?」
思わぬ申し出に、夫妻は揃って首を傾げる。
「えぇ。夫人から、リリーチェの祝い品を“日持ち”のせいで悩んでいらしたとお伺いしました。それさえ解決すれば、砂糖菓子に妥協せず済むのではないですか?もちろん、この砂糖菓子も絶品ですけれど」
「それは…そうですが…しかし……」
「ケーキも大変美味しくていらっしゃるけど、やはり長時間移動の手土産には不向きかと。それならやはりクッキーなどの焼き菓子ですかね」
「……はい」
結論が見えず、夫妻はますます頭を悩ませた。
しかし相手はあのシャルドネ王国の国主に指名されるほどの人物で、迂闊な事は言えないと黙って王女の話に耳を傾ける。
「食材自体の“日持ち”を延ばす事も出来ますが、それではその場にある限りとなってしまう。ですから、それらを扱う調理器具に“日持ち”を齎す効能を与えてしまいましょう」
名案でしょう?と笑う王女に、夫妻はただただ呆気に取られてしまう。
そんな“魔法みたいなこと”…と思うが、実際に指を鳴らすだけで姿を変えるのを見ている。
「そんな事が…可能なのですか?」
「可能ですわ。ただ、この事はわたくしとおふたりだけの秘密にして頂きたいの。何かと面倒事になるのは避けたいので」
かくして、エリザベス王女の魔法で食材を“日持ち”させる効能を授けられた調理器具。
それらを用いて作られた菓子は、ひと月近く鮮度を保って食べられると王女のお墨付きを貰い、オーナーパティシエは歓喜する。
「長期的な“日持ち”を売りにすれば、間違いなく土産として重宝されます!!」
しかし周囲から疑問を抱かれるのを回避する為、あくまでも「特別な調理方法を開発した」として焼き菓子のみに限定し、作成するのはオーナーパティシエだけとした。
「何か結婚祝いらしいものも欲しいわね」
リリーチェとアルバートが寄り添う絵姿を手に取り暫し悩んだあと、それを“型”に変えてみる。
「これで型押しクッキーを作ってみて」
言われるままに押してみれば色鮮やかな絵姿そのままが転写され、焼き上げたあともその色合いは損なわれない。
試作品を見た王女は大興奮。
「自分で言うのもなんだけれど、わたくしって凄いわ。これ、ちょっとした贈り物にいいわね」
ウンウンと頷きながら、自国に戻ってお抱えパティシエに相談する事に決めた。
𓂃𓈒𓏸✧︎𓂃𓈒𓏸✧︎𓂃𓈒𓏸✧︎𓂃𓈒𓏸✧︎𓂃𓈒𓏸✧︎𓂃𓈒𓏸✧︎𓂃𓈒𓏸
「こちらの詰め合わせを10箱くださる?」
「わたくしは20箱欲しいわ」
国をあげての慶事となった結婚式に駆け付けた観光客が、こぞって製菓店に押し寄せては怒涛の勢いで注文をしていく。
家族はもとより近隣にも配りたいのだと言い、生産が追いつかずに後日発送の予約が殺到。
材料となる小麦粉も大量に必要となるが、公爵領では上質な小麦が広く生産されており、生産者と仲介する商会も莫大な収入を得ることになった。
「ねぇリズ。このクッキーってあなたでしょ?」
久しぶりに再会してお茶を楽しんでいた王女とリリーチェだが、出された茶菓子は件のクッキー。
「さぁ、どうかしら」
「またとぼけて…美味しいからいいけど。また勝手なことをしたって陛下に叱られるわよ?」
「予定よりひと月も早くこちらに来たせいで、既にお怒りの手紙は受け取っているわ」
「やっぱり」
しれっと答える王女にリリーチェは呆れた視線を向けるが、当の本人はぷくっと頬を膨らませる。
「だって、女王に即位したら自由に出歩くことも叶わなくなるのよ?少しくらい羽目を外したっていいと思うの」
「リズ…あなた、大人しくするつもりなんてないわよね?今回だって容姿を変えて、自分に認識阻害までかけていたんでしょう?」
「そうでもしないと、ひとりで出歩けないもん」
それなら今後も自由じゃないかと思うも、女王として執務や公務に忙しくなるのは事実。
その心情を慮り、リリーチェはこれ以上のお説教をするのはやめた。
「でもこれ、本当に凄いわね」
しげしげとクッキーを見て感心する親友の姿に、王女は満足気な笑みを浮かべるのであった。
その後、夫婦となった2人に子供が生まれるたびに新しい“型”が届けられ、かの製菓店が売り出すクッキーはその都度大反響となった。
そして王女と密やかな交流を続けたオーナー夫妻は、娘が産んだ孫に店を譲る際にその秘密を王女の許可を得て明かし、その後も製菓店とシャルドネ王家の交流は続いていったのである。
シャルドネ王国の歴史上ただひとり女王として君臨したエリザベスは、最も有能で美しかったと評され、女王主催のお茶会では宝石のような砂糖菓子が常に用意されていた。
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