空色のサイエンスウィッチ

コーヒー微糖派

文字の大きさ
44 / 465
魔女の誕生編

ep44 もう完全に許さない!!

しおりを挟む
「ゲーゲゲゲェ! ヒーロー気取りの空色の魔女も、所詮は我が身の方が可愛いカ! 自分だけ助かるために、あの警部を見捨てるとはナァア!! ゲーゲゲゲェ!」
「…………」

 デザイアガルダの鬱陶しい嘲笑が聞こえてくるが、それ以上にアタシは眼前の光景に茫然としてしまう。
 屋上に叩きつけられた木箱の下から流れ出る血。それが誰のものかなんて分かり切っている。



 ――アタシも幼い頃からよくしてもらっていた、タケゾーの親父さんの血だ。
 アタシを庇い、一人で木箱に圧し潰されてしまった。



「どうしタ? 空色の魔女? せっかく助かったのに、戦おうとも逃げ出そうともしないのカ? だったら、ワシの手で今度こそ葬ってやるゾォオ!!」
「…………」

 デザイアガルダからは状況が見えていなかったのか、アタシがタケゾー父を見殺しにしたと思っているのだろう。
 いや、実際には同じことか。タケゾー父はアタシのせいで巻き込まれ、アタシが守り切れずに死んでしまったのだ。



 ――やっぱりアタシに関わると、大切な人を巻き込んでしまう。



「……ンク! ンク! ンク!」
「オォ? 何をしていル? 一人でヤケ酒カ?」

 それでも、今のアタシの頭の中には、一つしかやることが出てこない。
 まずは懐から酒の入ったボトルを一本取り出し、一気に飲み干す。
 普段なら空色の魔女の時でも、チマチマとしか飲まない酒だ。アルコール度数が高く、生体コイルへ過剰な燃料接種を起こすリスクがあるからだ。

 それでもアタシは全部飲み干すと、空になったボトルを捨てて、忌々しい眼前の敵へと目を向ける――



「あんただけは……絶対に許さないぞぉぉおおお!!!」



 ――両目の瞳孔を開き、これでもかという怒りを滲ませてデザイアガルダに咆哮した。
 こいつだけは本当に許さない。もう絶対に許さない。

 ――アタシの幼馴染の父親を、アタシにもよくしてくれた大切な人を殺した奴を、許せるはずがない。

 そんな気持ちを込めて、アタシは体内の生体コイルをフル稼働させる。
 これまでのように調整した稼働の比ではない。さっき飲んだ酒を全部生体コイルで電気エネルギーへと変換し、そのまま体内の強化細胞へと出力させる。
 それにより、アタシの体には青い稲光が視認できるほど発生し、髪の毛もこれまで以上に毛先が浮き立ち始める。

 ――今のアタシは、普通の自家用車にニトロを積んで出力を無理矢理跳ね上げたのと同じ状態。
 過剰な負担がかかっているのは百も承知だ。
 それでも、こうしないとアタシの気が収まらない。デザイアガルダをこの手でぶちのめすことしか、アタシの頭の中には浮かんでこない。

「ふんぐぅうう……! どぉりゃぁあああ!!」


 ブゥウウンッ!!


「馬鹿ナ!? どこにそんな力が残ッテ!?」

 今のアタシにあれこれ考える余裕もない。ただ力任せにデザイアガルダを倒すことしか考えられない。
 タケゾー父を圧し潰した忌まわしい巨大な木箱を持ち上げ、空中で嘲笑っていたデザイアガルダへと投げ返す。
 これまでの許容量を完全に上回る、圧倒的なまでのオーバースペック。さっきまでのパワーとは段違いだ。
 デザイアガルダも驚くが、こちらも力任せでコントロールがうまくできず、木箱自体は当たらずに再度屋上へと落下してしまった。

「こ、こんなパワーを持っていたのカ……!? これ以上は下手に相手できぬナ……!」
「待てぇえ!! デザイアガルダァア!! デザイアガルダァァアア!!!」

 さらにはアタシのそのパワーを目の当たりにして、デザイアガルダも危機感を覚えて退却を始めてしまった。
 その逃げ行く背中に向けて大声で叫ぶが、デザイアガルダがこちらを振り向くことはない。

 アタシの大切な人を奪うだけ奪って、夜空へ消えて行ってしまった。

「ハァ……ハァ……! そ、そうだ! タ、タケゾーの親父さん!?」

 そんな逃げる背中を眺めながら息を整ていたが、タケゾー父がどうなったかをしっかりこの目で確認していないことに気付いた。
 圧し潰していた木箱はアタシが投げ飛ばしたし、目を向ければすぐに確認はできる。

 ――いや、そもそも確認するまでもない。
 アタシはタケゾー父の最後の瞬間をその目で見たんだ。結末など、アタシが一番想像できる。

 当然、さっきまで木箱があった場所に目を向け、そこで確認できたのは――



「あ……ああぁ……!? タ、タケゾーの……親父さん……!?」



 ――うつぶせになったままもうピクリとも動かない、タケゾー父の亡骸だった。
 近くに寄って膝をついてその体を仰向けにするが、もう完全に息絶えている。圧し潰された衝撃により、全身が痛々しいまでにボロボロだ。

 ただ、その表情だけはアタシが最後に見たものと同じく、どこか希望を託せたことを感じさせる笑顔。
 その希望とは、他でもないアタシのことなのだろう。アタシならばデザイアガルダを倒し、この街の平和を守ってくれると信じてくれたのだろう。



 ――でも、今のアタシにそんな資格があるとは思えない。



「ああぁ……うわぁぁああん……!」

 アタシはタケゾー父の亡骸の傍で、泣き崩れることしかできなかった。
 世間で空色の魔女と呼ばれ、サイエンスウィッチなどという名前を与えられようとも、アタシは身近な大切な人さえ守れない。
 それどころか、この人はアタシを守ったせいで命を落としてしまった。
 人助けしたり、守りたくて始めたヒーロー活動なのに、全く逆の結末が眼前に広がっている。



 ――何が空色のサイエンスウィッチだ。
 アタシはヒーローでも何でもないじゃないか。



「お、親父!? さっき物凄い音が聞こえたけど、何があって――ッ!?」
「タ……タケゾー……!?」

 そうしてアタシが一人で泣き崩れていた屋上にいると、一人の男がやって来た。
 それが誰かなんて即座に判断できる。ここでアタシを守ってくれた人の息子であるタケゾーだ。
 タケゾーもすぐに眼前にいる自身の父の姿を確認し、すぐさま駆け寄ってくる。

「お……親父……? な、なんで……? こ、これって……死んで……?」
「あ……ああぁ……!?」

 タケゾーは父親の亡骸を見て、愕然と膝をついてその顔を覗き見ている。
 その姿はとてもではないが、アタシも見ていられるものではない。思わず立ち上がり、空色の魔女の姿のまま後ずさりを始めてしまう。

「そ、そんな……? だ、誰が……? お、親父……親父ぃ……!?」

 タケゾーも状況を飲み込むと、アタシと同じように大量の涙を流し始める。
 実の父親の遺体を見たのだから、こうなるのも当然だ。同時に、タケゾー父を守れなかった悔しさから、アタシの胸もさらに苦しくなってくる。
 さらにアタシの頭の中で浮かんでしまうのは、今この場における状況で、タケゾーが抱いてしまう可能性。

 この屋上には犯人であるデザイアガルダはもういない。
 いたのはアタシと殺されたタケゾー父だけだった。
 そこに何も知らない息子のタケゾーがやって来れば――



「お、お前が……お前が親父を殺したのかぁあ!? 空色の魔女ぉぉおお!!??」
「ッ!?」



 ――アタシのことを犯人だと思ってしまう。
 その予感は的中してしまい、タケゾーは涙で目元を濡らしながらも、怒りの形相をしながら空色の魔女アタシのことを睨んで来た。
 それはもう、この間の喧嘩の時とは比較にならない。絶望と憎悪が入り混じった、とても形容できない形相だ。

「ううぅ……!?」
「ま、待て!? 本当のことを言え! お前が俺の親父を……殺したのかぁあ!?」

 アタシは思わず、デバイスロッドを取り出して空へと飛び立ってしまった。
 『アタシは殺してない』とも言いたかったが、とても言えなかった。

 実際にそうであったとしても、アタシの中では同じことだ。
 タケゾー父はアタシを庇って死んだ。アタシが守れなかったから死んだ。アタシの傍にいたから死んだ。

 ――アタシが殺したことと、同じじゃないか。

「う、ううぅ……! うあぁ……あああぁ……!」

 もう何も考えられない。もう何も考えたくない。
 タケゾーにも恨まれたまま。その父親も守れぬまま。元凶であるデザイアガルダも倒せぬまま。



 ――そんなあらゆる後悔だけを抱き、アタシは逃げるように空を飛んだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

真祖竜に転生したけど、怠け者の世界最強種とか性に合わないんで、人間のふりして旅に出ます

難波一
ファンタジー
"『第18回ファンタジー小説大賞【奨励賞】受賞!』" ブラック企業勤めのサラリーマン、橘隆也(たちばな・りゅうや)、28歳。 社畜生活に疲れ果て、ある日ついに階段から足を滑らせてあっさりゲームオーバー…… ……と思いきや、目覚めたらなんと、伝説の存在・“真祖竜”として異世界に転生していた!? ところがその竜社会、価値観がヤバすぎた。 「努力は未熟の証、夢は竜の尊厳を損なう」 「強者たるもの怠惰であれ」がスローガンの“七大怠惰戒律”を掲げる、まさかのぐうたら最強種族! 「何それ意味わかんない。強く生まれたからこそ、努力してもっと強くなるのが楽しいんじゃん。」 かくして、生まれながらにして世界最強クラスのポテンシャルを持つ幼竜・アルドラクスは、 竜社会の常識をぶっちぎりで踏み倒し、独学で魔法と技術を学び、人間の姿へと変身。 「世界を見たい。自分の力がどこまで通じるか、試してみたい——」 人間のふりをして旅に出た彼は、貴族の令嬢や竜の少女、巨大な犬といった仲間たちと出会い、 やがて“魔王”と呼ばれる世界級の脅威や、世界の秘密に巻き込まれていくことになる。 ——これは、“怠惰が美徳”な最強種族に生まれてしまった元社畜が、 「自分らしく、全力で生きる」ことを選んだ物語。 世界を知り、仲間と出会い、規格外の強さで冒険と成長を繰り広げる、 最強幼竜の“成り上がり×異端×ほのぼの冒険ファンタジー”開幕! ※小説家になろう様にも掲載しています。

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

竜皇女と呼ばれた娘

Aoi
ファンタジー
この世に生を授かり間もなくして捨てられしまった赤子は洞窟を棲み処にしていた竜イグニスに拾われヴァイオレットと名づけられ育てられた ヴァイオレットはイグニスともう一頭の竜バシリッサの元でスクスクと育ち十六の歳になる その歳まで人間と交流する機会がなかったヴァイオレットは友達を作る為に学校に通うことを望んだ 国で一番のグレディス魔法学校の入学試験を受け無事入学を果たし念願の友達も作れて順風満帆な生活を送っていたが、ある日衝撃の事実を告げられ……

大根令嬢の雑学無双、王弟殿下を添えて。~ 前世を思い出したので、許婚をほったらかして人助けしまくります!!

古森真朝
恋愛
気弱な伯爵令嬢のカレンは、自分勝手な婚約者レナートに振り回されていた。耐え続けていたある日、舞踏会で何者かに突き飛ばされ、階段から落ちてしまう。 その傷が元で儚く……なるかと思いきや。衝撃で前世を思い出したカレンは一転、かの『ド根性大根』みたいな超・ポジティブ人間になっていた。 『モラハラ婚約者の思惑なんぞ知るか!! 今度こそ好きなことやって、目いっぱい幸せに長生きするんだから!!!』 昔ひたすら読書に耽って身に着けた『雑学』を武器に、うっかり採れ過ぎた作物や、開墾しようとすると不幸に見舞われる土地、不治の病にかかった王族、等々の問題をどんどん解決。 領地の内外で心強い友人が出来たり、いつの間にかものすごく有名になっていたり、何かと協力してくれる王弟ヴィクトルから好意を寄せられたり(注:気付いてない)する中、温かい家族と共に仕事に励んでいく。 一方、前世から因縁のある人々もまた、こちらに転生していて――

美味しいコーヒーの愉しみ方 Acidity and Bitterness

碧井夢夏
ライト文芸
<第五回ライト文芸大賞 最終選考・奨励賞> 住宅街とオフィスビルが共存するとある下町にある定食屋「まなべ」。 看板娘の利津(りつ)は毎日忙しくお店を手伝っている。 最近隣にできたコーヒーショップ「The Coffee Stand Natsu」。 どうやら、店長は有名なクリエイティブ・ディレクターで、脱サラして始めたお店らしく……? 神の舌を持つ定食屋の娘×クリエイティブ界の神と呼ばれた男 2人の出会いはやがて下町を変えていく――? 定食屋とコーヒーショップ、時々美容室、を中心に繰り広げられる出会いと挫折の物語。 過激表現はありませんが、重めの過去が出ることがあります。

薬師だからってポイ捨てされました~異世界の薬師なめんなよ。神様の弟子は無双する~

黄色いひよこ
ファンタジー
薬師のロベルト・シルベスタは偉大な師匠(神様)の教えを終えて自領に戻ろうとした所、異世界勇者召喚に巻き込まれて、周りにいた数人の男女と共に、何処とも知れない世界に落とされた。  ─── からの~数年後 ──── 俺が此処に来て幾日が過ぎただろう。  ここは俺が生まれ育った場所とは全く違う、環境が全然違った世界だった。 「ロブ、申し訳無いがお前、明日から来なくていいから。急な事で済まねえが、俺もちっせえパーティーの長だ。より良きパーティーの運営の為、泣く泣くお前を切らなきゃならなくなった。ただ、俺も薄情な奴じゃねぇつもりだ。今日までの給料に、迷惑料としてちと上乗せして払っておくから、穏便に頼む。断れば上乗せは無しでクビにする」  そう言われて俺に何が言えよう、これで何回目か? まぁ、薬師の扱いなどこんなものかもな。  この世界の薬師は、ただポーションを造るだけの職業。  多岐に亘った薬を作るが、僧侶とは違い瞬時に体を癒す事は出来ない。  普通は……。 異世界勇者巻き込まれ召喚から数年、ロベルトはこの異世界で逞しく生きていた。 勇者?そんな物ロベルトには関係無い。 魔王が居ようが居まいが、世界は変わらず巡っている。 とんでもなく普通じゃないお師匠様に薬師の業を仕込まれた弟子ロベルトの、危難、災難、巻き込まれ痛快世直し異世界道中。 はてさて一体どうなるの? と、言う話。ここに開幕! ● ロベルトの独り言の多い作品です。ご了承お願いします。 ● 世界観はひよこの想像力全開の世界です。

異世界だろうがソロキャンだろう!? one more camp!

ちゃりネコ
ファンタジー
ソロキャン命。そして異世界で手に入れた能力は…Awazonで買い物!? 夢の大学でキャンパスライフを送るはずだった主人公、四万十 葦拿。 しかし、運悪く世界的感染症によって殆ど大学に通えず、彼女にまでフラれて鬱屈とした日々を過ごす毎日。 うまくいかないプライベートによって押し潰されそうになっていた彼を救ったのはキャンプだった。 次第にキャンプ沼へのめり込んでいった彼は、全国のキャンプ場を制覇する程のヘビーユーザーとなり、着実に経験を積み重ねていく。 そして、知らん内に異世界にすっ飛ばされたが、どっぷりハマっていたアウトドア経験を駆使して、なんだかんだ未知のフィールドを楽しむようになっていく。 遭難をソロキャンと言い張る男、四万十 葦拿の異世界キャンプ物語。 別に要らんけど異世界なんでスマホからネットショッピングする能力をゲット。 Awazonの商品は3億5371万品目以上もあるんだって! すごいよね。 ――――――――― 以前公開していた小説のセルフリメイクです。 アルファポリス様で掲載していたのは同名のリメイク前の作品となります。 基本的には同じですが、リメイクするにあたって展開をかなり変えているので御注意を。 1話2000~3000文字で毎日更新してます。

処理中です...