空色のサイエンスウィッチ

コーヒー微糖派

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怪鳥との決闘編

ep72 大企業を見学しよう!

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「タケゾー! お疲れー!」
「お疲れ、隼。満足したのか?」
「うん。一応は」

 アタシは目的地までやって来ると元の姿に戻り、先に行かせていたタケゾーとも合流する。
 タケゾーもバイクは停めてきたのか、アタシの帽子だけを持ちながら待っていてくれた。

 ――アタシも憧れるスーパーキャリアウーマン、星皇社長が代表を務める一大企業、星皇カンパニー。
 ずっと憧れてはいたけど、こうやってその本社にまでやって来るのは初めてだ。
 心なしか、陽の光が後光のように見えて神々しい。

「ところで隼。あの煽ってたスポーツカーには、どんなお仕置きをしたんだ?」
「別に大したことはしてないよ。ちょーっと注意しただけ」

 待っていたタケゾーに帽子を被せてもらいながら、アオリカートのことについても少し尋ねられる。
 でもまあ、そこまで事細かに言う必要はないよね。
 ボンネットを踏み潰したことだって、空色の魔女の能力で見れば『ちょっとだけ』の範囲だし、特に問題は――

「そういえば、さっきネットニュースで見たんだが、この近辺で煽り運転常習犯の車が、ボンネットを盛大に大破するって事件があったそうだ」
「……アタシ、ナニモ、シラナイ」
「俺は何も聞いてないぞ? てか、やっぱり隼がやったんだな? ボンネットを大破させることの、どこが『ちょっと注意しただけ』なんだ? 流石にやりすぎじゃないか?」
「……ごめんなさい。相手に反省の色が見えなかったから、その……ついカッとなって……!」
「言い訳の内容が完全に犯罪者のそれじゃないか」

 ――残念。問題あった。
 近代ネットワークによる高速情報伝達社会というものは便利な反面、時として不都合にも働くものだ。
 自身が知られたくない情報だって、こうやって先に知られてしまう。人類の叡智とはとく残酷なものだ。

「まあ、あの煽ってた奴の被害報告は色々と出てたし、結果オーライってことでこれ以上の言及は控えてく」
「ホント!? いや~! タケゾーが話の分かる男で助かるねぇ!」
「ただし、次からはあまり無闇に破壊しようとするな。これで『空色の魔女が破壊神だった』なんて噂が独り歩きすれば、俺だって辛い」
「……はい。気をつけます」

 タケゾーもあのアオリカートに多少の苛立ちはあったのか、ここからグチグチお説教コースとはならずに済んだ。
 とはいえ、車のボンネットを大破させたことについてはアタシも少々反省。理由がどうあれ、おいそれと破壊行為が許されるはずもなし。

 ――タケゾーも警察官の息子だからか、こういうところはキッチリしてるよね。
 アタシも正義のヒーローってことになってるし、もうちょっと自重しよう。



「それにしても、本当に大きなビルだな……」
「世界的大企業の本社だからね。これぐらいの規模で当然さ」



 少々問題もあったが、そろそろ本題に戻ろう。
 アタシとタケゾーは二人で星皇カンパニー本社ビルの前に並び、その巨大な外観を見上げる。
 唖然とするタケゾー。感心するアタシ。感じ方に違いはあるが、星皇カンパニーが大企業なのを改めて認識しちゃうね。

「おじゃましまーす」
「一階は一般展示用のフロアか。それでも、並の科学博物館よりも立派に見えるな」

 早速社内に入ってみると、まず目に入るのは一階展示フロア。
 一般人向けなため、アタシの両親も携わっていた脊椎直結制御回路のように、開発レベルが高度なものは置かれていない。
 ただ、それはあくまで星皇カンパニー基準での話。一般的な企業や博物館と比べてみると、とてもではないが比較になるレベルではない。

「この金属アームとか凄いね……! 同時に六本も操作可能で、精密性もパワーも人間どころか、従来の工業用ロボットアームなんかより数段上だって! まるで蜘蛛みたいなデザインだねぇ!」
「これを人に装着して扱うのか? にしても、どうやって操作するんだ?」
「ここには書かれてないけど、最終的にはジェットアーマーにも使ってた脊椎直結制御回路と同じ技術を使うんだろうね。これが完成すれば、人間が器用でパワフルな蜘蛛型サイボーグに大変身だ」

 アタシとタケゾーも星皇社長の件を忘れ、思わず展示物に目が行ってしまう。
 本当に凄い会社だよね。服ではなく、対象者の周囲に粒子を纏わせる光学迷彩技術とかまであったよ。
 まだまだ未採用のテクノロジーもあるけど、こんな時代の最先端な開発を見せられると、アタシの技術者としての信念も刺激されるもんだ。



「……ん? これだけ、他とはちょっと違うね?」
「本当だな。メビウスの輪のように見えるが……?」



 そんな刺激的な展示物の中に、ひときわ広いスペースに置かれたものが目に入って来た。
 巨大なレールがメビウスの輪のように繋げられ、蛍光ランプで彩られている。
 見たところ、これは他の展示物のような試作機ではなく、あくまで理論を紹介するためのレプリカと思われる。

「『時間軸を負の方向に加速させ、時間を巻き戻す理論の模型』……だって?」
「時間を巻き戻す? いくら星皇カンパニーが世界最高クラスの技術を持っていても、そんなことが可能なのか?」
「……一応、ここに書いてある理論の通りなら、できなくはないかな」
「そ、そうなのか?」

 そのレプリカの説明を読んでみても、タケゾーはとても信じ難いといった様子だ。
 でも、アタシにならここに書かれている理論自体は理解できる。

 ――特殊相対性理論によると、物質は光の速度に近づくほど、時間の流れが遅くなっていく。
 大袈裟に言うと、限りなく光の速度に近いスピードで宇宙へ飛び立ったロケットは、戻ってくる時には地球よりも時間が遅れている。ちょっとした浦島太郎状態だ。
 この場合『地球にいた人はロケットに乗った人から見て未来』の世界にいるということになる。

 このレプリカが示すのは、それを逆手に取って応用した理論。
 メビウスの輪という無限の距離の中で、時間そのものをプラスではなくマイナスのベクトルに限界まで加速させることで、時間を過去へと逆転して進ませると言うもの。
 言うなれば『時間という歯車を逆方向に回転させる』とでもいったところか。まさしくもって、タイムマシンである。

 ――ただ、理論は分かっても課題が多すぎる。

「これを実現させるためには『時間という概念を物質のように扱う技術』と『物質をマイナスのベクトルへと加速させる技術』が必要だね。それだけでもオカルトみたいな話だけど、他にも光速に耐えうるだけの設備や、空間への干渉効果の検証とか――」
「すまん。説明してくれるのはありがたいんだが、俺にはチンプンカンプンだ……」

 そうやってアタシなりの見解を述べてみるのだが、タケゾーは難しい顔で頭を抱え込んでいる。
 これはいけない。アタシもタイムマシンを作れそうな理論を見て、つい舞い上がちゃったね。
 とはいえ、このタイムマシン理論は机上の空論に過ぎない。夢はあるが、課題が多すぎる。



「流石は空鳥ご夫妻の娘さんね。聡明さは親譲りといったところかしら」



 ちょっとデートから外れて夢中になってたアタシの耳に、何度か聞いた大人びた女性の声が入って来た。
 そうだった。アタシはそもそも、この人に会うつもりでここに来たんだった。
 軽く目的を忘れかけていたが、その人は男装麗人な秘書を連れて、向こうからアタシ達の方に近づいてきてくれた。



「星皇カンパニー内の見学は楽しんでいただけてるかしら? 空鳥さん」
「星皇社長! お久しぶり!」
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