空色のサイエンスウィッチ

コーヒー微糖派

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怪鳥との決闘編

ep80 ヤバい箱を開いてしまった。

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「マイクロSDだって? それは俺も知らなかったな。どんなデータが入ってるか分からないか?」
「うーん……。スマホで使うのとは規格が違うみたいだね」

 タケゾー父が遺した手帳の中から出てきた、一枚のマイクロSD。
 息子のタケゾーも知らなったらしく、アタシも一度持っていたスマホで中を覗こうとするが、どうにも一般規格のものとは違うようだ。
 パソコンがあれば調べられるだろうけど、元の持ち主だったタケゾーも気になるだろうね。アタシも両親が亡くなったことと繋がるものを感じるし、早く中身を見てみたい。
 ここは一つ、アタシが今持ってるパソコンで調べてみますか。

「ちょっと待っててね、タケゾー。これなら、このマイクロSDも読み込めるはずだから」
「それって、空色の魔女の時にも使う腕時計か? それで読み込むだって?」

 アタシはスマホからマイクロSDを取り出し、今度は左腕につけた腕時計型ガジェットへと差し込む。
 このガジェットにはパソコン用のOSも搭載してある。ホログラムディスプレイと操作パネルを使えば、即席のパソコンとしても使える。
 空中に映し出されたホログラムをフリックしながら、アタシもマイクロSDの中を確認してみたのだが――

「何だろ、これ? コンパイルされた実行ファイルばっかじゃん」
「要するに、隼にも分からないってことか?」
「うん。マイクロSDのデータもコピー不可なプロテクトがかかってるし、何のためのものかも分かんないや」

 ――アタシでも解読不可能だった。
 プログラミングにも覚えはあるけど、中に入っていたデータは逆コンパイルすら不可で、完全に実行ファイル起動専用というプロテクト付き。コピーさえもできない。
 何かのデータを参照する実行ファイルではあるのだが、このマイクロSD自体にはそれ以外のデータもなく、どんなデータに対する実行ファイルかも分からない。

「アタシでも解読できないなんて、随分と高度なレベルのデータが入ったSDだね。こんなものを、どうしてタケゾーの親父さんは持ってたのかな?」
「俺だって分からないっての……。でもさ、もしかするとそのマイクロSD自体は親父のものじゃないのかもな」
「へ? どゆこと?」

 アタシでさえも正体不明なこの高度なマイクロSDの中身なのに、タケゾーに何か分かるのかな?
 正直に言うと、これってタケゾーではとても扱えるようなものじゃ――



「それは親父の所有物じゃなくて、隼の両親が持ってたものかもしれないな。隼でも理解できないものを作れる人間なんて、それこそ限られてくるだろ?」
「あっ……!?」



 ――そう考えてしまったが、アタシも盲点だった。
 流石はタケゾー。偉大なる警部殿の息子だ。その推理力に痺れる憧れる。
 確かにこんな高度な技術を搭載したもの、タケゾー父が個人で持っていたとは考えにくい。
 それならば、こんな高度な技術を実現可能であり、タケゾー父やこのマイクロSDが入っていた手帳とも縁がある人物のものであると考えるのが妥当だ。

 ――そしてそれらの条件に合う人物こそ、アタシの両親以外に考えられない。

「だとしたら、このSDに入っている実行ファイルが参照できるデータも、父さんや母さんが持ってて――って、まさか!?」
「どうした? 何か気付いたのか?」
「うん! とりあえず、アタシの家まで向かってくれないかな! もしかすると、あのデータを参照すれば……!」

 さらに実行ファイルの参照元についても、アタシは一つ心当たりがある。

 あの日の事故が大凍亜連合によって、意図的に起こされたものである可能性。
 大凍亜連合が鷹広のおっちゃんと手を組み、工場に隠してあったUSBメモリを狙っていた可能性。
 このマイクロSDと内部の実行ファイルが両親のものである可能性。

 ――これらのことから想定される参照すべきデータについても、アタシは心当たりがある。





「急いで戻って来たのはいいが、何をするつもりだ?」
「このマイクロSDの実行ファイルを起動させるために、同じようにあのUSBメモリを接続すれば……!」

 タケゾーにバイクで自宅まで送ってもらうと、アタシは早速作業に取り掛かる。
 付き添ってくれているタケゾーは状況が呑み込めないようだが、こっちだって居ても立っても居られない。
 まずは自宅のパソコンを起動させ、工場に隠されていたUSBメモリと手帳に隠されていたマイクロSDをパソコンへと接続する。
 アタシの読みが正しければ、これでうまいくはず――



「ッ!? で、できた! マイクロSDの実行ファイルが起動した!」
「え!? ほ、本当か!?」



 ――その読み通り、マイクロSDの中にあった実行ファイルは、アタシのパソコンの中で起動し始めた。
 参照ファイルはUSBメモリに入っていたデータ。どうやら、USBメモリの中にはまだアタシでも見つけていなかった隠し暗号ファイルがあったようだ。
 そしてマイクロSDに入っていた実行ファイルは、言うなればその暗号ファイルを解凍するための鍵。その鍵によって、暗号ファイルという箱が開かれていく。

「これは……USBメモリにあった他の研究データと同じく、父さんや母さんが研究していたものか……」
「隼が空色の魔女で使ってたものと同じくか。それで、どんな研究データが入ってたんだ?」
「それなんだけど、かなりの規模だからか、アタシも全部には目を通せなくてさ。ちょっと調べてみるね」

 そうして解凍されたファイルの中身だが、かなりの量が眠っており、アタシもすぐにはその内容を把握しきれない。
 ファイル自体も解凍されたと言っても、実行ファイルと同じようにコピー不可なプロテクトがかかっている。
 つまりこのデータを閲覧するためには、鍵のかかった箱であるUSBメモリと、それを開ける鍵となるマイクロSDの両方が常に必要となる。
 そこまでバックアップを許さない体制を取って、どんなデータを保管していたのかと思ったが――



「え……!? 『ヒトゲノム解明データ』だって……!?」



 ――まず最初に目についたものを見て、アタシも思わず鳥肌が立つ。
 膨大な規模のデータのせいで、まだその一つにしか目を通せていない。それでも、その一つを読み解ていくたびに、アタシは言いようのない恐怖を感じてしまう。

 ――アタシの両親はヒトゲノムを、これまで世界中の誰も到達できなかったレベルまで解明していた。

「なあ。そのヒトゲノムの解明って、どういうことなんだ?」
「言うなれば『人間の設計図の解明』……。恐ろしい言い方をすれば『人間を細胞から別の存在に作り変える技術』ってとこだね……」
「え……!? に、人間を別の存在に……!?」

 タケゾーにも尋ねられたので、アタシは読み解けた内容から分かることを口にする。
 ただ、そうやって自分で口にしてみると、この技術の恐ろしさがより深く染み込んでくる。

 父さんと母さんが、どうしてこんな研究をしていたのかまでは分からない。
 だけど、こうやってバックアップさえもとれないシステムを作り、箱や鍵となるデータを分けていたことについては、アタシにも自ずと理解できる。



 ――このUSBメモリとマイクロSDは、さしずめ『パンドラの箱』と『パンドラの鍵』だ。
 その恐ろしさを両親も理解していたからこそ、こうやって分けて封印していたのだ。
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