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怪鳥との決闘編
ep93 もう奇跡を信じるしかない。
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デザイアガルダを警察に任せた後、アタシは再びタケゾーの入院する病院の屋上へと降り立った。
本来の目的であった解毒剤は手に入らずじまい。それでも、アタシはどうしてもタケゾーの傍にいたい。
――今はもう奇跡を信じて、タケゾーの容態を見守るしかない。
「じゅ、隼ちゃん! 戻って来たのか!?」
「玉杉さん……?」
アタシが屋上に降り立つと、玉杉さんが血相を変えて駆け寄って来た。
もしかして、アタシが戻るまでずっとここで待っててくれたのかな? 玉杉さんも律儀なものだ。
――もっとも、今のアタシにはその期待に応える報告ができない。
「ごめん、玉杉さん。実は――」
「急いで武蔵の病室に向かってくれ! と、とにかく大変なことになってんだ!」
「えっ……?」
空色の魔女の変身を解除し、ことの一部始終を話そうとするも、玉杉さんは言葉を被せてくる。
この慌てようは尋常じゃない。タケゾーの身に何かあったのなんて一発で分かる。
――アタシの予期していた最悪の事態が、頭の中に浮かんでしまう。
「タ、タケゾー! タケゾー!!」
玉杉さんを屋上に置き去りにして、アタシは一目散にタケゾーのいる個室へと走り出す。
もう余計なことなんて考えられない。願うことなど一つしかない。
――お願いだから、タケゾーが無事であって欲しい。
それしか頭に浮かばない。
「タケゾー!!」
「そ、空鳥さん……。実は――」
「ごめん、洗居さん! そこどいて!」
個室に入ると、まずは洗居さんが不安そうな表情でアタシの方に尋ねてきた。
でも、今はそんな言葉を聞く余裕すらない。洗居さんを腕で押しのけながら、アタシはタケゾーのベッドに近づく。
――そんなタケゾーの周りでは、タケゾー母や女医さんが静かに様子を見守っている。
その背中はどこか神妙で、アタシの嫌な予感を加速させる。
「ねえ! タケゾーは!? タケゾーはどうなったの!?」
「隼ちゃん……」
アタシはベッドに寄り添っていたタケゾー母も押しのけ、横たわるタケゾーの顔を覗き見る。
無礼は承知だが、そうせずにはいられない。
そして肝心のタケゾーの様子だが、アタシがここを出る前の苦しそうな表情から一転、静かに目を閉じている。
それは眠っているように見えて、まるで全ての苦しみから解放されたような表情。
アタシにも反応しないし、まさか本当にもう――
「ううぅ……。じゅ、隼か……?」
「タ、タケゾー……? タケゾー!!」
――悪寒が身に走り、心が絶望に塗り替えられようとした時、眼前で眠るタケゾーから声がした。
その声はまだ弱々しいく、点滴も繋がれている。だが、毒を受けた時の苦しさはもう感じられない。
タケゾーは確かに生きている。アタシはただそれが嬉しくて、思わず泣きながら胸元に顔をうずめてしまう。
――この嬉しさを例える言葉も見つからないぐらいに嬉しい。
「彼氏さんなのですが、突如として容態が安定し、峠を越えることができました。ただ、こちらでも何故こうなったのかが分からず、奇跡としか言いようがありません……」
タケゾーの胸元で泣き崩れるアタシに対し、女医さんも説明をしてくれる。
奇跡でも何でもいい。タケゾーが無事だという事実だけがあればいい。
――もう嬉しすぎて、それ以上のことを考えられない。
「隼ちゃん。しばらくの間、武蔵と二人だけでお話してるといいわよ~」
「え? で、でも、タケゾーのお母さんだって、一緒に傍にいたいよね?」
「私のことは遠慮しなくていいわよ~。ささ~、皆さんも少しの間、若い二人に任せましょうね~」
そんなアタシの様子を見て気遣ってくれたのか、タケゾー母はアタシとタケゾーだけを個室に残し、洗居さんや女医さん達と一緒に部屋の外へと出て行った。
息子のタケゾーとも一緒に居たかっただろうし、アタシに聞きたいことだってあったはずだ。
それなのにこうして気遣ってもらえるなんて、アタシは本当に周囲に恵まれている。
申し訳なさを感じつつも、ここはその厚意に甘えさせてもらおう。
「隼にも心配をかけて悪かったな。とりあえず、俺も大丈夫そうだ」
「本当にタケゾーが無事でよかったよ……。でも、解毒剤もなかったのに、どうして助かったんだろ?」
タケゾーもまだ体は起こせないが、アタシの手を握りながら返事をしてくれる。
それに安心感を覚えながらも、そうすると気になってくるのはタケゾーが無事だった理由だ。
解毒剤を注入するどころか、デザイアガルダが持っていた解毒剤はとっくに破棄されていた。
それなのに助かったというのは、医学的な観点で納得できない。
――もしかして、アタシの愛の力が奇跡を起こしたとか?
いや、流石にそんなファンタジーな話はないか。自分で言ってて恥ずかしくなってくる。
「俺もずっと意識が朦朧としてたけど、ちょっとだけ気になることがあったんだよな……」
「へ? 何があったの?」
「先生やおふくろ達が部屋にいなかったとき、誰かがこっそりとここに入って来た気配がしたんだ。俺もよく見れなかったけど、点滴に何かを仕込んでるようにも見えたが……」
「まさか、その人が解毒剤を打ち込んだってこと?」
「可能性としての話だ。俺もハッキリとは覚えてない」
アタシの愛の奇跡のはずはないが、タケゾーが言うには誰かが関与していた可能性が見えてくる。
話を聞く限り、その誰かが解毒剤を持ってきてくれたってこと? でも、それって誰よ?
タケゾーしかいない病室に潜入したことといい、どうにも怪しすぎる。
まあ、結果としてその人のおかげでタケゾーが助かったのだから、文句を言うつもりはないけど。
「……あれ? こんなところにメモ用紙?」
そうこう考えていると、病室にあった机の引き出しに、一枚のメモ用紙が挟まっているのが見えた。
なんだか『どうか見てください』って感じの挟み方だ。凄く気になる。
思わず引き出しから取り出し、椅子に座りながらメモを見てみると――
「『空鳥 隼様がお持ちの大切なデータにメッセージが残っております』……って、どゆこと?」
本来の目的であった解毒剤は手に入らずじまい。それでも、アタシはどうしてもタケゾーの傍にいたい。
――今はもう奇跡を信じて、タケゾーの容態を見守るしかない。
「じゅ、隼ちゃん! 戻って来たのか!?」
「玉杉さん……?」
アタシが屋上に降り立つと、玉杉さんが血相を変えて駆け寄って来た。
もしかして、アタシが戻るまでずっとここで待っててくれたのかな? 玉杉さんも律儀なものだ。
――もっとも、今のアタシにはその期待に応える報告ができない。
「ごめん、玉杉さん。実は――」
「急いで武蔵の病室に向かってくれ! と、とにかく大変なことになってんだ!」
「えっ……?」
空色の魔女の変身を解除し、ことの一部始終を話そうとするも、玉杉さんは言葉を被せてくる。
この慌てようは尋常じゃない。タケゾーの身に何かあったのなんて一発で分かる。
――アタシの予期していた最悪の事態が、頭の中に浮かんでしまう。
「タ、タケゾー! タケゾー!!」
玉杉さんを屋上に置き去りにして、アタシは一目散にタケゾーのいる個室へと走り出す。
もう余計なことなんて考えられない。願うことなど一つしかない。
――お願いだから、タケゾーが無事であって欲しい。
それしか頭に浮かばない。
「タケゾー!!」
「そ、空鳥さん……。実は――」
「ごめん、洗居さん! そこどいて!」
個室に入ると、まずは洗居さんが不安そうな表情でアタシの方に尋ねてきた。
でも、今はそんな言葉を聞く余裕すらない。洗居さんを腕で押しのけながら、アタシはタケゾーのベッドに近づく。
――そんなタケゾーの周りでは、タケゾー母や女医さんが静かに様子を見守っている。
その背中はどこか神妙で、アタシの嫌な予感を加速させる。
「ねえ! タケゾーは!? タケゾーはどうなったの!?」
「隼ちゃん……」
アタシはベッドに寄り添っていたタケゾー母も押しのけ、横たわるタケゾーの顔を覗き見る。
無礼は承知だが、そうせずにはいられない。
そして肝心のタケゾーの様子だが、アタシがここを出る前の苦しそうな表情から一転、静かに目を閉じている。
それは眠っているように見えて、まるで全ての苦しみから解放されたような表情。
アタシにも反応しないし、まさか本当にもう――
「ううぅ……。じゅ、隼か……?」
「タ、タケゾー……? タケゾー!!」
――悪寒が身に走り、心が絶望に塗り替えられようとした時、眼前で眠るタケゾーから声がした。
その声はまだ弱々しいく、点滴も繋がれている。だが、毒を受けた時の苦しさはもう感じられない。
タケゾーは確かに生きている。アタシはただそれが嬉しくて、思わず泣きながら胸元に顔をうずめてしまう。
――この嬉しさを例える言葉も見つからないぐらいに嬉しい。
「彼氏さんなのですが、突如として容態が安定し、峠を越えることができました。ただ、こちらでも何故こうなったのかが分からず、奇跡としか言いようがありません……」
タケゾーの胸元で泣き崩れるアタシに対し、女医さんも説明をしてくれる。
奇跡でも何でもいい。タケゾーが無事だという事実だけがあればいい。
――もう嬉しすぎて、それ以上のことを考えられない。
「隼ちゃん。しばらくの間、武蔵と二人だけでお話してるといいわよ~」
「え? で、でも、タケゾーのお母さんだって、一緒に傍にいたいよね?」
「私のことは遠慮しなくていいわよ~。ささ~、皆さんも少しの間、若い二人に任せましょうね~」
そんなアタシの様子を見て気遣ってくれたのか、タケゾー母はアタシとタケゾーだけを個室に残し、洗居さんや女医さん達と一緒に部屋の外へと出て行った。
息子のタケゾーとも一緒に居たかっただろうし、アタシに聞きたいことだってあったはずだ。
それなのにこうして気遣ってもらえるなんて、アタシは本当に周囲に恵まれている。
申し訳なさを感じつつも、ここはその厚意に甘えさせてもらおう。
「隼にも心配をかけて悪かったな。とりあえず、俺も大丈夫そうだ」
「本当にタケゾーが無事でよかったよ……。でも、解毒剤もなかったのに、どうして助かったんだろ?」
タケゾーもまだ体は起こせないが、アタシの手を握りながら返事をしてくれる。
それに安心感を覚えながらも、そうすると気になってくるのはタケゾーが無事だった理由だ。
解毒剤を注入するどころか、デザイアガルダが持っていた解毒剤はとっくに破棄されていた。
それなのに助かったというのは、医学的な観点で納得できない。
――もしかして、アタシの愛の力が奇跡を起こしたとか?
いや、流石にそんなファンタジーな話はないか。自分で言ってて恥ずかしくなってくる。
「俺もずっと意識が朦朧としてたけど、ちょっとだけ気になることがあったんだよな……」
「へ? 何があったの?」
「先生やおふくろ達が部屋にいなかったとき、誰かがこっそりとここに入って来た気配がしたんだ。俺もよく見れなかったけど、点滴に何かを仕込んでるようにも見えたが……」
「まさか、その人が解毒剤を打ち込んだってこと?」
「可能性としての話だ。俺もハッキリとは覚えてない」
アタシの愛の奇跡のはずはないが、タケゾーが言うには誰かが関与していた可能性が見えてくる。
話を聞く限り、その誰かが解毒剤を持ってきてくれたってこと? でも、それって誰よ?
タケゾーしかいない病室に潜入したことといい、どうにも怪しすぎる。
まあ、結果としてその人のおかげでタケゾーが助かったのだから、文句を言うつもりはないけど。
「……あれ? こんなところにメモ用紙?」
そうこう考えていると、病室にあった机の引き出しに、一枚のメモ用紙が挟まっているのが見えた。
なんだか『どうか見てください』って感じの挟み方だ。凄く気になる。
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