空色のサイエンスウィッチ

コーヒー微糖派

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これからも一緒編

ep102 タケゾー「ライバルの背中を押してみた」

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「この国を離れるって……どういうことだ?」

 俺が佐々吹に隼への告白を促しても、当の本人はどこか神妙な面持ちでそれを断って来た。
 海外に行くらしいが、何か事情があるのだろうか?
 その事情についても、佐々吹は自身の右腕を抑えながら話をしてくれる。

「実は僕、右腕を怪我で壊しちゃってね。その手術のために、長期で海外に行かないといけないんだ……」
「右腕を壊したって……。それは剣をやってる人間からすると、致命的じゃないか?」
「今は空鳥さんも語ってた自慢の居合も振るえなくてね。居合の名人も形無しって奴さ……」

 佐々吹はそれは悲しそうに自身の事情を語ってくれる。
 隼があそこまで誇らしげに語る佐々吹の腕前だ。それは同時に、剣の道に相当の労力を費やしてきたことにもなる。
 剣に詳しくない俺でも、佐々吹の無念はその言葉から嫌でも感じ取れる。

「だからさ、僕が今ここで空鳥さんに告白しても、迷惑にしかならないんだよ。今日偶然ここで会えたことは嬉しかったし、旅立つ前に少しだけ言葉も交わせた。それだけで僕は十分さ」

 赤の他人の俺から見ても、佐々吹はどこか無理をしながら言葉を紡いでいるように見える。
 本当は隼のことを好きなのに、それを言い出すことができない。
 ずっと好きだった気持ちを告白せず、隼のために身を引こうとしている。

「赤原さんの人柄も見れたし、空鳥さんのことは安心して任せられるよ。僕だって、空鳥さんの幸せを第一に考えたいからね」
「なあ、あんたは本当にそれでいいのか?」
「未練がないと言えば嘘になるけどね。もし赤原さんさえよかったら、僕の未練の分も空鳥さんを幸せにして欲しい。勝手な願いだけど……頼めるかな?」

 佐々吹も俺と同じく、あくまで隼の幸せを第一としている。
 もしも俺が佐々吹と同じ立場だったら、同じように潔く身を引いただろう。
 俺への願いについても、隼のことが本気で好きだからこその願いと受け取れる。



 ――だが、俺は納得できない。



「佐々吹。こっちに来い」
「え? ちょ、ちょっと? 僕をどこに連れて行く気だい?」
「隼のところだ。もう当分は会えないんだから、別れる前にきっちり告白していけ」
「え、えぇ!? 僕の話、聞いてた!? 今更そんなことしたって、空鳥さんには迷惑なだけで――」
「あいつがそんな薄情な奴じゃないことは俺が保証する。それと、隼のことは下の名前で呼んでやれ。あいつは告白とかの場面ではそう呼ばれる方が好きなタイプだ」

 俺はテーブル席を立ち、佐々吹の手を引きながら隼のいる店内へと歩みを進める。
 佐々吹は嫌がっているが、俺はお構いなしに隼のもとへと向かう。ついでに告白のアドバイスも入れておく。

 俺だって隼を他の男にとられるのは嫌だが、だからといって佐々吹が曖昧な気持ちを抱えたまま隼と別れるのも面白くない。
 同じ女性を愛し、その女性のために俺のことを認めてくれた相手には、後腐れのない別れ方をして欲しい。

 ――俺だって、隼に十何年も想いを告げられなかった人間だ。
 ここは経験者としても、佐々吹にそんな想いを引きずったままでいて欲しくはない。

「あれ? タケゾーにショーちゃん? 二人してどこか行くの?」
「なんだ、丁度戻って来たのか。……って、またクラフトビールを注文したのか?」
「いやー、おいしかったからついついね。それにしても、タケゾーとショーちゃんも仲良くなったんだね。手なんか繋いじゃってさ」

 そうやって隼のもとに向かおうとすると、丁度隼の方が店内から外のテラスへと戻って来た。
 その手には新しいクラフトビールが握られ、俺達のやり取りなど知らずにご機嫌といった様子。俺と佐々吹が仲良くなったとも思い、そこについても好印象なようだ。

 ――ある意味仲良くなったのも事実だが、今の問題はそこじゃない。

「ほら、佐々吹。ここは男を見せてみろ」
「……赤原さんって、本当に空鳥さんが認めた人なだけのことはあるね。普通、恋敵にここまでお節介を焼くかな? まあ、僕もやっぱり不完全燃焼は嫌だからね」
「なんだったら、俺は席を外しておこうか?」
「いや、赤原さんにもいて欲しいかな。この結末は決まってるけど、あなたにも仕掛け人として責任を持って見守っていて欲しい」

 佐々吹も気持ちに踏ん切りがついたのか、俺が背中を叩いてやると一歩前へ出て隼の方へと歩み寄る。
 確かに俺はお節介焼きかもしれない。だが、実際にはそんな立派なものじゃない。

 ――俺もただ、佐々吹にこのまま終わって欲しくないだけだ。

「なになに? ショーちゃんがアタシに話でもあんの?」
「うん、まあ……。こんなことを今言っても空鳥さん――いや、隼さんは困惑するだろうけど、どうしても言いたいことがあるんだ」
「ほへ?」

 隼も佐々吹の顔をマジマジと覗きながら、次の言葉を待っている。
 佐々吹はそんな隼に対し、俺も望んでいた言葉を語り始める――



「隼さん。僕は君のことが好きだ。高校時代からずっと好きだった。もちろん、愛しているという意味でだよ」
「……マジ?」



 ――その言葉を聞いて、隼はまさに『信じられない』といった様子で固まってしまう。
 隼自身が元々鈍感なのもあるが、仮にも現在の彼氏である俺の目の前で、別の男性が告白してきたのだ。
 さらに言えば、その仕掛人も彼氏である俺。隼は目を丸くしたまま固まっている。

「……それって、どう考えてもタケゾーに言わされたよね?」
「まあ、赤原さんが噛んでるのは確かだよ。だけど、僕のこの気持ち自体は嘘じゃない」
「……なんでまた、タケゾーがいるのにそんな話を?」
「僕はもうじき、手術のために海外に行くことになる。いつ戻って来れるかも分からない。それと隼さんへの思いを赤原さんに話すと、どうしても告白して行けってうるさくてね」
「……ニシシ~。タケゾーらしい話だねぇ」

 それでも隼は気持ちを持ち直すと、佐々吹の告白についてさらに話を深めていく。
 流石の隼も俺がこの場にいることから、色々と察しはついたようだ。そうやって佐々吹の話を聞いていく中で、話の成り行きを理解していく。
 それでも機嫌を損ねることはなく、笑顔で微笑みながら佐々吹に声をかけている。

「一応、アタシもその告白への答えだけは出しておくね。気持ちはすごく嬉しいけど、ごめんなさいって奴さ」
「アハハ。僕もそう言われるのは分かってたよ。だけど、僕もこれで後腐れがなくなった。どうかこれからも、赤原さんとお幸せにね」
「そういう引き際の良さはショーちゃんのいいところだけどさ、どうせだったら帰って来た時にタケゾーからアタシを奪うぐらいの男になる気概も見てみたいもんだねぇ」
「それを俺もいる前で言うか?」
「アハハハ! 本当に隼さんらしいや。……僕も最後にこうして会えてよかった。またいつの日か、僕も会いに行くよ」

 佐々吹の告白は予想通り失敗。だが、その佐々吹自身の顔はどこか清々しさを感じる。
 俺のお節介ではあったが、こいつもずっと好きだった隼への気持ちを溜め込んだままはやはり嫌だったようだ。

 そんなどこか奇妙な失恋をした佐々吹なのだが、最後に俺の方に来て小声で耳打ちしてくる。

「赤原さん。隼さんと一緒になるなら、早くした方がいいと思うよ? いずれは競争率も高くなるのは目に見えてるからね」
「な、何だよ? そのアドバイスは?」
「僕に対するお節介へのお節介返し……ってところかな?」
「こんなにサッパリした失恋男、俺も見たことがないな……。まあ、こっちも色々と考えてる。あんたも海外での手術、頑張って来いよ」
「ああ、そうさせてもらうよ。あなたにも会えて本当に良かった。いつか僕が帰って来た時、今度は一緒に食卓を囲みたいものだね」

 そうやって俺とも距離の縮まったやり取りを少しすると、佐々吹はカフェを後にした。
 そんな佐々吹の後姿を、俺は隼と並んで最後まで見守る。

「ショーちゃんの手術、うまく行くといいね」
「隼だって認めた男なんだろ? うまく行くに決まってるさ」
「そのセリフだと、タケゾーもショーちゃんのことを認めてるよね? いいのかな~? またアタシを奪いに来ちゃうかもよ~?」
「その時はその時だ。……それに、俺もあいつのおかげでちょっと勇気をもらえた」
「へ? 他にも何かショーちゃんと話してたの?」
「まあ、こっちの話だ」

 本当に短い付き合いだったが、俺も佐々吹からちょっとした勇気をもらえた。
 同じく隼を愛する者の言葉だからか、俺も自信を持って次へ進む覚悟ができる。



 ――隼との同棲生活。しっかり真面目に考えてみよう。
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