空色のサイエンスウィッチ

コーヒー微糖派

文字の大きさ
102 / 465
これからも一緒編

ep102 タケゾー「ライバルの背中を押してみた」

しおりを挟む
「この国を離れるって……どういうことだ?」

 俺が佐々吹に隼への告白を促しても、当の本人はどこか神妙な面持ちでそれを断って来た。
 海外に行くらしいが、何か事情があるのだろうか?
 その事情についても、佐々吹は自身の右腕を抑えながら話をしてくれる。

「実は僕、右腕を怪我で壊しちゃってね。その手術のために、長期で海外に行かないといけないんだ……」
「右腕を壊したって……。それは剣をやってる人間からすると、致命的じゃないか?」
「今は空鳥さんも語ってた自慢の居合も振るえなくてね。居合の名人も形無しって奴さ……」

 佐々吹はそれは悲しそうに自身の事情を語ってくれる。
 隼があそこまで誇らしげに語る佐々吹の腕前だ。それは同時に、剣の道に相当の労力を費やしてきたことにもなる。
 剣に詳しくない俺でも、佐々吹の無念はその言葉から嫌でも感じ取れる。

「だからさ、僕が今ここで空鳥さんに告白しても、迷惑にしかならないんだよ。今日偶然ここで会えたことは嬉しかったし、旅立つ前に少しだけ言葉も交わせた。それだけで僕は十分さ」

 赤の他人の俺から見ても、佐々吹はどこか無理をしながら言葉を紡いでいるように見える。
 本当は隼のことを好きなのに、それを言い出すことができない。
 ずっと好きだった気持ちを告白せず、隼のために身を引こうとしている。

「赤原さんの人柄も見れたし、空鳥さんのことは安心して任せられるよ。僕だって、空鳥さんの幸せを第一に考えたいからね」
「なあ、あんたは本当にそれでいいのか?」
「未練がないと言えば嘘になるけどね。もし赤原さんさえよかったら、僕の未練の分も空鳥さんを幸せにして欲しい。勝手な願いだけど……頼めるかな?」

 佐々吹も俺と同じく、あくまで隼の幸せを第一としている。
 もしも俺が佐々吹と同じ立場だったら、同じように潔く身を引いただろう。
 俺への願いについても、隼のことが本気で好きだからこその願いと受け取れる。



 ――だが、俺は納得できない。



「佐々吹。こっちに来い」
「え? ちょ、ちょっと? 僕をどこに連れて行く気だい?」
「隼のところだ。もう当分は会えないんだから、別れる前にきっちり告白していけ」
「え、えぇ!? 僕の話、聞いてた!? 今更そんなことしたって、空鳥さんには迷惑なだけで――」
「あいつがそんな薄情な奴じゃないことは俺が保証する。それと、隼のことは下の名前で呼んでやれ。あいつは告白とかの場面ではそう呼ばれる方が好きなタイプだ」

 俺はテーブル席を立ち、佐々吹の手を引きながら隼のいる店内へと歩みを進める。
 佐々吹は嫌がっているが、俺はお構いなしに隼のもとへと向かう。ついでに告白のアドバイスも入れておく。

 俺だって隼を他の男にとられるのは嫌だが、だからといって佐々吹が曖昧な気持ちを抱えたまま隼と別れるのも面白くない。
 同じ女性を愛し、その女性のために俺のことを認めてくれた相手には、後腐れのない別れ方をして欲しい。

 ――俺だって、隼に十何年も想いを告げられなかった人間だ。
 ここは経験者としても、佐々吹にそんな想いを引きずったままでいて欲しくはない。

「あれ? タケゾーにショーちゃん? 二人してどこか行くの?」
「なんだ、丁度戻って来たのか。……って、またクラフトビールを注文したのか?」
「いやー、おいしかったからついついね。それにしても、タケゾーとショーちゃんも仲良くなったんだね。手なんか繋いじゃってさ」

 そうやって隼のもとに向かおうとすると、丁度隼の方が店内から外のテラスへと戻って来た。
 その手には新しいクラフトビールが握られ、俺達のやり取りなど知らずにご機嫌といった様子。俺と佐々吹が仲良くなったとも思い、そこについても好印象なようだ。

 ――ある意味仲良くなったのも事実だが、今の問題はそこじゃない。

「ほら、佐々吹。ここは男を見せてみろ」
「……赤原さんって、本当に空鳥さんが認めた人なだけのことはあるね。普通、恋敵にここまでお節介を焼くかな? まあ、僕もやっぱり不完全燃焼は嫌だからね」
「なんだったら、俺は席を外しておこうか?」
「いや、赤原さんにもいて欲しいかな。この結末は決まってるけど、あなたにも仕掛け人として責任を持って見守っていて欲しい」

 佐々吹も気持ちに踏ん切りがついたのか、俺が背中を叩いてやると一歩前へ出て隼の方へと歩み寄る。
 確かに俺はお節介焼きかもしれない。だが、実際にはそんな立派なものじゃない。

 ――俺もただ、佐々吹にこのまま終わって欲しくないだけだ。

「なになに? ショーちゃんがアタシに話でもあんの?」
「うん、まあ……。こんなことを今言っても空鳥さん――いや、隼さんは困惑するだろうけど、どうしても言いたいことがあるんだ」
「ほへ?」

 隼も佐々吹の顔をマジマジと覗きながら、次の言葉を待っている。
 佐々吹はそんな隼に対し、俺も望んでいた言葉を語り始める――



「隼さん。僕は君のことが好きだ。高校時代からずっと好きだった。もちろん、愛しているという意味でだよ」
「……マジ?」



 ――その言葉を聞いて、隼はまさに『信じられない』といった様子で固まってしまう。
 隼自身が元々鈍感なのもあるが、仮にも現在の彼氏である俺の目の前で、別の男性が告白してきたのだ。
 さらに言えば、その仕掛人も彼氏である俺。隼は目を丸くしたまま固まっている。

「……それって、どう考えてもタケゾーに言わされたよね?」
「まあ、赤原さんが噛んでるのは確かだよ。だけど、僕のこの気持ち自体は嘘じゃない」
「……なんでまた、タケゾーがいるのにそんな話を?」
「僕はもうじき、手術のために海外に行くことになる。いつ戻って来れるかも分からない。それと隼さんへの思いを赤原さんに話すと、どうしても告白して行けってうるさくてね」
「……ニシシ~。タケゾーらしい話だねぇ」

 それでも隼は気持ちを持ち直すと、佐々吹の告白についてさらに話を深めていく。
 流石の隼も俺がこの場にいることから、色々と察しはついたようだ。そうやって佐々吹の話を聞いていく中で、話の成り行きを理解していく。
 それでも機嫌を損ねることはなく、笑顔で微笑みながら佐々吹に声をかけている。

「一応、アタシもその告白への答えだけは出しておくね。気持ちはすごく嬉しいけど、ごめんなさいって奴さ」
「アハハ。僕もそう言われるのは分かってたよ。だけど、僕もこれで後腐れがなくなった。どうかこれからも、赤原さんとお幸せにね」
「そういう引き際の良さはショーちゃんのいいところだけどさ、どうせだったら帰って来た時にタケゾーからアタシを奪うぐらいの男になる気概も見てみたいもんだねぇ」
「それを俺もいる前で言うか?」
「アハハハ! 本当に隼さんらしいや。……僕も最後にこうして会えてよかった。またいつの日か、僕も会いに行くよ」

 佐々吹の告白は予想通り失敗。だが、その佐々吹自身の顔はどこか清々しさを感じる。
 俺のお節介ではあったが、こいつもずっと好きだった隼への気持ちを溜め込んだままはやはり嫌だったようだ。

 そんなどこか奇妙な失恋をした佐々吹なのだが、最後に俺の方に来て小声で耳打ちしてくる。

「赤原さん。隼さんと一緒になるなら、早くした方がいいと思うよ? いずれは競争率も高くなるのは目に見えてるからね」
「な、何だよ? そのアドバイスは?」
「僕に対するお節介へのお節介返し……ってところかな?」
「こんなにサッパリした失恋男、俺も見たことがないな……。まあ、こっちも色々と考えてる。あんたも海外での手術、頑張って来いよ」
「ああ、そうさせてもらうよ。あなたにも会えて本当に良かった。いつか僕が帰って来た時、今度は一緒に食卓を囲みたいものだね」

 そうやって俺とも距離の縮まったやり取りを少しすると、佐々吹はカフェを後にした。
 そんな佐々吹の後姿を、俺は隼と並んで最後まで見守る。

「ショーちゃんの手術、うまく行くといいね」
「隼だって認めた男なんだろ? うまく行くに決まってるさ」
「そのセリフだと、タケゾーもショーちゃんのことを認めてるよね? いいのかな~? またアタシを奪いに来ちゃうかもよ~?」
「その時はその時だ。……それに、俺もあいつのおかげでちょっと勇気をもらえた」
「へ? 他にも何かショーちゃんと話してたの?」
「まあ、こっちの話だ」

 本当に短い付き合いだったが、俺も佐々吹からちょっとした勇気をもらえた。
 同じく隼を愛する者の言葉だからか、俺も自信を持って次へ進む覚悟ができる。



 ――隼との同棲生活。しっかり真面目に考えてみよう。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

【魔女ローゼマリー伝説】~5歳で存在を忘れられた元王女の私だけど、自称美少女天才魔女として世界を救うために冒険したいと思います!~

ハムえっぐ
ファンタジー
かつて魔族が降臨し、7人の英雄によって平和がもたらされた大陸。その一国、ベルガー王国で物語は始まる。 王国の第一王女ローゼマリーは、5歳の誕生日の夜、幸せな時間のさなかに王宮を襲撃され、目の前で両親である国王夫妻を「漆黒の剣を持つ謎の黒髪の女」に殺害される。母が最後の力で放った転移魔法と「魔女ディルを頼れ」という遺言によりローゼマリーは辛くも死地を脱した。 15歳になったローゼは師ディルと別れ、両親の仇である黒髪の女を探し出すため、そして悪政により荒廃しつつある祖国の現状を確かめるため旅立つ。 国境の街ビオレールで冒険者として活動を始めたローゼは、運命的な出会いを果たす。因縁の仇と同じ黒髪と漆黒の剣を持つ少年傭兵リョウ。自由奔放で可愛いが、何か秘密を抱えていそうなエルフの美少女ベレニス。クセの強い仲間たちと共にローゼの新たな人生が動き出す。 これは王女の身分を失った最強天才魔女ローゼが、復讐の誓いを胸に仲間たちとの絆を育みながら、王国の闇や自らの運命に立ち向かう物語。友情、復讐、恋愛、魔法、剣戟、謀略が織りなす、ダークファンタジー英雄譚が、今、幕を開ける。  

ダンジョンでオーブを拾って『』を手に入れた。代償は体で払います

とみっしぇる
ファンタジー
スキルなし、魔力なし、1000人に1人の劣等人。 食っていくのがギリギリの冒険者ユリナは同じ境遇の友達3人と、先輩冒険者ジュリアから率のいい仕事に誘われる。それが罠と気づいたときには、絶対絶命のピンチに陥っていた。 もうあとがない。そのとき起死回生のスキルオーブを手に入れたはずなのにオーブは無反応。『』の中には何が入るのだ。 ギリギリの状況でユリアは瀕死の仲間のために叫ぶ。 ユリナはスキルを手に入れ、ささやかな幸せを手に入れられるのだろうか。

スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

通販で買った妖刀がガチだった ~試し斬りしたら空間が裂けて異世界に飛ばされた挙句、伝説の勇者だと勘違いされて困っています~

日之影ソラ
ファンタジー
ゲームや漫画が好きな大学生、宮本総司は、なんとなくネットサーフィンをしていると、アムゾンの購入サイトで妖刀が1000円で売っているのを見つけた。デザインは格好よく、どことなく惹かれるものを感じたから購入し、家に届いて試し切りをしたら……空間が斬れた!  斬れた空間に吸い込まれ、気がつけばそこは見たことがない異世界。勇者召喚の儀式最中だった王城に現れたことで、伝説の勇者が現れたと勘違いされてしまう。好待遇や周りの人の期待に流され、人違いだとは言えずにいたら、王女様に偽者だとバレてしまった。  偽物だったと世に知られたら死刑と脅され、死刑を免れるためには本当に魔王を倒して、勇者としての責任を果たすしかないと宣言される。 「偽者として死ぬか。本物の英雄になるか――どちらか選びなさい」  選択肢は一つしかない。死にたくない総司は嘘を本当にするため、伝説の勇者の名を騙る。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

セーブポイント転生 ~寿命が無い石なので千年修行したらレベル上限突破してしまった~

空色蜻蛉
ファンタジー
枢は目覚めるとクリスタルの中で魂だけの状態になっていた。どうやらダンジョンのセーブポイントに転生してしまったらしい。身動きできない状態に悲嘆に暮れた枢だが、やがて開き直ってレベルアップ作業に明け暮れることにした。百年経ち、二百年経ち……やがて国の礎である「聖なるクリスタル」として崇められるまでになる。 もう元の世界に戻れないと腹をくくって自分の国を見守る枢だが、千年経った時、衝撃のどんでん返しが待ち受けていて……。 【お知らせ】6/22 完結しました!

オッサン齢50過ぎにしてダンジョンデビューする【なろう100万PV、カクヨム20万PV突破】

山親爺大将
ファンタジー
剣崎鉄也、4年前にダンジョンが現れた現代日本で暮らす53歳のおっさんだ。 失われた20年世代で職を転々とし今は介護職に就いている。 そんな彼が交通事故にあった。 ファンタジーの世界ならここで転生出来るのだろうが、現実はそんなに甘く無い。 「どうしたものかな」 入院先の個室のベッドの上で、俺は途方に暮れていた。 今回の事故で腕に怪我をしてしまい、元の仕事には戻れなかった。 たまたま保険で個室代も出るというので個室にしてもらったけど、たいして蓄えもなく、退院したらすぐにでも働かないとならない。 そんな俺は交通事故で死を覚悟した時にひとつ強烈に後悔をした事があった。 『こんな事ならダンジョンに潜っておけばよかった』 である。 50過ぎのオッサンが何を言ってると思うかもしれないが、その年代はちょうど中学生くらいにファンタジーが流行り、高校生くらいにRPGやライトノベルが流行った世代である。 ファンタジー系ヲタクの先駆者のような年代だ。 俺もそちら側の人間だった。 年齢で完全に諦めていたが、今回のことで自分がどれくらい未練があったか理解した。 「冒険者、いや、探索者っていうんだっけ、やってみるか」 これは体力も衰え、知力も怪しくなってきて、ついでに運にも見放されたオッサンが無い知恵絞ってなんとか探索者としてやっていく物語である。 注意事項 50過ぎのオッサンが子供ほどに歳の離れた女の子に惚れたり、悶々としたりするシーンが出てきます。 あらかじめご了承の上読み進めてください。 注意事項2 作者はメンタル豆腐なので、耐えられないと思った感想の場合はブロック、削除等をして見ないという行動を起こします。お気を悪くする方もおるかと思います。予め謝罪しておきます。 注意事項3 お話と表紙はなんの関係もありません。

処理中です...