空色のサイエンスウィッチ

コーヒー微糖派

文字の大きさ
113 / 465
魔女と旦那の日常編

ep113 新婚だけど実家に帰っちゃった……。

しおりを挟む
 タケゾーの『もういい』発言が胸に突き刺さったアタシは、一緒に住んでいた工場を涙ながらに飛び出してしまった。
 夫婦生活で奥さんが辛くなった時、こうやって実家に帰りたがる気持ちが今になってよく分かる。
 アタシも同じように飛び出したはいいもの、よく考えるとアタシの実家は飛び出した工場だった。
 実家を飛び出して、帰る実家はどこにあるのやら。



「うあぁぁん……! お義母さぁぁん……!」
「え~!? 隼ちゃん、どうしたのよ~!?」



 とりあえず行く当てもないので、旦那の実家の方に現在は身を寄せている。
 そしてアタシのお義母さんでもあるタケゾー母の膝で、絶賛泣きつき中。

 ――まあ、自分でもおかしなムーブはしてると思うよ?
 でもさ、仕方ないじゃん。そもそもこういう時に頼れそうな人ってのも、アタシの中ではお義母さんぐらいしか出てこない。

「じ、実は――で……ぐすん」
「あらあらら~……。武蔵もきっと、悪気があったわけではないのだろうけどね~」

 そんな突如泣きながら押しかけてきた息子の嫁に対しても、お義母さんは子供をあやすように優しく頭を撫でながら話を聞いてくれる。
 アタシも泣きながらではあるが、お義母さんの膝の上に頭を置いて事情を説明する。

 お義母さんはタケゾーのことを擁護するが、アタシだってそんなことは分かってる。
 そもそも悪いのは誰かというと、料理が壊滅的にできないアタシの方だ。タケゾーは何も悪くない。
 それ自体は分かっていても、アタシはこうして子供のように駄々をこねてしまう。

 ――改めて分かったが、アタシってやっぱりまだまだ子供っぽい。
 こうしてお義母さんのような大人の世話になると、それを身に染みて実感する。

「アタシもさ、自分のワガママと子供っぽさは分かってるんだ……。だけど、アタシはそれでもタケゾーに手料理を食べてもらいたくて……」
「うーん……。隼ちゃんはどうしてそこまで、手料理にこだわるのかしら~?」
「だ、だって、新婚夫婦になったら、普通は奥さんが旦那のために手料理とか用意しない?」

 そんなアタシのワガママな話を聞いても、お義母さんは特に叱るようなことなどせず、本当に子供あやすように接してくれる。
 そして話の中で出てくるのは、アタシがタケゾーに手料理を用意したがる目的。
 そこに深い意味はない。アタシはただ、タケゾーばかりが料理の手間を背負うのが嫌なのだ。
 夫婦なのだから、そこは助け合って暮らしていきたい。

「隼ちゃんって、意外と乙女なのね~。でも、そこまでこだわらなくてもいいんじゃないかしら~」
「へ? で、でも、普通は奥さんの方が料理するよね?」
「今時の若者なのに、私よりも先時代的な考え方ね~。別にそんな普通なんて求めなくても、私は構わないと思うのよね~。そもそもの話、武蔵と隼ちゃんは結婚した経緯も普通じゃなかったからね~」
「あっ……」

 そうしてお義母さんと話をしていると、アタシも少しずつ落ち着いて気持ちの整理ができてきた。
 これまでアタシは心の中で『普通の新婚生活』を求めてはいたが、そもそもアタシとタケゾーが結婚したことについても普通ではない。
 だって、アタシの勘違いで結婚しちゃったんだもん。そう考えると、無理に普通を求めることにかえって違和感を感じてしまう。

「もしかすると、隼ちゃんは普通の結婚じゃなかったから、かえって普通の新婚生活を求めちゃうのかもね~。だけど、一番大事なのは夫婦が互いに支え合い、互いに納得できることよ~。そのあたりのこと、武蔵とはきちんと話し合ったのかしら~?」
「い、言われてみれば、ただアタシが一人で料理しようとばかりしてて、タケゾーとも話せてなかったかも……」
「武蔵もきっと、空色の魔女としても忙しい隼ちゃんの手間を減らすために、お料理を買って出てるのかもね~」
「そ、そうなのかな? だったらアタシ、タケゾーの気持ちも考えずに勝手なことばっかりしてたや……」
「武蔵も武蔵で、隼ちゃんにきちんと説明してあげないとね~。恥ずかしがってるのかもだけど、そこは大事よね~」

 その後もアタシとお義母さんの間で、ゆったりとしながら考察を深めることができた。
 こうやって落ち着いて考えれば、次第にこの問題の焦点も見えてくる。どうにも、アタシは視野が狭くなって猪突猛進気味だったようだ。

 ――タケゾーはアタシを困らせるような人間じゃない。アタシどころか、他者のためにいくらでも振舞える人間だ。
 恋敵でもあったショーちゃんの背中を押した件といい、タケゾーが決していじわるで『もういい』発言なんてするはずがない。
 本当にアタシは子供だった。世間的には新妻になっても、どうしても幼く突発的に動いてしまう。



 ――そのせいでアタシがタケゾーに迷惑をかけてたら、元も子もないじゃないか。



「焦らなくてもいいのよ~。武蔵と隼ちゃんは二人のやり方で、二人のペースで生活したらいいだけだから~」
「うん……。本当にありがとう、お義母さん。急に押しかけて、迷惑だったのにさ」
「気にしなくていいわよ~。むしろ、また今回みたいに悩みがあったら、私のところに来て頂戴ね~」

 全部が全部突発的な行動だったけど、結果としてアタシも自分の中で一つの踏ん切りをつけられた。
 お義母さんにしても、こんな突拍子もないことで押しかけた息子の嫁に対し、実に寛容で温かい言葉を述べてくれる。

 ――本当に母は偉大だと常々思う。
 アタシもいつか決心がついた時、こんな母親になれる日が来るのだろうか?



「お、おふくろ! ここに隼は来てないか!?」

「へっ……? この声、タケゾー……?」
「あらあらら~。隼ちゃんが気に掛ける旦那様も、隼ちゃんのことが気になってたみたいね~」



 お義母さんとの話が落ち着いてくると、玄関の方からタケゾーの声が聞こえてきた。
 どうやら、アタシが家を飛び出した後、必死に探し回っていたようだ。
 アタシとお義母さんがいたリビングまでやって来たその顔を見ると、汗だくになりながら余程必死だったことが伺える。

 ――そうして探し回った末、ここに辿り着くあたり、タケゾーもアタシの行動パターンはお見通しということか。

「あー……隼。さっきは悪かった。俺もお前の気持ちを考えず、ぶっきらぼうなことを言ってさ……」
「アタシの方こそごめんよ。勝手に怒って、家を飛び出したりなんかしてさ」
「俺はただ、隼に負担をかけさせたくなかったんだ。空色の魔女としての役目もあるのに、家のことまで苦労をさせるのは忍びなくて……」
「うん、分かってる。タケゾーがそういう思いやりを持ってるってことは、アタシも理解してる。これからも迷惑をかけると思うけど、こんなアタシが相手でも一緒にいてくれるかな?」
「ああ、もちろんだ。俺もしっかり説明するから、何か気になることがあったら言ってくれ」

 そしてそこからは、いつかの日と同じように仲直り。
 こんな簡単なことで喧嘩して、こんな簡単に仲直りをする。新婚なんて言っても、アタシもタケゾーもまだまだ子供であることを思い知ってしまう。

 ――だけど、やっぱりタケゾーといがみ合ったままは嫌だ。
 タケゾーが厚意をかけてくれるなら、アタシも素直に甘えるところは甘えたい。



 ――空色の魔女というヒーローにも、支えてくれるヒーローがいてほしい。



「……あっ、タケゾー。もののついでで聞きたいことがあるんだけど、いいかな?」
「ああ、もちろんだ。まだ何か気になる点があるなら、この際だから遠慮せずに言ってくれ」

 こうして、アタシとタケゾーの新婚料理権については納得できた。
 だけど、アタシにはもう一つだけ納得できなかったことがある。

「アタシとタケゾーの寝室ってさ、なんで別々なんだっけ? 寝る時ぐらい、一緒に寝ない?」

 料理についてはタケゾーに分があるから納得できるけど、寝室については別にどちらが有利とかはない。
 普通である必要はないけど、アタシとしてもちょっと旦那様に甘えたい気持ちとかはあるんだよね。これもまた子供っぽいけど。
 だからせめて、寝る時ぐらいは隣り合わせになっても――



「……す、すまん。隼と一緒に寝るっていうのは、俺の理性の都合で勘弁願いたい……!」
「……そこはヘタレなんだね」



 ――と思ったが、タケゾーは優しいと同時に、こういう踏ん切りの悪さもあった。
 アタシに告白するのだって、十何年とかかったぐらいだ。イケメンなのに草食系とか、もったいない話ではある。

 ――でもまあ、アタシも今はそれでも構わないか。
 これでタケゾーが狼にでもなっちゃったら、アタシもまた子供云々で悩んじゃうよね。
 そこも含めてのタケゾーの優しさだと考えておこう。そうしよう。それが一番ナチュラルだ。

 ただね、こういった話を聞いててアタシも自分で思わず考えちゃうんだけど――



 ――アタシって、結構罪な女だったりする?
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【魔女ローゼマリー伝説】~5歳で存在を忘れられた元王女の私だけど、自称美少女天才魔女として世界を救うために冒険したいと思います!~

ハムえっぐ
ファンタジー
かつて魔族が降臨し、7人の英雄によって平和がもたらされた大陸。その一国、ベルガー王国で物語は始まる。 王国の第一王女ローゼマリーは、5歳の誕生日の夜、幸せな時間のさなかに王宮を襲撃され、目の前で両親である国王夫妻を「漆黒の剣を持つ謎の黒髪の女」に殺害される。母が最後の力で放った転移魔法と「魔女ディルを頼れ」という遺言によりローゼマリーは辛くも死地を脱した。 15歳になったローゼは師ディルと別れ、両親の仇である黒髪の女を探し出すため、そして悪政により荒廃しつつある祖国の現状を確かめるため旅立つ。 国境の街ビオレールで冒険者として活動を始めたローゼは、運命的な出会いを果たす。因縁の仇と同じ黒髪と漆黒の剣を持つ少年傭兵リョウ。自由奔放で可愛いが、何か秘密を抱えていそうなエルフの美少女ベレニス。クセの強い仲間たちと共にローゼの新たな人生が動き出す。 これは王女の身分を失った最強天才魔女ローゼが、復讐の誓いを胸に仲間たちとの絆を育みながら、王国の闇や自らの運命に立ち向かう物語。友情、復讐、恋愛、魔法、剣戟、謀略が織りなす、ダークファンタジー英雄譚が、今、幕を開ける。  

通販で買った妖刀がガチだった ~試し斬りしたら空間が裂けて異世界に飛ばされた挙句、伝説の勇者だと勘違いされて困っています~

日之影ソラ
ファンタジー
ゲームや漫画が好きな大学生、宮本総司は、なんとなくネットサーフィンをしていると、アムゾンの購入サイトで妖刀が1000円で売っているのを見つけた。デザインは格好よく、どことなく惹かれるものを感じたから購入し、家に届いて試し切りをしたら……空間が斬れた!  斬れた空間に吸い込まれ、気がつけばそこは見たことがない異世界。勇者召喚の儀式最中だった王城に現れたことで、伝説の勇者が現れたと勘違いされてしまう。好待遇や周りの人の期待に流され、人違いだとは言えずにいたら、王女様に偽者だとバレてしまった。  偽物だったと世に知られたら死刑と脅され、死刑を免れるためには本当に魔王を倒して、勇者としての責任を果たすしかないと宣言される。 「偽者として死ぬか。本物の英雄になるか――どちらか選びなさい」  選択肢は一つしかない。死にたくない総司は嘘を本当にするため、伝説の勇者の名を騙る。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

ダンジョンでオーブを拾って『』を手に入れた。代償は体で払います

とみっしぇる
ファンタジー
スキルなし、魔力なし、1000人に1人の劣等人。 食っていくのがギリギリの冒険者ユリナは同じ境遇の友達3人と、先輩冒険者ジュリアから率のいい仕事に誘われる。それが罠と気づいたときには、絶対絶命のピンチに陥っていた。 もうあとがない。そのとき起死回生のスキルオーブを手に入れたはずなのにオーブは無反応。『』の中には何が入るのだ。 ギリギリの状況でユリアは瀕死の仲間のために叫ぶ。 ユリナはスキルを手に入れ、ささやかな幸せを手に入れられるのだろうか。

桔梗の花咲く庭

岡智 みみか
歴史・時代
家の都合が優先される結婚において、理想なんてものは、あるわけないと分かってた。そんなものに夢見たことはない。だから恋などするものではないと、自分に言い聞かせてきた。叶う恋などないのなら、しなければいい。

セーブポイント転生 ~寿命が無い石なので千年修行したらレベル上限突破してしまった~

空色蜻蛉
ファンタジー
枢は目覚めるとクリスタルの中で魂だけの状態になっていた。どうやらダンジョンのセーブポイントに転生してしまったらしい。身動きできない状態に悲嘆に暮れた枢だが、やがて開き直ってレベルアップ作業に明け暮れることにした。百年経ち、二百年経ち……やがて国の礎である「聖なるクリスタル」として崇められるまでになる。 もう元の世界に戻れないと腹をくくって自分の国を見守る枢だが、千年経った時、衝撃のどんでん返しが待ち受けていて……。 【お知らせ】6/22 完結しました!

スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

処理中です...