空色のサイエンスウィッチ

コーヒー微糖派

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大凍亜連合編・起

ep119 パトロールを強化しよう!

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 パンドラの箱の技術を使って生まれたと思われるヴィラン――ケースコーピオン。
 大凍亜連合が従えるあの怪物を追うために、アタシは最近パトロールを増やした。
 もしもあいつが本当にパンドラの箱の技術を流用して作られた存在ならば、それこそパンドラの箱を作った両親の娘であるアタシの出番だ。
 街のヒーローとしてだけでなく、パンドラの箱による不幸を防ぐのもアタシの役目である。

「そいじゃ、今度からは道に迷わないように気を付けなよ?」
「都会の人は冷たいと聞いたもんだが、優しい魔女さんがいるとは思わなかったべさ~」

 とは言っても、あれから特に何かあったわけでもない。
 大きな事件も起こっておらず、今はこうして道に迷った上京兄ちゃんに道案内してる。

 ――別にそれぐらい、空色の魔女でやらなくてもよかったんじゃないかって? だろうね。アタシもそう思うよ。
 でもさ、なんだかアタシ自身もこの空色の魔女の格好をすることで、日常とヒーロー活動を切り替えてる感じなのよ。
 単純に気分の問題。でも、こういう切り分けも大事だからね。

「そ、空色の魔女さん! そこのガキンチョを捕まえてくれ! 店のパンを盗みやがった!」
「今度は泥棒かい? まったく。ケースコーピオンが姿を見せなくても、この街は本当に騒がしいもんだ」

 デザイアガルダやケースコーピオンといったヴィランによる大規模な騒動はなくとも、事件というものは往々にして起こる。
 だが、重大なのはそこに困っている人がいるということだ。事件の大小ではない。

 それにしても、空色の魔女もこの街のヒーローとして根付いてきたもんだ。
 パン屋の店長さんから、どこか慣れたノリで依頼されてしまった。
 まあ、アタシも頼まれた以上はやるしかない。

 そのご期待、応えてみせよう、この魔女が。なびかせるのは、空色の髪。

 ――なんちって。

「こらー! そこの少年だか少女だか、止まりなさーい! パン泥棒は窃盗罪だぞー!」
「ハグハグ! ハグハグ!」
「あー!? もう食べちゃってるし!? 何歳か知らないけど、善悪の判断ぐらいはつけておいてよね!?」

 アタシはロッドに腰かけて宙を舞いながら、パン泥棒を追いかける。
 後ろ姿しか見えないけど、相手は小学生ぐらいの子供だ。だからといって、見逃していい理由にはならない。
 むしろまだ幼いうちだからこそ、やり直せる機会があるというものだ。

「……って、ちょっと待って!? あの子、逃げるの速すぎない!? アタシでも追いつけてないじゃん!?」

 などとちょっと大人目線なことを考えてたけど、どうにも事態はそれどころではない。
 パン泥棒の子供なのだが、とんでもなく足が速い。こっちはロッドをバイク感覚で飛ばしているのに、中々追いつけない。
 前方の犯人のダッシュ速度、推定60km/h。うん、人間の出せるスピードじゃないよね。
 ケースコーピオンを追ってたはずなのに、これまたとんでもないヴィランを見つけてしまったのかもしれない。やってることはパン泥棒だけど。

 ――どっちにしても、見逃せない理由は増えたってことだ。

「こうなったら、行く手を遮らせてもらうよ! トラクタービーム!」

 パン泥棒が逃げ込んだのは雑居ビルが立ち並ぶ路地裏。幅も狭いし、追い込むのにも丁度いい。
 アタシは前方へトラクタービームを放ち、立てかけてあった鉄骨をパン泥棒の眼前で崩す。


 ガラララァ!


「んっぐ!? 道、塞がれた!? ハグハグ!」
「さあ、観念しな! 後、盗んだパンを食べるのもやめなさい!」

 これにて進路は封じた。その背後ではアタシがロッドから降り、仁王立ちして退路も塞ぐ。
 パン泥棒の姿もようやくしっかり確認できるが、本当にまだまだ子供といった様子だ。
 ボロい布切れで上半身を隠してるけど、そんな姿も相まって『中世世界で飢えに困って盗みを働いた子供』のように映ってしまう。
 やっぱり、ただのパン泥棒でも子供でもないよね。
 腰にはなんだか、刀まで携えてるし――



「……へ? 刀?」
「このパン、ボクの! 渡さない!」



 ――などとその姿を眺めていたら、パン泥棒は幼い声を震わせながら、アタシに反撃を仕掛けてきた。
 腰に携えていた刀の柄に手を当て、腰を深く落とす構え。
 そして次の瞬間に放たれるのは、まさに神速の一閃――


 ズパァァァアアンッ!!


「は? へ? ええぇ!? ちょ、ちょっと待って!? 今のって、居合だよね!? 居合であってるよねぇえ!?」

 ――アタシも高校時代にショーちゃんのものを何度か見たから、その構えが居合であることはすぐに理解できた。
 こんな子供がなんで刀を持ってるのか? どうして居合なんて剣技を身に着けているのか?
 そこもまあ気にはなるけど、重大なのはそんなことではない。
 アタシも咄嗟に躱しはしたが、刀が抜かれたと同時に放たれた斬撃は想像を完全に超えていた。



 ――左右のビルの壁、綺麗に切れてるんだけど?
 それこそ、コンクリートが豆腐か何かみたいにスッパリとさ。



「あ、危ない! これはシャレにもなんないよ!? 本当にどうなってんのよ!?」

 幸い、切断された壁がこちらに崩れてくることはない。見た感じ、ダルマ落としみたいに綺麗に乗っかってる状態。
 ただその光景から、剣技に疎いアタシでも分かることがある。

 ――このパン泥棒君、ショーちゃんみたいな剣の達人なんてレベルじゃない。
 それこそ、もっと人外な力を秘めている。

「このパン! ボクのもの! ボクが食べる!」
「こいつは……本腰入れないとマズい相手か……!」

 まさかこんな駄々っ子パン泥棒がこれほどの強敵などと、アタシに予想できるはずがない。
 思わず額から垂れる冷や汗を拭い、こちらも真剣な表情で向かい合う。
 よく見るとパン泥棒はすでに納刀し、再度いつでも抜刀できる居合の構え。素人目に見ても、動きそのものも達人のそれだ。

 ――と言うか、構えや動きについては、どこかアタシには見覚えがある。
 威力こそ規格外だが、技術そのものはアタシも高校時代によく見たもの――



 ――居合名人だったショーちゃんと同じだ。



「なんでこんな子供がショーちゃんの居合術まで模してるかも気になるね。悪いんだけど、ちょいとアタシと付き合ってもらおうか」
「パン、返さない! ボク、負けない!」

 アタシも戦う構えを見せると、このショーちゃんもどきの泥棒剣士も構えに気合を込めてくる。
 そうは言っても、言ってること自体は完全に駄々をこねる子供のそれ。
 その驚異的なパワーの源はまだ分からないけど、こっちも一応は成人済みの新妻として、子供に善悪は教えておかないとね。



 ――そんなわけでケースコーピオンを追ってたはずが、何故かパン泥棒剣士と戦う羽目になってしまった。
 まあ、これもこの子のためだ。空色の魔女流教育方針をお見せしよう。



「さーて! この空色の魔女様が、世間一般教育から教え直してやんよぉ!」
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