空色のサイエンスウィッチ

コーヒー微糖派

文字の大きさ
150 / 465
新しい家族編

ep150 タケゾー「新たな家族のために手を打っておいた」

しおりを挟む
「言われた通りに玉杉さんの店まで来たけど、酒でも飲みたい気分なの? でもさ、ショーちゃんもいるよ?」
「ボク、ミルクでいい。ミルク、飲みたい」

 俺は隼とショーちゃんを連れて、玉杉さんが経営しているバーまでやって来た。
 もう陽も暮れ始めているし、酒を飲むのにもいい時間帯ではある。だが、今回の目的はそこではない。

「玉杉さん、お疲れ様です」
「お~、武蔵か。連絡通り、来てくれたんだな。肝心の子供もいるみたいだし、丁度都合がいいな」

 俺達が店に入ると、店長の玉杉さんがカウンター越しに出迎えてくれる。
 その眼前に置かれているのは一冊の封筒。玉杉さんはそれを俺達の方に差し出してくれる。

「ねーねー、タケゾー? その封筒が目的のものなの? 何が入ってるの?」
「おやつ? ボク、おやつ食べたい」
「ショーちゃん、おやつはこんなA4封筒には入れないよ。まあ、もっと重要なものが入ってる」

 隼とショーちゃんは事情を知らないので、不思議そうに揃って首を傾げている。
 俺はその封筒を手に取って中身を確認すると、そこには目的の品が確かに入っていた。



「これはショーちゃんの戸籍関係の書類だ。玉杉さんに頼んで用意してもらった」
「ええぇ!? せ、正規のものじゃないよね!? 偽装した戸籍だよね!? そんなものを用意してたの!?」



 俺の話を聞き、思わず目を丸くして驚く隼。
 俺も顔には出さないが、内心では結構驚いている。まさか、本当にここまでしっかり偽造した戸籍が出来上がるとは思わなかった。
 玉杉さんが用意してくれたこの書類があれば、下手に詮索されない限り、ショーちゃんの詳細な身元までバレることはない。
 普段の生活をするためならば、人造人間であることなど知られるはずがないレベルだ。

「名前も『佐々吹 正司』にして、しっかり俺と隼の養子になったことにまでしてくれたんですか……」
「まあな。それが武蔵の依頼だったろ? それにしても、武蔵はよく俺がニンベン師の知り合いがいることを知ってたもんだな~。こっちも内心はヒヤヒヤしてたぞ」

 ニンベン師――要するに偽造屋。
 俺が事前に玉杉さんに依頼していたのは、ニンベン師と繋いでショーちゃんの戸籍を偽造してもらうことだった。
 正規の手段で戸籍を作るわけにはいかない。そうなってくると、玉杉さんのように裏社会に精通した人の力が必要になってくる。

 ――ただ、俺も別に確信を持ってニンベン師のことを玉杉さんに依頼したわけじゃない。



「玉杉さん、今更ながらすみません。ニンベン師の話は俺がハッタリで持ち出しました」
「ハァ~!? お、お前、俺が大凍亜連合とも多少は関わってるから、その伝手でニンベン師に依頼したんじゃねえのか~!?」
「それも含めてハッタリです。結果として、本当にニンベン師の知り合いがいて助かりました」



 生憎と、俺も玉杉さんが本当にニンベン師と繋がっている確証はなかった。
 だから俺は依頼した時に『ニンベン師に戸籍の偽造をして欲しい』と要望を出しただけ。そのタイミングで玉杉さんが『ニンベン師の知り合いなんていない』と断っていたなら、その時点でこの手をはもう使えなくなっていた。
 だが、玉杉さんは『分かった。任せておきな』と、あっさり依頼を了承してしまったのだ。
 完全に俺のハッタリが、そのまま通ってしまった形である。
 なんだかかなりあくどい手を使ってしまったが、これぐらいしかショーちゃんの戸籍を用意する方法が思いつかなかった。

 ――玉杉さんには悪いことをしたとは思っている。
 本当にニンベン師と繋がっているこの人の人脈も大概だけど。

「ハァ~……。まさか、武蔵ごときに一杯食わされるとはな~……。頼むからさ、警察に突き出すのだけは勘弁してくれよな?」
「しませんって、そんな無粋なこと。そもそも、依頼したのは俺の方なんですから」
「そいつは助かる。……しっかし、警察官の息子で真面目君だった武蔵が、ニンベン師まで使うとはな~……」
「確かに罪の意識はありますけど、俺にはそれ以上に成すべきことがあったってだけの話です」

 玉杉さんはそんな俺に対しても特に怒ることなく、むしろ俺の立場や性格のことを心配してくれる。
 今回俺がやったことは明確に犯罪だ。やっていいことではない。
 それでも、どうしても俺には成さないといけなかった。

 ――隼とショーちゃんのためならば、俺だって泥を被る覚悟はある。たとえ警察官だった親父に化けて出られても、俺は自らの行いを貫き通す。
 決して格好のいい覚悟ではない。決して胸を張れる話じゃない。
 それでもこうしないと、ショーちゃんのような人造人間が安心して暮らすことはできなかった。

「ねえ……タケゾー? 本当にこんなことしても良かったの?」
「まあ、良くはないけどな。だけど、戦えない俺が愛する家族にできることなんて、これぐらいのことしかない。……願わくば、俺のことを蔑まないでくれないかな?」
「……まったく、タケゾーは真面目君である以上にお人好しなもんだ。アタシがあんたを蔑むわけないだろ? 覚悟を決めて動いてくれた旦那様に対して冷たい感情を抱くほど、アタシも愚かな嫁じゃないさ。……ありがとね、タケゾー」

 隼もそんな俺の行いについて咎めることなく、笑顔で礼を述べてくれた。その笑顔と言葉で、俺の心もだいぶ軽くなる。
 隼だって、空色の魔女としての責務に追われているんだ。俺も迷ってばかりではいられない。

「武蔵さん、ありがとう。ボク、これできちんと二人の家族になれた」
「ああ、そうだな。こうやって形式上も家族にしておいた方が、なんだかんだで世間体もあるからな」

 ショーちゃん本人も喜びながら戸籍書類を手に取り、俺に見せびらかしながら喜んでいる。
 人造人間とはいえ、この子は一人の人間だ。しかもその魂は俺や隼とも縁の深い佐々吹のもの。
 そんなショーちゃんがこれからも社会で一人の人間として認められることは、俺なりのケジメにもなる。

 ――隼一人だけには背負わせない。
 俺も一緒に、この業を背負ってやりたい。



「……あれ? 今度はおふくろからメッセージか?」



 そうこうここでの目的を果たしていると、俺のスマホに新たな通知が入る。
 どうやら、おふくろからメッセージが届いたらしい。
 そういえば、おふくろにもショーちゃんのことをしっかり説明しないいけない。話が話だけに、その辺りは隼ともしっかり話を合わせておこう。

 それで、肝心のおふくろからの用件なのだが――



「隼……。ヤバいことになったぞ」
「え!? な、何? お義母さんが倒れたとか……!?」



 ――届いたメッセージを読んだ途端、俺は思わずその身に寒気を感じてしまった。
 まさに悪寒。おふくろオカン絡みの悪寒。
 隼が心配するような内容ではないのだが、これは一大事だ。



「おふくろ……今から俺達が住んでる工場に来るって……」
「え? へ? ええええぇ!?」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

WIN5で六億円馬券当てちゃった俺がいろいろ巻き込まれた結果現代社会で無双する!

TB
ファンタジー
小栗東〈おぐりあずま〉 二十九歳 趣味競馬 派遣社員。 その日、負け組な感じの人生を歩んできた俺に神が舞い降りた。 競馬のWIN5を的中させその配当は的中者一名だけの六億円だったのだ。 俺は仕事を辞め、豪華客船での世界一周旅行に旅立った。 その航海中に太平洋上で嵐に巻き込まれ豪華客船は沈没してしまう。 意識を失った俺がつぎに気付いたのは穏やかな海上。 相変わらずの豪華客船の中だった。 しかし、そこは地球では無かった。 魔法の存在する世界、そしてギャンブルが支配をする世界だった。 船の乗客二千名、クルー二百名とともにこの異世界の大陸国家カージノで様々な出来事はあったが、無事に地球に戻る事が出来た。 ただし……人口一億人を超えるカージノ大陸と地球には生存しない魔獣たちも一緒に太平洋のど真ん中へ…… 果たして、地球と東の運命はどうなるの?

異世界だろうがソロキャンだろう!? one more camp!

ちゃりネコ
ファンタジー
ソロキャン命。そして異世界で手に入れた能力は…Awazonで買い物!? 夢の大学でキャンパスライフを送るはずだった主人公、四万十 葦拿。 しかし、運悪く世界的感染症によって殆ど大学に通えず、彼女にまでフラれて鬱屈とした日々を過ごす毎日。 うまくいかないプライベートによって押し潰されそうになっていた彼を救ったのはキャンプだった。 次第にキャンプ沼へのめり込んでいった彼は、全国のキャンプ場を制覇する程のヘビーユーザーとなり、着実に経験を積み重ねていく。 そして、知らん内に異世界にすっ飛ばされたが、どっぷりハマっていたアウトドア経験を駆使して、なんだかんだ未知のフィールドを楽しむようになっていく。 遭難をソロキャンと言い張る男、四万十 葦拿の異世界キャンプ物語。 別に要らんけど異世界なんでスマホからネットショッピングする能力をゲット。 Awazonの商品は3億5371万品目以上もあるんだって! すごいよね。 ――――――――― 以前公開していた小説のセルフリメイクです。 アルファポリス様で掲載していたのは同名のリメイク前の作品となります。 基本的には同じですが、リメイクするにあたって展開をかなり変えているので御注意を。 1話2000~3000文字で毎日更新してます。

【完結保証】僕の異世界攻略〜神の修行でブラッシュアップ〜

リョウ
ファンタジー
 僕は十年程闘病の末、あの世に。  そこで出会った神様に手違いで寿命が縮められたという説明をされ、地球で幸せな転生をする事になった…が何故か異世界転生してしまう。なんでだ?  幸い優しい両親と、兄と姉に囲まれ事なきを得たのだが、兄達が優秀で僕はいずれ家を出てかなきゃいけないみたい。そんな空気を読んだ僕は将来の為努力をしはじめるのだが……。   ※画像はAI作成しました。 ※現在毎日2話投稿。11時と19時にしております。 ※2026年半ば過ぎ完結予定→七月に完結(決定)

【改訂版アップ】10日間の異世界旅行~帰れなくなった二人の異世界冒険譚~

ばいむ
ファンタジー
10日間の異世界旅行~帰れなくなった二人の異世界冒険譚~ 大筋は変わっていませんが、内容を見直したバージョンを追加でアップしています。単なる自己満足の書き直しですのでオリジナルを読んでいる人は見直さなくてもよいかと思います。主な変更点は以下の通りです。 話数を半分以下に統合。このため1話辺りの文字数が倍増しています。 説明口調から対話形式を増加。 伏線を考えていたが使用しなかった内容について削除。(龍、人種など) 別視点内容の追加。 剣と魔法の世界であるライハンドリア・・・。魔獣と言われるモンスターがおり、剣と魔法でそれを倒す冒険者と言われる人達がいる世界。 高校の休み時間に突然その世界に行くことになってしまった。この世界での生活は10日間と言われ、混乱しながらも楽しむことにしたが、なぜか戻ることができなかった。 特殊な能力を授かるわけでもなく、生きるための力をつけるには自ら鍛錬しなければならなかった。魔獣を狩り、いろいろな遺跡を訪ね、いろいろな人と出会った。何度か死にそうになったこともあったが、多くの人に助けられながらも少しずつ成長し、なんとか生き抜いた。 冒険をともにするのは同じく異世界に転移してきた女性・ジェニファー。彼女と出会い、ともに生き抜き、そして別れることとなった。 2021/06/27 無事に完結しました。 2021/09/10 後日談の追加を開始 2022/02/18 後日談完結しました。 2025/03/23 自己満足の改訂版をアップしました。

【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました

いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。 子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。 「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」 冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。 しかし、マリエールには秘密があった。 ――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。 未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。 「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。 物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立! 数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。 さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。 一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて―― 「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」 これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、 ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー! ※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。

現代知識と木魔法で辺境貴族が成り上がる! ~もふもふ相棒と最強開拓スローライフ~

はぶさん
ファンタジー
木造建築の設計士だった主人公は、不慮の事故で異世界のド貧乏男爵家の次男アークに転生する。「自然と共生する持続可能な生活圏を自らの手で築きたい」という前世の夢を胸に、彼は規格外の「木魔法」と現代知識を駆使して、貧しい村の開拓を始める。 病に倒れた最愛の母を救うため、彼は建築・農業の知識で生活環境を改善し、やがて森で出会ったもふもふの相棒ウルと共に、村を、そして辺境を豊かにしていく。 これは、温かい家族と仲間に支えられ、無自覚なチート能力で無理解な世界を見返していく、一人の青年の最強開拓物語である。 別作品も掲載してます!よかったら応援してください。 おっさん転生、相棒はもふもふ白熊。100均キャンプでスローライフはじめました。

ネットワーカーな私は異世界でも不労所得で生きたい 悪役令嬢として婚約破棄を狙ったら、王家全員に謙虚な聖女と勘違いされて外堀を埋められました

来栖とむ
ファンタジー
「私の目標は、十七歳での完全リタイア。――それ以外はすべて『ノイズ』ですわ」 ブラックIT企業のネットワークエンジニア兼、ガチ投資家だった前世を持つ公爵令嬢リゼット。 彼女が転生したのは、十七歳の誕生日に「断罪」が待ち受ける乙女ゲームの世界だった。 「婚約破棄? 結構です。むしろ退職金(慰謝料)をいただけます?」 死を回避し、優雅な不労所得生活(FIRE)を手に入れるため、リゼットは前世の知識をフル稼働させる。 魔法を「論理回路」としてハックし、物理法則をデバッグ。 投資理論で王国の経済を掌握し、政治的リスクを徹底的にヘッジ。 ……はずだったのに。 面倒を避けるために効率化した魔法は「神業」と称えられ、 資産を守るために回避した戦争は「救国の奇跡」と呼ばれ、 気づけば「沈黙の賢者」として全国民から崇拝されるハメに!? さらには、攻略対象の王子からは「重すぎる信仰」を向けられ、 ライバルのはずのヒロインは「狂信的な弟子」へとジョブチェンジ。 世界という名のバックエンドをデバッグした結果、リゼットは「世界の管理者(創造主代行)」として、永遠のメンテナンス業務に強制就職(王妃確定)させられそうになっていて――!? 「勘弁して。私の有給休暇(隠居生活)はどこにあるのよ!!」 投資家令嬢リゼットによる、勘違いと爆速の隠居(できない)生活、ここに開幕!

裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね

魚夢ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。 元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、 王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。 代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。 父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。 カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。 その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。 ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。 「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」 そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。 もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。 

処理中です...