空色のサイエンスウィッチ

コーヒー微糖派

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大凍亜連合編・承

ep160 空色の魔女は辞めるべきなのかな?

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「隼! よかった! 本当に無事だったんだな! ううぅ……!」
「じゅ、隼さん。凄く痛そう。ボク、隼さんを置いて逃げてごめん……」
「いやいや、アタシの方こそ心配かけてごめんね。ショーちゃんに関しては、アタシの意志で先に逃がしたからね」

 星皇社長が部屋を立ち去ると、入れ替わるようにタケゾーとショーちゃんがアタシが横になる部屋へと飛び込んで来た。
 二人ともそれはそれはアタシのことを心配してくれている。タケゾーなんか、涙まで流しちゃってるし。

 ――でもまあ、今回はアタシも大いに反省だ。
 いくら不意打ち気味に敵と出くわしたとはいえ、こんなボロボロになって家族を心配させるなんて、母親としても最低だ。

「空鳥さんのご容態なら~、私が見た限りでも大丈夫ですね~。怪我も一通りは~、治療できました~」
「フェリアさんもありがとね。てか、アタシも急に迷惑をかけちゃって……」
「いえいえ~。私もシスターとして~、当然のことをしたまでですので~」

 アタシの手当てをしてくれたフェリアさんは、いつもの笑顔でアタシのことを気遣ってくれている。
 空色の魔女の話もしてこないし、そこは空気を読んで伏せてくれるのだろう。なんだかんだでシスターとして懺悔を聞いたりで、口も固いということか。

 ――以前は牙島のことをすんなり話してくれたけど、あれはあの場に洗居さんがいたから特別だっただけだろうね。

「……ねえ、フェリアさん。迷惑ついでで悪いんだけど、またちょっと席を外してもらっててもいいかな?」
「構いませんよ~。ご家族の間で~、お話したいこともあるのでしょうね~。私は聖堂の方にいますので~、用があったらお声掛けくださいね~」

 そんなフェリアさんには申し訳ないのだが、アタシはタケゾーやショーちゃんと相談したいことがある。
 フェリアさんにもう一度席を外してもらうと、アタシはベッドの上でなんとか体を起こしながら二人へと顔を向ける。

「あ、あのさ……。アタシも今回の件で思ったんだけど、空色の魔女はもう辞めた方がいいのかな……?」
「え? どうしたんだ、急に? なんだか、隼らしくないというか……?」
「いやまあ、さっき星皇社長とも少し話してね。家庭や仕事のこともあるのに空色の魔女も兼任して、挙句の果てには大凍亜連合なんて組織と戦ってここまでボロボロになる。そんな今回の体験を踏まえると、二人にも心配や迷惑ばっかりかけちゃうよね……」

 そして星皇社長にも言われたことを話し、タケゾーとショーちゃんにも意見を求める。
 アタシは今や、タケゾーの奥さんにしてショーちゃんの母親だ。もうアタシの体はアタシ一人だけのものじゃない。
 今回の大凍亜連合との戦いで分かったが、アタシ一人の力ではこれ以上はとても対抗できそうにない。

 ――パンドラの箱も星皇社長に託し、アタシはもうこの戦いの舞台から降りた方が無難な気がして仕方ない。



「……ボク、空色の魔女をやめないで欲しい」



 そんなアタシの話を聞いて、まずはショーちゃんが口を開いてきた。しかも、その言葉は空色の魔女を続けることへの肯定。
 ベッドの上で体を起こすアタシの足の上に両手を置き、まるで懇願するような目で訴えかけてくる。

「隼さん、本当は空色の魔女を続けたいよね? なんだか、無理してるように見える」
「た、確かに無理はしてるけどさ、それは空色の魔女を続けることにだよ?」
「そうじゃない。隼さん、空色の魔女をしてる時、生き生きとしてる。ボク、空色の魔女で人助けしてる隼さんが好き」
「ショーちゃん……」

 ショーちゃんの目を見ながらその希望を聞いていると、アタシも思わず言葉に詰まってしまう。
 内心でもどこか揺らぎが生じているのが自分でも分かる。こうやって話を切り出したはいいが、アタシも心のどこかで後悔を抱いている。

 ――本当は空色の魔女を続けたい。突発的に始めた空色の魔女というヒーローだが、昔からアタシは困っている人を見捨てられずにいた。
 もしもここで空色の魔女を辞めても、今後誰かが困っているのを見て見ぬフリができるだろうか? 大凍亜連合のせいでまた被害が出ても、それを他人任せにできるだろうか?



 ――いいや、アタシにはできそうにない。
 アタシ本来の性分に空色の魔女としての力が宿った今、そんなことは良しとできそうにない。



「……隼。お前が悩んでいるのは分かった。だがここで今一度、隼個人としての本心を聞かせてくれ」
「アタシ個人の……本心?」
「ああ。家庭のことも仕事のことも空色の魔女のことも、どれをやりたいと思ってて、どれをやりたくないと思ってるのか……。遠慮も何もなしに、正直に答えてくれ」

 さらにはタケゾーもショーちゃんに合わせるように、アタシに問答を重ねてくる。
 アタシが個人として、やりたいこととやりたくないこと。そもそもの話、アタシにはこの現状で『やりたくないこと』があるのだろうか?
 アタシにとって必要なことは家庭と仕事。家族みんなで暮らすためにも、どこかで割り切ることは必要だと分かっている。

 だけど、アタシ個人の意志でやりたいこととなると――



「ア、アタシは……空色の魔女を続けたい……!」



 ――空色の魔女で在り続けたいと願ってしまう。

 それが無茶を伴う話なのも理解している。だけど、ここでアタシが役目を投げ出すのも違う気がする。
 たとえ星皇社長に託せたとしても、アタシはこの役目を全うしたい。両親から託されたパンドラの箱を、アタシの手で守り抜きたい意志もある。



 ――ただそれ以上に、何よりも単純な話がある。
 アタシは『日常に大凍亜連合という脅威が潜み、アタシにそれへと立ち向かえる力がある』という現実から、逃げ出したくないのだ。



「……やっぱり、それが隼の本心なんだな」
「えっぐ……! ごめん、タケゾー……! アタシ、家族がいるのにこんなワガママで……! こんな最低な奥さんで……母親で……!」
「何が最低なもんか。誰よりも人の不幸を見過ごせないお人好しのヒーローをしてる嫁さんなんて、この世のどこを探しても見つからないさ」
「ううぅ……うああぁ……!」

 それらアタシの本心を聞き終えたタケゾーは、その両腕で優しくアタシの上半身を抱きかかえてくれる。
 もうその行為だけで嬉しさがこみ上げてくるのに、タケゾーは決してアタシの独りよがりな願望を跳ねのけようともしてこない。
 こんな風に抱きかかえられて、こんなに暖かく言葉をかけられて、アタシの中で塞き止めていた想いが崩れるように、両眼から溢れる涙が止まらない。

 ――小さい頃はイジメられて泣き虫だったタケゾーをアタシが助けてたのに、いつの間にかこうやって逆の立場になるとはね。
 アタシが泣き虫になったのか、はたまたタケゾーが頼もしくなったのか。いや、どちらでもあるのかな?

 ――ただ、今はこの暖かさがどうしようもなく心地よい。

「隼。場の勢いがあったとはいえ、俺は本心からお前を支えたくて、こうして結婚することに決めたんだ。お前は一人で背負いすぎなんだよ。苦しい時は何が苦しくて、本当は何をしたいと考えてるのか。俺にも素直に話してくれ。その上で、家族みんなで乗り越えられるように考えよう」
「ボクも武蔵さんと同じ。ボク、やっぱり隼さんの力になりたい。今は養子だけど、それが佐々吹 正司としての望み。空色の魔女を続ける道、一緒に探そう?」
「うあぁぁ……! あ、ありがとう……! 本当にありがとう……!」

 今のアタシは本当にどこまで恵まれているのだろうか。この光景を前にして、そのありがたさが骨身にまで染みてくる。
 空色の魔女で在り続けることがアタシの望みであるが、そのためには困難な道のりが待っている。
 それでも、アタシにはその道のりを共に歩んでくれる家族がいる。これほど嬉しい話はない。



 ――まだ悩みはあるけれど、それでもアタシはこの心に再び誓うことができる。
 アタシは正義のヒーロー、空色の魔女。その使命を果たす時まで、自らの信念のもとに在り続ける。
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