空色のサイエンスウィッチ

コーヒー微糖派

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魔女と家族の新たな日常編

ep230 超一流の清掃用務員の様子がおかしいぞ!?

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「洗居さーん! お疲れ様でーす!」
「こんにちは。ボクも失礼します」

 タケゾーが裏でどんな用事をこなしているのかは気になるけど、アタシもアタシでやることがあるからね。
 ショーちゃんも一緒に連れて、お邪魔するのは洗居さんも働いている玉杉さんのバー。
 今は昼の時間帯で営業してないけど、アタシと洗居さんが仕事の話をするために間借りさせてもらうことになった。
 そんなわけで、元気よく店の中へ足を踏み入れると――



「空鳥さん……お疲れ様です……。こんなどうしよもない清掃用務員どころか、人の隅にも置けない私のところへ、よくぞ伺ってくれました……」
「えっ……!? あ、洗居さん!? な、何があったの……!?」



 ――びっくりするほど元気のない洗居さんが、バーでの接客用メイド服姿で机に突っ伏していた。
 いや、本当に何があったのよ? こんな洗居さん、アタシも初めて見るんだけど?
 よく見ると、顔もかなり泣いた後のように目元が腫れている。
 これって、本当にどういう状況? アタシの復職相談だったのに、これじゃ洗居さんの方が心配じゃん。
 マジでこの世の終わりみたいな顔をしてるんだけど?

「よお、隼ちゃん。洗居なんだが、さっきからずっとこの調子でな~……。隼ちゃんを待つためにメイド服を着てから、一人で暗い空気を出しまくってて、俺にもどうしたらいいか分からねえ……」
「あっ、玉杉さん。……てか、アタシとの話でメイド服着る必要ってないよね? もしかして、精神ブレブレで相当ヤバい感じ?」
「ああ、かなりヤバい感じだな~。俺だってあそこまで落ち込んだ洗居の姿、見たことねえぞ……」

 店の主である玉杉さんも説明を加えてくれるけど、結局のところどうして洗居さんがここまで落ち込んでるのかは分からない。
 玉杉さんはアタシよりも洗居さんとの付き合いが長いのに、それでも分からないとなると打つ手がない。

 ――てか、こうなると本人に聞くしかないよね。
 本当はアタシの話を聞いてもらう予定だったけど、洗居さんをこのままにしておくわけにもいかない。

「ねえ、洗居さん。何があったのさ。アタシでよければ相談に乗るよ?」
「ボクも相談に乗る。ボクと隼さん、ヒーローだから」
「お言葉はありがたいのですが、これはヒーローでもどうにもなりません……。私は所詮、超一流の清掃用務員でもなんでもない、ただの変な造語とメイドコスプレが趣味の痛いアラサー女でしかないのです……」
「……この人、本当に洗居さん?」

 『痛いセンスしてるって自覚あったのか』などとツッコみたくもなるけど、こんなのはアタシの知る洗居さんじゃない。
 たとえヒーローとしてどうにかできなくても、ここは友人知人並び部下として手を差し伸べずにはいられない。

 ――てなわけで、本日のお題はアタシの復職から一転、洗居さんのお悩み相談会だ。





「え? フェリアさんから別れを告げられた?」
「はい……。そのショックでひどく落ち込んでしまい、ご迷惑をおかけいたしました……」

 そうして洗居さんの話を聞いてみたのだけど、なんとも妙な話になっているようだ。
 洗居さんの大親友で百合的にいい関係の二人だったのに、それがなんで急に破局の流れになっちゃったわけ? そもそも、これって破局って言うのかな?

「私もSNSで別れのメッセージを受け取った時は、思わず我が目を疑いました……。ですが思い返してみると、彼女も私と無理をして付き合っていたのでしょう。客観的に自分を見てみると、私はなんと痛々しい憐れなアラサー女なことか……!」
「そ、それは言い過ぎ……なんじゃない?」

 いずれにせよ、洗居さんのショックは甚大だ。フェリアさんとはあくまで友人の間柄だったみたいだけど、それでも洗居さんにとっては何よりも代えがたい人だった。
 そんな人がどうして洗居さんとの別れを切り出してきたのか、まず気になる点はそこだ。

 ――仮に洗居さんが本当に『痛々しい憐れなアラサー』だったとしても、それが理由とは思えない。
 まあ、正直言うとアタシもそこは否定しきれないけど、少なくともフェリアさんが洗居さんのそんな一面を嫌ってたとは思えない。
 そういう洗居さんの変人――変わり種な一面も含めて、好意を寄せていた感じだし。

「玉杉さんはこの件について、どう睨んでる?」
「あのフェリアってシスターも本意じゃねえのかもな。以前の星皇社長との一件で、ウォリアール人って立場が尾を引いてるようにも見える」
「あー……確かにそれはあるかも。フェリアさんも本当はウォリアールのお偉いさんみたいだし、洗居さんとも距離を置きたくなっちゃったのかな?」

 玉杉さんとも話してみたけど、こうなった原因は洗居さん自身と言うより、フェリアさんの立場の方が大きそうだ。
 あくまで可能性の話だけど、フェリアさんみたいなザ・女子で心優しきシスターの鑑とも言うべき人ならば、他者を巻き込むまいと見渦から身を引いたと考える方が自然な気がする。
 つまり、洗居さんに非があるわけではなく、かといってフェリアさんに悪意があるわけでもない。

「うーん……だけども、全部推測の域を出ないや。こういう時にタケゾーがいれば、色々と推察を進めてくれるんだけどねぇ……」
「だったら、武蔵さんにも相談する?」
「いや、タケゾーもタケゾーで何か用事があるみたいだし、ここはアタシ達だけでなんとかしよう。このままだと洗居さんもフェリアさんも浮かばれない気がするからね」
「だけど、どうやって動くの?」
「それはまあ……フェリアさんに直談判?」
「……隼さん、単純」

 こうなったら、考えるよりも先に動いてしまおう。
 生憎と推理担当のタケゾーは不在だし、アタシには逐一事象を推理するやり方は性に合わない。
 洗居さんとフェリアさんがお互いの立場で非業のお別れなんて、そんなのはアタシも嫌だ。
 てか、そもそもの発端はアタシにも一因がある。アタシがウォリアール直下の将軍艦隊ジェネラルフリートと敵対したことも、原因と言わざるを得ない。

 ――アタシのせいで二人の仲を引き裂く結末なんて、そんなの絶対認めない。

「よし! そうと決まれば、アタシは早速、フェリアさんのところに行ってこよう!」
「結局、隼さんは単純」
「まあ、いいんじゃねえか? 俺だって洗居がこのままの調子なのは困るし、何もせずに手をこまねくよりはマシだろよ」

 ショーちゃんや玉杉さんには少し呆れ顔をされちゃうけど、このまま黙って見過ごすのが一番いけないよね。
 一人ガッツポーズをとって決意も新たにしたし、ここは洗居さんのためとアタシの責任諸々も含めて動くとしましょうか。

「洗居さん、大丈夫さ! 今からアタシがフェリアさんから話を聞いて、二人の仲を取り持ってみせるからさ!」
「で、ですが……空鳥さんにそんな苦労をさせるなど、一応の上司としても……」
「だーかーらー! そういうのも気にしなくていいっての! 形は違えど、これも空色の魔女としての活動の一環さ! 悩み事ならば、ヒーローのアタシに任せなさいな!」
「そ、空鳥さん……! あ、ありがとうございます……ううぅ……!」

 洗居さんにもアタシは大きく胸を張り(まあ、元々人より大きい方だけどさ)、元気を見せて安心させるように努める。
 この一件については、アタシも本気で動く。普段のヒーロー活動とは違うけど、洗居さんのためにも何かをせずにはいられない。
 てなわけで、早速向かうはフェリアさんの教会か。

「玉杉さんは洗居さんのことをお願いね。アタシとショーちゃんで、フェリアさんと話をつけてくるよ」
「おう、任せた。車に気を付けるんだぞ~」
「ダイジョーブ、ダイジョーブ。アタシからしたら、車の方が気を付けて――」

 アタシはショーちゃんの手を引き、玉杉さんに見送られながら外へと出る。
 玉杉さんには交通事故に気を付けるように言われるけど、反応さえできれば車が真正面から突っ込んできても、こっちが押し返せる自信はあるんだよね。
 でもまあ、そんな油断も大敵か。ショーちゃんも一緒だし、交通ルールはしっかり守って――



「だ、誰かあの車を止めてぇえ! ウチの娘が誘拐されたのよぉお!!」



 ――ああ、そっちのパターンもあったか。
 店を出たと同時に猛スピードで眼前を走り去るバン。
 母親らしき人が助けを求めてるし、こんなタイミングで誘拐事件に出くわすものかね?
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