空色のサイエンスウィッチ

コーヒー微糖派

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魔女と家族の新たな日常編

ep234 タケゾー「俺が事情を説明しよう」

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「よお……赤原。わざわざ俺みてえな女装変態クソ野郎のところに来てくれて、ありがとうな……」
「……凄い落ち込みと自虐だな。やっぱり、自分でも良しとは思ってないだろ?」

 昨日、夕飯中に届いた俺宛てのメッセージは、フェリアからのものだった。
 なんでも、フェリアの方から洗居さんに別れ話を切り出したらしい。詳細は書かれていなかったが、その内容だけでただ事でないことは俺にもすぐ理解できる。
 なんだかメッセージに『(´;ω;`)』の顔文字が大量に連なってたし、これはフェリアも本心ではなかったのだろう。

 心配になって隼やショーちゃんとの約束も断ってやって来てみれば、そこにいたのはまるで屍のように机にうな垂れるフェリアの姿。
 まるで生気を感じないし、相当泣いたと思われる涙の水溜りまで机の上にできている。目にも全く光がない。

 ――本当に生きてるんだよな? こいつ?

「そもそも、なんであんたの方から洗居さんに別れ話を切り出してるんだ? まだ男だってことは明かしてないけど、女性同士としてはいい付き合いをしてたんだろ?」
「まあな……。栗阿は俺の正体がウォリアール人だって知っても、気兼ねなくこれまでの関係を続けてくれてたさ……」

 早まって自殺するんじゃないかとも思ったが、とりあえずその心配はなさそうだ。
 俺もフェリアと反対の席に腰かけ、まずは事情を伺ってみる。

 星皇社長にまつわる騒動で、フェリアは軍事国家ウォリアールの出身だと洗居さんにも知れ渡ってしまった。
 だけど、騒動が終わった後も洗居さんのフェリアへの態度は変わらなかった。あの人も隼と同じく、人を立場で差別するような人じゃない。
 フェリアもこれまでと同じように、あくまで『女性としてのフェリアの姿』ではあるが、そんな洗居さんとよろしくやっていた。

 だというのに、ここに来て急なお別れ宣言。洗居さんもショックだろうが、それを切り出したフェリアの方も気になる。
 そもそもこいつって、洗居さんにゾッコンで女装してまで近づく変態――もとい、情熱的な男だ。
 そんな情熱を放棄するだけの理由が、フェリアにもあったってことか。

「……おおよその予想だが、この背景にはウォリアールの存在もあるんじゃないか?」
「よくこれだけで察せるもんだな……。流石は警部の息子様だ……。実はウォリアール本国から、俺に帰ってくるように話が来てな……」
「それと洗居さんとの別れ話がどう関係するんだ?」
「帰還理由は『ウォリアール王家のためのお見合い』だってよ……。要するに、俺が恋焦がれる時間も終わりってことだ……」
「……あんた、ウォリアールの王子様だったのか? 高貴な身分だとは聞いてたが、そこまで高貴だったとはな……」

 その理由についても問いただす中で見えてくる、フェリアの母国ウォリアールの話。
 王政だったことも初めて知ったが、まさかフェリアがそんな王政軍事国家の王子様だったとは。
 だが、確かにこいつは裏でフェイクフォックスなんていうダークヒーロー(自称)をできるだけの実力がある。そこを考えると将軍艦隊ジェネラルフリートなんて軍隊に属していなくとも、王族として特別な訓練は受けたってことか。

 ――それはそれでファンタジーな話にも聞こえる。

「俺は軍事国家ウォリアールにおいても王族の人間だ……。そんな俺がこれ以上栗阿に関わっても、迷惑にしかならねえ……」
「だから自分から別れを切り出して、縁を絶とうとしたってことか。……こんな結末で、あんたは本当に満足なのか?」
「満足なはずねえだろ……。本当のことを言えば、栗阿を一緒にウォリアールに連れて行って、縁談話も消し飛ばしてえよ……」
「だったら、そうするべきじゃないか? こんな別れ方なんて、洗居さんだって納得してないはずだ。悩んで苦しむぐらいなら、その先を掴む気概を見せてもいいんじゃないか?」
「あ、赤原……?」

 ともかくこの件において、このままフェリアと洗居さんが引き離されたままというのは俺も釈然としない。
 色々と込み入った形ではあれど、こいつは先の星皇社長との戦いにおいても俺達に味方してくれた。洗居さんとの恋模様についても、俺はどこか他人事とは思えない。
 想いを伝えずに抱える辛さなんて、とてもいいものではない。こいつにもかつて佐々吹にしたように、お節介ながらも背中を押したくなる。

「別に今すぐ洗居さんに正体を明かせとまでは言わない。だが、一緒に『私の母国で旅行をしませんか~?』みたいなノリで話を持ち出せば、洗居さんだって悪い気はしないはずだ」
「……ウォリアールは軍事国家だぞ? そんな場所に栗阿が行って、喜んでもらえるか?」
「少なくとも『親友であるシスターのフェリアさん』との旅行となれば、洗居さんは乗ってくれるはずだ。あの人も働き詰めだし、どこかで休息は必要だろうよ」

 俺も詳しい事情までは読み取れないが、フェリアが洗居さんを連れてウォリアールに向かえば、光明は見えてくる気がする。
 洗居さんもいずれはフェリアの正体を知ることになるだろうが、そこについてはフェリアが考えるべき問題だ。
 実にややこしい恋愛模様を繰り広げてはいても、俺はフェリアと洗居さんがお互いに納得できる結末を迎えて欲しい。悲恋はするのも見るのも御免被る。

「……ああ、そうだな。赤原の言う通りだ。これじゃ俺が別れを切り出したせいで、栗阿の奴を悲しませたままじゃねえか。……俺も腹を括る時が来たか」
「正直、あんた自身が色々とややこしい方向に話を持ってったのもあって、どのタイミングでどう動くかなんてアドバイスは俺にもできない。だけど、今やるべきことは一つだけ……だろ?」
「……へへっ、言ってくれるぜ。ありがとよ、俺なんかのために背中を押してくれて。こうなったら嘆くのもやめだ。今から栗阿に会って、まずは仲直りをする。そして……一緒にウォリアールまで来てもらうように願い出る。それができたら……後は国が用意した縁談話を、どうにかぶっ潰してやる」
「ああ、その意気だ。俺ができるのはここまでだが、仮にウォリアールへ洗居さんが行っても守ってやれよ? あんたにはそれができるだけの力があるんだし、洗居さんにもしものことがあったら俺も許さないぞ?」
「それについては安心してくれ。ウォリアールは軍事国家だが、別に無法地帯とかじゃねえ。何より、王族である俺がいくらでも盾になるさ」

 フェリアも俺の言葉を聞いて、活力を取り戻してくれた。まだまだ前途多難ではあるが、確かに前向きに考えてくれている。
 俺としても奇妙な縁だが、これもまた一つの友情か。気が付くと、俺とフェリアは席を立ってお互いに向かい合っていた。

「頑張れよ、フェリア。あんたの恋を俺も応援してる」
「ありがとよ、赤原。お前も空鳥と幸せな家庭を築くんだぜ」

 そして互いに右手を組み合って、男同士の友情を誓い合うポーズ。お約束にも見えるが、やってる身としては悪い気はしない。
 行く道は違えど、それぞれ愛する女のために尽くす覚悟。そこに俺達は確かな友情を感じていた。



「空鳥も火傷跡を気にしてるだろうが、いつか二人の間にも子供ができるといいな」
「そ、そういうのは隼の了承をとってから――って、ちょっと待て。なんであんたが隼の火傷のことを知ってるんだ?」



 そうして爽やかな友情を部屋の中で誓っていたのだが、フェリアの一言に俺は妙な違和感を覚えてしまう。
 隼が交通事故で負った火傷跡については、俺かおふくろぐらいしか知らない。あいつにとって、最も触れられたくない過去だ。

 ――それなのに、どうして完全部外者のフェリアが知ってるんだ?

「え? あ、ああ、いや……。俺、表向きにはシスターとして、空鳥の治療をしてただろ? だからその時、悪い気はしつつも体の方を拝見させてもらって――」
「……見たのか? 隼の裸を?」
「ま、まあ、結論から言うとそうなる。……なあ、赤原? 顔が怖くねえか?」

 成程。フェリアが隼の火傷跡を知っている理由は納得した。
 確かに隼が倒れた時、フェリアがいなければ隼は助からなかった。そこは感謝してる。
 だが、そんな感謝以上に濁った感情が、俺の心の中でフツフツと湧き上がってくる。



 ――こいつ、人の嫁さんの裸を見てたのか?
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