空色のサイエンスウィッチ

コーヒー微糖派

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将軍艦隊編・序

ep296 あの人だけはアタシが止めないといけないのに……。

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「鷹広のおっちゃんが……デザイアガルダが動いた……!? あいつは……あいつだけはアタシが止めないと……!」

 突如として世間に流れ始めた空色の魔女批判を聞いて心折れていたアタシ。
 うつ状態で動く気なんて湧かず、自宅のリビングで息子のショーちゃんに慰められながら横になってテレビを眺めていた。
 そんな時、とても看過できない事態がテレビのニュースに流れる。

 ――『怪鳥デザイアガルダの再出現』

 脱獄したとは聞いてたけど、ついにあの人が動き出してしまった。
 仮にもあの人はアタシの肉親だ。そんな人の暴挙を見過ごすわけにはいかない。
 ニュースによると、駅前広場を目指しているそうだ。

「ううぅ……えっぐ……! ど、どうして、あの人がまた現れて……!?」

 まだ心の傷も癒えておらず、体も重い。空色の魔女となって空を飛ぶも、涙で前もよく見えない。
 そもそもデザイアガルダが脱獄したことだって、空色の魔女が批判されてる要因の一つだ。
 アタシのことを愛してくれた両親はもういないのに、都合のいい道具として考えていたデザイアガルダ鷹広のおっちゃんはまだ苦しめてくる。

 どうして、いい人ばかり先に死んじゃうのさ?
 どうして、アタシの好きな人達を殺した奴はまだ生きてるのさ?
 タケゾー父お義父さんだってあの人に殺されたのに、こんなの理不尽だ。

 ――ダメだ。嫌なことばかりが頭に浮かんでくる。

「くうぅ……! お酒で紛らわせもしないし、生体コイルもうまく稼働しない……!?」

 正直、コンディションは最悪だ。精神的マイナス要因が体にも悪影響を起こし、空を飛ぶのもフラついてしまう。
 こんな状態でまともに戦えるとも思えないけど、それでもアタシが動かないといけない。

 ――デザイアガルダだけはアタシの手で止める。身内の不始末だけはアタシでつけてみせる。

「駅前広場が見えてきたや……。アタシもせめて気合を入れて――ん? なんだか、先客がいるのかな?」

 揺らぐ心で涙を流しながらも、デザイアガルダより先に駅前広場へとやって来ることはできた。
 だけど、アタシよりも先に何やら大衆に演説する三人組が見える。

「みんな! 空色の魔女とも血縁のある怪鳥デザイアガルダがこちらに向かっているが、俺らに任せれば問題ないぞ!」
「私達の力があれば、あの怪鳥も一網打尽でしてよ!」
「…………」

 それはもはやお馴染みと言える、新世代の新人ヒーロー三人組。
 戦士仮面や僧侶仮面が率先して、駅前に集まった大衆に声をかけている。
 唯一勇者仮面こと宇神君だけはどこか口元を歪ませながら大衆の前に立ってるだけで、演説のようなことはしていない。

 ――そう、これは演説。自分達が『空色の魔女より上』とでも言わんばかりの宣伝だ。

「いいぞぉお! 空色の魔女なんて正体不明の奴より、やっぱ国も認めたヒーローだよな!」
「期待してるわよ! 本物の正義のヒーローのみんな!」

 そんな演説を聞いて、大衆も同調して声を上げている。
 もうじきここにデザイアガルダが現れるのだから、身の安全のためにも逃げて欲しい。
 このままじゃ、関係ない一般人まで巻き込まれてしまう。
 空から遠目で見る限り、大衆はこの街では見かけない人達で、空色の魔女アタシよりも政府のヒーローを支持している。
 それでも、守るべき対象なのは変わらない。

「あ、あのさ……。もうじきここにヤバいバケモノが来るから、みんな逃げた方がいいと……思うんだけど……」
「お、お前は……空色の魔女!? よくノコノコとこの場に姿を見せられたな!」
「あなたの言う『ヤバいバケモノ』ってのも、実はお仲間なんでしょ!? 私達だって話は全部聞いてるのよ!?」

 アタシも駅前広場に降り立ち、大衆へ声をかけて訴える。だけど、いつものようにうまく言葉が出てこない。
 人々の視線が怖い。投げつけられる声が怖い。ここにいることが怖い。
 大衆から見た今のアタシは街のヒーローなんかじゃなくて、迫りくる驚異と血の繋がった肉親だ。ヴィランと変わりない。

 ――ダメだ。辛すぎる。涙を抑えられない。

「そ、空鳥さん……」
「おい、ライトブレイブ。あんなエセヒーローに同情する必要なんかないだろ?」
「そもそも、彼女の正体は固厳首相からも聞いてるわよね? 人が集まってるこの際だから、真実を語りましょう」
「い、いや……それは……」

 心が折れたままのアタシでは、こんな大衆の声に言い返すこともできない。
 さらに厄介なことに、戦士仮面と僧侶仮面にまでアタシの身元が割れているらしき発言が聞こえてくる。
 宇神君だけは止めようとしてくれるけど――

「空色の魔女の正体を知ってるのか!? だったら教えてくれ!」
「ネットに晒して、もう二度とヒーローの真似事なんかできないようにしましょう!」

 ――批判に走り続ける大衆には関係ない。
 完全に場の空気に流され、率先してアタシの正体を求めてくる。

「一般市民のみんなもこう言ってることだし、あの怪鳥が来る前に『偽りのヒーロー、空色の魔女』の正体を暴いておこうか!」
「ええ、そうね。私達も『本物のヒーロー』として、真実を明らかにする必要はあるわよね」
「ぼ、僕からも頼む……! それだけはやめてやってくれないか……!?」

 宇神君を除く新人ヒーローも大衆の声を聞き、その言葉に応えようとする。
 もう嫌だ。ここにいるだけで心が削られていく。
 デザイアガルダが迫っている場面。空色の魔女への批判的な声が集中している状況。
 こんなタイミングでアタシの正体がバレれば、もうヒーロー活動とかそれ以前の話になる。



 ――正直、死にたい。アタシの心はもう限界だ。



「お、お願い……! バラさないで……!」
「よく聞け、みんな! 空色の魔女の正体は――」

 もうどうしようもない。大衆の意志も戦士仮面の声も止められない。
 涙を流しながらの抗議も虚しく、ついにアタシの正体が人々に語られて――



「ちょっと待ったぁぁああ!! そういう話はこの街に住む俺達にこそ、意見する権利があるだろうがぁぁああ!!」
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