空色のサイエンスウィッチ

コーヒー微糖派

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将軍艦隊編・序

ep300 もう容赦しないぞ! 将軍艦隊!

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 ビルの屋上から声をかけてきたラルカさんに、アタシは注意を払いながら宙を浮きつつ近寄る。
 今回はクジャクさん絡みで出会った時のどこか疲れた様子とは違うのがよく分かる。
 ラルカさんは今『将軍艦隊ジェネラルフリート最高幹部の一人』として、空色の魔女への敵意を表面化して姿を見せている。
 その視線はかつて直接対決した時のように冷たい。

 ――いつかはこうなると思ってたけど、またこの厄介なルナアサシンの相手もするわけか。

「デザイアガルダの身はミスターベレゴマに回収してもらいました。それにしても、まさかデザイアガルダを倒したのが政府の三人組ではなく、ミス空鳥だとは驚きです」
「その驚きの中には『アタシが心折れてダウンしてたはず』ってニュアンスもあるのかな? 随分と姑息で陰湿な手を使ってくれたもんだ」
「自分も同じようには思いましたが、これも任務ですので。第一にそのご様子だと、もうあの陰湿な作戦から立ち直られたということでしょうか?」
「まあ、なんとかね。結局のところ、デザイアガルダの動きはそっちでも想定外だったんでしょ? あの様子だと、仮にアタシが居合わせてなくても、新人三人組に素直に倒されることはなかったろうねぇ」
「でしょうね。人間を辞めた鳥頭では、こちらの意図を組むことなどできないのでしょう」

 相も変わらず淡々とアタシに状況を伝えながら、臆することなく自身の考えを吐露するラルカさん。
 敵に回ったとはいえ、こういうところで律儀なのは変わらない。後、地味に饒舌なのも。
 それにしても、デザイアガルダにはそもそも期待してなかったって感じだよね。まあ、本来の目的はアタシへの嫌がらせだったからね。
 てか、わざわざデザイアガルダ・リターンズなんてものにパワーアップさせて、何が目的なんだろ?
 マッチポンプが目的だから、以前よりもパワーアップさせて印象を強めてみたとか?

「一つ質問させてもらうけど、デザイアガルダをどうするつもりさ? こっちとしては警察に送り返して、この国で法の裁きを受けてもらいたいんだけど?」
「その法を裏で糸引く政府が企んだ脱獄でしたのに、素直に裁きを受けるとは思えませんがね。何より、デザイアガルダには今後も将軍艦隊ジェネラルフリートの実験台になってもらう予定です。今回の作戦の正否を問わず、彼は固厳首相にとってもただの捨て駒です。もう人間には戻れないわけですし、こちらで都合よく利用させてもらう手筈となってました」
「……そうかい。なんだか、それはそれでアタシも不服なもんだ」

 話を聞く限り、デザイアガルダは国にとっても将軍艦隊ジェネラルフリートにとってもただの駒以下の存在のようだ。
 これじゃ、脱獄した意味なんてないじゃんか。どの結末を辿っても、デザイアガルダは利用されておしまいってことじゃんか。

 ――アタシの大切な人を死なせてきた忌まわしい肉親だけど、真っ当な扱いを受けられないのは気に食わない。

「そんな風にデザイアガルダを扱うのなら、アタシも見逃せないよ? どんな裏があったとしても、この国の司法を受けてもらうのが道理じゃないかな?」
「ミス空鳥は今回の一件において、完全に被害者だと認識しているのですがね。……自らの立場を脅かした敵を助けたいと言うのですか? 随分と甘すぎませんか?」
「ああ、甘いのは承知さ。だけど、これはアタシなりの流儀ってもんでね」

 正直、デザイアガルダが刑務所に逆戻りしても更正するとは思ってない。それは肉親のアタシが一番理解してる。
 だけど、その尊厳を黙って踏みにじられるのを見てるだけってのは、アタシ自身いい気がしない。
 甘い考えなのは承知の上。それでも、アタシの考えは変わらない。

 ――ヒーローとかヴィランとか関係なく、勝手に人を好きに利用するってスタンスが気に食わない。

「……では、デザイアガルダを自分達から奪い返すと? これまで苦汁を舐めさせてきた肉親を、わざわざ助け出すと?」
「まあ、そういうこったね。甘かろうがワガママだろうが、アタシはそうしたい。……だからそろそろお喋りは終わりにして、アタシはベレゴマを追わせてもらうよ」
「……本当に反吐が出るほどの甘さですね。世間から虐げられようとその元凶が相手だろうと、そこまで動くのがヒーローというものなのですかね? ……それでしたら、こちらも相応の手を取らせていただきます」

 ラルカさんは現在、ビルの屋上に一人だけだ。お得意の狙撃もあるだろうけど、追ってくる心配はない。
 そう思って体の向きを変えてベレゴマを追う準備をするんだけど、何やらまだ妙なことを口にしてくる。



将軍艦隊ジェネラルフリート艦尾将、ミスターフレイム。予備プランに従い、空色の魔女と交戦願います」
「えっ……!? フ、フレイムって……まさか!?」



 ラルカさんは無線機に口を当て、誰かに作戦を指示し始めた。
 いや、それが誰かなんて分かり切っている。思いっきり名前まで言ってるし。
 この人、本当にあらゆる可能性を想定して、作戦を二重三重に展開してくる。いったいどこまで読んでるのかな?
 確かに艦尾将ならば、アタシが空を飛んでいようと関係ない。


 シュゴオォォォオ!!


「フオオオオォ!」
「うっげぇ!? やっぱりこいつか!? てか、マジで相手しなきゃいけないの!?」

 向こうだって背中のジェットパックを使い、同じように空を飛べる相手だ。
 これまで何度か姿は見てきたけど、とても勝てる予感がしない巨漢サイボーグ。将軍艦隊ジェネラルフリート艦尾将にしてフロスト博士の弟、フレイム・エアロ。
 そいつがジェット音と蒸気音のような声を上げ、アタシの眼前へと飛来してきた。

「人員の都合で、今回はミスターフレイムがお相手いたします。このお方は『バーニングボーグ』というコードネームと共に『将軍艦隊ジェネラルフリート最強』という称号も冠しております。流石のミス空鳥でも、無傷で逃げ切ることはできないでしょう。しばらくの間、こちらの都合で入院してもらいます」
「最強ってマジで!? いや、こんだけとんでも武装したサイボーグなら、当然な気もするけどさ!? てか、そっちの都合でアタシを入院させるとか言わないでよね!?」

 喋れないフレイムに代わってラルカさんが解説してくれるけど、本当に冗談じゃないって話だ。
 流石のアタシもこんな『SF宇宙対戦用サイボーグ』みたいな相手はしたくない。
 これまでと違い、その両肩には大砲が装備されてるし、左腕とかガトリングガンになってるじゃん。
 そりゃ『将軍艦隊ジェネラルフリート最強』なんて呼ばれるわけだ。そもそも、人間に差し向けていい相手には見えない。

 ――このフレイムって人、巨大ロボでも持ち出さないと勝てないんじゃないかな?

「フオオ、オオォ!」
「うひいぃ!? む、向かってきた!?」

 こっちの気持ちなんて敵さんには関係なく、アタシも思わず迫りくるフレイムから逃げ出さずにはいられない。
 さっきと違ってトラクタービームを接続できても、逆にこっちが振り回されるだけ。
 デザイアガルダが運ばれた方角とは反対に逃げちゃったけど、これはもう救出とかそれどころの話ではない。
 申し訳ないとは思いつつ、こっちだって必死だ。相手が悪すぎる。ボクシングのライト級がスーパーヘビー級に挑むようなものだ。

「てか、速っ!? そのジェットパック、どんだけの出力よ!? ジェット機並みの出力でしょ!?」
「フオオ、オオ、オン! フオオオォ!」
「もしかして、答えようとしてくれてる!? でも、全然分かんない!」

 ラルカさんとも離れ、アタシの目的は完全にフレイムからの逃亡にシフトしてしまう。
 せっかく気持ちも持ち直したのに、そのタイミングでこんなとんでもサイボーグを仕掛けるなんてタチが悪い。
 単純な機動力に関しても、アタシやデザイアガルダより上だ。どんどんと距離を縮められてしまう。

「フオオ! オオオォ!」
「やっべ!? ガトリングガンの狙いを定めてきた!? 逃げながらの電磁フィールドじゃ、ガトリングガンクラスの衝撃には……!?」

 大空を舞台に行われる、魔女とサイボーグの追いかけっこ。
 言葉にしただけでもわけ分かんないし、一応の目的だったデザイアガルダを追いかける話もどこ吹く風だ。
 さらに向けられるのは、フレイムの左腕に装着されたガトリングガンの銃口。
 こっちは全速力で逃げるのに精一杯で、防御も回避もしている余裕などない。

 せっかく流れが変わったと思ったのに、まさかこんなところでとんでもサイボーグにやられるなんて――



「ソラッチャン! こっちだ! オレッチの愛機に飛び乗れ!」
「フクロウさん!? 何でここに!?」



 ――そんな諦めかけたアタシの横へ、一機のガンシップが飛来してきた。
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