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鬼教師のもう一つの顔
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放課後。職員室の前。
「……いややなぁ」
足が重い。
ジェミニ先生は通称“鬼教師”と呼ばれている。
呼び出された生徒は、昼休みに百人分のプリントを刷らされ、それを各クラスへ三往復で配り、挙げ句の果てには放課後のトイレ掃除。
帰ってきた生徒はいつもヘロヘロだった。
つまりここから先にあるのは雑用の嵐。わざわざ自分から踏み込みたい人間なんか、いるか?
とはいえ。前世の俺にとっては、これは接触の絶好の機会でもある。
(推しに「手伝え」言われるんは……ご褒美なんちゃう? ……あかん、ちょっと勇気湧いてきた)
自分に言い聞かせて数分。
ガラッ、と扉が開いた。
「ひえっ!?」
情けない声が廊下に響く。
「ったく……。お前が唸ってるの、中から丸聞こえだぞ。入って来ねぇから開けてやったんだ」
先生の顔が赤い。……熱か?
彼は無理を溜め込みがちな人間だ。兄と比べられ、いつも自分を追い詰めてきたタイプ。
「先生、顔赤いですよ。熱ちゃいます?
俺ら、生徒は先生がいつも頑張り過ぎなん知ってます。たまには頼ってくださいね」
自然に言葉が口をついた。
推しが苦しんでいるのは見たくない。それだけだ。
そっと額に手を当てる。……熱はない。安心して手を離した瞬間――
先生の顔が真っ赤に爆ぜた。
「っ……!」
両手で顔を覆い、そのままへたり込む。
(えっ……!? だ、大丈夫か!?)
慌てて声を掛けても「なんでもない」の一点張り。
やがて数分後、立ち上がった彼は、なぜかすっきりした顔で言った。
「……すまん。心配かけたな。あと……ありがとな。今日は手伝い免除してやる」
「えっ、ほんまですか!? ありがとうございます!」
「……お前、無自覚か」
「え? なんか言いました?」
「いや……なんでもねぇ。気ぃつけて帰れ」
「ありがとうございます!」
深く一礼して、廊下を歩き出す。
足取りは軽い。
(……雑用なしで済んだ! よっしゃ!)
胸の奥で小さくガッツポーズ。
けどそれだけじゃない。
教師として厳しい顔しか見せなかったジェミニ先生の、別の一面を一瞬だけ覗いた気がした。
俺はただ脇役で、恋愛の当事者にはならない。……なるつもりもない。
でも“近くにいる”という立場が、思った以上に強いカードになるかもしれない。
(……これが、俺の役目。主人公に繋げるための、脇役の席や)
廊下に射し込む夕陽が、床に長く影を伸ばす。
その中を歩きながら、俺は改めて胸の中で拳を握った。
「……いややなぁ」
足が重い。
ジェミニ先生は通称“鬼教師”と呼ばれている。
呼び出された生徒は、昼休みに百人分のプリントを刷らされ、それを各クラスへ三往復で配り、挙げ句の果てには放課後のトイレ掃除。
帰ってきた生徒はいつもヘロヘロだった。
つまりここから先にあるのは雑用の嵐。わざわざ自分から踏み込みたい人間なんか、いるか?
とはいえ。前世の俺にとっては、これは接触の絶好の機会でもある。
(推しに「手伝え」言われるんは……ご褒美なんちゃう? ……あかん、ちょっと勇気湧いてきた)
自分に言い聞かせて数分。
ガラッ、と扉が開いた。
「ひえっ!?」
情けない声が廊下に響く。
「ったく……。お前が唸ってるの、中から丸聞こえだぞ。入って来ねぇから開けてやったんだ」
先生の顔が赤い。……熱か?
彼は無理を溜め込みがちな人間だ。兄と比べられ、いつも自分を追い詰めてきたタイプ。
「先生、顔赤いですよ。熱ちゃいます?
俺ら、生徒は先生がいつも頑張り過ぎなん知ってます。たまには頼ってくださいね」
自然に言葉が口をついた。
推しが苦しんでいるのは見たくない。それだけだ。
そっと額に手を当てる。……熱はない。安心して手を離した瞬間――
先生の顔が真っ赤に爆ぜた。
「っ……!」
両手で顔を覆い、そのままへたり込む。
(えっ……!? だ、大丈夫か!?)
慌てて声を掛けても「なんでもない」の一点張り。
やがて数分後、立ち上がった彼は、なぜかすっきりした顔で言った。
「……すまん。心配かけたな。あと……ありがとな。今日は手伝い免除してやる」
「えっ、ほんまですか!? ありがとうございます!」
「……お前、無自覚か」
「え? なんか言いました?」
「いや……なんでもねぇ。気ぃつけて帰れ」
「ありがとうございます!」
深く一礼して、廊下を歩き出す。
足取りは軽い。
(……雑用なしで済んだ! よっしゃ!)
胸の奥で小さくガッツポーズ。
けどそれだけじゃない。
教師として厳しい顔しか見せなかったジェミニ先生の、別の一面を一瞬だけ覗いた気がした。
俺はただ脇役で、恋愛の当事者にはならない。……なるつもりもない。
でも“近くにいる”という立場が、思った以上に強いカードになるかもしれない。
(……これが、俺の役目。主人公に繋げるための、脇役の席や)
廊下に射し込む夕陽が、床に長く影を伸ばす。
その中を歩きながら、俺は改めて胸の中で拳を握った。
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