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第9話 偽勇者旅は続く
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俺は内心じゃ怒髪天を衝きそうになっていた。
エロドラゴンから太股を撫でられる度にぞわぞわと鳥肌が立つ。緩んだスケスケ浴衣の胸元に手を入れられた時点で、もう限界だった。
当初の計画じゃもっと誘惑して酒でも飲ませて油断させるつもりだったが、ホントマジ無理。
それまで声を殺して我慢していた俺は、ドラゴンの不埒な手を叩き払って跳んで離れた。
皆はまだ来ない。
だが、もう待てない。
俺が魔力を放出させれば、目の前にいるのが魔王だとこのドラゴンもさすがに気付くだろう。偽勇者も偽パーティーも全てが水の泡だ。
セロンは当然、ブイですら俺を裏切り者というか容認できない敵として見るに違いない。そんな眼差しを想像すると苦い笑いが込み上げた。
「親しくなれたのにな」
親しくならない方がいい相手だったのに、成り行きに任せてしまっていた。俺の考えが甘かったんだ。決裂を想像すると苦い。
「おいドラゴン……いい加減に――」
「マスター!」
「ヒタキ!」
「ヒタキ君!」
ピタリと俺は動きを止めて、駆けてくる三人を見つめた。
息を切らしているのは全力で走ってきてくれたからだろう。
俺のために。間に合うようにって。
「ぬわあんだお前達はー!? よもや命知らずにもワシの番を奪いに来たのではあるまいな? そうはさせんぞーっ!」
激怒するドラゴンに息を呑むセロンが持参した聖剣を布から出すと俺へと投げてくる。
「ヒタキ! 早くこれを!」
彼は俺が勇者だと思っているからそうしたんだ。その懸命さは非常に有難いが、悪い、回り道になってるよ。まずは彼の近くにいるブイに渡して欲しかった。しかしつべこべ言っている暇はない。剣は放物線を描いている。
俺は走ってキャッチした。
言うまでもなく剣から反発されて手が痛いが、今は魔力でカバーするわけにもいかない。瞬間的に掌は火傷を負っていた。これでは血が滴るのも時間の問題。
その前にブイだ。
「ブイ! 頼む!」
俺は、俺と共にという意図を込め、剣を握っていないもう片方の手を差し出した。
いやさあ、遠隔で聖剣の本領発揮無理っぽいし、早ーくこっちきて剣握れこっち来て剣握れっ、握ってくれよおおおーーーーっ!
俺の目が血走ったからかブイは怯んだ。
「ぐはははは我が番よ、抵抗はやめよ。こやつらはお前の知り合いなのだろう? この不敬も可愛いお前に免じて見逃してやろう。さっさと剣を置いて帰るように伝えるのだ。そしてワシの元へ来るがいい。仕置きとして、この初夜は寝かさんぞ。がははははは!」
じゅるりと舌嘗めずりされて身震いする俺ではない誰かさん達の殺気が膨れ上がった。
セロンは笑顔で聖魔法炸裂だし、ウシオは逞しい肉体のポテンシャルを駆使した蹴りを見舞った。
「グワアアアアアアアーッ! に、人間共めえええっ!」
無数の大裂傷を負って無様に地面を転がったドラゴンは、めったんこダメージを受けていた。
「え、なあこれもう勇者要らなくない?」
ポカンとしていたら、ブイがおずおずとしてやってきた。
「あ、良かった。ほらこれ。力を目覚めさせてくれ。何なら一緒にドラゴンに接近してもらえると楽に倒せるな。例えばケーキ入刀みたいにドラゴンを斬るんだ。できるだろう?」
「マスター……ですけど僕は獣人です。もしも秘密が露見したら……」
「いい加減にしろ。男でも女でも獣人でも、勇者は勇者で生まれや育ちや性別は本来関係ないんだよ。要は勇者だろうと魔王だろうと資質や実力の問題だ」
「なら余計に僕には荷が重いです。勇者をやる勇気なんてないです」
勇気なんてなくても泣いても笑っても、聖剣に選ばれた以上勇者以外の何物でもないんだが、そこは今は言わないでおいた。
「ブイ、あんたさ、案外思い切って踏み出してみればどうにか世界は回っていくもんだ。選択したそのすぐ後ろから、驚きとか悟りとか後悔とか満足とか色々なものが付いてくるって感じ?」
「勇気も意気地もなくても、ですか……?」
「まあ勇気のあるなしはこの際置いておいて、思う通りに勢い余ってもいいから前に飛び出してみろってこと」
「勢い……前に……」
「何でもいいからとにかくレッツゴーだ。安心しろって、俺が付いているだろう?」
ストンと何かが心に落ちたのか、ブイは顔を上げてようやく立ち上がった。
「確かに、そうですよね。僕が抜いてしまったんですから、きちんと僕が責任を取るのが筋ですよね」
「そうだその意気だ! ブイならできる。己を信じろ!」
「はい! きっとドラゴンを倒せると、この剣を信じます。僕の事は僕の事でマスターに責任取ってもらいますしね」
「そうだその意……え? はい?」
「マスター、行きましょう!」
「え、あ、うん?」
何が何だか話の半分はよくわからなかったが、俺は勇者ブイと駆け出した。
「セロン! ウシオ! あとは俺達に任せろ!」
ドラゴンはその時にはセロンとウシオによって最早フルボッコで白旗を上げたレベルだったが、元凶は断たねばならぬっ!
「「らあああああーーーーっ!!」」
白く輝く聖なる剣を振り翳し、二人の男が共に立つ。
「ギブギブ! ギブアップだっつのーーーー――――……」
ドラゴンは聖剣の一撃によって斃れた。
ゲームだと体力残り一桁とかだったんだろうなあのドラゴン。何か終わってみると気の毒だったな……。
こうして、勇者によって魔物討伐は成された。村には平和が訪れる事だろう。
だが、平和が訪れない場所があった。
偽勇者パーティーだ。
「僕は絶対に入団を認めませんよ!」
「あっはっはっ、セロンっちの承諾は要らないよね、ヒタキ君! このウシオは今日から勇者パーティーさ! 君がまさか勇者だったとは~、なんて? ま、宜しくヒタキ君、ブイ君、あとブイのお兄さんも!」
「そんな、勇者様も何とか言ってやって下さいよ! ブイさんのお兄さんは百歩譲っていいにしても、ウシオさんはだめです! 勇者様が危険です!」
「えーっと、俺はどうでもいいよ。それより早くこのスケスケから着替えさせてくれ……」
ドラゴンを倒した洞窟には、現在俺、ブイ、セロンとウシオ、そして何とブイ兄がいた。
彼はずっと陰から見ていて、俺とドラゴンに立ち向かったブイの勇気に胸を打たれたらしい。自分には到底真似できないと称賛し、今まで見下げていて悪かったとブイに謝った。
改心したようだな。完全に屈託がないわけでもないんだろうが、これも人間の進歩だな。
ブイも謝罪を受け入れていた。お人好しめ。
こんなだから、放っておけないんだよな。
彼が勇者宣言できるくらいにもっとしっかりするまでは、俺もお守りをお役御免とはいかなそうだよ。
予期せぬメンバーも増えて騒がしくなったこの偽勇者パーティーと共に、俺は必ず帰還方法を探し出してみせる。
それまでは、この旅路を俺なりに楽しもう。
エロドラゴンから太股を撫でられる度にぞわぞわと鳥肌が立つ。緩んだスケスケ浴衣の胸元に手を入れられた時点で、もう限界だった。
当初の計画じゃもっと誘惑して酒でも飲ませて油断させるつもりだったが、ホントマジ無理。
それまで声を殺して我慢していた俺は、ドラゴンの不埒な手を叩き払って跳んで離れた。
皆はまだ来ない。
だが、もう待てない。
俺が魔力を放出させれば、目の前にいるのが魔王だとこのドラゴンもさすがに気付くだろう。偽勇者も偽パーティーも全てが水の泡だ。
セロンは当然、ブイですら俺を裏切り者というか容認できない敵として見るに違いない。そんな眼差しを想像すると苦い笑いが込み上げた。
「親しくなれたのにな」
親しくならない方がいい相手だったのに、成り行きに任せてしまっていた。俺の考えが甘かったんだ。決裂を想像すると苦い。
「おいドラゴン……いい加減に――」
「マスター!」
「ヒタキ!」
「ヒタキ君!」
ピタリと俺は動きを止めて、駆けてくる三人を見つめた。
息を切らしているのは全力で走ってきてくれたからだろう。
俺のために。間に合うようにって。
「ぬわあんだお前達はー!? よもや命知らずにもワシの番を奪いに来たのではあるまいな? そうはさせんぞーっ!」
激怒するドラゴンに息を呑むセロンが持参した聖剣を布から出すと俺へと投げてくる。
「ヒタキ! 早くこれを!」
彼は俺が勇者だと思っているからそうしたんだ。その懸命さは非常に有難いが、悪い、回り道になってるよ。まずは彼の近くにいるブイに渡して欲しかった。しかしつべこべ言っている暇はない。剣は放物線を描いている。
俺は走ってキャッチした。
言うまでもなく剣から反発されて手が痛いが、今は魔力でカバーするわけにもいかない。瞬間的に掌は火傷を負っていた。これでは血が滴るのも時間の問題。
その前にブイだ。
「ブイ! 頼む!」
俺は、俺と共にという意図を込め、剣を握っていないもう片方の手を差し出した。
いやさあ、遠隔で聖剣の本領発揮無理っぽいし、早ーくこっちきて剣握れこっち来て剣握れっ、握ってくれよおおおーーーーっ!
俺の目が血走ったからかブイは怯んだ。
「ぐはははは我が番よ、抵抗はやめよ。こやつらはお前の知り合いなのだろう? この不敬も可愛いお前に免じて見逃してやろう。さっさと剣を置いて帰るように伝えるのだ。そしてワシの元へ来るがいい。仕置きとして、この初夜は寝かさんぞ。がははははは!」
じゅるりと舌嘗めずりされて身震いする俺ではない誰かさん達の殺気が膨れ上がった。
セロンは笑顔で聖魔法炸裂だし、ウシオは逞しい肉体のポテンシャルを駆使した蹴りを見舞った。
「グワアアアアアアアーッ! に、人間共めえええっ!」
無数の大裂傷を負って無様に地面を転がったドラゴンは、めったんこダメージを受けていた。
「え、なあこれもう勇者要らなくない?」
ポカンとしていたら、ブイがおずおずとしてやってきた。
「あ、良かった。ほらこれ。力を目覚めさせてくれ。何なら一緒にドラゴンに接近してもらえると楽に倒せるな。例えばケーキ入刀みたいにドラゴンを斬るんだ。できるだろう?」
「マスター……ですけど僕は獣人です。もしも秘密が露見したら……」
「いい加減にしろ。男でも女でも獣人でも、勇者は勇者で生まれや育ちや性別は本来関係ないんだよ。要は勇者だろうと魔王だろうと資質や実力の問題だ」
「なら余計に僕には荷が重いです。勇者をやる勇気なんてないです」
勇気なんてなくても泣いても笑っても、聖剣に選ばれた以上勇者以外の何物でもないんだが、そこは今は言わないでおいた。
「ブイ、あんたさ、案外思い切って踏み出してみればどうにか世界は回っていくもんだ。選択したそのすぐ後ろから、驚きとか悟りとか後悔とか満足とか色々なものが付いてくるって感じ?」
「勇気も意気地もなくても、ですか……?」
「まあ勇気のあるなしはこの際置いておいて、思う通りに勢い余ってもいいから前に飛び出してみろってこと」
「勢い……前に……」
「何でもいいからとにかくレッツゴーだ。安心しろって、俺が付いているだろう?」
ストンと何かが心に落ちたのか、ブイは顔を上げてようやく立ち上がった。
「確かに、そうですよね。僕が抜いてしまったんですから、きちんと僕が責任を取るのが筋ですよね」
「そうだその意気だ! ブイならできる。己を信じろ!」
「はい! きっとドラゴンを倒せると、この剣を信じます。僕の事は僕の事でマスターに責任取ってもらいますしね」
「そうだその意……え? はい?」
「マスター、行きましょう!」
「え、あ、うん?」
何が何だか話の半分はよくわからなかったが、俺は勇者ブイと駆け出した。
「セロン! ウシオ! あとは俺達に任せろ!」
ドラゴンはその時にはセロンとウシオによって最早フルボッコで白旗を上げたレベルだったが、元凶は断たねばならぬっ!
「「らあああああーーーーっ!!」」
白く輝く聖なる剣を振り翳し、二人の男が共に立つ。
「ギブギブ! ギブアップだっつのーーーー――――……」
ドラゴンは聖剣の一撃によって斃れた。
ゲームだと体力残り一桁とかだったんだろうなあのドラゴン。何か終わってみると気の毒だったな……。
こうして、勇者によって魔物討伐は成された。村には平和が訪れる事だろう。
だが、平和が訪れない場所があった。
偽勇者パーティーだ。
「僕は絶対に入団を認めませんよ!」
「あっはっはっ、セロンっちの承諾は要らないよね、ヒタキ君! このウシオは今日から勇者パーティーさ! 君がまさか勇者だったとは~、なんて? ま、宜しくヒタキ君、ブイ君、あとブイのお兄さんも!」
「そんな、勇者様も何とか言ってやって下さいよ! ブイさんのお兄さんは百歩譲っていいにしても、ウシオさんはだめです! 勇者様が危険です!」
「えーっと、俺はどうでもいいよ。それより早くこのスケスケから着替えさせてくれ……」
ドラゴンを倒した洞窟には、現在俺、ブイ、セロンとウシオ、そして何とブイ兄がいた。
彼はずっと陰から見ていて、俺とドラゴンに立ち向かったブイの勇気に胸を打たれたらしい。自分には到底真似できないと称賛し、今まで見下げていて悪かったとブイに謝った。
改心したようだな。完全に屈託がないわけでもないんだろうが、これも人間の進歩だな。
ブイも謝罪を受け入れていた。お人好しめ。
こんなだから、放っておけないんだよな。
彼が勇者宣言できるくらいにもっとしっかりするまでは、俺もお守りをお役御免とはいかなそうだよ。
予期せぬメンバーも増えて騒がしくなったこの偽勇者パーティーと共に、俺は必ず帰還方法を探し出してみせる。
それまでは、この旅路を俺なりに楽しもう。
応援ありがとうございます!
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