8 / 48
8 NTR(抜き取ら)れたマイ剣
しおりを挟む
「ふう、一件落着」
俺は額に汗……って程の汗も掻かず、難なく魔物たちを討伐すると、砂浜に落ちている三つの魔核を残らず拾い上げた。
魔核は一見その辺に落ちている石ころと見た目は何ら変わらない。
砕けてしまえば土や砂と見分けすら付かなくなるような代物だ。
だから巷の冒険者たちはその場に捨ておくのが普通だった。
俺もそんな他と相違ない無駄な物って認識の頃があったけど、師匠と出会って一八〇度見方が変わったんだよな。
今まで無用な物と思って捨てていたのは大きな大きな間違いだったって教えられた。
魔物とは言え生きていた証に無駄なんてなかったんだって。
掌上に収まる三つの魔核をじっと見据え、握り込んで砂浜に腰を下ろす。
魔核を用いての心力の修練を始めるんだ。
両目を閉じ呼吸を整え、内なる力を意識して魔核の方へと流すイメージで集中する。
必ずしも目を閉じたり呼吸を整える必要はないけど、俺はそうしないと集中できないからそうする。
師匠なんかはさすがに慣れたもので、甘味を口に運びながら、或いはあくびをしながらしれっとやっていたっけ。
掌へと意識を向けていると、段々と世界には自分と魔核しか存在しないような不可思議な感覚に囚われる。
するとどうだろう、手の中が温かくなった。
魔核が熱を持ち始めたんだ。道端の石ころにしか見えなかったそれらは、きっと現在色硝子のように透明になって赤く色付き始めているはずだ。
しばし掌を介して自らの気というか、心力を当てたままでいると魔核から熱が去る。
これで魔核の覚醒は済んだ。
俺は目を開け、静かな眼差しで指を開いた。
赤透明な三つの魔核は、尚も心力を注いでいると今度は淡く発光を始め、中心から生まれたその光は今や魔核を宝石のように輝かせている。
――出て来い。
そう念じ、いや命じると、魔核の中から白い光が透けて出てくる。勿論数は三つ。
だけどそれらは出てきた途端に更に小さな無数の光に分かれ、まるで極小の蛍のようにふわふわと舞いながら俺の気の流れを遡るようにして腕を辿って、その先の体に纏わり付いた。
「ふう……」
ここまで来て俺はようやく自らの意識を魔核から切り離した。
同時に、魔核から出た光たちも俺の体に吸収されるように消えていく。
これが、魔核を用いた心力修練の一連だ。
心力はそれを強くすることで体内の魔力の流れを太くでき、結果として魔法力の底上げにも通じる。
世には数多の鍛錬方法があるけど、それはどれも肉体的技術的なものに焦点を合わせていて、内在的な心力を鍛える術はほとんどまだ周知されていない。
本来、体力と同じように心力にだって修練度合いによっての強さの上下があるけど、一般的にはまだ心力って概念自体が頭にないからだ。
この国の魔法使いたちは魔力を研こうと思ったら魔法の繰り返し練習をするだろう。その反復回数や練度によって魔法力の流れを太くしていく。残念にも龍脈の集まる場所は滅多にないし、ずっと同じ場所にあるわけでもないから、地道にそうするしかないんだよ。ロクナ村近くにあったのは幸運だったんだ。
でも俺には魔核がある。
繰り返しって観点から言えば一緒だけど、効果はこっちの方が格段に早く出て大きいし、日頃から心力も自分の能力の一つとして把握していれば戦闘時に攻撃威力を意識して、その時その時に必要な強さの魔法を自在に出力できるようにもなる。
何より厭きない。身一つ分くらいで大した場所も取らず、より手軽に底上げできる魔石修練は良いこと尽くめだ。
「今日はもう少しやってから、早めに切り上げるかな~」
すっかり夜になる前に帰らないと祖母ちゃんが心配する。俺は祖母ちゃんに俺が武芸者だって知られたくなかった。ここで修行するのだって人に見られる心配がないからだ。
その後は、更に海から上がってきた魔イカと魚人を各一個体ずつ撃破して、魔核修練もして街中に戻った。
「予定よりも遅くなっちゃったなあ。祖母ちゃん変に心配してないといいけど」
空は紫色を通り越してすっかり藍色。まあ端的に言うと、どっぷり夜。
俺は内心多少の気まずさを抱きつつ急ぎ足になりながら、店の入口を潜った。
外側には閉店の札が掛かっていたけど、俺の帰宅がまだだからだろう、施錠はされていなかった。
だけどもしも鍵が掛かっていたら店内に祖母ちゃんはいない。その時は店の裏手に建つ自宅の方に帰っているだろう。裏手とは言っても店舗と住居は各自独立した建物で繋がってはいない。店は店、家は家だ。
頭上でカランと音を立てる入店ベルを聞きながら、俺は珍しいなとふとした疑問を抱いた。
だってまだ店内が明るい。
店を閉めた後は店頭スペースは消灯して奥の厨房の方だけを明るくして、そこで後片付けをしているのが常だ。
「消し忘れか……?」
俺は一人そう呟いて、壁に固定されたランプのうち近くの物から火を消そうと近付いた。
ガラス製のランプカバーを外し、蝋燭消しを炎に被せようとしたその時だった。
「ああ、やっと帰ってきたね」
厨房の方から出てきた祖母ちゃんの親しみを感じさせる声が俺の横顔に届いた。
ああ予想通りの消し忘れかと些か安堵する俺は、帰宅の挨拶をしようと手を止めて声の方を振り向いた。
「祖母ちゃんただい……まあああああ!?」
危うく硝子のランプカバーを取り落としそうになって、器用なコメディアンのように手で何度も滑らせながらも最終的には両手で無事にキャッチした。
ふう、と安堵の息をついてそれを傍の平台に置いた俺は、自分でも随分と素っ頓狂な声を上げたなと頭の片隅の冷静な部分で思った。
叫んだものの今は絶句する俺の目には、厨房から祖母ちゃんと一緒に出て来たんだろう三人の人間が映っている。
とりわけ、そのうちの一人に目が釘付けだった。
「なぁにを一人で五月蠅くしてるんだい全く……。お前にお客さんだよ。ごめんねえお嬢さん、待ち草臥れただろう?」
「あ、いいえ。そこは大丈夫です。……待つのには慣れっこです」
「そうなのかい? まだ若いのに忍耐力があるんだねえ」
祖母ちゃんが眉尻を下げた苦笑顔で客人だと言う一人に謝罪と言うよりは労いの意を込めた言葉を掛けると、その相手は恐縮したように細首を振った。
結ばず背に流された腰まである金髪が動きに合わせてサラサラと揺れる。
あの頃よりもかなり伸びたな……。
以前は背中の中程だったっけ。
その相手は、緊張からか白魚のような両手を重ねて自分のお腹にぎゅっと押し付けるようにした。
桃色珊瑚色の小ぶりの唇が小さく動く。
「あの、お久しぶりです、エ、エ、エ……――エイド君!」
間違いなく俺の名の形に唇を動かしたその子は、誰がどう見ても美少女だ。
彼女の背後には二人の大人の男女が立っていて、二人共背格好からして彼女の護衛だとわかる。
姿勢の良さと雰囲気、表情からして見るからに実力者、手練れだ。
男女とも剣士なんだろう、腰の剣帯にはそれぞれ立派な剣を挿している。
え、何で俺の名前を知ってんのって慄きながら彼ら三人を改めて順に眺めた俺は、単なる驚き以上の驚愕に、この上なく両目を見開いた。
「――ッ、どっ、どうしてお前が、ここに……!?」
どうして、何故、ここに「ある」んだ!?
「え、ええと、わたしがここに居るのは、それは……ええと、うぅ……」
金髪に緑瞳の少女が自分に向けられた言葉だと思ったのか返答を試み、勝手に自滅して声を霞ませた。いきなりのお前呼びに護衛二人が不愉快そうにする。
「エイドも隅に置けないねえ。どこでこんな可愛い子を見つけて来たんだい? でもさすがはあたしの孫息子だよ。あたしも昔はねえ……」
てんで空気を読まない祖母ちゃんが、昔取った杵柄よろしく若かりし頃モテ自慢を始めたけど、どうでも良すぎて俺に届いてはいなかった。って言うかマジでやめてくれ。いつぞやのロクナ村の爺さんみたいな発言は。ああ、知らないって恐ろしい。
そもそも、俺の意識が向いている相手は金髪で同い年の少女じゃない。
彼女の後ろの護衛たちでもない。
「まさか、そんな……」
掠れ声の俺の視線は、さっきから女護衛の携帯している一本の剣に向いていた。
英雄だったかつての俺の武器たる――マイ剣に。
あの剣は人知れず、古代の洞窟遺跡の奥でひっそりと台座に突き立ったまま眠っているはずだった。……それこそ俺が訪れるまで。
それなのに、その剣が目の前にある。
俺じゃない、見ず知らずの人様の腰に。
そいつは……その古代剣は自らで主人を選ぶ。
主人に選ばれた者だけが台座から引き抜くことができ、その破格な秘められし力を使えるんだ。
伝説の勇者の聖剣にだって引けを取らない稀代の名魔法剣だと俺は思っている。
……伝説の勇者の聖剣を見たことはないけど。
一度目人生では二十歳で手にして、二十三歳で死ぬまで約三年の付き合いだったけど、相棒と呼ぶのに三年は決して短くはなかったと自負している。魔物との戦闘時は頼りにしていたし、毎日毎夜傍にあって手入れを怠らなかったし手に馴染みしかなかった。
また宜しくな相棒ってその気満々でいたってのに、何てこった。
もう主人を決めたのかよ。
「うそ……だろ……?」
俺以外の誰かがあの隠されし遺跡を見つけ出せるなんて思ってもみなかった。
最早放心するしかない俺は、砕けそうになる膝を意地だけで支えていた。
だけどさ、ほろりと両目から零れ落ちる儚い涙だけは、止められなかったよ……。
「くっ……!」
えっ、と一様に驚くこの場の皆に背を向けて、気付けば俺は猛ダッシュで店を飛び出していた。
「エイド!? 戻ったばっかりでどこに行くんだい!?」
「エイド君!?」
背後からの制止の声にも応じずに、俺はただひたすら夜の港町を走った。
きっとあの黒髪ポニーテールの美人な女護衛は、誰も寄せ付けないまま長久の時が流れた古代の神秘の台座に立って、勇ましく剣を引き抜いたんだろうな。一度目の俺よりも美人護衛の方が余程絵になるだろうその雄姿が容易に目に浮かぶ。
内部は極端に気温が低く氷に閉ざされていたその洞窟遺跡は、光を翳せばキラキラキラと青白く繊細に輝いてとても美しい場所でもあった。
チクショーいいなあ、ホントいいなあ……いいなあ~…………ぐすっ。
まあ何にせよ、これだけは言わせてくれ。
――NTRれてたよ、マイ剣……。
俺は額に汗……って程の汗も掻かず、難なく魔物たちを討伐すると、砂浜に落ちている三つの魔核を残らず拾い上げた。
魔核は一見その辺に落ちている石ころと見た目は何ら変わらない。
砕けてしまえば土や砂と見分けすら付かなくなるような代物だ。
だから巷の冒険者たちはその場に捨ておくのが普通だった。
俺もそんな他と相違ない無駄な物って認識の頃があったけど、師匠と出会って一八〇度見方が変わったんだよな。
今まで無用な物と思って捨てていたのは大きな大きな間違いだったって教えられた。
魔物とは言え生きていた証に無駄なんてなかったんだって。
掌上に収まる三つの魔核をじっと見据え、握り込んで砂浜に腰を下ろす。
魔核を用いての心力の修練を始めるんだ。
両目を閉じ呼吸を整え、内なる力を意識して魔核の方へと流すイメージで集中する。
必ずしも目を閉じたり呼吸を整える必要はないけど、俺はそうしないと集中できないからそうする。
師匠なんかはさすがに慣れたもので、甘味を口に運びながら、或いはあくびをしながらしれっとやっていたっけ。
掌へと意識を向けていると、段々と世界には自分と魔核しか存在しないような不可思議な感覚に囚われる。
するとどうだろう、手の中が温かくなった。
魔核が熱を持ち始めたんだ。道端の石ころにしか見えなかったそれらは、きっと現在色硝子のように透明になって赤く色付き始めているはずだ。
しばし掌を介して自らの気というか、心力を当てたままでいると魔核から熱が去る。
これで魔核の覚醒は済んだ。
俺は目を開け、静かな眼差しで指を開いた。
赤透明な三つの魔核は、尚も心力を注いでいると今度は淡く発光を始め、中心から生まれたその光は今や魔核を宝石のように輝かせている。
――出て来い。
そう念じ、いや命じると、魔核の中から白い光が透けて出てくる。勿論数は三つ。
だけどそれらは出てきた途端に更に小さな無数の光に分かれ、まるで極小の蛍のようにふわふわと舞いながら俺の気の流れを遡るようにして腕を辿って、その先の体に纏わり付いた。
「ふう……」
ここまで来て俺はようやく自らの意識を魔核から切り離した。
同時に、魔核から出た光たちも俺の体に吸収されるように消えていく。
これが、魔核を用いた心力修練の一連だ。
心力はそれを強くすることで体内の魔力の流れを太くでき、結果として魔法力の底上げにも通じる。
世には数多の鍛錬方法があるけど、それはどれも肉体的技術的なものに焦点を合わせていて、内在的な心力を鍛える術はほとんどまだ周知されていない。
本来、体力と同じように心力にだって修練度合いによっての強さの上下があるけど、一般的にはまだ心力って概念自体が頭にないからだ。
この国の魔法使いたちは魔力を研こうと思ったら魔法の繰り返し練習をするだろう。その反復回数や練度によって魔法力の流れを太くしていく。残念にも龍脈の集まる場所は滅多にないし、ずっと同じ場所にあるわけでもないから、地道にそうするしかないんだよ。ロクナ村近くにあったのは幸運だったんだ。
でも俺には魔核がある。
繰り返しって観点から言えば一緒だけど、効果はこっちの方が格段に早く出て大きいし、日頃から心力も自分の能力の一つとして把握していれば戦闘時に攻撃威力を意識して、その時その時に必要な強さの魔法を自在に出力できるようにもなる。
何より厭きない。身一つ分くらいで大した場所も取らず、より手軽に底上げできる魔石修練は良いこと尽くめだ。
「今日はもう少しやってから、早めに切り上げるかな~」
すっかり夜になる前に帰らないと祖母ちゃんが心配する。俺は祖母ちゃんに俺が武芸者だって知られたくなかった。ここで修行するのだって人に見られる心配がないからだ。
その後は、更に海から上がってきた魔イカと魚人を各一個体ずつ撃破して、魔核修練もして街中に戻った。
「予定よりも遅くなっちゃったなあ。祖母ちゃん変に心配してないといいけど」
空は紫色を通り越してすっかり藍色。まあ端的に言うと、どっぷり夜。
俺は内心多少の気まずさを抱きつつ急ぎ足になりながら、店の入口を潜った。
外側には閉店の札が掛かっていたけど、俺の帰宅がまだだからだろう、施錠はされていなかった。
だけどもしも鍵が掛かっていたら店内に祖母ちゃんはいない。その時は店の裏手に建つ自宅の方に帰っているだろう。裏手とは言っても店舗と住居は各自独立した建物で繋がってはいない。店は店、家は家だ。
頭上でカランと音を立てる入店ベルを聞きながら、俺は珍しいなとふとした疑問を抱いた。
だってまだ店内が明るい。
店を閉めた後は店頭スペースは消灯して奥の厨房の方だけを明るくして、そこで後片付けをしているのが常だ。
「消し忘れか……?」
俺は一人そう呟いて、壁に固定されたランプのうち近くの物から火を消そうと近付いた。
ガラス製のランプカバーを外し、蝋燭消しを炎に被せようとしたその時だった。
「ああ、やっと帰ってきたね」
厨房の方から出てきた祖母ちゃんの親しみを感じさせる声が俺の横顔に届いた。
ああ予想通りの消し忘れかと些か安堵する俺は、帰宅の挨拶をしようと手を止めて声の方を振り向いた。
「祖母ちゃんただい……まあああああ!?」
危うく硝子のランプカバーを取り落としそうになって、器用なコメディアンのように手で何度も滑らせながらも最終的には両手で無事にキャッチした。
ふう、と安堵の息をついてそれを傍の平台に置いた俺は、自分でも随分と素っ頓狂な声を上げたなと頭の片隅の冷静な部分で思った。
叫んだものの今は絶句する俺の目には、厨房から祖母ちゃんと一緒に出て来たんだろう三人の人間が映っている。
とりわけ、そのうちの一人に目が釘付けだった。
「なぁにを一人で五月蠅くしてるんだい全く……。お前にお客さんだよ。ごめんねえお嬢さん、待ち草臥れただろう?」
「あ、いいえ。そこは大丈夫です。……待つのには慣れっこです」
「そうなのかい? まだ若いのに忍耐力があるんだねえ」
祖母ちゃんが眉尻を下げた苦笑顔で客人だと言う一人に謝罪と言うよりは労いの意を込めた言葉を掛けると、その相手は恐縮したように細首を振った。
結ばず背に流された腰まである金髪が動きに合わせてサラサラと揺れる。
あの頃よりもかなり伸びたな……。
以前は背中の中程だったっけ。
その相手は、緊張からか白魚のような両手を重ねて自分のお腹にぎゅっと押し付けるようにした。
桃色珊瑚色の小ぶりの唇が小さく動く。
「あの、お久しぶりです、エ、エ、エ……――エイド君!」
間違いなく俺の名の形に唇を動かしたその子は、誰がどう見ても美少女だ。
彼女の背後には二人の大人の男女が立っていて、二人共背格好からして彼女の護衛だとわかる。
姿勢の良さと雰囲気、表情からして見るからに実力者、手練れだ。
男女とも剣士なんだろう、腰の剣帯にはそれぞれ立派な剣を挿している。
え、何で俺の名前を知ってんのって慄きながら彼ら三人を改めて順に眺めた俺は、単なる驚き以上の驚愕に、この上なく両目を見開いた。
「――ッ、どっ、どうしてお前が、ここに……!?」
どうして、何故、ここに「ある」んだ!?
「え、ええと、わたしがここに居るのは、それは……ええと、うぅ……」
金髪に緑瞳の少女が自分に向けられた言葉だと思ったのか返答を試み、勝手に自滅して声を霞ませた。いきなりのお前呼びに護衛二人が不愉快そうにする。
「エイドも隅に置けないねえ。どこでこんな可愛い子を見つけて来たんだい? でもさすがはあたしの孫息子だよ。あたしも昔はねえ……」
てんで空気を読まない祖母ちゃんが、昔取った杵柄よろしく若かりし頃モテ自慢を始めたけど、どうでも良すぎて俺に届いてはいなかった。って言うかマジでやめてくれ。いつぞやのロクナ村の爺さんみたいな発言は。ああ、知らないって恐ろしい。
そもそも、俺の意識が向いている相手は金髪で同い年の少女じゃない。
彼女の後ろの護衛たちでもない。
「まさか、そんな……」
掠れ声の俺の視線は、さっきから女護衛の携帯している一本の剣に向いていた。
英雄だったかつての俺の武器たる――マイ剣に。
あの剣は人知れず、古代の洞窟遺跡の奥でひっそりと台座に突き立ったまま眠っているはずだった。……それこそ俺が訪れるまで。
それなのに、その剣が目の前にある。
俺じゃない、見ず知らずの人様の腰に。
そいつは……その古代剣は自らで主人を選ぶ。
主人に選ばれた者だけが台座から引き抜くことができ、その破格な秘められし力を使えるんだ。
伝説の勇者の聖剣にだって引けを取らない稀代の名魔法剣だと俺は思っている。
……伝説の勇者の聖剣を見たことはないけど。
一度目人生では二十歳で手にして、二十三歳で死ぬまで約三年の付き合いだったけど、相棒と呼ぶのに三年は決して短くはなかったと自負している。魔物との戦闘時は頼りにしていたし、毎日毎夜傍にあって手入れを怠らなかったし手に馴染みしかなかった。
また宜しくな相棒ってその気満々でいたってのに、何てこった。
もう主人を決めたのかよ。
「うそ……だろ……?」
俺以外の誰かがあの隠されし遺跡を見つけ出せるなんて思ってもみなかった。
最早放心するしかない俺は、砕けそうになる膝を意地だけで支えていた。
だけどさ、ほろりと両目から零れ落ちる儚い涙だけは、止められなかったよ……。
「くっ……!」
えっ、と一様に驚くこの場の皆に背を向けて、気付けば俺は猛ダッシュで店を飛び出していた。
「エイド!? 戻ったばっかりでどこに行くんだい!?」
「エイド君!?」
背後からの制止の声にも応じずに、俺はただひたすら夜の港町を走った。
きっとあの黒髪ポニーテールの美人な女護衛は、誰も寄せ付けないまま長久の時が流れた古代の神秘の台座に立って、勇ましく剣を引き抜いたんだろうな。一度目の俺よりも美人護衛の方が余程絵になるだろうその雄姿が容易に目に浮かぶ。
内部は極端に気温が低く氷に閉ざされていたその洞窟遺跡は、光を翳せばキラキラキラと青白く繊細に輝いてとても美しい場所でもあった。
チクショーいいなあ、ホントいいなあ……いいなあ~…………ぐすっ。
まあ何にせよ、これだけは言わせてくれ。
――NTRれてたよ、マイ剣……。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。
だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった
何故なら、彼は『転生者』だから…
今度は違う切り口からのアプローチ。
追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。
こうご期待。
【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました
佐倉穂波
恋愛
転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。
確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。
(そんな……死にたくないっ!)
乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。
2023.9.3 投稿分の改稿終了。
2023.9.4 表紙を作ってみました。
2023.9.15 完結。
2023.9.23 後日談を投稿しました。
異世界転生、防御特化能力で彼女たちを英雄にしようと思ったが、そんな彼女たちには俺が英雄のようだ。
Mです。
ファンタジー
異世界学園バトル。
現世で惨めなサラリーマンをしていた……
そんな会社からの帰り道、「転生屋」という見慣れない怪しげな店を見つける。
その転生屋で新たな世界で生きる為の能力を受け取る。
それを自由イメージして良いと言われた為、せめて、新しい世界では苦しまないようにと防御に突出した能力をイメージする。
目を覚ますと見知らぬ世界に居て……学生くらいの年齢に若返っていて……
現実か夢かわからなくて……そんな世界で出会うヒロイン達に……
特殊な能力が当然のように存在するその世界で……
自分の存在も、手に入れた能力も……異世界に来たって俺の人生はそんなもん。
俺は俺の出来ること……
彼女たちを守り……そして俺はその能力を駆使して彼女たちを英雄にする。
だけど、そんな彼女たちにとっては俺が英雄のようだ……。
※※多少意識はしていますが、主人公最強で無双はなく、普通に苦戦します……流行ではないのは承知ですが、登場人物の個性を持たせるためそのキャラの物語(エピソード)や回想のような場面が多いです……後一応理由はありますが、主人公の年上に対する態度がなってません……、後、私(さくしゃ)の変な癖で「……」が凄く多いです。その変ご了承の上で楽しんで頂けると……Mです。の本望です(どうでもいいですよね…)※※
※※楽しかった……続きが気になると思って頂けた場合、お気に入り登録……このエピソード好みだなとか思ったらコメントを貰えたりすると軽い絶頂を覚えるくらいには喜びます……メンタル弱めなので、誹謗中傷てきなものには怯えていますが、気軽に頂けると嬉しいです。※※
チートスキルより女神様に告白したら、僕のステータスは最弱Fランクだけど、女神様の無限の祝福で最強になりました
Gaku
ファンタジー
平凡なフリーター、佐藤悠樹。その人生は、ソシャゲのガチャに夢中になった末の、あまりにも情けない感電死で幕を閉じた。……はずだった! 死後の世界で彼を待っていたのは、絶世の美女、女神ソフィア。「どんなチート能力でも与えましょう」という甘い誘惑に、彼が願ったのは、たった一つ。「貴方と一緒に、旅がしたい!」。これは、最強の能力の代わりに、女神様本人をパートナーに選んだ男の、前代未聞の異世界冒険譚である!
主人公ユウキに、剣や魔法の才能はない。ステータスは、どこをどう見ても一般人以下。だが、彼には、誰にも負けない最強の力があった。それは、女神ソフィアが側にいるだけで、あらゆる奇跡が彼の味方をする『女神の祝福』という名の究極チート! 彼の原動力はただ一つ、ソフィアへの一途すぎる愛。そんな彼の真っ直ぐな想いに、最初は呆れ、戸惑っていたソフィアも、次第に心を動かされていく。完璧で、常に品行方正だった女神が、初めて見せるヤキモチ、戸惑い、そして恋する乙女の顔。二人の甘く、もどかしい関係性の変化から、目が離せない!
旅の仲間になるのは、いずれも大陸屈指の実力者、そして、揃いも揃って絶世の美女たち。しかし、彼女たちは全員、致命的な欠点を抱えていた! 方向音痴すぎて地図が読めない女剣士、肝心なところで必ず魔法が暴発する天才魔導士、女神への信仰が熱心すぎて根本的にズレているクルセイダー、優しすぎてアンデッドをパワーアップさせてしまう神官僧侶……。凄腕なのに、全員がどこかポンコツ! 彼女たちが集まれば、簡単なスライム退治も、国を揺るがす大騒動へと発展する。息つく暇もないドタバタ劇が、あなたを爆笑の渦に巻き込む!
基本は腹を抱えて笑えるコメディだが、物語は時に、世界の運命を賭けた、手に汗握るシリアスな戦いへと突入する。絶体絶命の状況の中、試されるのは仲間たちとの絆。そして、主人公が示すのは、愛する人を、仲間を守りたいという想いこそが、どんなチート能力にも勝る「最強の力」であるという、熱い魂の輝きだ。笑いと涙、その緩急が、物語をさらに深く、感動的に彩っていく。
王道の異世界転生、ハーレム、そして最高のドタバタコメディが、ここにある。最強の力は、一途な愛! 個性豊かすぎる仲間たちと共に、あなたも、最高に賑やかで、心温まる異世界を旅してみませんか? 笑って、泣けて、最後には必ず幸せな気持ちになれることを、お約束します。
男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件
美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…?
最新章の第五章も夕方18時に更新予定です!
☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。
※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます!
※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。
※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!
ブラック国家を制裁する方法は、性癖全開のハーレムを作ることでした。
タカハシヨウ
ファンタジー
ヴァン・スナキアはたった一人で世界を圧倒できる強さを誇り、母国ウィルクトリアを守る使命を背負っていた。
しかし国民たちはヴァンの威を借りて他国から財産を搾取し、その金でろくに働かずに暮らしている害悪ばかり。さらにはその歪んだ体制を維持するためにヴァンの魔力を受け継ぐ後継を求め、ヴァンに一夫多妻制まで用意する始末。
ヴァンは国を叩き直すため、あえてヴァンとは子どもを作れない異種族とばかり八人と結婚した。もし後継が生まれなければウィルクトリアは世界中から報復を受けて滅亡するだろう。生き残りたければ心を入れ替えてまともな国になるしかない。
激しく抵抗する国民を圧倒的な力でギャフンと言わせながら、ヴァンは愛する妻たちと甘々イチャイチャ暮らしていく。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる