逆行転生の大誤算~英雄になったら背中から刺され能力を捨てたら雑魚扱いで処刑されたので、三度目は皆と関わらないようにしようと思った結果~

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48 想定外な助っ人たちと偽ゼノニスのお腹事情

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 シオンがこっちに駆けて来る。俺をエイド呼びで。

 もしもしシオン君? 俺はチミにゼノニスとしてここに来るって話し……てなかったあああーーーーっ!

 アイラ姫やノエルと違ってシオンだけは単に俺がエキセントリック家の娘たちの話し相手をするためだけにここに来ていると思っているはずだ。

 だああっ、しかもよりにもよってエキセントリック卿がいる前でエイドエイドエイド連呼すんなっ!

 こんな中途半端な段階でバレたらどうしてくれるんだよ! お、お前はゼノニスの偽物だとおーって大きなショック受けてこの人がまた寝込んじゃったらどうしてくれるんだあーッ!

 或いは、一体全体どういう事だい君の落ち度だねえこれは……って仏神じゃなく死神なアルカイックスマイルを浮かべたダーリング侯爵から詰め寄られる自分を想像だってできる。彼みたいなのから目を付けられたら安泰な人生なんて送れるわけがない。国外に逃げるしかない。
 そんな俺が取った行動は次の通りだった。

「親父殿おっ! お、俺その何か今急に腹を下しかけてるのでちょっとそこらで用たしてくるよ!」
「くっ下しかけているだと!? それは一体全体どういう感覚なのだゼノニス? 腹がゴロゴロ言う段階では既に下していると考えていいだろう。しかし下しかけているとは、まだ下してもいないうちから下すとわかるというわけだな。お前は何と言う天才的な繊細さを持ち合わせる男なのだ我が息子ゼノニスよ……っ」

 う、細かいな。いや鋭いツッコミと称賛するべきか。

「し、しかし要は体調不良なのだな!?」

 ここで卿は顔面蒼白になって自分の拳を口に当てる。そうやるとちょっとおっさん乙女なキャラにしか見えない。……笑ってはいけない、笑っては。

「ままままさか家の食事だけでは足りず空腹過ぎて腹を下すような変な物でも拾って食べたのか!? そうなのだなゼノニス!?」
「えっいや違うけど」

 あのてんこ盛りな家の食事を足りないとか、その発想が出てくる時点でおかしいって。大体それ実は熊伯爵あんただろ……。

 そうこうしているうちにも「エイドくーん」とシオンがもう目と鼻の先って距離に来る。やべえーっ!

「嘘は良くないぞぉゼノニスよ!」

 卿は変に心配する余り俺の両肩を掴んで放してくれない。このままじゃ非常にまずい!
 背に腹は代えられない。苦肉の策ではあるが俺はあらぬ方向を指差した。

「あっ母さん!」
「何!? アンバー!?」

 すっかり注意を俺から逸らした隙を突いて彼の手からするりと逃れた。

「うぬぬ? ゼノニスよ、どこにアンバーが?」
「ごめん親父殿見間違いだった! って事でちょっと失敬、そこで少し待っててくれな~!」
「ゼノニス!? 手洗いならすぐそこの店にあるぞ? どこの最果ての手洗いを目指しているのだゼノニスウウウーッ!?」

 俺は大急ぎで駆け出して適当な角を曲がると、卿が追って来ないのを確認して安堵の息を吐き出した。でもまもなく卿の横をすり抜けて俺を追いかけて来たんだろうシオンが予想通りに俺の前に姿を現した。

「はあ、はあ、はあ、やっと追い付いたエイド君。どうして無視するようにして逃げるのさー」

 丸々拗ねた顔のシオンに俺は容赦なくデコピンを食らわせてやった。こいつは悪くないけど気を揉ませた腹いせだ。

「痛あっ! なっ何するのエイド君~っ」
「何してくれてんのってのは俺の台詞。お前には言ってなかったけど、俺実はここではエイドって名前封印してんだよ。だからエイドって呼ばれると非常に困るんだ。もう少しでエキセントリック卿に身分詐称がバレるとこだったからな」
「あ……そう言えばそうだった。ごごごごめんエイド君っ、あ、いやええとゼノニス君」
「へ? ゼノニスって……何で俺の設定を知ってんの?」
「え? シーハイを出てくる時に、二人から教えられて」
「二人?」
「うん、ノエル様とアイラ様。ゴンドラキアに行くならきちんと知っておくべきだとか言われてね」
「ああ」

 何だ、結局はこうなるのか。
 シオンは叱られた子犬を連想させる姿で眉尻を下げて肩を竦めた。

「くれぐれもバレないようにって言われてたのに、君の姿を見つけたら嬉しくてついつい頭から抜けちゃって……。本当にごめん」
「はー……」
「わっ!? いたっ、ちょっ、痛いよエイド君、ごめんなさいってばー!」

 俺はもう三回程シオンにデコピンした。シオンはしばし涙目で額を押さえていた。
 溜飲が下がったところで今いる細めの街路を見渡してみる。

「んで、女子二人は今どこに居んの? そこらの店でショッピング?」
「どこって、シーハイじゃない?」
「へ?」

 俺が余程間抜けな顔でもしていたせいか、シオンは小さく苦笑する。

「あはは、二人はここには来てないよ。だってエイド君がお留守番って言ったんじゃないの? だから二人はシーハイでしっかり留守番するんだって。君に店を任されたからにはきっちり約束は守るって言ってたっけ」
「あ、ああそうなんだー、へえー」

 ……任せたつもりはないぞ。そもそも祖母ちゃんいるしな。でも俺はホッとした。アイラ姫とノエルが一緒だと空気が変だしこっちも変に気を遣うから、二人には悪いけど今はいない方が好都合だった。俺は器用にあっちもこっちも気が回る人間じゃないから、二人の仲裁に気を取られてたら伯爵の前でうっかりボロを出したかもしれない。
 本音を言えば、あの癖の強い二人が二人共言う事を聞いてくれるなんて意外だったけどさ。

「ところで、シオンがここに来たわけって別に俺に会うためじゃないんだろ」
「そんな事ないよ。エイド君に会うのが一番の目的だよ。必要な時は手伝えるように薬草の類も沢山持ってきたしさ」
「へーえふーんそーう。建前だろそれは」

 シオンは一瞬大きく目を見開いた。図星だ。

「シオンはさ、このゴンドラキアにしか生えないって例の草を集めに来たんだよな?」

 ややあってシオンの奴は溜息をつくとあっさり認めた。

「……うん、そうだよ。エイド君の様子見はノエル様とアイラ様の希望でもあったけど、僕自身の利害とも一致したから引き受けたんだ」
「なるほどな」
「でもどうして草のためってわかったの?」
「そんなのシオンだからに決まってるだろ。何年友達やってると思ってるんだよ」

 ……ん? いやでも待てよ。俺三度目人生じゃそう何年もって言えるくらい親しくしてなかったっけ。うわーうっかりしたよ。シオンは不審に思ったかもな。

「……そっか」

 けど杞憂だったのか、シオンは指でポリポリと頬を掻いてたぶん気まずさか何かを紛らわせた。どことな~く嬉しそうに見えるのは気のせいか?

「で、作んの? なら集中できる場所が必要だよな」
「作るって、何を?」

 唐突過ぎたのか、俺の問いにシオンはキョトンとして首を傾げる。

「え、だからその草由来のポーション。そのために来たんだろ? 薬草で持っておくよりさっさとポーションにした方が日も持つし効果も高くなるだろ」
「ええと、僕には無理だよ。高い魔法具がないとさ……」

 今度は俺が首を捻る番だった。

「はあ? 何言ってるんだよ。お前だって魔法使えるんだから直接使って作ればいいじゃん。まあ修行してないからまだレベル的にはぺーぺーで未熟かもしれないけどさ」
「…………エイド君、知ってたの? いつから?」

 息を呑んだようなシオンから長~く見つめられて俺は内心ちょっとボカをやったと思った。俺の知る限り今回のシオンは自らの魔法能力を人前で見せたことはない。
 俺にも一度として打ち明けてきた記憶もないから知ってるのを不審がられて当然だ。

「えーっとおー、幼馴染だしー、俺自身も使えるから何となくわかったって言うかー……さ?」

 まあこっちもさすがに「逆行前から知ってまーす」なんて言えないから適当な理由っぽいのを口にしたけど、ぶっちゃけ苦しいな。

「そっか、僕の秘密なんてエイド君にはとっくにお見通しなんだね」
「ハハハそうでもないって」

 ええーチョロいって! なあシオンそれでいいの? 納得したのマジで? 少しは疑えよ。俺、お前の将来が不安だよ……。一度目人生と同じようにもしかしたらまた俺を刺すかもしれないなんて懸念とは別の部分で。

「エイド君は僕に全然友情ないのかなって時々ふと思ったりもしたけど、僕の勝手な被害妄想って言うか思い込みだったんだね。えへへ良かった」
「ハハハハハ」

 はいっすいませんねシオンさん。蔑ろにしていた時期は確かにありました。薄々気付いてたんですね。……って当たり前か。だってずっと避けていて久しぶりに見たこいつがシオンだって気付かなかったし薬草毒草大好き天才少年になってたなんてもっと思わなかったし、逆行前じゃ生涯尽くしますって感じだった相手のノエルよりも薬草辞典が大事だなんてホント予想し得ない有り様だったからなあ。
 今更になって正直に言うと、ちょっとどうしようあらやだシオン君てば俺の手に余る子かもって思った時もあった。他にもっと手に負えない子が二人もいたからその思いは霞んだけどさ。

「周りには黙っておくから安心しろ。まだ隠しておきたいんだろ」
「うん、そうしてくれると助かるよ。特に村長には当分知られたくないしね」

 はは、何だよこいつも村長のセコさにはきちんと気付いてたのか。良かった良かった。
 俺の顔から心情を読み取ったのかシオンも苦笑する。

「エイド君はスゴいね。今も昔も色々お見通しなんだから」
「いやさあ村長はわかり易いし、お前の場合は俺がここに来るってなった時に草がどうとかそんなようなこと言ってただろ」
「あー、そう言えば言ったかも」
「シオンって目の付け所がいいよな。ポーションができたら一つ譲ってくれ。相場で買うからさ」
「うんいいよ、お金は要らないけどね」
「いやそれはきっちり払う」
「ふふっ、エイド君らしい」

 このゴンドラキアの地一帯は金山関連やそこから派生した産業、例えば金細工とかの宝飾品を扱う産業等々で潤っていて、エキセントリック伯爵家もそれで蓄えた莫大な財産がまだまだ尽きないし、仮に尽きても他の事業で生計を立てていられるから、例のその草を商品化はしていない。

 地域の住人個人ではどうかわからないけど市販物としては食用にも薬用にもなっていないんだよ。

 だからもしもこっそりシオンが個人的に欲しいだけを採取したところで、同じ量の山菜程にも文句は言われないと思う。まあ本来許可なくやったら駄目だけど今回は俺も見なかったことにしよう。

 加えて、そもそも薬草毒草の知識に長けた者でなければその草の有用さに目を付けない。目を付けたとしても相応の道具や魔法の準備がないとポーションへは昇華させられないから捨て置かれるのが関の山だ……と言うかそれがまさに現状だ。

 要するに、俺とかシオンから見れば宝の持ち腐れってわけ。

 ま、でもその草が注目されない一番の理由は他の植物でも代用が利くからだろう。そっちの方は国内どころか世界各地に広く分布しているから安定供給を見込めるし楽って利点がある。俺も自前のポーションを作った際はそこら辺のを集めたっけ。
 以上の理由からこの先も地域限定の特産物として売り出すには弱い。

 もしもシオンが例の草の定期的な供給を望むなら、この機にその基盤を整えるのも面白いかもしれないな。

 あの金儲け大好き村長にただいいようにこいつの知識や能力を使われるだけってのは友人として見過ごせないし、是非ともこいつ独自の身の立て方を見つけてもらいたい。
 シオン、お前が望むなら手を貸すよ。
 俺が「お願い親父殿~」ってしなを作っておねだりしたら即OK出そうだし。まあさすがにそれはしないけど。

「そういやお前こっちにいつ来たんだ?」
「昨日かな」
「へえ、どこに泊まってんの?」

 汚い安宿にいるならそれこそ伯爵に頼み込んでこいつをそこそこの宿に泊まらせてやりたい。

「王国ホテル」
「ぶほっ……! 王国ホテル!?」

 思わず咳き込んじゃったよ。王国ホテルって言えば国内各地に支店を持つ王族御用達のめっっっちゃお高いとこじゃん!
 スタンダードな客室でも一泊当たりの価格は一般のホテルと一桁違う。そんなことに泊まってんの? なあマジで?
 あのケチケチ村長が娘以外の奴にそこまでの大金を出すとは思えない。

「正気か? お前の生まれは実はどこか外国の王子様だったのかおいい!? それか大貴族の隠し子とかかおいい!?」
「え? 王族なのは僕じゃなくてアイラ様だけど、彼女が来れないから僕が代わりに泊まらせてもらってるんだよ。この街まで瞬間移動できたのもアイラ様のおかげだしね」
「あ、なるほど便宜を図りまくってくれたのか」
「そういうこと。その代わりエイド君に関する報告はきっちりしないといけないけど。私欲って怖いね」
「……はは」

 シオンはにっこりとした。こいつは疎いのか敏いのか。

「そう言えば、伯爵家の三姉妹だっけ? 禁断の関係にならないように気を付けなよ?」
「なるか!」

 チョココロネ令嬢は御免だ。
 まあとにかくシオン出現の事情がわかれば落ち着いた。長い用足しにも限界があるからそろそろ卿の所に戻らないといけない。でないと猛烈に心配して付近の便所を大々的に捜索しかねない。それはかなり結構屈辱だ。

「それじゃあなシオン、俺行かないとさ。俺から連絡するのはホテルにするから支障ないとしても、そっちから何か連絡したい時はどうするかな。屋敷に来られるのはリスクがあるし、かと言って連絡手段がないと不便だよなあ……」
「それならたぶん問題ないよ」
「うん?」

 実は何か通信用の高価な魔法具とかを持ってきているのか?

 疑問を抱いた刹那、背後に気配が降り立った。

 首筋に刃先を当てられている気分になって瞬時にすっと背筋が冷える。

 警戒マックスで反射的に振り返ってもう染み着いた防御姿勢を取れば、相手は片方の口角をくっと吊り上げた。俺の予想に違わない相手の黒髪ポニーテールがその背で左右にゆらりと揺れたのがわかる。
 その人がのたまう。

「私が伯爵家に乗り込んで……いや違うな、忍び込んで、貴様の寝首を掻……いてから直接連絡事項を伝えてやる。一度行ってみたがあそこの警備はざるだしな。楽勝だ」

 いやいやいや寝首のとここそ言い直してくれよ! ひいってなっただろ。俺も四度目の人生は勘弁願いたい。

「ニ、ニールさん、あなたもいらしていたんですか~」

 何もされてないけど俺は思わず裏声で頬を引きつらせた。
 俺のかつてのマイ剣の今世でのご主人様、美女剣士ニールは、傲慢そうに顎を上げて俺を敢えて矮小な存在に見立てるかのように見下ろしてくる。相も変わらない俺への態度の悪さに感激して涙出そう。
 この人がいるなら……。
 俺はキョロキョロと周囲を見回した。

「どうした? 気でも狂ったか? それともアイラ姫様には相応しくないととうとう自覚したか? でなければ挙動不審罪で投獄希望だとして突き出してやろうか?」

 そんな罪あるか! ってかどうしてこの人はこうなんだよ……。怖いし疲れるしの二重苦。勘が宜しいのか殺気が強くなった。俺は努めて明るい声を出す。

「い、いえ男のニールさんはいないのかな~、と」
「馬鹿か、あっちは姫様の護衛に決まっているだろう。私がここに来たのも姫様のたっての願いだったから不承不承だ。でなければ誰が姫様のお傍を離れるか」

 反吐を出しそうな勢いで顔をしかめる女ニール。ハハハですよねー。俺はストレスで血反吐を出しそうだよ。
 うぐ、どうするよ俺。今ここで背中を見せたら危ないんじゃないのか? 野生の熊も然りだろこの人は。だがしかし早く去りたい。

「アイラ様は知らない土地での僕の身も案じてくれて、わざわざ大切なニールさんを同行させてくれたんだよ」

 本人に助け船って気はないんだろうけど、シオンが「大切な」って表現したら急激に女ニールの顔には満更でもなさそうな色が広がった。……うん、俺何となくだけどこの人の扱い方わかりかけた気がする。サンキューだよシオン。

「だから用事がある時は彼女に頼むから安心してよ」
「ああ、ハハ、そうかそうかー。なら安心だよな」

 どちゃくそ心配だよ俺の身がっ。シオンの連絡にかこつけてやってきて密やか~に寝首を掻かれそうで。近いうちにエキセントリック家でサスペンス劇場が展開されるかもしれない……。

「薬草採りも一緒に行ってくれるって言うし、僕のことは心配しないでね。それから、僕らの方でも例のゼノニス君だっけ、その子の情報があればすぐにエイド君に知らせるから」
「え、何で、そこまでしなくていいって。当初の目的だけに集中してろよな」

 想定外にもきな臭い事案になってきてんだし、シオンに危険が及ぶのは避けたい。

「ニールさんがいるから平気だよ。僕だって少しでもエイド君の役に立ちたいんだよ。その子のことも心配には思うし、君にはこの件を早く解決してもらって、一日でも早くシーハイに戻ってほしいしね。ノエル様とアイラ様もとても喜ぶよ」

 シオンお前って奴は……アイラ姫が喜ぶとか、ニールの目が怖いから余計なこと言うんじゃねえよっ! 時々一言多いんだよこいつは。

「その様子だと、貴様は私がこの子の護衛には及ばないと思っているのか?」
「えっいや違います違います断じてそんな愚かな考えは持ってませんよっ。そうじゃなくて、えーと、そのえーと」
「貴様、協力が嫌なのだな。取り繕っているのがバレバレだ」

 ひいっ、そう睨んでくんなって! こっちだって強い護り手が付いてようと巻き込むのが本当に妥当かどうか咄嗟には判断できないんだよ。間違ってもラキア山には近付かせたくはないし。あそこには何がいるのかわからないんだ。変なツルハシ老人だっている。

 まあニールがいるし爺さんの存在はそこまで懸念材料ではないにしても、何か魔物に関するような文献の一つでもあればいいんだけど……って、んん? 文献か。

 文献ってことは書物。書物ってことは――シオンの得意分野だろ!

「あ、シオン達二人に頼みたいことがある」

 真面目なものに顔付きを変えた俺を二人は促すように見てくる。

「何か、ラキア山にいる得体の知れない魔物について、古くても新しくても公式でも非公式でも構わないから、手掛かりっぽいものが書かれている本がないか、図書館とか古書店なんかを当たってみてくれないか? 俺はゼノニスとして中々そうした時間が取れないから」

 書物を当たるってのを言葉にして、どうして今日まで知識の宝庫を活用しなかったって悔しく思った。迂闊にもゼノニス業に忙殺されていて全くその手を思い付かなかったんだよ。
 これはたったの今そう感じただけだけども、ラキア山の魔物の正体がわかればこの失踪劇も進展するように思えてならない。
 金山での採掘が再開可能となれば俺へのリターンも期待できそうだしな、げへへへ。

「……エイド君何だか悪い顔になってるよ」

 あ。えへんえへん。我に返ってわざとらしく咳払いした俺は二人の返答を待つ。

「まあ、とは言え薬草採りを優先してくれよな。こっちのは時間のある時でいいからさ。何か見つけたら教えてくれると有難い」

 二人の返事は俺の望むものだった。

 改めて協力者達に宜しくを言うと、俺はゼノニスとして伯爵と歩いた通りへと足を急がせた。
 因みに戻ったら元の場所に伯爵はいなくて少し焦ったけど、少し離れたとこの店が騒がしいなと思って覗いたらそこに涙を浮かべた伯爵がいた。五軒目の店の便所を捜索していたらしい……。
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