星から落ちた王子さま

梅川 ノン

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1部

15話 オメガとしてのセティの性

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 ネフェルはアニスの部屋へ戻ると、一人で精を放出させ、水を使い体を拭くと、己の熱も冷めていくのを感じる。
 セティを求め狂おしいまでに滾った熱も漸く静まった。

 セティを抱いた。否、己の放出は許さなかったから、最後まで抱いたわけではない。
 しかし、それでもセティの体の感触は、この手が覚えている。それは、夢でもなく現実のこと。

 ネフェルは、自分の手を見つめる。
 この手が、この手がセティを、愛おしい人を抱いた。
 セティ様、あなたを……あなたが欲しい。最後まで欲しい。私のものに……それは許されないのか……。
 過ぎた望みとは分かっていても、望まぬわけにはいかないのだった。

 その後ネフェルは、心配して様子を見に来たアニスと共にセティの宮へ行った。
 アニスからは普段通りに過ごすようにと言われた。
 昨日の事は、夢幻、何もなかったかのように過ごす。それが自分の務め……。

 セティの姿が見えた時、ネフェルドッキと心の高鳴るのを感じる。

 セティ様!

 しかし、声を掛けることは許されない。ネフェルは、視線を降ろして懸命に耐える。
 冷静に、いつも通りふるまうのだと、言い聞かせてながら、自分の思いを抑えるのだ。

 セティもネフェルの姿に心が高鳴った。

 ネフェル!

 しかし、ネフェルはいつものネフェル。何も変わらない。
 常と変わらぬネフェルの姿に、セティは一株の淋しさを覚える。
 やはり、あれは夢だったんだ……。
 ネフェルに抱かれる夢、私は一体何という夢を見たのだろう……。

 セティの初めての発情の件は、両親である国王王妃にも直ぐに報告された。
 かねてから、覚悟はしていたが、とうとうその時がきたのか……それが正直な思いであった。
 今しばらく、子どものままの姿でいて欲しかったが、セティも十七歳、それをいつまでも望むのは無理がある。それは承知の事ではあるが、オメガの場合、子の成長を単純に喜べないものがあるのも事実。
 オメガの発情期は、難しい問題をはらむからだ。
 直ぐに、ウシルスとアティスが呼ばれ、今後の話し合いがもたれる。

「とうとうきたのじゃな……あれも十七じゃ、当然のことではあるが、問題は今後じゃな」
 国王の言葉に、三人は深く頷く。全く同感だった。
 皆が、それを半ば覚悟しながら、なければとの思いを捨てきれずにいたのだ。
「今回、薬が効かずあのネフェルとやらが収めた……それも問題ではあるな」
「はい、わたくしが付いていながら申し訳ございません。侍医には直ちに、効果のある薬の処方を調べるように命じました」
 控えている侍医が、責任に身を固くしている。
「しかし、薬はな、中々効く効かないは人それぞれ。難しいのじゃ」
 かつて、オメガを囲った経験のある国王が、この中で一番オメガの性に知識があるとは言える。
 他の三人は、初めて直接かかわるオメガがセティなのだ。つまり、オメガの性は耳学問でしかない。
 国王とて、深く理解があるとは到底言えない。
「オメガがアルファを求めるのは、いわば本能なのじゃ。そこに理性は効かない。薬も自ずと限度はある」
「しかし、このままどこの馬の骨とも分からぬ輩に、セティの相手をさせるのも……」
「薬が効けばよいが、そうでないなら今回のように道具と割り切り、相手をさせるしかないのではないか……」
 母の言葉に、アティスは同意している。今回もアティスのその意見で、ネフェルが静めることになったのだから。
 ウシルスは苦々しく思うが、現状、それしかないのか……。何か、他の手はないのか……道具と割り切っても忌々しい。

「それでじゃが、あの男の身元は未だ判明しないのか?」
「はい、手は尽くしておりますが……」
「今回のことでもあの者がアルファであることは間違いない。アルファで身元が分からぬとはのーっ」
「ここまで分からぬのは、やはりこの国の者ではないかと思い、外国にも調査を広げておりますが、中々難しいのが現状です」
「やはり、外国の者か……となると、確かに難しいな」
 外国の場合、王子ですら、正確に把握するのは難しい。我がケトメ王国でも、王太子のウシルスは内外へ公にされている。アティスも多分に外へ出る機会もあるため、知れ渡っているだろう。しかし、セティは隠しているわけではないが、公の場に出る機会はあまりなく、その存在を知る外国は少ないと思われる。
 まして、王家以外の王族、更には高位と言えど貴族になると、ほとんど分からないのが現状だ。

 ネフェルは、どこかの国の庶子かもしれない。調査に当たっている者達は、皆最近そう思い始めている。気楽な立場の庶子が、気ままな旅に出て、何らかのトラブルに巻き込まれたのではないか。
 もし、その予想通りならば、ネフェルの身元が判明するのはかなり難しい。相手側も、正嫡ならともかく、庶子ならと深刻に行方を捜していない可能性もある。いまだ、行方不明との認識すらないことも考えられる。

「身元不明の人間にセティの相手をさせるのもな……」
 国王のつぶやきにウシルスは同意するように続けて言う。
「わたくしもそれを懸念します。あくまでも今回はやむを得ない処置だったと捉えるべきかと」
「しかし、ならば次はどうするのじゃ。というか、次はいつになるのじゃ?」
 王妃の疑問に、控えている侍医が答える。
「恐れながら分かりません。オメガの発情は個人差が大きく、その間隔は人それぞれです。その間隔自体、規則的な場合も、不規則な場合もあります」
「なるほど、それは、厄介な事ではあるな……」
 改めて、オメガに生まれたセティへ憐憫の情が湧く。最適な方法で守ってやらねばならない。四人共通の思いではある。
 オメガで生まれたことはセティの罪ではない。あれほど美しく、愛らしいセティがオメガというだけで、辛い思いをさせてはいけないのだ。

「いずれは然るべきアルファの許へ降嫁させようと考えておったが、早急に相手を決めねばならぬな。やはりそれが最善であろうな」
「私も、陛下のお言葉の通りかと。アルファの夫がおれば発情の問題は解決しますでしょう」
「父上、母上のおっしゃる通りですわ。問題はお相手ですわね。正嫡の王子が降嫁するに相応しいとなれば、自ずと絞られてきますから」
「そうだな、相当な家柄の当主あるいは嫡男がアルファであるのは間違いないからな」
 王族や、高位貴族の当主がアルファであるのは不文律であった。

 然るべきアルファへ降嫁、ウシルスには受け入れ難い。
 今の話の流れに少し水を差したい。
「相手は身分が相応しいからそれでよしというわけにはいきません。セティの気持ちが一番かと」
「無論、それは当然じゃ。セティが気に入ること、それが一番の条件じゃ」
「セティが嫌々、涙ながらに嫁ぐなどあり得ぬからな」
「先ずは、セティに内々で会わせて、様子を見るのが良いだろう。そのうちあれの好みも分かるだろうからな」
 セティの気に入る相手が簡単に見つかるとは思えない。お相手選びは早々には進まないだろう。
 その間に……ウシルスには秘めた思惑がある。

 四人の話し合いは、セティの降嫁先を検討することを結論に、お開きになる。
 その後四人は、それぞれがセティの相手を巡って動くことになる。思惑の違いはあるが、皆、セティへの愛は変わらなった。
 最愛の、至宝とも言うべき、末子であり、弟であるのだ。
 セティにはいつまでも幸せであって欲しい。そして、それを見届けたい。
 アルファ四人の、オメガセティに対する、強烈な愛情と庇護欲。
 セティは生まれ落ちた時から、その過剰とも言える愛に包まれて生きてきたのだった。
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