星から落ちた王子さま

梅川 ノン

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2部

2話 ハーデスの帰国

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 愛しい人が段々と小さくなる。そして――見えなくなる。
 ハーデスの心はぽっかりと空き、どうしようもないさびしさが襲う。
 セティ! わたしの運命の人!
 必ず迎えに行く。そして必ずや妃にする。ハーデスは改めて心に誓う。

「セティ王子様、美しい方でしたね。あの方が殿下の運命のお相手なのですね。わたくしにも殿下の思いを理解できました」
 少々うっとりした心地でヘパイストスが言う。
「あの方は、美しいだけではない。心映えも素晴らしい方なのだ。まこと国母に相応しい方。わたしはそう思っている」
 ヘパイストスは主の言葉に頷く。ほんの少し垣間見ただけだが、セティの魅力はよく分かった。ヘパイストスもセティの美しさに驚いたのだ。
 あれほど美しい方は、多分星の国にはいない。確かに、ハーデスが求めて地へ落ちただけのことはあると、少々不謹慎なことも思う。
 あのお方が主の運命の相手、それには異論なく納得できた。
 ただしそれが簡単に認められるとはさすがに思わない。というか、激しい反発や反対があるだろうのは火を見るより明らか。それを、一つ一つ解決していくのが今後の己の大いなる役割になるだろうと思う。
 ヘパイストスはハーデスの思いが成就するように、出来る限りのことをしたいと思っている。
 ヘパイストスには、あの美しいセティ王子が、ハーデスの妃になり、二人が並ぶ姿を想像するとなんだか心が浮き立つのだ。
 しかし、今はそれどころじゃない。国王が危篤だからだ。そして、おそらく他の危機も……そう思われた。

 ハーデスの所在判明と帰国の知らせは、星の国では瞬く間に伝わった。
 ほとんどの人はそれを歓び、歓迎した。誉れの御子の王太子が帰国する。陛下の崩御に間に合った。これで次期国王は決まったと安堵の思いでその報に接したのだ。
 
 ただし一部にそれを、苦々しい思いでいる者たちがいる。
 言うまでもなくウラノスと、その一派である。
 今ここで、王の崩御よりも前にハーデスが帰国すれば、ウラノス即位は全くの幻になる。
 どうするか……ハーデスを帰国後、直ぐに消すか、それともハーデス帰国前に父を消し、急ぎ即位し既成事実をつくるか。
 さすがのウラノスも、いくら死期が近いと言えども、父国王に手を掛けることはためらわれた。
 ならば、残る道はただ一つ、ハーデスを消すこと。
 どの道、自分が即位後にハーデスが帰国したら、問答無用で処刑するつもりだった。ウラノスにとって最大の、憎い邪魔者、それがハーデス。消し去ることが少し早まるだけ。ウラノスに躊躇は無かった。

「ちっ、なんで今頃になってのこのこと帰ってくるんだよ! 冗談じゃないぜ! あいつを殺せ! 殺すんだ! それしかない」
「やりますか?」
「当たり前だ。あいつが帰ってきたら俺の即位はない。当然のようにあいつが国王だ。忌々しいやつだ。殺す以外にない。飛行船を降りて王宮に向かう道で襲わせろ。その間ならまだ警備も手薄だ。そこしか機会はない」
 しかし、彼も彼の側近たちも、短絡的でち密さが全くない。
 そこが致命的なのだが、本人たちにその自覚は全くない。
 反対にハーデスの側近たちは、ウラノス一味の動きを警戒していた。ハーデスの側近はヘパイストスだけではない。と言うよりも、ウラノス一派がごく一部であり、大方の者はハーデスを支持し、その帰国を待ちわびていたのだ。
 ハーデスの突然の失踪を非難するよりも、その無事の帰国を歓迎するのだ。
 ハーデスの失踪事態が、ハーデスの責任とは思われていないのが実情。何かよほどのことが起こった。もしかして、何かの陰謀と考える者さえいた。
 それだけハーデスの人望が大きい事の証左ではある。

 ハーデスを襲うべく潜んでいた刺客は、簡単に捉えられた。そして、厳しく追求すると、これまた簡単に黒幕を吐いた。

 ハーデスは飛行船を降り王宮に入ると、直ぐに父の寝所へと向かう。
 その途上でウラノス逮捕の報を聞く。驚きはなく、淡々と報告だけを聞く。その後の処遇は後回し、今は父に会うことが最重要。

 ハーデスが寝所に入ると、臥せっている父の傍らに母が父の手を握っている。その横には二人の妹、そして叔母である父の側室もいる。
 皆、入ってきたハーデスを一斉に見る。
「ハーデス! そなたどこへ行っておったのじゃ! ああっ、今それはいい。早く父上のお側に!」
「母上、申し訳ございません」
 ハーデスは、病臥する父の側に近づき、その手を取る。僅かの間に病み衰えているその姿に胸が痛む。自分のいない間に……あまりに申し訳なく言葉がない。
「父上、ハーデスでございます。先程帰国いたしました」
「ハ……ハーデスか……」
「はい、ハーデスでございます」
 ハーデスは父の手をしっかりと握る。その手は細く弱々しい。
「ハーデス、そなたを待っておったぞ。そなたの他に余の王位を継ぐ者はいない。そうであろう、そなたこそ誉れの御子、真の王太子であるからな」
「父上、申し訳ございません。ご心配おかけしました……まことに申し訳ございません」
 ハーデスは溢れる涙を零す。親不孝な自分を父は待っていてくれた。そして許してくれた。ありがたくも申し訳なさで一杯になる。
「この国のこと頼むぞ……立派な王になるのだぞ。そなたへそれを言いたくて余は頑張っておったのじゃ。間に合ってよかった……」
 その時、ハーデスの父、国王クロノスは一瞬ハーデスの手を強く握り、そしてその眼を静かに閉じる。
 本人の言葉の通り、ハーデスを待っていたかのような臨終であった。
「父上! 父上……」
 ハーデスは父の手を握りしめ泣いた。
『父上、わたくしは必ずや立派な王となります。そして国を今以上に栄えさせます』
 ハーデスは心の中で固く誓うのだった。その誓いを守ることが、親不孝な自分にできることであった。

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