愛の宮に囚われて

梅川 ノン

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今宵訪れがあることを舎人が知らせにきた。いつもは前触れなく渡ってくるのに……。
 磯城は落ち着かなかった。読み物を手に取るが身に入らない。これも葛城の手とは、勿論知らない。
「東宮様のおなりでございます」
 舎人の声掛けと同時に葛城が入ってきた。
「何をされていたのか?」
「読み物を読んでおりました」
 葛城は開かれていない巻物に目を留める。
「久しぶり、でもないか……私の訪れがない間、何をされていたのか?」
「夜はだいだい読み物を……」
「寂しかったか?」
 磯城は無言のまま下を向く。
「寂しくはなかったと……私を待ちわびていたのではないのか」
 葛城は磯城の手を取る。一瞬の震えの後、逃れようとする磯城を抱き寄せ、着物に手を入れ双丘を撫でまわす。
「ここは、私を待ちわびていたのでは」
 そう言うなり、磯城の花の蕾に指を入れる。電流が流れるような刺激に磯城の体は仰け反った。
「何を……は、放して……」
「ほーうっ……放してと……本当に放してよいのか」
 そう言って、着物の中の手は磯城の体を弄った。磯城は体を震わす。それが葛城の欲情を煽った。
「この体の内なる熱情は、ここに私を受け入れねば発散できぬであろう」
 事実だった。受け身の喜びを覚えこまされ体は攻めることを忘れた。この十日、体の疼きはあるものの女のもとに通うことは一度も考えすらしなかった。男を受け入れることでしか、発散できないと体で知っていたからだ。
「磯城、我が欲しいであろう。素直に求めれば、そなたは吾が妃、十分に可愛がってやろう」
 磯城は葛城が欲しいと望む我が体に絶望した。なぜこのような浅ましい体になってしまったのか……。磯城の澄んだ宝珠のような瞳から涙が零れた。もう我慢することもできなかった。
 葛城は磯城の涙に狼狽える。どんなに強気にふるまっても磯城の涙には弱いのが葛城だった。
「なぜ泣くのです? 私はあなたを虐める気は毛頭ない。吾が妃であるあなたを大切に慈しみこそすれ、泣かすなど……さあもう泣かないで」
 葛城こそ、磯城の涙の原因なのにそこには考えが至らないのも葛城だった。
 葛城にとって磯城が自分の者になるのは大前提。そのうえで、愛する磯城の願いはどんなことでも叶えてやりたい、そう思っている。
 葛城は磯城の涙を口唇で吸い取ってゆく。それは愛撫になり頬へそして、薄く色づく口唇に重ねた。最初は食むように次第に貪るよう奪っていく。
 激しく口付けしながら、手は磯城の体を弄る。胸の淡い色づきは、既に待ちわびているかのように尖っていた。尖りを摘まむと、それだけで磯城の体は震えるように反応した。磯城の心とは裏腹に体は熟れきっているのだ。
「ああーっ……」
 葛城が口唇を離すと磯城の口唇から甘い喘ぎが漏れる。
「気持ちいいのだろう、さあどうする? 無体なことはしたくない。ここまでにするか、続けるのか……あなたが決めるのだ」
 葛城は体を起こし、磯城を見下ろして聞く。磯城は、葛城の腕を掴み潤んだ瞳で見つめる。磯城の熟れた体は次なる刺激を欲して熱く燃えるようだ。それなのに欲しいの一言が言えない。
 葛城は、磯城の頭を撫でながら視線で磯城を促す。さあ、強請って楽になるのだと……。
「つ……つ……づけて」
 磯城が、絞り出すように言った。
「私が欲しいのか?」
 磯城は、葛城から視線を外して頷いた。磯城が出来るのはそれが精一杯だったし、葛城もそれは分かった。
 葛城は、褒美だ言わんばかりに磯城の額に口付け、そして口唇を奪う。再びの激しい口付けに磯城の体は陶酔する。
 葛城の口唇は、首筋から胸に下りて胸の尖りを吸い、舌で転がす。片方の尖りは指で嬲る。
「ああーっ、ああっ……」
 磯城が堪えきれない喘ぎを漏らす。葛城は、磯城の理性の限界を見て取る。今日は絶対に言わせたい。言わせると奮い立つ。
 磯城の双丘を撫でながら、葛城は問う。
「ここに私が欲しいか?」
 磯城は頷く。しかし、葛城はそれでは許さない。磯城の耳元で囁くように問う。
「欲しいなら、葛城が欲しいと……」
「ほっ……欲しい……」
「だから誰を欲しいのか」
 磯城の叔父として、後見としての矜持による抗いも限界だった。もうこのまま陶酔の底に沈んでしまいたい。葛城の望む言葉を口にした。
「か……葛城の王子……」
 漸く発せられた自身の名に、葛城は満足げに微笑む。褒美とばかりに口付けを与えると、丁子油を手に取る。磯城の花の蕾は待ちかねたように葛城の指を受け入れる。
 葛城の指は、磯城の官能を的確に攻めていく。内部で淫らな湿った音をかもしだし、更に磯城を攻める。
「ああーっ……ああっああーっ……」
 磯城は葛城の指淫に身も世もなく喘いだ。
 頃合いとみた葛城が、怒張した自身の牡を磯城の花の蕾に侵入させる。既に色づいたそこは難なく受け入れていく。
「磯城の中は花弁が吸い付てくるようだ。なんと心地よいのだ。どうじゃそなたも良いか?」
「いい……あつい……ああっ……」
 葛城は磯城の反応に満足し、抽挿を開始した。はじめはゆっくりと、次第に激しく。
 磯城は激しく揺さぶられながら、淫靡な快楽に満たされてゆく。悩乱したかのように啜り泣く。
 葛城に体の内奥を激しくかき回され、突き上げられ感極まる。やがて葛城が磯城の蕾の中に精を放つと、磯城も自失した。
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