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第一部 禁忌の村へ
「影の足跡」
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郷土資料館の木の扉を押し開けると、埃っぽい匂いが鼻をついた。古びた棚に並ぶ資料や巻物、色あせた写真の数々。どこか時間が止まったような空間だった。
「双影村について調べたいんですが……」
受付の老人に尋ねると、彼はゆっくりと顔を上げ、こちらをじっと見つめた。
「双影村……ですか?」
その名を口にした瞬間、館内の静けさが増したように感じた。まるでこの村の名を発すること自体が禁忌であるかのように。
「何か資料は残っていますか?」
「……少々お待ちください」
老人は背を向け、奥の部屋へと消えていった。片桐と瀬川は、辺りを見渡しながら待った。壁には、この地方の古い写真が並んでいる。ある一枚が目に留まった。
「……これ、双影村じゃないか?」
瀬川が指差した写真には、霧に包まれた山間の集落が写っていた。だが、写真の中央に目を凝らすと、違和感があった。人影が並んでいるのだが、それぞれの影が通常のものよりも長く、しかも二重に映っている。
「影が……増えてる?」
二人が写真を食い入るように見ていると、奥の部屋から老人が戻ってきた。手には一冊の古びた書物を持っている。
「これが、残されている数少ない資料です」
表紙には『影祀記録』と書かれていた。
「これは何ですか?」
「この地方にはかつて『影を捧げる祭り』があったと言われています。双影村は、その祭りを受け継ぐ村だったのです」
老人は書物の一部を開き、指で示した。そこには、儀式の様子を描いた不気味な絵があった。人々が円を作り、その中央で何かが影を捧げているように見える。
「影を……捧げる?」
「この村では、影は魂の一部と考えられていました。そして、影が増えることは……」
老人は言葉を濁し、深いため息をついた。
「何を意味するんですか?」
「……死を招くのです」
その瞬間、館内の電気が一瞬ちらついた。まるで誰かが聞き耳を立てているかのような、不吉な気配が漂う。
「影が増えると……死ぬ?」
「伝承では、影が二つに増えた者は村の生贄にされ、影の世界へと引き込まれるとされています」
片桐の脳裏に、最初に受け取ったメールの一文が浮かんだ。
「お前の影が増えたら、すぐに逃げろ」
「……この儀式、いつ頃まで行われていたんですか?」
「記録によると、最後に確認されたのは昭和三十二年です。しかし……」
「しかし?」
「その年、村は消えました」
静寂が訪れた。瀬川が低く唸る。
「やっぱり、新聞記事にあった住民失踪事件と関係してるな」
「この村で一体何が起こったんですか?」
老人は言葉を選ぶようにゆっくりと口を開いた。
「ある日、村人たちは自分の影が二つに増えていることに気づいたそうです。そして、数日後……村は無人になりました」
片桐は喉が渇くのを感じた。
「つまり、影が増えた者は……消える?」
「伝承ではそう伝えられています。そして、最後の村の生存者だった神主が残した言葉があります」
老人はページをめくり、一つの古い筆記を指差した。
「影が増えたら、逃げろ。さもなくば、影に飲まれる——」
瀬川と片桐は顔を見合わせた。その言葉は、まさに片桐がメールで受け取ったものと同じだった。
「この言葉、どこかで聞いたことがあります……」
片桐はスマートフォンを取り出し、メールを瀬川に見せる。瀬川の顔が強張る。
「どういうことだ?この伝承を知ってる誰かが、お前に警告を送ったってことか?」
「だが、誰が……?」
そのとき、館内に低い振動音が響いた。外を見ると、いつの間にか濃い霧が立ち込めている。まるで双影村がそこに存在しているかのように。
「片桐……ここ、ちょっとヤバくないか?」
瀬川が冗談めかして言うが、その目は警戒に満ちていた。
「……とにかく、双影村に行ってみるしかない」
片桐は決意を固めた。だが、このとき彼はまだ知らなかった。
自らが影の呪いに足を踏み入れてしまったことを——。
「双影村について調べたいんですが……」
受付の老人に尋ねると、彼はゆっくりと顔を上げ、こちらをじっと見つめた。
「双影村……ですか?」
その名を口にした瞬間、館内の静けさが増したように感じた。まるでこの村の名を発すること自体が禁忌であるかのように。
「何か資料は残っていますか?」
「……少々お待ちください」
老人は背を向け、奥の部屋へと消えていった。片桐と瀬川は、辺りを見渡しながら待った。壁には、この地方の古い写真が並んでいる。ある一枚が目に留まった。
「……これ、双影村じゃないか?」
瀬川が指差した写真には、霧に包まれた山間の集落が写っていた。だが、写真の中央に目を凝らすと、違和感があった。人影が並んでいるのだが、それぞれの影が通常のものよりも長く、しかも二重に映っている。
「影が……増えてる?」
二人が写真を食い入るように見ていると、奥の部屋から老人が戻ってきた。手には一冊の古びた書物を持っている。
「これが、残されている数少ない資料です」
表紙には『影祀記録』と書かれていた。
「これは何ですか?」
「この地方にはかつて『影を捧げる祭り』があったと言われています。双影村は、その祭りを受け継ぐ村だったのです」
老人は書物の一部を開き、指で示した。そこには、儀式の様子を描いた不気味な絵があった。人々が円を作り、その中央で何かが影を捧げているように見える。
「影を……捧げる?」
「この村では、影は魂の一部と考えられていました。そして、影が増えることは……」
老人は言葉を濁し、深いため息をついた。
「何を意味するんですか?」
「……死を招くのです」
その瞬間、館内の電気が一瞬ちらついた。まるで誰かが聞き耳を立てているかのような、不吉な気配が漂う。
「影が増えると……死ぬ?」
「伝承では、影が二つに増えた者は村の生贄にされ、影の世界へと引き込まれるとされています」
片桐の脳裏に、最初に受け取ったメールの一文が浮かんだ。
「お前の影が増えたら、すぐに逃げろ」
「……この儀式、いつ頃まで行われていたんですか?」
「記録によると、最後に確認されたのは昭和三十二年です。しかし……」
「しかし?」
「その年、村は消えました」
静寂が訪れた。瀬川が低く唸る。
「やっぱり、新聞記事にあった住民失踪事件と関係してるな」
「この村で一体何が起こったんですか?」
老人は言葉を選ぶようにゆっくりと口を開いた。
「ある日、村人たちは自分の影が二つに増えていることに気づいたそうです。そして、数日後……村は無人になりました」
片桐は喉が渇くのを感じた。
「つまり、影が増えた者は……消える?」
「伝承ではそう伝えられています。そして、最後の村の生存者だった神主が残した言葉があります」
老人はページをめくり、一つの古い筆記を指差した。
「影が増えたら、逃げろ。さもなくば、影に飲まれる——」
瀬川と片桐は顔を見合わせた。その言葉は、まさに片桐がメールで受け取ったものと同じだった。
「この言葉、どこかで聞いたことがあります……」
片桐はスマートフォンを取り出し、メールを瀬川に見せる。瀬川の顔が強張る。
「どういうことだ?この伝承を知ってる誰かが、お前に警告を送ったってことか?」
「だが、誰が……?」
そのとき、館内に低い振動音が響いた。外を見ると、いつの間にか濃い霧が立ち込めている。まるで双影村がそこに存在しているかのように。
「片桐……ここ、ちょっとヤバくないか?」
瀬川が冗談めかして言うが、その目は警戒に満ちていた。
「……とにかく、双影村に行ってみるしかない」
片桐は決意を固めた。だが、このとき彼はまだ知らなかった。
自らが影の呪いに足を踏み入れてしまったことを——。
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