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第二部 影の呪い
第十四話「影の門」
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片桐の目の前に立つ「瀬川の影」。
それは確かに瀬川の形をしていたが、身体は黒い霧のように揺らぎ、輪郭が曖昧だった。
「影が……五つになれば……」
瀬川の影が掠れた声で囁く。
片桐は、自分の足元を見た。
影は四つに増えたままだった。
影が五つになれば、瀬川を助けられるのか?
だが、それはつまり——
自分も影の門の向こうへと導かれることを意味するのではないか?
「……そんな方法、あり得るのか?」
片桐は混乱した。
しかし、目の前の瀬川の影が、消え入りそうな声で続ける。
「……たすけて……おれを……」
片桐は、役場の書庫で見つけた資料を思い出した。
そこには、こう書かれていた。
「影に飲まれた者は、完全に消滅するのではない」
「彼らは“影の世界”へと移される」
「影の門の向こうに、魂は囚われ続ける」
影の世界——。
影の門の向こうには、瀬川を含む“影になった者たち”が存在し続けているということなのか?
片桐は、役場の奥の壁に貼られた地図を再び確認した。
村の中心部に、「影祀の祠」と記された場所がある。
そこには、もう一つの名前が書かれていた。
「影の門」
「影の門……やっぱり、そこに行くしかないのか」
村の呪いの正体を知り、瀬川を助け出すためには、影の門の謎を解き明かすしかない。
片桐は意を決し、役場を出た。
村の霧は相変わらず濃く、静寂が支配している。
だが、不思議なことに、足元の影が僅かに震えているように見えた。
「……瀬川、ついてきてるのか?」
片桐が呟くと、背後の影が微かに揺れた。
影の姿となった瀬川が、すぐそばにいるような気配を感じる。
「待ってろよ。影の門まで行けば、きっと……」
片桐は、自らの影の増殖を気にしながら、影祀の祠へと向かった。
祠へと続く道は、村の奥に伸びる石畳だった。
そこには、異様な数の鳥居が並んでいる。
赤黒く染まった木製の鳥居が、何十本も連なる不気味な参道。
まるで、影の世界へ誘う門のようだった。
「これは……」
片桐は足を止め、鳥居をじっと見つめた。
その時——
カン……カン……
どこからか鈴の音が響いた。
以前、村の中で出会った白い着物の女。
あの時も、鈴の音が響いていた。
「……また、あの女か?」
辺りを見渡すが、誰の姿もない。
しかし、風に乗るように、女の声が聞こえてきた。
「影の門を開くな……」
警告のような囁き。
片桐は拳を握る。
「開くなって……どうすれば瀬川を助けられるんだよ?」
答えは返ってこない。
だが、鳥居の先にある祠の奥から、低いうなり声のような音が聞こえた。
「……行くしかない」
片桐は、一歩、鳥居の中へと足を踏み入れた。
祠の前に辿り着いた時、霧がさらに濃くなった。
木造の祠は崩れかけていたが、その奥には、まるで黒い穴のようなものがぽっかりと口を開けていた。
「……これが、影の門か」
近づくと、門の奥には何も見えない。
完全な闇。
だが、そこから微かに人の声が聞こえる気がした。
「……たすけて……」
「瀬川……?」
片桐は息を呑んだ。
間違いない。瀬川の声だ。
影の門の向こうに、まだ彼はいる。
「……どうすれば……」
片桐が門を見つめると、足元の影が、五つに増えようとしていた。
「……これが、最後の鍵なのか?」
影が五つに増えた時、門が完全に開く——。
それが、影の呪いの法則なのかもしれない。
「……だが、もし門が開いたら、俺も……?」
迷いが脳裏をよぎる。
しかし、影の門の奥から、再び瀬川の声が響いた。
「片桐……おれを……」
掠れた声。
片桐は決意した。
「行くぞ……」
影の門の前に立ち、片桐は足を踏み出した。
その瞬間——
世界が闇に包まれた。
それは確かに瀬川の形をしていたが、身体は黒い霧のように揺らぎ、輪郭が曖昧だった。
「影が……五つになれば……」
瀬川の影が掠れた声で囁く。
片桐は、自分の足元を見た。
影は四つに増えたままだった。
影が五つになれば、瀬川を助けられるのか?
だが、それはつまり——
自分も影の門の向こうへと導かれることを意味するのではないか?
「……そんな方法、あり得るのか?」
片桐は混乱した。
しかし、目の前の瀬川の影が、消え入りそうな声で続ける。
「……たすけて……おれを……」
片桐は、役場の書庫で見つけた資料を思い出した。
そこには、こう書かれていた。
「影に飲まれた者は、完全に消滅するのではない」
「彼らは“影の世界”へと移される」
「影の門の向こうに、魂は囚われ続ける」
影の世界——。
影の門の向こうには、瀬川を含む“影になった者たち”が存在し続けているということなのか?
片桐は、役場の奥の壁に貼られた地図を再び確認した。
村の中心部に、「影祀の祠」と記された場所がある。
そこには、もう一つの名前が書かれていた。
「影の門」
「影の門……やっぱり、そこに行くしかないのか」
村の呪いの正体を知り、瀬川を助け出すためには、影の門の謎を解き明かすしかない。
片桐は意を決し、役場を出た。
村の霧は相変わらず濃く、静寂が支配している。
だが、不思議なことに、足元の影が僅かに震えているように見えた。
「……瀬川、ついてきてるのか?」
片桐が呟くと、背後の影が微かに揺れた。
影の姿となった瀬川が、すぐそばにいるような気配を感じる。
「待ってろよ。影の門まで行けば、きっと……」
片桐は、自らの影の増殖を気にしながら、影祀の祠へと向かった。
祠へと続く道は、村の奥に伸びる石畳だった。
そこには、異様な数の鳥居が並んでいる。
赤黒く染まった木製の鳥居が、何十本も連なる不気味な参道。
まるで、影の世界へ誘う門のようだった。
「これは……」
片桐は足を止め、鳥居をじっと見つめた。
その時——
カン……カン……
どこからか鈴の音が響いた。
以前、村の中で出会った白い着物の女。
あの時も、鈴の音が響いていた。
「……また、あの女か?」
辺りを見渡すが、誰の姿もない。
しかし、風に乗るように、女の声が聞こえてきた。
「影の門を開くな……」
警告のような囁き。
片桐は拳を握る。
「開くなって……どうすれば瀬川を助けられるんだよ?」
答えは返ってこない。
だが、鳥居の先にある祠の奥から、低いうなり声のような音が聞こえた。
「……行くしかない」
片桐は、一歩、鳥居の中へと足を踏み入れた。
祠の前に辿り着いた時、霧がさらに濃くなった。
木造の祠は崩れかけていたが、その奥には、まるで黒い穴のようなものがぽっかりと口を開けていた。
「……これが、影の門か」
近づくと、門の奥には何も見えない。
完全な闇。
だが、そこから微かに人の声が聞こえる気がした。
「……たすけて……」
「瀬川……?」
片桐は息を呑んだ。
間違いない。瀬川の声だ。
影の門の向こうに、まだ彼はいる。
「……どうすれば……」
片桐が門を見つめると、足元の影が、五つに増えようとしていた。
「……これが、最後の鍵なのか?」
影が五つに増えた時、門が完全に開く——。
それが、影の呪いの法則なのかもしれない。
「……だが、もし門が開いたら、俺も……?」
迷いが脳裏をよぎる。
しかし、影の門の奥から、再び瀬川の声が響いた。
「片桐……おれを……」
掠れた声。
片桐は決意した。
「行くぞ……」
影の門の前に立ち、片桐は足を踏み出した。
その瞬間——
世界が闇に包まれた。
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