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月夜

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アテネ編

生者への渇望

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そもそも神様なんていつの時代も身勝手なんだよ。
神話とやらを読めば読むほど神様というものの素晴らしさを訴えるとともに、同時に醜い部分をも映し出している。
もし、僕が本物の神様だったら、渚はあんな悲しい思いをしなくて済んだのだろうか。
僕にもっと力が有れば良かったのだろうか。
そんなこと考えたって仕方ないか。
過去は変えられないのだから。
「ねぇ、颯太。颯太はなんで未だに渚に執着するのですか?執着する意味なんてないでしょう?」
「...僕を、ちゃんと僕として認識してくれたから。最初のきっかけなんてそれで十分だった。僕の家柄だとかアテネの弟だからとか、そういうの抜きにして見てくれたんだ。それは先輩が初めてだった。…はは、本当、先輩は酷い人ですよ。いつだって僕を勝手に救って、僕なんて見向きもしないんだから...いつも僕を選んでくれないんだから...」
周りからの抑圧。
周囲の人間とは違う。
天才やら何やらそう言った称号ぶら下げて、やっかみを受け続けていたけれど、きちんと颯太個人を見ていたから。
そういう称号なんて関係無いとでも言いきったんだろうな。
なんて思った。
渚はいつだってそうだから。

前は、颯太は渚がずっと自分ではなくアテネを...
自分の姿を通してアテネを見ていると思い込んでいたから…
だからこそ、歪んでいった。
けれど今回は別にそう言う訳じゃ無いらしい。
「お前も救われたんですね」
「...たまたま今回だけ...きっとまた暫く経てばまた変わりますよ」
もう、大人になったんだな、と思った。
前まではあんなに子供のようだったのに。
渚も大人っぽくなってたなぁ、いつだってそうだったか。
なんて思った。
死んだり消える僕を置いて、皆どんどん成長していく。
「なんだか、寂しいですね」
「...どうして?」
「みんな成長しているのに自分だけ成長しないことが、ですよ...」
あぁ、生きているってずるいなぁ...
ずっと思っていたことだけど。
今、改めてそう思った。
僕だけ全く変わらない。
変われない。
不老不死なんて言葉が浮かんだが、それよりかは遥かにマシかとは思うけれど。
この程度の苦しみと不老不死を一緒にしてしまうのは、渚への冒涜な気がして。
皆前を進んでしまう。
僕だけを置いて。
僕はみんなのような成長なんて出来ない。
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