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月夜

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美空編

いつも通りの日常

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いつも通りの教室。
大好きな凪先輩だけ欠けた教室。
ここ、黒百合学園では学年によってクラスが違うから当然か、なんて思う。
俺の通うのが特進科。
凪先輩は普通科。
当然教室も遠い。
さらに俺は生徒会に属しているためあまり一緒にいられない。
他にも幾つも美術系の部活を掛け持ちしているから。
それでも家が近所の関係で放課後はいつも共にいられるのが唯一の救いだった。
凪先輩の親はいつもいなかったから、よくうちに来て一緒にご飯を食べていた。
俺も高等部に入って一人暮らしをする事になった時期から、凪先輩に言ってルームシェアみたいな関係も結んだ。
そのお陰で今は先輩と同棲のような状態になっている。
芸術系の部活に入ったのはその方が喜んでくれるから。
俺の描いた絵や演奏や歌を聴いて喜んでくれる姿を見たかったから。
そう、俺は凪先輩に恋していた。

ある日、先輩のクラスに転入生が来たと言う知らせを聞いた。
その日は朝から体調が悪かった。
なんとなく嫌な感じはしていたのだ。
先輩と二人きりでいつも食べる昼休み、そいつは現れた。
「やっほー!久しぶりだねぇ美空」
「...雫」
どうしてこの世界にいるんだろう。
颯太もいたから仕方ないか。
なんて思った。
けれど心の中のモヤモヤは広がっていく。
まるでインクを落としたように。
同じクラスという事は必然的に授業など学校にいる間は行動を共にする。
年齢差の所為で叶わないそれをやって退ける雫が羨ましいと思えた。
けれどだからといって凪先輩に雫と仲良くするななんて言えなかった。
そんな事いって嫌われてしまったらどうしようなんて事がずっと頭を彷徨いた。
だからだろうか。
カンカンと甲高い音と共に通りすぎる電車。
目の前に広がる赤い花。
口を開けてその光景を焼き付けるしかない自分。
背中に流れるは罪悪感と後悔と後ろめたさ。
パチリ、と音を立てて景色が入れ替わる。
今の光景はなんだったのだろうか。
まぁ、気にしなくて良い。
続きを話そうか。
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