とある転生令嬢の憂鬱

すずまる

文字の大きさ
上 下
1 / 16
∽プロローグ∽

伯爵令嬢アリアナ・プライム

しおりを挟む
 伯爵令嬢アリアナ・プライムは転生者である。

 彼女の前世は日本という国に生きていた妖怪『轆轤首ろくろくび』の末裔だった。
 妖怪とは言え轆轤首は他の怪異とは違い元々人間であるにもかかわらず突然変異として首が伸び、更にはそのまま首が身体から抜けてしまうと言う症状が出ることで『人間』から『妖怪』へと再分類される。
 またその性質は子孫に引き継がれるということもないので轆轤首には『仲間』はいても『一族』と呼ばれるような関係が築かれることはない。
 アリアナの前世も、父は中小企業の中でも小に近い規模の会社で課長代理止まりがせいぜいのサラリーマン、母は週4日、1日5時間程、市の中心街にある飲食店でパートとして働いている少し元気すぎる主婦、そして2歳年上の典型的な内弁慶な兄がいる極々平凡な女子高生だった。因みに元気すぎる母の勤め先が市の中心街というわざわざ電車で通わなければならない場所だったのがただ単に交通費目当てだったことは知っていたが、今ではパート先でオーナー…母がすっかり仕事に慣れた頃に代替わりをした…を日々教育という名のもとに叱り飛ばしていることで陰のオーナーという『あだ名』をつけられているらしいと死の間際で知りそれに驚いたことがアリアナの前世の終わりを決定的なものにしたことは今世でも墓まで持っていきたい黒歴史だ。
 そんな記憶を持って生まれたアリアナは、子供の頃は自分の覚えている知識や常識が周囲の人達と違っていることに戸惑いを隠せなかったのだが、5歳から貴族令嬢としての教育を受け、この国の、この世界の知識と常識を身につけると、そこに前世のそれらさえも上手く取り入れ、結果として大変優秀だと周囲からの評価を受けるようになった。
 そのこともありアリアナが15歳になった頃に、伯爵家とさほど身分は高くはないにもかかわらず王家から王太子の婚約者候補の一人として選ばれたのだが、婚約者候補たちが本人の意向確認を兼ねた王太子との顔合わせの為に登城をすることになったあの日から、まさかまた自分の前世に悩まされるなどと、その時は思いもしていなかった。
しおりを挟む

処理中です...