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∽Ⅰ∽
【幕間】クリストファーの失敗
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「貴様…さては化け物だな!」
言った瞬間『何言ってんだ馬鹿!?』と焦ったのは3年間の学園生活を経てやっと後先考えずに突っ走ってしまうクセが治ったはずのこの国の王太子クリストファー19歳。
自分が裁可を任されている書類の中に少し難航している案件があり、一度は確認作業を兼ねて調査するようにと従者に指示したものの思ったよりも状況が良くなかったようで調査報告と更なる指示を仰ぐためにと茶会の始まる少し前、慌ててやってきた従者の報告を聞きどうするか考えていると少し離れた席で涼やかな声が報告内容の問題点と自分なりの考えをクリストファーの近くに座っていた令嬢に話していた。
その内容は的確かつ解りやすく、政治に疎いご令嬢方にも理解できたらしく、更に続いた少女の考えにクリストファーは目から鱗が落ちる思いだった。
自分よりも、いや、この席に着いている誰よりも幼く見えるその少女に目を向けた瞬間、クリストファーは鱗の落ちた目に強烈な光を受けた衝撃に襲われた。
「貴様…さては化け物だな!」
本当は「そのように賢しらな女性は男性に敬遠されてしまうだろう。しかしお前の聡明さはこの国を支えるのに相応しい。今日から俺の婚約者としてこの国に仕えろ」と続けようとしていた。実は思いっきり一目惚れ、一目惚れの上に一聞き惚れ、更に尊敬という三度の『惚れ』を身に受けていた。
だからこそ貶めてでも『将来の伴侶は自分しかいない』と持って行きたかったのがちょっと間を開けてしまったことで大失敗に終わった。
クリストファーを恋という泥沼の底に落とした少女は、自分が『化け物』などと言ったのは何故かと問いつつも少女の容姿が他の令嬢より劣っていると言い始めた。
訳がわからなかった……。
少女はその場にいる女性達の中で誰よりも可憐で清楚で美しい…。だからこそクリストファーは『人間離れしている』という意味でつい『化け物』などと言ってしまったのだ。
たしかに選んだ言葉は最悪だった。それでもクリストファーにとって、その少女は他者を寄せ付けない程の輝きを持って自分の視界と脳を独占していた。
更にクリストファーがアリアナの聡明さを『おかしい』と言ってしまったことで「お恐れながら…」と、滔々と自分を批難し、更には不敬とも取られかねないような発言を、しかし不敬と言ってしまえば自分の愚かさを露呈させてしまうような言い方で追い詰める少女に恐怖を感じながらもやっぱり目も耳も、むしろ全身で彼女からの批難の声を受けてしまうほどに恋という鎖で縛られていた。
その後はどのように時間が流れたのかよく覚えていない。
ただ無事(?)婚約者候補達との茶会を終えると直ちに国王夫妻にアリアナと婚約がしたいと申し出た。
「まぁ、あの罵詈雑言は照れ隠しだったのかしら?それにしてもあれだけの罵詈雑言を浴びせたのだから断られる一択だと思うわよ」
王妃がにこやかに怒っている。
「すみませんでした…あの時は彼女の可憐さと聡明さに頭が真っ白になってしまって、どんなことをしてでも自分の婚約者として傍に置きたいと……」
「それで何であのような酷い言葉になるんだ?」
国王もクリストファーの言い訳に首を傾げる。
「それが…とにかくこの世のものとは思えないほどの美しさ、神々しさ、可憐さ、そしてあの聡明さ、自分の考えを述べている時の涼やかな声…どれをとっても人間とは思えません!」
「それにしても…よりにもよって『化け物』とは……」
王太子としては学園生活を通してただ身分に頼った態度をするようなことがなくなったり、下位貴族や将来有望な平民の子息子女とも交流を持ったことで柔軟な考え方が出来るようにもなったりとかなり成長したと頼もしく思っていたところに今回の恋の暴走事件だったものだから、国王は密かに息子に『女性との接し方』を教えるべきか?と真剣に悩み始めた。
「……本当に、ただ褒めれば良かったと後悔はしてます。でもあの時は変な考えになってしまって、自分の事を鮮烈に覚えて欲しいと…寧ろ憎く感じるほどに自分を意識して欲しいとの欲が出てしまってあんな事を……」
消え入りそうになる息子の声に両親が揃って首を傾げる。
「変な考えって?」
王妃が問いかける。
「その……あの様に見た目の可憐さのみならず所作も美しく声も澄んで愛らしい、更にとても聡明な彼女はきっと褒められるのが当たり前になっているのだろうと……。だから酷い言葉をぶつければ自分を覚えてくれるんじゃないかと……。それに、本当はあの後『賢すぎる女性を嫌がる男性も多いだろうから俺の婚約者としてこの国を一緒に支えよう』と続けるつもりでした」
王妃は呆れた目を隣に座っている国王に向け、国王は深い溜息をつきながら天を仰いだ。
「あなたのその馬鹿なところは陛下に似たみたいね」
才色兼備として国民からの支持を得ている王妃は、まさに学生時代、現国王である当時の王太子から『見た目はそこそこいいがそういう女は得てして浅薄なものだ』と言われ平手打ちを見舞った剛の者だった。
今まで両親は政略結婚だと疑っていなかったクリストファーは、まさか自身の父が同じ過ちを母に対して犯していたことに驚き、また今こうして夫婦となったのだから後々父は『成功』したのだと気付き思わず父に縋るように目を向けた。
……が、母に「この人は散々失敗したんだから意見を聞く必要はないわよ。その代わり私が挽回の機会を作ってあげます。そこで失敗したらこれからあの子を王家に引き入れるまでこの私が口を出します」と言われ、近日王妃主催のお茶会に参加させられることが決定した。
言った瞬間『何言ってんだ馬鹿!?』と焦ったのは3年間の学園生活を経てやっと後先考えずに突っ走ってしまうクセが治ったはずのこの国の王太子クリストファー19歳。
自分が裁可を任されている書類の中に少し難航している案件があり、一度は確認作業を兼ねて調査するようにと従者に指示したものの思ったよりも状況が良くなかったようで調査報告と更なる指示を仰ぐためにと茶会の始まる少し前、慌ててやってきた従者の報告を聞きどうするか考えていると少し離れた席で涼やかな声が報告内容の問題点と自分なりの考えをクリストファーの近くに座っていた令嬢に話していた。
その内容は的確かつ解りやすく、政治に疎いご令嬢方にも理解できたらしく、更に続いた少女の考えにクリストファーは目から鱗が落ちる思いだった。
自分よりも、いや、この席に着いている誰よりも幼く見えるその少女に目を向けた瞬間、クリストファーは鱗の落ちた目に強烈な光を受けた衝撃に襲われた。
「貴様…さては化け物だな!」
本当は「そのように賢しらな女性は男性に敬遠されてしまうだろう。しかしお前の聡明さはこの国を支えるのに相応しい。今日から俺の婚約者としてこの国に仕えろ」と続けようとしていた。実は思いっきり一目惚れ、一目惚れの上に一聞き惚れ、更に尊敬という三度の『惚れ』を身に受けていた。
だからこそ貶めてでも『将来の伴侶は自分しかいない』と持って行きたかったのがちょっと間を開けてしまったことで大失敗に終わった。
クリストファーを恋という泥沼の底に落とした少女は、自分が『化け物』などと言ったのは何故かと問いつつも少女の容姿が他の令嬢より劣っていると言い始めた。
訳がわからなかった……。
少女はその場にいる女性達の中で誰よりも可憐で清楚で美しい…。だからこそクリストファーは『人間離れしている』という意味でつい『化け物』などと言ってしまったのだ。
たしかに選んだ言葉は最悪だった。それでもクリストファーにとって、その少女は他者を寄せ付けない程の輝きを持って自分の視界と脳を独占していた。
更にクリストファーがアリアナの聡明さを『おかしい』と言ってしまったことで「お恐れながら…」と、滔々と自分を批難し、更には不敬とも取られかねないような発言を、しかし不敬と言ってしまえば自分の愚かさを露呈させてしまうような言い方で追い詰める少女に恐怖を感じながらもやっぱり目も耳も、むしろ全身で彼女からの批難の声を受けてしまうほどに恋という鎖で縛られていた。
その後はどのように時間が流れたのかよく覚えていない。
ただ無事(?)婚約者候補達との茶会を終えると直ちに国王夫妻にアリアナと婚約がしたいと申し出た。
「まぁ、あの罵詈雑言は照れ隠しだったのかしら?それにしてもあれだけの罵詈雑言を浴びせたのだから断られる一択だと思うわよ」
王妃がにこやかに怒っている。
「すみませんでした…あの時は彼女の可憐さと聡明さに頭が真っ白になってしまって、どんなことをしてでも自分の婚約者として傍に置きたいと……」
「それで何であのような酷い言葉になるんだ?」
国王もクリストファーの言い訳に首を傾げる。
「それが…とにかくこの世のものとは思えないほどの美しさ、神々しさ、可憐さ、そしてあの聡明さ、自分の考えを述べている時の涼やかな声…どれをとっても人間とは思えません!」
「それにしても…よりにもよって『化け物』とは……」
王太子としては学園生活を通してただ身分に頼った態度をするようなことがなくなったり、下位貴族や将来有望な平民の子息子女とも交流を持ったことで柔軟な考え方が出来るようにもなったりとかなり成長したと頼もしく思っていたところに今回の恋の暴走事件だったものだから、国王は密かに息子に『女性との接し方』を教えるべきか?と真剣に悩み始めた。
「……本当に、ただ褒めれば良かったと後悔はしてます。でもあの時は変な考えになってしまって、自分の事を鮮烈に覚えて欲しいと…寧ろ憎く感じるほどに自分を意識して欲しいとの欲が出てしまってあんな事を……」
消え入りそうになる息子の声に両親が揃って首を傾げる。
「変な考えって?」
王妃が問いかける。
「その……あの様に見た目の可憐さのみならず所作も美しく声も澄んで愛らしい、更にとても聡明な彼女はきっと褒められるのが当たり前になっているのだろうと……。だから酷い言葉をぶつければ自分を覚えてくれるんじゃないかと……。それに、本当はあの後『賢すぎる女性を嫌がる男性も多いだろうから俺の婚約者としてこの国を一緒に支えよう』と続けるつもりでした」
王妃は呆れた目を隣に座っている国王に向け、国王は深い溜息をつきながら天を仰いだ。
「あなたのその馬鹿なところは陛下に似たみたいね」
才色兼備として国民からの支持を得ている王妃は、まさに学生時代、現国王である当時の王太子から『見た目はそこそこいいがそういう女は得てして浅薄なものだ』と言われ平手打ちを見舞った剛の者だった。
今まで両親は政略結婚だと疑っていなかったクリストファーは、まさか自身の父が同じ過ちを母に対して犯していたことに驚き、また今こうして夫婦となったのだから後々父は『成功』したのだと気付き思わず父に縋るように目を向けた。
……が、母に「この人は散々失敗したんだから意見を聞く必要はないわよ。その代わり私が挽回の機会を作ってあげます。そこで失敗したらこれからあの子を王家に引き入れるまでこの私が口を出します」と言われ、近日王妃主催のお茶会に参加させられることが決定した。
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