45 / 48
四十四話 歩み寄る
しおりを挟む
勇者レオンは、王城の広場に集まった人々の前に立っていた。
彼の前には貴族や商人、市民たちが不安げな表情を浮かべながら彼を見つめている。
「皆、俺はこれまで魔族と戦ってきた。魔族が恐ろしい存在なのは知っているし、俺自身、仲間を何人も失った」
勇者の言葉に、人々の間に悲しみと怒りが混じる。
「だが、それでも俺は剣を置く。なぜなら、戦いを続けるだけでは、俺たちも魔族も、結局何も得られないからだ」
彼の声が広場に響き渡る。
「信じろというのですか?」
人混みの中から、しわがれた老人の声がした。
「俺たちはずっと魔族と戦ってきた。彼らに家を焼かれ、家族を奪われたんだぞ」
群衆が溢れんばかりの怒気を放つ。
「……その気持ちは、分かる」
勇者は静かに答えた。
「けれど、考えてほしい。俺たちが魔族を憎み、彼らが俺たちを憎み、そのまま戦い続けていたら、どれだけの命が無駄に失われる?」
勇者の言葉は、納得できないが正しい。
人々は押し黙るしかない。
「過去は変えられない。でも、未来は変えられる」
レオンは強く言葉を紡ぐ。
「俺は、勇者として剣を取ってきた。でも、今は勇者として、剣を置く道を選ぶ」
静寂が広場を包んだ。
最初に動いたのは、ひとりの若い兵士だった。
「勇者様が信じた魔族を……俺も、信じてみたい」
「戦うばかりじゃ、何も変わらないか……」
「本当に和平が成るなら、それに越したことはない」
彼の言葉に続き、数人が頷き始めた。
それは少しずつ増えていき、やがて大歓声となった。
***
同じ頃、魔族領ではヴァルゼスが魔族たちを前に立っていた。
「聞け、魔族どもよ」
威厳ある声が、城の広場に響く。
「人間に手を出すことを禁ずる!」
魔族たちはどよめいた。
「そんな……! 人間に虐げられ続けてきたのに、なぜですか!」
「我々を襲い、仲間を殺してきたのは奴らです!」
魔族たちの怒りは当然だった。長年、憎しみが積み重なってきたのだから。
「それでも、戦いを続けることに意味はない」
しかし、ヴァルゼスは静かに言う。
「貴様らは、これ以上仲間を失いたいか?」
過去を思い返し、奪われた命を思い返す。
魔族たちは言葉を失う。
「戦いを続ける限り、我々は常に死と隣り合わせだ。だが、和平が成れば、未来が変わる」
魔族たちは互いに顔を見合わせた。
「戦いを続けるのではなく、新たな道を切り開くのだ」
次第に、魔族たちの怒りの声が収まり、やがて静かに頷く者が増えていった。
***
——それから数ヶ月後。
王都の広場には、人間と魔族が共に並ぶ交易市が開かれていた。
魔族領のスパイスワイン、ナイトベリーのジャム、レッドグレインのパンが並び、人間の商人たちは興味深そうにそれを手に取る。
「へぇ、魔族のパンって意外と美味いな!」
王国の商人が驚いたように言うと、隣にいた魔族が誇らしげに笑った。
「だろう? 俺たちの料理を、美咲って人間が変えてくれたらしい。魔王様の右腕なんてみんなが呼んでたな。他のも是非食べてくれよ」
「確かに……もっと色々試してみたいな」
スパイスワインを口にした貴族の一人は、目を輝かせていた。
「これは、王都のどの酒にも負けない味だ。ぜひ仕入れたい」
そう言いながら、魔族の商人と契約の話を始める。
市場には、魔族の黒い衣を纏った少女が、人間の子供たちと一緒に果物を選んでいる姿もあった。
「このリンゴ、甘いの?」
「うん! こっちのほうが甘いよ!」
魔族と人間の子供が笑い合いながら果物を分け合う。
かつての憎しみが、こうして少しずつ消えていく。
魔王ヴァルゼスは、市場を見渡しながら静かに微笑んだ。
「見ろ、美咲。余の民と、人間たちが共に生きる未来だ」
私は、その光景に胸がいっぱいになりながら頷いた。
「本当に平和が始まったんですね」
魔族って悪い人ばかりじゃない……ずっと感じていた私の直感は正しかったんだ。
手を取り合って笑い合う魔族と人間の関係に、私まで嬉しくなってしまった。
彼の前には貴族や商人、市民たちが不安げな表情を浮かべながら彼を見つめている。
「皆、俺はこれまで魔族と戦ってきた。魔族が恐ろしい存在なのは知っているし、俺自身、仲間を何人も失った」
勇者の言葉に、人々の間に悲しみと怒りが混じる。
「だが、それでも俺は剣を置く。なぜなら、戦いを続けるだけでは、俺たちも魔族も、結局何も得られないからだ」
彼の声が広場に響き渡る。
「信じろというのですか?」
人混みの中から、しわがれた老人の声がした。
「俺たちはずっと魔族と戦ってきた。彼らに家を焼かれ、家族を奪われたんだぞ」
群衆が溢れんばかりの怒気を放つ。
「……その気持ちは、分かる」
勇者は静かに答えた。
「けれど、考えてほしい。俺たちが魔族を憎み、彼らが俺たちを憎み、そのまま戦い続けていたら、どれだけの命が無駄に失われる?」
勇者の言葉は、納得できないが正しい。
人々は押し黙るしかない。
「過去は変えられない。でも、未来は変えられる」
レオンは強く言葉を紡ぐ。
「俺は、勇者として剣を取ってきた。でも、今は勇者として、剣を置く道を選ぶ」
静寂が広場を包んだ。
最初に動いたのは、ひとりの若い兵士だった。
「勇者様が信じた魔族を……俺も、信じてみたい」
「戦うばかりじゃ、何も変わらないか……」
「本当に和平が成るなら、それに越したことはない」
彼の言葉に続き、数人が頷き始めた。
それは少しずつ増えていき、やがて大歓声となった。
***
同じ頃、魔族領ではヴァルゼスが魔族たちを前に立っていた。
「聞け、魔族どもよ」
威厳ある声が、城の広場に響く。
「人間に手を出すことを禁ずる!」
魔族たちはどよめいた。
「そんな……! 人間に虐げられ続けてきたのに、なぜですか!」
「我々を襲い、仲間を殺してきたのは奴らです!」
魔族たちの怒りは当然だった。長年、憎しみが積み重なってきたのだから。
「それでも、戦いを続けることに意味はない」
しかし、ヴァルゼスは静かに言う。
「貴様らは、これ以上仲間を失いたいか?」
過去を思い返し、奪われた命を思い返す。
魔族たちは言葉を失う。
「戦いを続ける限り、我々は常に死と隣り合わせだ。だが、和平が成れば、未来が変わる」
魔族たちは互いに顔を見合わせた。
「戦いを続けるのではなく、新たな道を切り開くのだ」
次第に、魔族たちの怒りの声が収まり、やがて静かに頷く者が増えていった。
***
——それから数ヶ月後。
王都の広場には、人間と魔族が共に並ぶ交易市が開かれていた。
魔族領のスパイスワイン、ナイトベリーのジャム、レッドグレインのパンが並び、人間の商人たちは興味深そうにそれを手に取る。
「へぇ、魔族のパンって意外と美味いな!」
王国の商人が驚いたように言うと、隣にいた魔族が誇らしげに笑った。
「だろう? 俺たちの料理を、美咲って人間が変えてくれたらしい。魔王様の右腕なんてみんなが呼んでたな。他のも是非食べてくれよ」
「確かに……もっと色々試してみたいな」
スパイスワインを口にした貴族の一人は、目を輝かせていた。
「これは、王都のどの酒にも負けない味だ。ぜひ仕入れたい」
そう言いながら、魔族の商人と契約の話を始める。
市場には、魔族の黒い衣を纏った少女が、人間の子供たちと一緒に果物を選んでいる姿もあった。
「このリンゴ、甘いの?」
「うん! こっちのほうが甘いよ!」
魔族と人間の子供が笑い合いながら果物を分け合う。
かつての憎しみが、こうして少しずつ消えていく。
魔王ヴァルゼスは、市場を見渡しながら静かに微笑んだ。
「見ろ、美咲。余の民と、人間たちが共に生きる未来だ」
私は、その光景に胸がいっぱいになりながら頷いた。
「本当に平和が始まったんですね」
魔族って悪い人ばかりじゃない……ずっと感じていた私の直感は正しかったんだ。
手を取り合って笑い合う魔族と人間の関係に、私まで嬉しくなってしまった。
0
あなたにおすすめの小説
女避けの為の婚約なので卒業したら穏やかに婚約破棄される予定です
くじら
恋愛
「俺の…婚約者のフリをしてくれないか」
身分や肩書きだけで何人もの男性に声を掛ける留学生から逃れる為、彼は私に恋人のふりをしてほしいと言う。
期間は卒業まで。
彼のことが気になっていたので快諾したものの、別れの時は近づいて…。
【完結済】私、地味モブなので。~転生したらなぜか最推し攻略対象の婚約者になってしまいました~
降魔 鬼灯
恋愛
マーガレット・モルガンは、ただの地味なモブだ。前世の最推しであるシルビア様の婚約者を選ぶパーティーに参加してシルビア様に会った事で前世の記憶を思い出す。 前世、人生の全てを捧げた最推し様は尊いけれど、現実に存在する最推しは…。 ヒロインちゃん登場まで三年。早く私を救ってください。
【完結】夜会で借り物競争をしたら、イケメン王子に借りられました。
櫻野くるみ
恋愛
公爵令嬢のセラフィーナには生まれつき前世の記憶があったが、覚えているのはくだらないことばかり。
そのどうでもいい知識が一番重宝されるのが、余興好きの国王が主催する夜会だった。
毎年余興の企画を頼まれるセラフィーナが今回提案したのは、なんと「借り物競争」。
もちろん生まれて初めての借り物競争に参加をする貴族たちだったが、夜会は大いに盛り上がり……。
気付けばセラフィーナはイケメン王太子、アレクシスに借りられて、共にゴールにたどり着いていた。
果たしてアレクシスの引いたカードに書かれていた内容とは?
意味もなく異世界転生したセラフィーナが、特に使命や運命に翻弄されることもなく、王太子と結ばれるお話。
とにかくツッコミどころ満載のゆるい、ハッピーエンドの短編なので、気軽に読んでいただければ嬉しいです。
完結しました。
小説家になろう様にも投稿しています。
小説家になろう様への投稿時から、タイトルを『借り物(人)競争』からただの『借り物競争』へ変更いたしました。
【完結】『推しの騎士団長様が婚約破棄されたそうなので、私が拾ってみた。』
ぽんぽこ@3/28新作発売!!
恋愛
【完結まで執筆済み】筋肉が語る男、冷徹と噂される騎士団長レオン・バルクハルト。
――そんな彼が、ある日突然、婚約破棄されたという噂が城下に広まった。
「……えっ、それってめっちゃ美味しい展開じゃない!?」
破天荒で豪快な令嬢、ミレイア・グランシェリは思った。
重度の“筋肉フェチ”で料理上手、○○なのに自由すぎる彼女が取った行動は──まさかの自ら押しかけ!?
騎士団で巻き起こる爆笑と騒動、そして、不器用なふたりの距離は少しずつ近づいていく。
これは、筋肉を愛し、胃袋を掴み、心まで溶かす姉御ヒロインが、
推しの騎士団長を全力で幸せにするまでの、ときめきと笑いと“ざまぁ”の物語。
聖女召喚されて『お前なんか聖女じゃない』って断罪されているけど、そんなことよりこの国が私を召喚したせいで滅びそうなのがこわい
金田のん
恋愛
自室で普通にお茶をしていたら、聖女召喚されました。
私と一緒に聖女召喚されたのは、若くてかわいい女の子。
勝手に召喚しといて「平凡顔の年増」とかいう王族の暴言はこの際、置いておこう。
なぜなら、この国・・・・私を召喚したせいで・・・・いまにも滅びそうだから・・・・・。
※小説家になろうさんにも投稿しています。
【完結】島流しされた役立たず王女ですがサバイバルしている間に最強皇帝に溺愛されてました!
●やきいもほくほく●
恋愛
──目が覚めると海の上だった!?
「メイジー・ド・シールカイズ、あなたを国外に追放するわ!」
長年、虐げられてきた『役立たず王女』メイジーは異母姉妹であるジャシンスに嵌められて島流しにされている最中に前世の記憶を取り戻す。
前世でも家族に裏切られて死んだメイジーは諦めて死のうとするものの、最後まで足掻こうと決意する。
奮起したメイジーはなりふり構わず生き残るために行動をする。
そして……メイジーが辿り着いた島にいたのは島民に神様と祀られるガブリエーレだった。
この出会いがメイジーの運命を大きく変える!?
言葉が通じないため食われそうになり、生け贄にされそうになり、海に流されそうになり、死にかけながらもサバイバル生活を開始する。
ガブリエーレの世話をしつつ、メイジーは〝あるもの〟を見つけて成り上がりを決意。
ガブリエーレに振り回されつつ、彼の〝本来の姿〟を知ったメイジーは──。
これは気弱で争いに負けた王女が逞しく島で生き抜き、神様と運を味方につけて無双する爽快ストーリー!
美人同僚のおまけとして異世界召喚された私、無能扱いされ王城から追い出される。私の才能を見出してくれた辺境伯様と一緒に田舎でのんびりスローライ
さら
恋愛
美人な同僚の“おまけ”として異世界に召喚された私。けれど、無能だと笑われ王城から追い出されてしまう――。
絶望していた私を拾ってくれたのは、冷徹と噂される辺境伯様でした。
荒れ果てた村で彼の隣に立ちながら、料理を作り、子供たちに針仕事を教え、少しずつ居場所を見つけていく私。
優しい言葉をかけてくれる領民たち、そして、時折見せる辺境伯様の微笑みに、胸がときめいていく……。
華やかな王都で「無能」と追放された女が、辺境で自分の価値を見つけ、誰よりも大切に愛される――。
転生したら、実家が養鶏場から養コカトリス場にかわり、知らない牧場経営型乙女ゲームがはじまりました
空飛ぶひよこ
恋愛
実家の養鶏場を手伝いながら育ち、後継ぎになることを夢見ていていた梨花。
結局、できちゃった婚を果たした元ヤンの兄(改心済)が後を継ぐことになり、進路に迷っていた矢先、運悪く事故死してしまう。
転生した先は、ゲームのようなファンタジーな世界。
しかし、実家は養鶏場ならぬ、養コカトリス場だった……!
「やった! 今度こそ跡継ぎ……え? 姉さんが婿を取って、跡を継ぐ?」
農家の後継不足が心配される昨今。何故私の周りばかり、後継に恵まれているのか……。
「勤労意欲溢れる素敵なお嬢さん。そんな貴女に御朗報です。新規国営牧場のオーナーになってみませんか? ーー条件は、ただ一つ。牧場でドラゴンの卵も一緒に育てることです」
ーーそして謎の牧場経営型乙女ゲームが始まった。(解せない)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる