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昭和48年編

トイレットペーパー!!

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 今日も朝からマーガレットは開店するが、店内には二日酔いが2匹。気怠そうにちょっと動いては椅子に座るかカウンターにベターっと倒れ込んでいる。
「ちょっとお姉さまたち!開店ですよっ」

 私はいつの間にこの生活に馴染んだんだろう。人って目の前にあるものを最重要視する生き物だ。仲良かった友人が、土地を離れたら疎遠になるのと同じ。そうやって時間は進むのが自然。何も罪じゃない。でも今は時間を逆行し、かつ現代で命尽きるかもしれない....神様、どうやったらもどれますか.....?

 「あのぉ。やってますか?」
「あっはい!いらっしゃいませ!」
カウンターにのびたマッチャンのお尻をペチンと叩いた。
「やんっ!」
あ、やっぱりマッチャンはオネェなんだ。

 もう一人お客様が入り口から叫ぶ。
「いらっしゃいませ!」
「ちょっとちょっとちょっと見ました?トイレットペーパーから何から何まで争奪戦ですのよ。」
近所の奥さんが飛んで入ってきた。
トイレットペーパー?争奪戦.....それってオイルショック??

 「えーっ。なになに?」
すぐさまマッチャンと私は近所のスーパーへ向かった。
長蛇の列.....ショートヘアにおばちゃんパーマ?の割烹着おば様たちに仕事中かと思われる男性陣、若者まで。
一列に並んだ先に紙を掲げる店員さん
『お一人一品!』の殴り書きが見えた。

 ワンパック何個入りよ!
帰る人達をみると6ロール入?なにやらブツクサ言いながら店を後にする人が
「どうして砂糖、お醤油までないんでしょうね」
マッチャンがハフハフ言っている。
「お手洗い極力回数へらさなくっちゃ。こまったわね~砂糖?お醤油ってどうするのよっ。お店のハヤシライスもナポリタンもミルクセーキだって全部よ全部!あぁあ.....」
崩れ落ちしゃがむマッチャン。
どうしよう.....この不足っていつまでつづくんだっけ。物価もバカみたいに上がる?今コーヒーはマーガレット150円だっけ。
私はくるくる計算するがなんにも解決策は出てこない。バケツに水汲んでウォシュレット代わりにする?

 私達の番が来たっ。ハフハフ言ってるマッチャンと店内へ。わぁ~レトロなパッケージ。宝の山だー。
私は昭和なパッケージに魅力を感じるが今はペーパーペーパー、砂糖、しょうゆ。
ない.....ない。ラスト一個のトイレットペーパーを奪い合う男性陣を店員さんが止めに入り大騒ぎだった。
結局1時間並んで何も買えず、私達は愕然と立ちすくむ。

 「真由っ、行くわよ!!」
マッチャンの一言に、私も腹をくくった。
ありとあらゆる店を片っ端から回った。
戦利品はしょうゆ二本砂糖二キロ
マッチャンは店の人に「あたしの体見てよ!どうみても二人分よ」と言ってたがだめだった。お一人様一品だ。

 ヘトヘトになり、マーガレットに入る。
中にはスーツ姿のぼっちが居た。御曹司ぼっちは、なにかしらのルートで得たトイレットペーパーを持ってきてくれたのだ。
「村上くん!ありがとう ありがとう」脇汗にじむマッチャンがハグをした。ぼっちは鼻にシワを寄せ苦笑い。クサいんだろなぁ。
いつものカーリーヘアをタイトにピッとした、ぼっちが輝かしかった。

 あれ?亮さんは?買いに行ってるかな。
店じまいをし、練習の為再びぼっちがやって来た。
「あれ?亮は?薬局にも居なかったよ.....」

 商店街の向こうから自転車をこいでくる亮さん?
白衣着て髪は後ろでくくってメガネ。えっ仕事中こんな感じなのね。
「ハァハァ あーっ。これだけだった。」
砂糖一キロを見せる亮さん。

 私達二人は昼ご飯晩ご飯にありついてなかった。トイレットペーパー騒動でバタバタして。力なき歌声と外れまくるギターコードに見切りをつけたぼっちが
「はいっ今日は終わりっ食事にいきましょうか」
私は「腹が減っては戦はできぬ!」と調子にのった。

 お蕎麦屋さんに入った3人。
無言で蕎麦をすする亮さん。
「もう一杯たのむ?」優しくきいてるぼっち。
私は店にあるテレビに夢中
「真由ちゃん お蕎麦のびちゃうよ。そんなにコマーシャル面白い?」
「面白い」
「ははっ変な娘」
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