上 下
43 / 44
平成へ戻る編

浅草を訪れて

しおりを挟む
 私達はまたぼっちのお見舞いへ向かった。なかなかシフトが合わず一週間あいてしまった。

――――病室へ先に入った亮さんが叫ぶ

「ぼっち!!」

そこには、座って服を畳むぼっちが!!!
私達は親族でもない為何も知らされなかったのだ。意識が戻ったことを。
ぼっちがつぶらな瞳で

「亮!真由ちゃん!」

ぼっちも記憶がある。
亮さんは、ぼっちに抱きついた。
私達は、しばらくあの時の話をした。尽きない話に、後ろのナースも呆気にとられていた。
訳のわからない3人に。

「ぼっち、事故のとき私達に、ぶつからないように崖に?」
「スリップしたらしくよく分からないけど、多分そうかも。本当に申し訳ない。二人が無事で良かった。」

ぼっちの足はリハビリ中だが、もしかしたら少し歩行困難になるかもしれないと。
「生きてるだけで幸せだよ」
ぼっちは、優しい笑顔をみせてくれた。

「二人は本当に現代では幼馴染ではないよね?」
「違うよな?」
「違うよね」
まるで昔から知ってるように話し込む二人を見て嬉しくなった。

疲れさせては悪いのでまた来るねと、私達は退散した。
帰りのタクシーに亮さんが
「浅草まで」と言った。

妙に無言の亮さんが、一言だけ言った
「あんみつ屋行くぞ」
あんみつ?!

私達は懐かしの浅草へ。
ゆっくり歩く風情のある昔ながらの通りには民芸品や甘味処もある。

亮さん....あんみつとかテキトーでしたね??今はもう冬だけどあるにはあるかな。
なかなか入る店が決まらない......。
鼻水は出てくるし。

「無いな、あんみつ」
「どうしたんですか!急にあんみつそんな食べたいんですか?」
亮さんは一軒のお茶屋を見つけ得意げに
「あったあった!」
私はとりあえず寒いので亮さんについて走った。

「ぜんざい2つ下さい」
その店にあんみつは無かった.....。

 ぜんざいが来るも、亮さん.....甘いものが苦手でした。
お餅にこびりついた小豆をつついては、なかなかお箸が口に行きません。面白いので私はしばらくそのままにしてました。

「ぼっち良かったな」
「そうですね。またお見舞いいくの楽しみです」
「あぁ」
また小豆つついてる
「亮さん甘いもの苦手でしたよね?」
「あぁ」
「違うの頼みますか?抹茶とか。」
「いや。真由が食べ終わったら出るぞ」

なんだそりゃ。
全く謎の行動。たしかに、思い出深いこの浅草に来たくなったのは分かります。ぼっちが回復したから。
結局私は意地でぜんざい2杯頂いた。食べ物は貴重。

「真由?」
「あぁ.....ぜんざいで胃もたれが 甘すぎて」
「あぁ.... わりぃ」
 亮さんがカバンから胃薬。さすがですね。

しばらく歩くと胃もたれも随分と良くなってきた。と、今度は雨?!
ポタッポタッとさっきから頭に雨粒が

ザ――――――――――ッ
「わぁっ」
亮さんが私の手を取って走った。私達は土産やさんを抜けお寺に。そうあのお寺で雨宿り。

「ぶらぶら出来ませんね~」
「俺は最初からここが目的」
「あれ、あんみつじゃなかったんですね」

雨空を見上げる亮さんとライトアップされたお寺の軒下、線のように空から降り注ぐ雨、私には幻想的な景色にうつる。

ふと、昭和と平成で1回ずつ亮さんに言われた『好きになっていいのか』って言葉を思い出した。今なら........。

無言だった亮さんがこちらを向く。
いつもの端正な顔、涼しい顔で、何も言わずにじっとこちらを.....あのマーガレットの夜みたいに。

亮さんが後ろを向いて少し歩き、こちらを向いた。
そして、手を広げてる。
え?
両手を広げてる。
このおかしな間に周りの人がちらちら見ている。
ちょっと!亮さん!

「チークダンスするぞ」

いやいや、うそでしょ。
周りで私達を見ていたうちの一人が今では珍しいラジオのようなものを片手に近づいてくる。

ニヤリと微笑んだおじさんがあの曲メリーのジェーンをかけた。
さらに他の人まで注目する。雨がまだしとしととふるなか。
私はまだ手を広げている亮さんの胸に飛び込んだ。
恥ずかしさで亮さんに顔を埋める。

 揺れながら亮さんの胸、初めてこんなに近くに現代の亮さんが。
「真由 俺 ずっとおまえが好きだ 好きなんだ」
耳元で亮さんの声。
私は嬉しすぎて愛しすぎて涙が次から次へこみ上げ溢れた。この雨に負けないくらい。

 私の肩を持ち顔を見た亮さんが
「真由っ。また泣いて.....ここで泣くならいつでもいいよ」
「だって、亮さん.....わだじ 亮さんが大好き.....」
私達は知らない人に囲まれて二人の平成での初めてのキスをした。とても優しいキスだった。

あの曲かけた人って.....
しおりを挟む

処理中です...