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一章 マルジュシエールの姫君

ⅰ さようなら、日本。こんにちは、マルジュシエール。

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わたしは瑛里華。現在、巷で大人気の某乙女ゲーにハマっている。
今日は、その乙女ゲーのグッズ発売の日。
勿論、ここまで貯めてきたお金をすべて使ったが悔いはない。

あの坂を登って、右に曲がって、、、うん。早く帰りたい。
今日は、乙女ゲーのグッズ発売記念なのかなんなのかでイベントが行われる。
早く帰って徹夜の続きをしたい。
電車のドアが開いた。
わたしはダッシュし、改札をくぐり抜けて信号へ向かう。
信号が青になるのが待ち遠しい。
カタツムリのようなレベルに感じた。

やっと青になり、わたしは安堵した。
急いで駆け出したわたしの視界は、墨の色になった。大きな傷みとともに。


その日のニュース。
アナウンサー「本日の午後五時半頃、東時野駅前の交差点で交通事故が発生しました。
死者一人、重軽傷者五人となっており、警察はひき逃げ事件として捜査を続けています。」
「あれ?東時野って、駅でしょ?まさかとは思うけど、大丈夫だよね?流石にそんなことはないだろうし。絶対メール送ってくると思ったけど、、、」

「起きてください、、、ファ、、、デュ、、、朝食の時間、、、」
どこかから、声が聞こえてきた。朝食?そういえばお腹すいたけれど、力が入らない。
ついでに、わたしの名前にはファもデュも入ってない。
「起きてください!!!!」
「はいいいいっ!起きます!起きますから!」
さっきの声と同じ人が怒鳴った。小学校の頃の担任の先生みたいだった。
「カルムイェリス様に朝食を奪われますよ。」
んなわけあるか。わたしは一人っ子だぞ。
奪われる相手なんぞいないの。
あれ、カルムイェリスって、どこかで聞いたことあるよね?
けれど、あまり頭は働かない。
「ファスモーデュ様、少しおかしくなっておりませんか?」
ファスモーデュって、、、、
あ。
「ヴァルキューレ・プリンセザ」だ。

「ヴァルキューレ・プリンセザ」は、キュマライエン王国と言う架空の国のヴィリヤカイネン公爵家の次女で、元王女の母親を持っていて、なおかつ国を守るために戦うヴァルキューレ〈戦乙女〉の印をもった少女のアンニーナが魔法学園に入り、第一攻略対象のアンセルミと結婚するのが最終目標となるゲーム。
分岐によってアンセルミが出て来なかったりするものもあったりするけれど。
特に何故か人気になったのが、魔法学園の司書カレルヴォルート。
アニメ版でも声優さんとカッコいいビジュアルで人気になっていた。
話がそれてしまった。
わたしはこのゲームの発売当初から買ってアップデートや番外編、その他グッズも集めまくった。既にあった攻略サイトにハンドルネームを用いて参加して謎にヴァルキューレの側近呼ばわりされたことも懐かしい。
ファスモーデュは、グラシェゲードの戦いが起きる場合に戦わなければいけない相手で、バックに魔法大国・セルディールと、スーパー武力国家・ヴィルトルード、農業生産率がバカみたいに良さすぎる農業大国・シュトルリール、技術革新最強国家・シュヴァーニアがいて、この場合に勝率が五%ほどと、まったくもって勝てない強すぎる相手として出てくる。
だから、敵。
そして、現在のところわたし=ファスモーデュ=アンニーナの敵となっている。
、、、おおう、それはきつい。
けど、言葉遣いをどうしようか。
一応、ヴァルキューレ・プリンセザのままであればおそらく大丈夫だろう。
次の問題。ファスモーデュはカルムイェリスという義姉にいじめられている。
そして、「ヴァルキューレ・プリンセザ」でのファスモーデュは、カルムイェリスとその母のラルキューミアにいじめられ、そのショック等でセルディールに養女とされた後に半分狂気に取り憑かれ、色々な意味でヤバいキャラとなる。
、、、それは回避したいね、うん。
最後に、これが一番重要だ。
アンニーナの師匠、ネストリ推しのわたしには、ネストリがいるキュマライエンとは戦えない。戦いたくない。推しと戦うなんてできない。
だから、戦争になりかけるなら条約か何かを手っ取り早く結んでしまいたい。
、、、つまり、今のわたしには狂気の固まりと化しないようにしながら、なるべく戦わない方向性に向かっていかなければいけない。そして、貴族社会を難なく乗り切っていく必要がある。
一言で言うと、そんなん大変です。頭がパンクします。
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