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一章 マルジュシエールの姫君

ⅳ 農業王女?

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さっさと「ご忠告ありがとうございます。ですが、抜けられぬ用なのです。王位はお姉様にお譲りしますから、お茶会は欠席させてくださいませ。」と言って抜けたわたしは、自分の離宮のサンチュルーヌ宮へ向かった。
戻る途中、人影が動いた。
「ファスモーデュ、少しこちらへいらっしゃい。」
一瞬、カルムイェリスが来たのかと思ったが、フィルクガローレだった。
「フィルクガローレお姉様?」
「ええ、そうよ。少し、来てくれないかしら?人払いはしてもしなくても良いから。側近も来ていいわ。」
そして、わたしはフィルクガローレのヴェニュス宮に行くことになった。
ヴェニュス宮は、落ち着いた色合いだった。木の部分もたくさん残っていたり、フィルクガローレが描いたのだろうか。花の絵もある。
しかもたくさんの植物に囲まれていて、まるで森だった。
、、、ここで森林浴ができるね。
離宮の造りは一緒なのか、わたしと同じ場所に私室があった。私室に入ったわたしたちが案内されたソファーに座ると、フィルクガローレは厳重に窓が閉まっていることを確認した。
それから、自分の侍女にお茶を持ってくる事を命令し、わたしと話し始めた。
「今日、本当は用など無いでしょう?」
ギクッとした。
「ええ、ありませんが、、、」
するとフィルクガローレはいたずらっぽく笑い、
「理由は分かっているわ。カルムイェリスでしょう?お茶会を欠席したくなる気持ちはわたくしにも分かるわ。そうね、、、確か、カルムイェリスは今日ティゼナハート公爵とトゥールシュティ侯爵とエルノーブル侯爵とティゼナハートで会食するのでしょう?ラルキューミア様もコンプリュンダ様も一緒と聞いたわ。あまりお茶会したことなかったわよね?もしよかったら一緒にお茶会をいたしましょう。」
と言った。
こっそりリリアーナの方を見た。
するとフィルクガローレが
「あら、ごめんなさいね。ティゼナハート公爵達は、カルムイェリスの仲間たちといえばよいでしょうか。」
フィルクガローレと仲良くできるのはこちらにとっても味方ができるので良いことだと思う。
けれど、わたしたちの動向などすぐ筒抜けになる。
うかうかお茶会していたら、いきなりラルキューミアとカルムイェリスが乗り込んでくる可能性が無いわけでもない。悩ましい。
カタン、と音がしてドアが開き、先程の侍女が戻ってきた。
お茶の入ったティーポットとティーカップを持っている。
その侍女はわたしとフィルクガローレの前にカップを置いて、お茶を注ぎ始めた。
「どうします?わたくしは一日中ここにいますから、時間は大丈夫です。」
わたしとフィルクガローレ、色は違うけれど、目線が合った。本当に、数秒。
「ええ、行かせてくださいませ、お姉様。」
「それは嬉しいわ。せっかくお茶を用意しておいたので、一杯飲んでから戻って欲しいけれど、良いかしら?わたしが育てた紅茶なのだけれど、、、」
、、、ここに自分で農業するお姫様がいました!
「ふふっ、、、何を想像しているのかは知らないけれど、わたくしがわざわざ耕したわけでもないのよ。確か、セルディール由来の魔封具を使ったのよ。勿論、作業はわたくしも行いましたからね。大変でしたから、、、飲んでいってくれたら嬉しいわ。」
なんだ、そんなことなかったようです。
面倒だけれど、毒味をしたフィルクガローレに続いて紅茶を飲む。
美味しい。
わたしのいるマルジュシエールは、どちらかと言うといつも寒い。八月だけれど、20度くらいしか無いのだと思う。

下の方で、カツカツと靴の音がしてくる。
「あら、カルムイェリス?それは大変、、、」
小さな鏡のようなものをテーブルから持ってくると、顔に安堵の表情を浮かべた。
「ファスモーデュ、大丈夫よ。離宮側の守護騎士だったようだから。ところで、お茶会はいつにいたしますか?5タームくらいなら丁度いいと思うけれど、ファスモーデュの都合があるかもしれないからわからないわね。」
「側近の身で申し訳ありませんが、本日の4と半タームでカルムイェリス様たちが移動されるようですので、5タームほどが最適かと存じますが、いかがなさいますか?」
日程を調整するのはリリアーナだ。もう一度言うけれど、リリアーナだ。
、、、うん。つまりよく分かってない!
「良いと、、、思います。」
「ええ、分かりました。5タームで待っていますから、来てちょうだいね。」
その後少ししてから、わたしたちはサンチュルーヌ宮へ戻った。
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