ケダモノのように愛して

星野しずく

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ケダモノのように愛して.50

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「え~、それだけ~?出前十回分タダとか出来ない?」

「そんなことしたらうちが潰れる」

「ちぇっ、しけてんな」

「うるさい。そんな店の飯ばっかり食ってるくせに」

「はいはい、分かりましたよ。じゃ、またな」

「ああ、気をつけて帰れよ」

 咲那は黙って頭を下げた。



「ほれ、メット」

「あ、うん…」

 咲那は桔平からヘルメットを受け取った。



「お前、なかなか言うようになったな」

 桔平に冷やかされ、咲那は顔を赤らめた。



「別に…、ただムカついだだけ」

「ふうん」

 桔平はそれ以上何も言わなかった。



 二人はバイクに乗り桔平の家へ向かった。

 バイクの後ろに乗るのは格別だ。

 桔平のことを人目を気にすることなく思い切り抱きしめられるから。

 咲那は、広くてたくましいその背中に顔をうずめられる幸せを噛みしめた。



「咲那、今日はすぐ帰れ。まりあさんきっと心配してるから」

「え、でも…」



 こんな時だからこそ桔平といたかった。

 さっきはあんな風に威勢のいいことを言ってしまったけど、本音を言うとやっぱり怖かった。

 何しろ未遂に終わっているとはいえ、前日も水谷に襲われているのだ。

 自暴自棄になった人間はどんな行動をするか分からないことを思い知った。

 だから今はもう少し桔平にくっついていたかった。



「今帰ってもお母さんまだ帰って来てないよ…」

 咲那は何とかして少しでも桔平と長くいられる理由を作りたかった。

「う~ん、そうか?」



 時刻は午後六時を少しまわったばかりだ。

 確かに普通の日ならまりあはまだ帰ってこない時間だ。

 だが、何もなかったとはいえ母親なら娘の無事な姿を一刻も早くその目で確かめたいと思うのが普通だろう。



「まあ、じゃあ茶でも飲んでけば」

 桔平はポリポリと頭を掻きながら階段に足をかけた。

「うん!」



 咲那はこんなときまで母のまりあより桔平を選んでしまうことを少し申し訳なく思った。

 でも、咲那にとって桔平の存在はどうしようもなく大きくて…、彼を求める気持ちは抑えることなどできなかった。



「しっかし腹減ったな~。今日はさすがに銀次の店の出前を取るわけにはいかないし」

 桔平は冷蔵庫を開けてお茶とビールを取り出した。

 あいかわらず冷蔵庫にはそれ以外まともなものは入っていない。



「だから昨日私がスーパーで買い物するって言ったのに」

「バカ、あの時は襲われた直後だっただろうが。そんな時に買い物する奴がどこにいるんだ」

「だって、実際こうやって困ってるじゃん」

「そんなことはいいから、こっちこいよ」

 桔平に言われてその横に腰をおろした。
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