ケダモノのように愛して

星野しずく

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ケダモノのように愛して.64

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「写真甲子園に出す写真がどうのって言ってたけど、俺たちが高校の時にはなかったからな」

「そうなんだ…」

「まあ、菊池にも久しぶりに会えるし、楽しみだ」

「うん!」

 咲那は着替えるために自室に向かった。



 ホッと一息つくと、昨日のことが蘇ってくる。

 あれから桔平は佳乃さんと話をしたのだろうか…。

 やはり一番気がかりなのは桔平のことだった。

 いつもみたいに桔平の家へ飛んでいくことも出来ない。

 何もできないモヤモヤが心の中で膨れ上がっていく。



「咲那~」

 リビングから洋平の呼ぶ声が聞こえた。

「は~い」

 キッチンを覗くと、いつの間にかまりあが帰って来ていた。



 言っていたとおり早く帰って来てる。

 可愛いな、お母さん…。

 咲那は、普段はあまり口にしないけれど、実は今でもまりあがお父さんにベタ惚れなことは知っている。

 よく離れてて寂しくないよな~。

 私なんて、桔平とちょっと離れてるだけですぐ会いたくなっちゃうのに…。



 大人は不思議だ。

 すごく愛してるのに会いたいのを我慢出来るなんて…。

 今の自分にはよく分からないや。



「咲那、ほらこれ見るか?」

 洋平はタブレットを手にしていた。

 画面を覗くとつい先日まで滞在していた南米で撮った写真だった。

 日本とは違う鮮やかさがそこにはあった。



「うわあ、綺麗!」

 写真にそれほどの情熱を持っていない咲那でも、その美しさには自然と引き込まれた。

 日本には日本の美しさがあると思う。

 だけど洋平が海外に行くのは多分こういう鮮やかな色合いが好きなためなのかなと今なら思う。

 空気や気候、地形など色々な要素が集まってこの鮮やかな色が生まれるのだろう。



 自然が作り出すものだから、それをレンズに収めたければそこに行くしかないのだ。

 自分が写真を撮る様になって初めてそのことに気がついた。

 こんな風にお父さんの作品をじっくりと見る気持ちになったのは初めてのことだった。

 そんな二人をまりあはキッチンから嬉しそうに眺めていた。



 放課後の写真部の部室で、咲那はまたしてもひなたと滝口につかまっていた。

 いよいよ明日家に来ることが決まったらしい。

 だからといって別にどうということはないのに、二人はその緊張を咲那にぶちまけてくる。

 自分の父親だから、咲那にその気持ちは理解出来っこないというのに。

 ようやく解放されて、家に帰るともうまりあの車が停まっていた。



「ただいま~」

 廊下を歩きながらリビングを覗くと、洋平は電話をしていた。

 キッチンではまりあが今日も麺を茹でている。
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