初恋がこじれにこじれて困ってます

星野しずく

文字の大きさ
22 / 37

初恋がこじれにこじれて困ってます.22

しおりを挟む
「さては、真田だな。」笹本さんはスッと引き戸を引いた。

「あっ!」という声とともに日奈子が部屋に転がり込んでくる。

「お前なー、盗み聞きなんてするか?全く、子どもみたいなやつらばかりで、俺は頭が痛い。」

「ごめんなさい。どうしても我慢出来なくて…。でも、ドラマチックでいい話じゃないですかー。沙耶って純粋~。愛しの一ノ瀬さんを追いかけてこんなところまで来ちゃうなんてー。」

 日奈子は日奈子で勝手に美しいストーリーを脳内で作り上げてしまっているようだ。

「もう、このまま付き合っちゃえばいいじゃないですか。部長の口からハッキリと二人は付き合ってるって言えば、みんなもそうなんだって納得してまあるく納まるわけでしょう。」

 日奈子は他人事だと思って大胆な提案を気軽にする。

「ええーっ!だ、ダメだよそんなの。」

 沙耶はオロオロと瞬ちゃんの顔と部長の顔を交互に見る。瞬ちゃんは相変わらず苦虫を?み潰したように不機嫌なままだ。しかし、部長はニンマリとした表情で顎をさすっている。

「そうだな、それが一番丸くおさまるな。よし、じゃあそういうことだから、お前たちは今日からカップルだ。それなりの行動をするように頼んだぞ。」

「はあー?」

「ええーっ!」

 瞬ちゃんと沙耶は一斉に反発の声を上げるが、部長の中ではもう話は終わっているようだ。

「よーし、そうと決まったら、夕食の時にみんなに発表することにしよう。あー、ひとつ問題が片付いた。真田、お前中々機転が利くな。」

「いえいえ、お役に立てて光栄です。」

 なんだこの悪代官とあきんどみたいなやり取りは。渦中の二人は取り残されたまま、勝手にことが進んでいってしまう。

 しかし、どうやら止められそうにない。困った表情で瞬ちゃんを見つめても、瞬ちゃんは相変わらず沙耶の方を見ようとはしない。
 
 はぁ、こんなんで付き合ってますって言ってみんなが納得するなんて思えないよ。沙耶は心の中で深いため息をついた。

 夕食の時間になり皆が食堂に集まってきた。

「夕食の前にみんなに報告しておきたいことがあります。えー一ノ瀬と森崎のことですが、ここに来る途中、みんなも見ていた通り、知らない間がらではありません。つまり、二人は付き合っています。ということで、皆さん温かく見守ってやりましょう。では、一ノ瀬から一言。」

 笹本さんが瞬ちゃんに目くばせする。

「みんなに内緒にしていましたが、森崎君とは実家が隣同士で幼馴染みで、今は付き合っています。きっかけが無くてみんなに報告が遅れてすみませんでした。」

 そう言って頭を下げた。続いて、笹本さんは沙耶にも目くばせする。

「え、えっと、入ったばかりにお騒がせしてスミマセン。一ノ瀬さんと、お、お、お付き合いさせていただいています。よろしくお願いします。」

 何がよろしくお願いしますなのか分からないが、いきなり付き合っている宣言をする羽目になってしまった。

 普通カップルになったからって、わざわざみんなの前で発表するなんてことある?沙耶は激しい疑問が湧いてくる。

「じゃあみんな、今日はお疲れさん。いただきまーす。」笹本さんの一声で、みんなの食欲は爆発した。

「いっただきまーす。」

 軽い昼食を取っただけで、ほぼ一日歩き通しだったから、沙耶もお腹は空いているんだけれど、とんだ展開になってしまったせいで、ご飯があまり入っていかない。

「おーい、新入部員、ちゃんと食べてるかー?明日も結構歩くから、しっかり食べとかないとバテるぞ。」

「食べてまーす。」

 沙耶を除いた3人は元気よく答える。

「何だ、森崎、元気ないじゃないか。おーい、一ノ瀬お前の奥さんが調子悪いぞ、見てやれ。」

「え、あ、だ、大丈夫ですから。」

 沙耶は、瞬ちゃんの不機嫌そうな顔を想像してあたふたしていると、なんと食器を持った瞬ちゃんが沙耶の隣に移動してきた。

「どうした、お姫様。俺が食べさせてやろうか?」

「えっ?」

 固まる沙耶に、瞬ちゃんは大まじめにスプーンを構えている。

「キャー、いいな沙耶ー。」

「見せつけるねー、ご両人。」

 周りから歓声が上がる。沙耶は後に引けない雰囲気に、口をあーんと開けると瞬ちゃんはスープをすくって沙耶の口に運んでくれた。

「おいしいか?」

 沙耶は顔を真っ赤にして、頭を縦に振ることしかできなかった。

「うわー、熱い熱い。」

「オープンにしたとたんにこれだもん。先が思いやられるな。一ノ瀬、少しは遠慮してくれよ。」

「はあ?このぐらい何だって言うんだよ。キスして見せてる訳でもあるまいし。子どもか。」

「うわー、一ノ瀬がご乱心だー。」

「これは、これで面白いな。」

 などなど、部員の反応はさまざまだったが、サークルにはこれまでにもカップルは何組かいたはずで、そんな特別扱いという感じではなかった。

 それよりも、沙耶は瞬ちゃんの変貌ぶりに驚いていた。

 これは、みんなを前にしたパフォーマンスだとしても、記憶の中の瞬ちゃんは、こんなことが出来るタイプではなかったと思う。

 会っていなかった数年で、瞬ちゃんの人格はかなり変わってしまったのだろうか。

「ほら、ちゃんと食べろよ、沙耶。」

「は、はいっ!」

 沙耶は、横にいられたら、緊張で余計に食べられないじゃんと思いながらも、嬉しさで思わず顔が緩むのが分かる。

 どうにか出された分を平らげると、瞬ちゃんはふきんを手にして沙耶の唇についたケチャップをふき取った。

 沙耶は驚いて思わず唇に手をやった。

「まったく、沙耶はいつまでも子どもみたいだな。」

 どうしてそんな恥しいセリフが出てくるの…。沙耶は口ごもる。

「べ、別に、ちょっと汚しちゃっただけだし、子どもじゃないし。」

「あ~あ、もう見てらんねーな。部屋行って寝よーっと。お二人さん、ごゆっくりー。」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

不遇な令嬢は次期組長の秘めたる溺愛に絡め取られる。

翼 うみ
恋愛
父の会社を立て直す交換条件のため、ほぼ家族に身売りされた形で関東最大級の極道・桜花組の次期組長に嫁入りしたジェシカ。しかし母を亡くして以降、義母と義妹に虐げられていたジェシカは実家を出られるなら、と前向きだった。夫となる和仁には「君を愛することはない」と冷たく突き放される。それでもジェシカは傷つくことはなく、自分にできることを探して楽しんでいた。 和仁には辛い過去がありそれ故に誰のことも愛さないと決めていたが、純真で健気なジェシカに段々と惹かれてゆき――。 政略結婚から始まる溺愛シンデレラストーリー。

黒瀬部長は部下を溺愛したい

桐生桜
恋愛
イケメン上司の黒瀬部長は営業部のエース。 人にも自分にも厳しくちょっぴり怖い……けど! 好きな人にはとことん尽くして甘やかしたい、愛でたい……の溺愛体質。 部下である白石莉央はその溺愛を一心に受け、とことん愛される。 スパダリ鬼上司×新人OLのイチャラブストーリーを一話ショートに。

俺を信じろ〜財閥俺様御曹司とのニューヨークでの熱い夜

ラヴ KAZU
恋愛
二年間付き合った恋人に振られた亜紀は傷心旅行でニューヨークへ旅立つ。 そこで東條ホールディングス社長東條理樹にはじめてを捧げてしまう。結婚を約束するも日本に戻ると連絡を貰えず、会社へ乗り込むも、 理樹は亜紀の父親の会社を倒産に追い込んだ東條財閥東條理三郎の息子だった。 しかも理樹には婚約者がいたのである。 全てを捧げた相手の真実を知り翻弄される亜紀。 二人は結婚出来るのであろうか。

『冷徹社長の秘書をしていたら、いつの間にか専属の妻に選ばれました』

鍛高譚
恋愛
秘書課に異動してきた相沢結衣は、 仕事一筋で冷徹と噂される社長・西園寺蓮の専属秘書を務めることになる。 厳しい指示、膨大な業務、容赦のない会議―― 最初はただ必死に食らいつくだけの日々だった。 だが、誰よりも真剣に仕事と向き合う蓮の姿に触れるうち、 結衣は秘書としての誇りを胸に、確かな成長を遂げていく。 そして、蓮もまた陰で彼女を支える姿勢と誠実な仕事ぶりに心を動かされ、 次第に結衣は“ただの秘書”ではなく、唯一無二の存在になっていく。 同期の嫉妬による妨害、ライバル会社の不正、社内の疑惑。 数々の試練が二人を襲うが―― 蓮は揺るがない意志で結衣を守り抜き、 結衣もまた社長としてではなく、一人の男性として蓮を信じ続けた。 そしてある夜、蓮がようやく口にした言葉は、 秘書と社長の関係を静かに越えていく。 「これからの人生も、そばで支えてほしい。」 それは、彼が初めて見せた弱さであり、 結衣だけに向けた真剣な想いだった。 秘書として。 一人の女性として。 結衣は蓮の差し伸べた未来を、涙と共に受け取る――。 仕事も恋も全力で駆け抜ける、 “冷徹社長×秘書”のじれ甘オフィスラブストーリー、ここに完結。

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

10年引きこもりの私が外に出たら、御曹司の妻になりました

専業プウタ
恋愛
25歳の桜田未来は中学生から10年以上引きこもりだったが、2人暮らしの母親の死により外に出なくてはならなくなる。城ヶ崎冬馬は女遊びの激しい大手アパレルブランドの副社長。彼をストーカーから身を張って助けた事で未来は一時的に記憶喪失に陥る。冬馬はちょっとした興味から、未来は自分の恋人だったと偽る。冬馬は未来の純粋さと直向きさに惹かれていき、嘘が明らかになる日を恐れながらも未来の為に自分を変えていく。そして、未来は恐れもなくし、愛する人の胸に飛び込み夢を叶える扉を自ら開くのだった。

苦手な冷徹専務が義兄になったかと思ったら極あま顔で迫ってくるんですが、なんででしょう?~偽家族恋愛~

霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
「こちら、再婚相手の息子の仁さん」 母に紹介され、なにかの間違いだと思った。 だってそこにいたのは、私が敵視している専務だったから。 それだけでもかなりな不安案件なのに。 私の住んでいるマンションに下着泥が出た話題から、さらに。 「そうだ、仁のマンションに引っ越せばいい」 なーんて義父になる人が言い出して。 結局、反対できないまま専務と同居する羽目に。 前途多難な同居生活。 相変わらず専務はなに考えているかわからない。 ……かと思えば。 「兄妹ならするだろ、これくらい」 当たり前のように落とされる、額へのキス。 いったい、どうなってんのー!? 三ツ森涼夏  24歳 大手菓子メーカー『おろち製菓』営業戦略部勤務 背が低く、振り返ったら忘れられるくらい、特徴のない顔がコンプレックス。 小1の時に両親が離婚して以来、母親を支えてきた頑張り屋さん。 たまにその頑張りが空回りすることも? 恋愛、苦手というより、嫌い。 淋しい、をちゃんと言えずにきた人。 × 八雲仁 30歳 大手菓子メーカー『おろち製菓』専務 背が高く、眼鏡のイケメン。 ただし、いつも無表情。 集中すると周りが見えなくなる。 そのことで周囲には誤解を与えがちだが、弁明する気はない。 小さい頃に母親が他界し、それ以来、ひとりで淋しさを抱えてきた人。 ふたりはちゃんと義兄妹になれるのか、それとも……!? ***** 千里専務のその後→『絶対零度の、ハーフ御曹司の愛ブルーの瞳をゲーヲタの私に溶かせとか言っています?……』 ***** 表紙画像 湯弐様 pixiv ID3989101

それは、ホントに不可抗力で。

樹沙都
恋愛
これ以上他人に振り回されるのはまっぴらごめんと一大決意。人生における全ての無駄を排除し、おひとりさまを謳歌する歩夢の前に、ひとりの男が立ちはだかった。 「まさか、夫の顔……を、忘れたとは言わないだろうな? 奥さん」 その婚姻は、天の啓示か、はたまた……ついうっかり、か。 恋に仕事に人間関係にと翻弄されるお人好しオンナ関口歩夢と腹黒大魔王小林尊の攻防戦。 まさにいま、開始のゴングが鳴った。 まあね、所詮、人生は不可抗力でできている。わけよ。とほほっ。

処理中です...