ホストと女医は診察室で

星野しずく

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ホストと女医は診察室で.01

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 町田慶子は、昨年オープンしたクリニック慶子の院長として今日も忙しく診察に追われていた。

 夕方を過ぎた頃、やけに待合室が騒がしい様な気がしていたが、その内容までは診察室に届いてこない。

「次の方、どうぞ」

 慶子が呼びかけると、どうやらその騒がしさの原因と思われる人物が、付き添いの人物を引き連れて診察室に入ってきた。



「ったく、何でもねえって言ってるだろ!」

「だって、絶対熱あるっスよ」

「うっせーな、だったら何なんだよ。真也はいつも大げさなんだよ」



 慶子の存在など完全に無視して、二人は大声で話し続けている。

「今日は、どうされましたか?」

 慶子としては次の患者のことを考えると、早く診察を済ませたい。

「どうもしてない。こいつが勝手に連れて来ただけ」

「あ、えっと、聖夜さん、すっごい熱があるんですけど、大丈夫だって仕事休もうとしないんです。だから僕が、病院で診てもらわないとダメですって言って、無理やり連れて来たんです」

「それで、熱は何度あるんですか?」

「39度6分です」

「いちいち言わなくていい。そのくらいなんでもねえよ。さあ、行くぞ」

 立ち上がろうとする聖夜という男を慶子は止めた。



「念のためインフルエンザの検査をします。もし、インフルエンザだったら、熱が下がってから五日くらいはお仕事は休んでください。他の人にうつりますので」

「はあ、五日?そんなに長い間仕事休めるわけねえだろ」

「ちょ、ちょっと、お仕事仲間の人がみんなインフルエンザになったら、あなたのせいですよ。それでもいいんですか?」

 なるべく平静を装おうとしてはみるものの、目の前の男性の子どもの様な振る舞いに思わず慶子の語気が荒くなる。

「ちぇっ、うるせえ女だな…。じゃあその検査とやらを早くやってくれよ」

 慶子は手早く検査キットを取り出すと、鼻の粘膜をこすり取った。

 しばらくして検査結果が出た。

 陰性だった。



「インフルエンザではありませんでした。風邪だと思います。念のため胸の音を聞きますので、胸を開けてください」

 聖夜がシャツをはだける。

「キャッ!」

 慶子は思わず声をあげてしまった。

 シャツをはだけた聖夜の胸には、激しい情事の痕跡であろうキスマークがあっちこっちに付けられていたのだ。

「なんだよ、医者なんだろ。偏見はんたーい」

「そ、そういう訳じゃ…。ただ、びっくりしただけです」

 慶子はそう言うと、おずおずと聴診器を当て心音を聞いた。



「特に異常はないようですね。本当は安静にしてもらいたいのですが、お仕事が休めないのであればお薬だけはちゃんと飲んでください」

「は、はい、ちゃんと飲ませます」

 真也という付き添いの男性が答える。

「なんで、お前が答えてんだよ」

「す、すみません。僕が勝手に連れてきちゃったから」

「風邪なら大丈夫だ。今夜ひと汗かけば治る」

 そう言って慶子に意味深なウインクをした。

「お、お大事に…」
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