ホストと女医は診察室で

星野しずく

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ホストと女医は診察室で.05

 聖夜はフッと笑顔で答えた。
 
 こんなの営業スマイルだ。

 頭では分かっていても、そんな風に自分に関心を持ってもらうことに慣れていない慶子はそれだけでフワフワと落ち着かない気分になっていることに戸惑う。



「じゃあ今夜は飲んでも大丈夫だね」

「え、ええ、まあ…」

「何にする?」

 聖夜はメニューを取り出した。

 お酒をおいしいと思ったことがない慶子には、どれを飲んでも一緒のことで、選ぶ時はいつも相手に合わせていた。



「俺、スパークリングワインが好きなんだけど、一緒に飲まない?」

 なかなか選ぶことが出来ない慶子に、聖夜はスマートに対応してくれる。

 何だか、別人みたい…。

 病院に来るときのガラの悪い聖夜しか知らなかった慶子は、目の前にいるのが同一人物であることを中々受け入れることができないでいた。

「それでいいわ…」

 運ばれてきたワインで乾杯して、慶子は一気に飲み干した。



「お、ピッチ早いね。無理しなくていいよ」

 こんな優しいことも言えるんだ…。

 慶子は男社会である医療の世界に入って以来、男性は常に競争相手であった。

 当然女性だからといって優しくされることなど考えられない。



「ねえ、先生。どんなタイプが好き?」

 聖夜は店のホストの写真がズラリと並んだお品書きの様なものを見せた。

 ホストクラブというところは、普通は入店するとまずこの中から好みの男の子を選ぶらしい。

 ただ、慶子は聖夜に招かれていたので、最初から聖夜がついているのだ。

 しかし、聖夜は店のナンバーワンのため、次々と指名が入る。

 そこで、代わりのホストが入るという仕組みらしい。



「え~っと」

 選べと言われても、こんな風にズラリと並べられた中から男性を選んだ経験などない。

 ここでも慶子はもたもたと迷ってしまう。

 病院でテキパキと仕事をこなしている自分が本来の姿だと思っていたのに、違う環境に置かれるとこんなにも優柔不断になってしまうなんて…。

 慶子は自分が情けなくなる。



「先生、ここは女の子のための店なんだから、もっと気楽にしてよ。ほら、この子なんかどう?」

 女の子だなんて…、こんなおばさんつかまえて、ホストってホントにうまいこと言うんだから。

 そう思いながらも、慶子はやっぱり嬉しいと思ってしまった。

 慶子は現在三十二歳だ。

 もう決して若いとは言われないけれど、完全なおばさんでもない年齢だ。

 どちらにしても、慶子は自分に女性としての魅力があるなどとは今まで一度も思ったことが無い。



 聖夜が勧めてくれたホストは、イケイケな感じではなく、癒し系の優しそうなタイプだった。

「じゃあ、その、里見くんでお願いします」

「分かった。また戻ってくるから、ちょっと待っててね」

 聖夜はウィンクすると他の客の所へ行ってしまった。

 代わりに入ってくれた里見くんは写真の印象のとおりで、顔はもちろん、声も優しくてすっかり癒されてしまった。

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