ホストと女医は診察室で

星野しずく

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ホストと女医は診察室で.14

 昨日は少し気を許すと聖夜のことが頭をよぎっていた慶子だったが、仕事が始まってしまえば目の前の患者さんに向き合うことで精一杯になる。

 仕事が終わってからも、スタッフの労務管理や最新医療の勉強など開業医は多くのことをこなさなければならない。

 夕食を食べてお風呂に入ると、もう十一時近くになっていた。

 それが慶子にとっては当たり前であって、これまで特に疑問に感じることはなかった。

 しかし聖夜に会ってしまった今、拘束時間が長い医師という仕事を少しだけ窮屈に感じている自分がいた。



 今度の土曜日にお金を返しに行こう。

 ちゃんとした理由があるのだ。

 慶子は自分にそう言い訳をして、聖夜に『土曜の九時頃行きます』とメッセージを送った。

 接客中なのだろう、返事はすぐには来なかった。

 慶子は少しテレビを見たあと、明日の仕事のことを考えて、十二時を回っても来ない聖夜からの返事を待つことなくベッドに入った。



 翌朝目覚めてスマホを見ると聖夜から返事が届いていた。

 『お待ちしてます。会えるのが楽しみです』

 「会えるのが楽しみ」なんて当たり前の社交辞令も、聖夜からだと嬉しく感じる。
 
 返信時刻は深夜二時となっていた。

 夜遅くまで大変な仕事だな。

 今頃はまだ布団の中だろう。

 慶子は食事の前の日課であるウォーキングに出かけた。

 医師は自分の健康維持も仕事のうちだ。

 その後食事と家事を済ませ、クリニックである一階に下りて行けばもう仕事の始まりだ。

「さあ、今日も気を引き締めて頑張ろう」

 慶子は頭を仕事モードに切り替えた。



 土曜の午前は一週間で最も混雑する。

 診察時間は十二時三十分までとしてあるが、実際最後の患者さんの診察が終わるのはその二、三時間後であることも珍しくない。

 看護師たちが帰り、慶子は二階に上がると遅い昼食を取った。

 今日はいよいよ聖夜の店に行く日だ。

 この間のような失態は繰り返さないようにしなければ…。

 まさかホストクラブに初めて行ったその日に、ホストと身体の関係を持ってしまうなんて…。



 慶子はこれまでの絵に描いたような真面目一辺倒の自分の人生から、初めて脱線したあの日の出来事を今でも現実のものと思えないでいた。

 だが、頭でいくら否定しようとしても身体はちゃんと覚えているのだ。

 聖夜と触れ合ったあの日の感触を…。

 そして、あの日以来聖夜のことを意識している自分がいる。

 自分は医師としては順調に歩んできたけれど、ある意味それは女性としての生き方を捨ててきた結果でもある。

 だから、自分がそういうことに疎いという自覚はあるつもりだ。

 聖夜はホストで全ては仕事だと分かっている。

 分かっているけれど、聖夜に対する気持ちをどう扱ったらいいのか分からないから困るのだ。 

 少し疲れたな…。

 慶子は軽く昼寝をするつもりでソファに横になった。



 ハッと目覚めると外は真っ暗だった。

 時計を見るともう六時をまわっている。

 美容室に行ってから聖夜の店に行くつもりだった。

 慌ててネットから予約を取れるか確認する。

 いつもの美容室でなんとか七時三十分から予約を取ることが出来た。



 慶子は仕事の時はロングのストレートの髪をいつも後ろでまとめている。

 前髪をカットしてもらうだけのつもりだったけど、せっかく聖夜のところに行くのだからセットもしてもらおうか。

 いやいや、そんな大げさなことわざわざするなんて自分らしくない…。

 完全にはしゃいでいる自分に慶子は戸惑う。

 あ~あ、いい歳して何やってんだか。

 一回でホストにハマるなんて。

 しかも、病院に来た時の彼の態度といったら最悪で…、関わりたくないとさえ思ったっていうのに。

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