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はじまりの散歩。
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この春、東京都心から電車で約3時間の場所にある桜花大学に入学する事になった。
僕は生粋の東京産まれ東京育ちなので、田舎暮らしに憧れていたから迷わず地方の大学を選択。東京は便利で何でもすぐに手に入る、だがその分人が多く騒々しい。そんな東京に嫌気がさした僕「川上悠人」は田舎の大学に入学した。
有名大学でも何でもない地方大学で、偏差値はそこそこ、どちらかと言えばスポーツに力を入れている。確か正月の駅伝大会とかに出場して名前だけは聞いた事があった…様な気がする。あまりスポーツには興味がないので、詳しくは分からない。
僕は桜花大学の経済学部を選択、元々勉強はそれなりに出来る方なので受験は余裕の現役合格。家族にはもっと有名大学に行けたのに、と言われたが有名大学はだいたい都心にあるので嫌だった。
何よりこの大学を選んだ一番の理由、それは町の環境だ。自然が豊かで山やキレイな川があって、古い建物もいっぱい残っている。住んでる人もみんなどこかのんびりとしていて、知らない人にも挨拶してくれる。一度大学の下見に行って、すぐにこの町が好きになってしまった。
流石に東京から通学するには無理があるので、人生初の一人暮らしを始める。東京に比べれば格段に家賃が安いアパートなので助かる。親には学費を出してもらっているので、せめて家賃くらいはバイトして自分で払うつもりだ。
引っ越しも一段落し、荷物もだいぶ片付いた。僕の部屋は川沿いのアパートの2階で、ベランダから川がよく見える。穏やかな水の流れに陽の光がキラキラと反射してとてもキレイだ、その川の奥にポンっと小高い山が見える。スマホで調べてみたら、山の名前は「白銀山」高さは200mくらいで山頂には城跡があるらしい。町のちょっとした観光地になっているみたいで、とても興味をそそられる。
今日は土曜日、天気も良好、そうだ!午後からあの山に行ってみよう。僕は昼ごはんを早々に済ませて、散歩気分で白銀山を目指す事にした。麓までは歩いて10分、大きな寺から登山道に入り、だいたい30分くらいで登れば着くと看板に書いてあった。体力にはあまり自信が無いが、30分くらいの登りなら何とかなるだろう…と思っていたのだが、意外と登ってみるとキツくすぐに息切れがしてきた。
やっとの思いで山頂付近に到着すると、城跡特有の土嚢や石垣が現れた。なんだか冒険気分になる感じがまた良い、ワクワクしながら奥へ進んで行くと展望台があった。晴れていたので眺めは最高、遠くの山々や町やこれから通う桜花大学が一望できた。僕は軽く深呼吸し、新しい生活の始まりに胸を躍らせた。
展望台からさらに奥に進むと、どうやら白銀神社なる所があるようだ。よし、神社でお参りでもして今後の無事を祈るか。展望台から歩いて5分の場所に神社はあった。こじんまりとしているが、ちゃんと整備されていて雰囲気のある神社だ。
神社に入ってお参りをして、神社の周りをぐるっと一周してみる。すると社の裏手のベンチに猫が2匹、日向ぼっこをしながらウトウト昼寝をしている。とても癒される光景に、遠巻きからしばしその様子を眺めていた。東京の野良猫とは違いこちらの猫は警戒心が薄い、人がジッと見ているのに全く動じない。
「かわいいだろ?」
突然後ろから人の声が、僕は慌てて振り向くと、そこには神社の巫女さんが立っていた。髪は黒髪ロングのストレートで、身長は僕とほぼ同じくらい、いやほんのちょっと高いかな、凛として気の強そうな整った顔。巫女さんを絵に描いた様な巫女さんだ。
「好きなの?」
「あ…はい…それなりに」
「そう、よくあそこで昼寝してるから、可愛くて私も見に来るんだよ」
「そうなんですね」
「なんなら触っても逃げたりしないよ」
「いや、寝てるのに可哀想なので」
「おっ優しい、ではごゆっくり」
と言って巫女さんは去っていった。突然の出来事にドキドキしてしまったが、気を取り直して猫達を愛でる。そう言えばあの巫女さんキレイだったなぁ、なんて邪な事を考えていると猫達が起き始めてサッと何処かへ行ってしまった。
そろそろ帰るか、僕は神社の境内に戻る。するとさっきの巫女さんがお守りやおみくじを売っている社務所にいた。
「おっ猫達はどうだった?」
この町の人々は本当に知らない人でも気さくに話しかけてくる、東京じゃ滅多に無い事だ。
「可愛かったです」
「そうか、いつもこの辺りをウロウロしているから、また見に来なよ」
「はい、ありがとうございます」
「ってこんな山の上にわざわざ猫なんか見にこないよね、あはは」
見た目とは裏腹によく喋る人だなと思った。巫女さんってもっと厳かで近寄り難い雰囲気があるものだと思っていたが、この人はとてもフレンドリーだ。ついでにお守りでも買って行こうかと、棚に並べてある物を覗いてみる。
「おっなんか買ってくれるのかな?そんな大したご利益はないけど、良かったらお一つどうぞ」
おいおい、そんな身も蓋も無い事をと心の中でツッコミながら、お守りを購入。
「ありがと!また暇ならいつでもおいでよ」
何か若いわりに田舎のおばあちゃんみたいな事を言い人だな、これも土地柄なのか。でも今のところ誰も知り合いのいないこの土地で、いつでもおいでよなんて言われたら悪い気はしない。僕は素直にお礼を言って神社を後にした。
僕は生粋の東京産まれ東京育ちなので、田舎暮らしに憧れていたから迷わず地方の大学を選択。東京は便利で何でもすぐに手に入る、だがその分人が多く騒々しい。そんな東京に嫌気がさした僕「川上悠人」は田舎の大学に入学した。
有名大学でも何でもない地方大学で、偏差値はそこそこ、どちらかと言えばスポーツに力を入れている。確か正月の駅伝大会とかに出場して名前だけは聞いた事があった…様な気がする。あまりスポーツには興味がないので、詳しくは分からない。
僕は桜花大学の経済学部を選択、元々勉強はそれなりに出来る方なので受験は余裕の現役合格。家族にはもっと有名大学に行けたのに、と言われたが有名大学はだいたい都心にあるので嫌だった。
何よりこの大学を選んだ一番の理由、それは町の環境だ。自然が豊かで山やキレイな川があって、古い建物もいっぱい残っている。住んでる人もみんなどこかのんびりとしていて、知らない人にも挨拶してくれる。一度大学の下見に行って、すぐにこの町が好きになってしまった。
流石に東京から通学するには無理があるので、人生初の一人暮らしを始める。東京に比べれば格段に家賃が安いアパートなので助かる。親には学費を出してもらっているので、せめて家賃くらいはバイトして自分で払うつもりだ。
引っ越しも一段落し、荷物もだいぶ片付いた。僕の部屋は川沿いのアパートの2階で、ベランダから川がよく見える。穏やかな水の流れに陽の光がキラキラと反射してとてもキレイだ、その川の奥にポンっと小高い山が見える。スマホで調べてみたら、山の名前は「白銀山」高さは200mくらいで山頂には城跡があるらしい。町のちょっとした観光地になっているみたいで、とても興味をそそられる。
今日は土曜日、天気も良好、そうだ!午後からあの山に行ってみよう。僕は昼ごはんを早々に済ませて、散歩気分で白銀山を目指す事にした。麓までは歩いて10分、大きな寺から登山道に入り、だいたい30分くらいで登れば着くと看板に書いてあった。体力にはあまり自信が無いが、30分くらいの登りなら何とかなるだろう…と思っていたのだが、意外と登ってみるとキツくすぐに息切れがしてきた。
やっとの思いで山頂付近に到着すると、城跡特有の土嚢や石垣が現れた。なんだか冒険気分になる感じがまた良い、ワクワクしながら奥へ進んで行くと展望台があった。晴れていたので眺めは最高、遠くの山々や町やこれから通う桜花大学が一望できた。僕は軽く深呼吸し、新しい生活の始まりに胸を躍らせた。
展望台からさらに奥に進むと、どうやら白銀神社なる所があるようだ。よし、神社でお参りでもして今後の無事を祈るか。展望台から歩いて5分の場所に神社はあった。こじんまりとしているが、ちゃんと整備されていて雰囲気のある神社だ。
神社に入ってお参りをして、神社の周りをぐるっと一周してみる。すると社の裏手のベンチに猫が2匹、日向ぼっこをしながらウトウト昼寝をしている。とても癒される光景に、遠巻きからしばしその様子を眺めていた。東京の野良猫とは違いこちらの猫は警戒心が薄い、人がジッと見ているのに全く動じない。
「かわいいだろ?」
突然後ろから人の声が、僕は慌てて振り向くと、そこには神社の巫女さんが立っていた。髪は黒髪ロングのストレートで、身長は僕とほぼ同じくらい、いやほんのちょっと高いかな、凛として気の強そうな整った顔。巫女さんを絵に描いた様な巫女さんだ。
「好きなの?」
「あ…はい…それなりに」
「そう、よくあそこで昼寝してるから、可愛くて私も見に来るんだよ」
「そうなんですね」
「なんなら触っても逃げたりしないよ」
「いや、寝てるのに可哀想なので」
「おっ優しい、ではごゆっくり」
と言って巫女さんは去っていった。突然の出来事にドキドキしてしまったが、気を取り直して猫達を愛でる。そう言えばあの巫女さんキレイだったなぁ、なんて邪な事を考えていると猫達が起き始めてサッと何処かへ行ってしまった。
そろそろ帰るか、僕は神社の境内に戻る。するとさっきの巫女さんがお守りやおみくじを売っている社務所にいた。
「おっ猫達はどうだった?」
この町の人々は本当に知らない人でも気さくに話しかけてくる、東京じゃ滅多に無い事だ。
「可愛かったです」
「そうか、いつもこの辺りをウロウロしているから、また見に来なよ」
「はい、ありがとうございます」
「ってこんな山の上にわざわざ猫なんか見にこないよね、あはは」
見た目とは裏腹によく喋る人だなと思った。巫女さんってもっと厳かで近寄り難い雰囲気があるものだと思っていたが、この人はとてもフレンドリーだ。ついでにお守りでも買って行こうかと、棚に並べてある物を覗いてみる。
「おっなんか買ってくれるのかな?そんな大したご利益はないけど、良かったらお一つどうぞ」
おいおい、そんな身も蓋も無い事をと心の中でツッコミながら、お守りを購入。
「ありがと!また暇ならいつでもおいでよ」
何か若いわりに田舎のおばあちゃんみたいな事を言い人だな、これも土地柄なのか。でも今のところ誰も知り合いのいないこの土地で、いつでもおいでよなんて言われたら悪い気はしない。僕は素直にお礼を言って神社を後にした。
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