2 / 11
名前は教えない。
しおりを挟む
次の日の日曜日、僕は午前中に家の雑用をこなして、午後から町の散策に出かけた。
先ずは駅前まで行き、そこから商店街やお寺の参道などを散策、大学にもちょっと寄ってみた。一通り見て周った所で昨日の白銀山が見えた、今日も猫達と巫女さんいるかな?あの30分の山歩きは少々億劫だが、何となく足を運んでしまった。昨日よりは息切れしないで登る事が出来たが、まだまだしんどい事に変わりは無い。
城跡には資料館もあって、入場無料なのでついでに見学してみた。どうやらこの城跡は白銀山城と言って、戦国時代に建てられた城だそうな。あの有名な武田信玄や上杉謙信の攻撃にも耐えた難攻不落の城で、江戸時代に色々お家騒動があって廃城になり今に至るんだとか。
ざっくり言うとそんな感じ、この町の歴史を無料で知る事が出来たので、ちょっと得した気分。さて、では神社に行ってみるか、資料館から神社までは目と鼻の先、あっという間に到着した。
社務所に昨日の巫女さんはいなかったので、社の裏へ猫達を探しに行った。すると今日もベンチの上にいて、二匹で戯れ合っている。かわいいなぁと眺めていると
「おっ青年!今日も来たか!」
昨日の巫女さんがホウキを持って立っていた、僕は軽く挨拶をした。すると巫女さんはベンチに座り、猫達を膝の上に乗せた、猫達は素直に巫女さんの膝に収まった。巫女さんがポンポンとベンチを軽く叩く。
「すわったら?」
僕は促されるままにベンチに座る、すると巫女さんが黒猫の方を僕の膝に乗せてくれた。猫は相変わらず素直に僕の膝に収まり寛いでいる。
「こっちの黒猫がニャー太、そんでこっちのミケ猫がニャー助、私が命名した。覚えやすいだろ?」
「確かに、すぐに覚えられますね」
「2匹ともここ三ヶ月前くらいに住み着いてさ、今じゃ神社のちょっとしたマスコットになっちゃったってわけ」
確かにこの愛想の良さならすぐにマスコットになれる。僕の実家はマンションでペットは禁止、だから動物と触れ合う事は滅多にない。慣れないせいか恐る恐る撫でてみるが、嫌な顔一つせずにゴロゴロと喉を鳴らして撫でさせてくれた。
「あっじゃあ猫達の名前を教えてくれたお礼に自己紹介します!川上悠人です。今年から桜花大学に入学するので、東京から引っ越してきました」
自己紹介がお礼って何か変な感じだけど、何となく巫女さんに自分の事を教えたくなってしまった。
「川上悠人…いい名前だね、じゃあ私も自己紹介しなきゃいけないか…でも…苗字だけでいい?」
巫女さんはちょっと照れ臭そうな顔をした。
「あっもちろんですよ、このご時世ですから個人情報保護法とか何とかありますし、なんなら苗字だって教えなくても、ただ巫女さんに何となく自己紹介したいなと思って、勝手にすいま…」
「山城 山城って言うんだ、山の城にある神社の巫女で山城、覚えやすいだろ?」
「なるほど、これ以上ない覚えやすさですね!」
二人して笑った、猫達はその笑い声にも動じず巫女さんと僕の膝の上で昼寝をしている。
「じゃあ自己紹介したって事は今後とも神社に遊びに来てくれるって事かな?」
「はい、こんなかわいい猫達や話しやすい巫女…いや山城さんがいるんだから来ますよ。何よりこの町に来て初めて出来た知り合いですから」
「そっか、それは光栄だな。でも大学が始まったら友達もいっぱい出来るだろうし、別に無理してこんな所まで来なくたっていいんだぞ?」
「そんなぁ、来てくれるかなって言ったのは山城さんじゃないですかぁ」
「確かに、でも神社にいるのは土日だけだから、あんまり会えないけどね」
この町に来てこんなに人と会話するのは初めてで、ついつい自分の事や町の事など、色々話してしまった。最後まで山城さんの名前は教えてくれなかったけど、別にそんな事はどうでもよい。今はとても満足感に浸っている。小一時間ほど話し込んでから、山城さんは社務所に戻っていった。気づけば猫達も神社の境内を走り回って遊んでいた。
さて僕もそろそろ帰るか、社務所には暇そうにしている山城さんがいた。
「んじゃまたな!大学頑張れよ!」
「はい!ありがとうございます、また来ます」
僕は元来た道を戻り麓の寺にたどり着いた、そこから参道を歩いて、自分のアパートに戻るつもりだったのだが、ふと参道沿いの古い喫茶店に貼ってある貼り紙が目に留まった。
求人募集!
大学生以上
未経験者歓迎
シフト自由
時給応相談
ちょっと古ぼけた張り紙だけど、まだ募集しているのかな?喫茶店はたたずまいからして、20~30年はやってそうな雰囲気だ。今はちょっと疲れているので、お店に入るのはまた今度にしておこう。
まぁバイトはボチボチ探せば良いし、焦る事はないかな。でもコンビニとかスーパーなら東京でも働ける。せっかく田舎に来たんだから、その土地にしかないお店で働きたい。とりあえず僕は求人募集の電話番号を控えて喫茶店を後にした。
今日は本当によく歩いた、おかげでいい感じにお腹も空いてきた、今日は何を食べようか?夕日が沈む町を僕は一人家路に着く。
先ずは駅前まで行き、そこから商店街やお寺の参道などを散策、大学にもちょっと寄ってみた。一通り見て周った所で昨日の白銀山が見えた、今日も猫達と巫女さんいるかな?あの30分の山歩きは少々億劫だが、何となく足を運んでしまった。昨日よりは息切れしないで登る事が出来たが、まだまだしんどい事に変わりは無い。
城跡には資料館もあって、入場無料なのでついでに見学してみた。どうやらこの城跡は白銀山城と言って、戦国時代に建てられた城だそうな。あの有名な武田信玄や上杉謙信の攻撃にも耐えた難攻不落の城で、江戸時代に色々お家騒動があって廃城になり今に至るんだとか。
ざっくり言うとそんな感じ、この町の歴史を無料で知る事が出来たので、ちょっと得した気分。さて、では神社に行ってみるか、資料館から神社までは目と鼻の先、あっという間に到着した。
社務所に昨日の巫女さんはいなかったので、社の裏へ猫達を探しに行った。すると今日もベンチの上にいて、二匹で戯れ合っている。かわいいなぁと眺めていると
「おっ青年!今日も来たか!」
昨日の巫女さんがホウキを持って立っていた、僕は軽く挨拶をした。すると巫女さんはベンチに座り、猫達を膝の上に乗せた、猫達は素直に巫女さんの膝に収まった。巫女さんがポンポンとベンチを軽く叩く。
「すわったら?」
僕は促されるままにベンチに座る、すると巫女さんが黒猫の方を僕の膝に乗せてくれた。猫は相変わらず素直に僕の膝に収まり寛いでいる。
「こっちの黒猫がニャー太、そんでこっちのミケ猫がニャー助、私が命名した。覚えやすいだろ?」
「確かに、すぐに覚えられますね」
「2匹ともここ三ヶ月前くらいに住み着いてさ、今じゃ神社のちょっとしたマスコットになっちゃったってわけ」
確かにこの愛想の良さならすぐにマスコットになれる。僕の実家はマンションでペットは禁止、だから動物と触れ合う事は滅多にない。慣れないせいか恐る恐る撫でてみるが、嫌な顔一つせずにゴロゴロと喉を鳴らして撫でさせてくれた。
「あっじゃあ猫達の名前を教えてくれたお礼に自己紹介します!川上悠人です。今年から桜花大学に入学するので、東京から引っ越してきました」
自己紹介がお礼って何か変な感じだけど、何となく巫女さんに自分の事を教えたくなってしまった。
「川上悠人…いい名前だね、じゃあ私も自己紹介しなきゃいけないか…でも…苗字だけでいい?」
巫女さんはちょっと照れ臭そうな顔をした。
「あっもちろんですよ、このご時世ですから個人情報保護法とか何とかありますし、なんなら苗字だって教えなくても、ただ巫女さんに何となく自己紹介したいなと思って、勝手にすいま…」
「山城 山城って言うんだ、山の城にある神社の巫女で山城、覚えやすいだろ?」
「なるほど、これ以上ない覚えやすさですね!」
二人して笑った、猫達はその笑い声にも動じず巫女さんと僕の膝の上で昼寝をしている。
「じゃあ自己紹介したって事は今後とも神社に遊びに来てくれるって事かな?」
「はい、こんなかわいい猫達や話しやすい巫女…いや山城さんがいるんだから来ますよ。何よりこの町に来て初めて出来た知り合いですから」
「そっか、それは光栄だな。でも大学が始まったら友達もいっぱい出来るだろうし、別に無理してこんな所まで来なくたっていいんだぞ?」
「そんなぁ、来てくれるかなって言ったのは山城さんじゃないですかぁ」
「確かに、でも神社にいるのは土日だけだから、あんまり会えないけどね」
この町に来てこんなに人と会話するのは初めてで、ついつい自分の事や町の事など、色々話してしまった。最後まで山城さんの名前は教えてくれなかったけど、別にそんな事はどうでもよい。今はとても満足感に浸っている。小一時間ほど話し込んでから、山城さんは社務所に戻っていった。気づけば猫達も神社の境内を走り回って遊んでいた。
さて僕もそろそろ帰るか、社務所には暇そうにしている山城さんがいた。
「んじゃまたな!大学頑張れよ!」
「はい!ありがとうございます、また来ます」
僕は元来た道を戻り麓の寺にたどり着いた、そこから参道を歩いて、自分のアパートに戻るつもりだったのだが、ふと参道沿いの古い喫茶店に貼ってある貼り紙が目に留まった。
求人募集!
大学生以上
未経験者歓迎
シフト自由
時給応相談
ちょっと古ぼけた張り紙だけど、まだ募集しているのかな?喫茶店はたたずまいからして、20~30年はやってそうな雰囲気だ。今はちょっと疲れているので、お店に入るのはまた今度にしておこう。
まぁバイトはボチボチ探せば良いし、焦る事はないかな。でもコンビニとかスーパーなら東京でも働ける。せっかく田舎に来たんだから、その土地にしかないお店で働きたい。とりあえず僕は求人募集の電話番号を控えて喫茶店を後にした。
今日は本当によく歩いた、おかげでいい感じにお腹も空いてきた、今日は何を食べようか?夕日が沈む町を僕は一人家路に着く。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
0
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる