死に戻り皇帝ですが、なぜか俺を殺した弟にめちゃくちゃ慕われてます!

砂礫レキ

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夏休み編

夏の日に知る花【終】

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 その後俺はカインに好きな花の名前を聞いた。
 彼は兄である俺の好きな花が自分の好きな花だと即答した。
 実際それは嘘では無いだろう。
 でも俺は何となくそれが正解だとは思えなかった。
 
 カインが自分の好悪を俺のそれに委ねる事。
 それは多分俺にとって都合の良いことだ。
 俺の好きなものを彼が好み、俺が嫌うものを彼も嫌う。
 弟と意見が対立することもない。
 そして成長すればきっと俺が望む通りに彼は道を切り拓くのだろう。

 でもそれでいいのだろうか。
 それはカインを傀儡にするのと同じでは無いか。
 弟が望み幸福だと笑っても小心者で覚悟の無い自分は到底その罪を背負いきれない。
 きっとどこかでカインの手を振りはなして拒否してしまう。

 兄にそうされた彼は底の無い落とし穴に突き落とされたような気分になるだろう。
 彼の赤い瞳が光を失う様を思想像してゾッとした。
 裏切った弟からの報復を恐れてか、弟の心を壊すことへの恐怖なのかわからない。
 だ選びたくない未来であることは確実だった。

「……お揃いも良いけれど、俺はカインが選んだ花を知りたいな」
「僕が選んだ花、ですか?」
「うん」
「でも僕はレオン兄様の好きな花を一番好きになると思うのですが……」
「それでもいいよ。でも好きな花って一つだけじゃなくていいだろ」
「一番じゃなくても……好きな花ですか?」

 俺がそう言うとカインは不思議そうな顔をした。
 もしかして彼の中では一番とそれ以下では大きく差があるのだろうか。

「うん。俺もカインが選んだ花を好きになりたいからな。お揃いだ」
「お揃い……わかりました!」

 愛らしい顔に喜びを浮かべてカインが返事をする。お揃いという言葉が決め手だったらしい。
 この言葉は今後も上手く活用できるなと腹黒いことを考えた。使い過ぎには注意しようとも。

 カインが納得したので俺たちは二人で図鑑を眺めて沢山の花を調べた。
 数時間かけて何冊も本に目を通したが、やっぱりサクラという花はどこにもなかった。
 間におやつの時間を挟んで、やっと俺たちは二種類の花を選んだ。
 それは同じ季節に咲く植物で、並べて花壇に植えたいというカインの要望だった。

 好きな花が決まった喜びか、それとも俺の好きな花を知れた喜びか頬を紅潮させ花の名前を繰り返す弟の柔らかな髪を撫でて別れる。
 そして鏡の前に立ち、ひっそりと花の名前を二つ呟いた。
 どちらがカインの好きな花か知らせず。同じ季節に咲く、よく似た二つの花。色だけが違う。真紅と白。

「ありがとう」

 鏡の奥の声はそれだけを俺に返した。


 それから毎年、決まった日に自室のサイドテーブルに花が一輪置かれるようになった。
 年に二回。決してその花が咲く筈の無い季節でもお構いなしに。
 それは俺とカインの誕生日では無かった。祝日でも無かった。

 彼はそれについて何も言わなかったし俺も訊かなかった。
 その献花は鏡が砕け散るまで毎年続いた。





 そして俺は割れた鏡の破片に捧げるべき花をまだ見つけられないままでいる。


【終わり】 
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