誤解は解きません。悪女で結構です。

砂礫レキ

文字の大きさ
23 / 123
第一部

23.

しおりを挟む
「兄弟に差をつけて育てるにしても限度があると私は思うわ、しかも二人しかいないのに」
「だからよ!」

 私の指摘にマーベラ夫人は即反論した。
 多分今檻の中に指を入れたら噛みつかれるだろう。そのような勢いだった。

「二人しかいないから、余計弁えさせる必要があるのよ。決して自分が兄に成り代われると勘違いしないように……!」
「マーベラ夫人!」

 咎めるような強い声は私ではない。
 今まで女同士のやり取りを困惑したような顔で見守っていた家令のホルガーだった。

「どうか、もうこれ以上は……!」
「うるさい、貴方だって当時私を庇ってくれなかった癖に!!」

 憎しみを私ではなくホルガーに向けマーベラ夫人は叫ぶ。 

「元々は奥様がアルヴァの事ばかり可愛がって増長させたせいであんなことになったのよ!!」
「マーべラ夫人、もう黙りなさい!」
「何よ、あんただって本当はケビン坊ちゃまよりアルヴァの方が相応しいと思っていた癖に!」
「違う、私はそんなことは思っていない!」

 私をそっちのけで意味深な争いをする老人二人。
 あのホルガーが黙れと声を荒げたということは余程聞かれたら困る話のようだ。
 二人とも対面の場にこの地下牢を指定した私に感謝して欲しい。 

(アルヴァって……確かケビンの弟よね)

 私はマーベラ夫人から出た名前と同じ名前を持つキャラを頭に浮かべる。
 ケビンとレオの中間ぐらいの年齢の青年を思い浮かべた。

 アルヴァ・アベニウス。ケビンに良く似た顔をした彼の弟。
 ケビンと共にリリーと幼馴染。昔は兄弟仲が良かったが、成長するにつれて対立。
 そして既に故人。

 子供時代のケビンやアルヴァやリリーが花畑で遊ぶ光景や、成長したケビンとリリーが寄り添っている姿を暗い目で見るアルヴァのシーン。
 そしてケビンとアルヴァが掴み合いの喧嘩をし「お前さえ居なければ」という呪いのような台詞の後にケビンが墓参りする姿。  
 漫画「一輪の花は氷を溶かす」内で出て来た彼の情報は意味深な物ばかりだが、意味深なだけで終わった。 
 多分本編完結後に描きたいと作者が繰り返し言っていたケビン過去漫画で触れるつもりだったのだろう。
  
(でも……前世の私にはそれを読む時間が残されていなかった)

 私は数年の闘病の末に死亡したのだが、末期は流石に漫画を読んでいる余裕など無かったのだ。
 ただ目の前の二人の会話でケビンとアルヴァの関係は多少わかった気がする。

 ケビン兄弟の母親は弟ばかり可愛がっていた。 
 アルヴァは弟の立場でありながら次期公爵の立場を欲し、それを支持する使用人たちもいた。
 ただ現時点で公爵はケビンなので家内クーデターは起きなかったか失敗したと思われる。
 それが原因かは知らないがアルヴァは死亡している。

(マーベラ夫人はアルヴァの教育失敗を咎められたから弟を過剰に抑圧支配するようになった?)

 私はホルガーに唾を飛ばす勢いで怒鳴り続けている彼女を眺めながら思った。
 ただそれだと又新たな疑問が生まれる。

 ケビン兄弟の教育に失敗したと咎められた彼女がその後もアベニウス公爵家で家庭教師を続けられるものだろうか。
 アルヴァの反乱がマーベラ夫人の責任問題になったなら解雇されているのでは。

「……私は再び雇用してくださった、ケビン坊ちゃまのお役に立ちたいだけなのよ!」

 まるで心の声を聞いていたようにマーベラ夫人が叫ぶ。
 成程ケビンが再雇用したのか。それなら納得出来る。
 
 私は考えを纏めると口を開いた。

「マーベラ夫人、つまり貴方は公爵様への恩返しのつもりで、ロン様を絶対兄に反抗しないよう教育したと?」 
「そうよ!今度こそ私は失敗しないのよ!」

 目を血走らせてマーベラ夫人は笑う。反省も後悔もその狂った瞳には宿っていなかった。

「いいえ、失敗するわ。だって貴方……凄く馬鹿だもの」
「……は?」

 私の発言が理解出来なかったのかマーベラ夫人は口をぽかんと開けてこちらを見ていた。
 もしかしてこの人、馬鹿って言われたことが無いのだろうか。私は小首を傾げながら言葉を続けた。

「兄弟に仲違いさせたくないなら、兄は王で弟は奴隷なんて一番やってはいけないことだわ」

 そう、これは貴族とか関係なく育児の基本だ。
 大人たちが子供たちにお前は兄姉だから、或いは弟妹だからという理由で片方だけに不遇を押し付け続ければそれだけで恨み妬みが生まれかねない。
 そして限界まで蓄積されたそれは排除意志に変化する。

「奴隷扱いに不満が出来た時、弟はこう思うでしょうね……自分が先に生まれていれば、兄さえいなければと」
「なっ……」
「つまり貴方のやったことは、全部裏目なの。同族経営の長男と次男なんて寧ろ結束させなきゃいけないのに無駄に対立構造作るとか何考えてるのよ!」

 しまった、前世の自分女社長が出すぎてしまった。息子たちは上手くやれているだろうか。
 そんなことを考えていると場違いな拍手が聞こえる。
 
「その通りだ、メイドの娘の癖に良く知ってるじゃないか」
「あ、貴方は……!?」

 私を睨んでいたマーベラ夫人の顔が驚きに変わる。
 厭味ったらしい台詞に振り向くと、そこには何故か王都に出立した筈のケビンが立っていた。

しおりを挟む
感想 198

あなたにおすすめの小説

七年目の裏切り 〜赴任先の夫から届く愛の手紙は、愛人の代筆でした〜

恋せよ恋
恋愛
「君は僕の最愛だ。もう二度と、君を危険に晒したくない」 命懸けの出産後、涙を流して私を抱きしめた夫ジュリアン。 その言葉通り、彼は「私を大切にするため」に夜の営みを断った。 私は、女としての寂しさを「愛されている誇り」に変え、 隣国へ赴任した夫を信じて二人の子供と家を守り続けていた。 毎週届く、情熱的な愛の手紙。タイプライターで綴られた その愛の言葉を、私は宝物のように抱きしめていた。 ……しかし、その手紙は「裏切り」だった。 夫が異国の地で、愛人と肌を重ねながら綴らせていた「偽りの愛」。 身分を隠して夫の赴任先の隣国へと向かった私が見たのは……。 果たして、貞淑な妻・メラニアが選んだ結論は……。 子供たちのため結婚生活の継続か、それとも……。 🔶登場人物・設定は筆者の創作によるものです。 🔶不快に感じられる表現がありましたらお詫び申し上げます。 🔶誤字脱字・文の調整は、投稿後にも随時行います。 🔶今後もこの世界観で物語を続けてまいります。 🔶 『エール📣』『いいね❤️』励みになります!

王宮メイドは今日も夫を「観察」する

kujinoji
恋愛
「はぁぁ〜!今日も働くヴィクター様が尊すぎる……!」 王宮メイドのミネリは、今日も愛しの夫ヴィクターを「観察」していた。 ヴィクターが好きすぎるあまり、あますところなく彼を見つめていたいミネリ。内緒で王宮メイドになり、文官である夫のもとに通うことに。 だけどある日、ヴィクターとある女性の、とんでもない場面を目撃してしまって……? ※同じものを他サイトにて、別名義で公開しています。

家出を決行した結果

恋愛
フィービーの婚約者ミゲルには大切な幼馴染がいる。病弱な幼馴染をいつも優先するミゲルや母が亡くなって以降溝が出来てしまった父と兄との関係にフィービーは疲れていた。 デートの約束をしてもいつも直前になって幼馴染を理由にキャンセルされ、幼馴染にしか感情を見せないミゲルを、フィービーを見ようとしない父や兄を捨てる決心をしたフィービーは侍女や執事の手を借りて家出を決行した。 自分を誰も知らない遠い場所へ行ったフィービーは、新しい人生の幕開けに期待に胸を躍らせた。 ※なろうさんにも公開しています。

三年目の離婚から始まる二度目の人生

あい
恋愛
三年子ができなければ、無条件で離婚できる――王国の制度。 三年目の夜、オーレリアは自らその条文を使い、公爵ルートヴィッヒに離婚を告げた。 理由はただ一つ。 “飾り”として生きるのをやめ、自分の手で商いをしたいから。 女性が公の場で立てる服を作るため、彼女は屋敷を去り、仕立て屋〈オーレリア・テイラーズ〉を開く。 店は順調に軌道に乗り、ついに王女の式典衣装を任されることに。 だが、その夜――激しい雨の中、彼女は馬車事故に遭い命を落とす。 (あと少し早く始めていたら、もっと夢を叶えられたのに……) そう思った瞬間、目を覚ますと――三年前、ルートヴィッヒと結婚する前の世界に戻っていた。 これは、“三年目の離婚”から始まる、二度目の人生。 今度こそ、自分の人生を選び取るために。 ーーー 不定期更新になります。 全45話前後で完結予定です、よろしくお願いします🙇

第二王女と次期公爵の仲は冷え切っている

山法師
恋愛
 グレイフォアガウス王国の第二王女、シャーロット。  フォーサイス公爵家の次期公爵、セオドア。  二人は婚約者であるけれど、婚約者であるだけだった。  形だけの婚約者。二人の仲は冷め切っているし冷え切っている。  そもそも温度など、最初から存在していない。愛も恋も、友情も親しみも、二人の間には存在しない。  周知の事実のようなそれを、シャーロットもセオドアも否定しない。  お互いにほとんど関わりを持とうとしない、交流しようとしない、シャーロットとセオドアは。  婚約者としての親睦を深める茶会でだけ、顔を合わせる。  親睦を深める茶会だというのに、親睦は全く深まらない。親睦を深めるつもりも深める意味も、二人にはない。  形だけの婚約者との、形だけの親睦を深める茶会。  今日もまた、同じように。 「久しぶりに見る君が、いつにも増して愛らしく見えるし愛おしく思えて、僕は今にも天に召されそうなほどの幸福を味わっている。──?!」 「あたしのほうこそセオ様とお顔を合わせること、夢みたいに思ってるんですからね。大好きなセオ様を独り占めしているみたいに思えるんですよ。はっ?!」  顔を合わせて確認事項を本当に『確認』するだけの茶会が始まるはずが、それどころじゃない事態に陥った。  

【完結】虐げられて自己肯定感を失った令嬢は、周囲からの愛を受け取れない

春風由実
恋愛
事情があって伯爵家で長く虐げられてきたオリヴィアは、公爵家に嫁ぐも、同じく虐げられる日々が続くものだと信じていた。 願わくば、公爵家では邪魔にならず、ひっそりと生かして貰えたら。 そんなオリヴィアの小さな願いを、夫となった公爵レオンは容赦なく打ち砕く。 ※完結まで毎日1話更新します。最終話は2/15の投稿です。 ※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています。

さようなら、私の初恋

しょくぱん
恋愛
「さよなら、私の初恋。……もう、全部お返しします」 物心ついた時から、彼だけが世界のすべてだった。 幼馴染の騎士団長・レオンに捧げた、十数年の純粋な初恋。 彼が「無敵」でいられたのは、アリアが無自覚に与え続けた『治癒の加護』があったから。 だが婚約直前、アリアは知ってしまう。 彼にとって自分は、仲間内で競い合う「賭けの対象」でしかなかったことを。 「あんな女、落とすまでのゲームだよ」

冷遇夫がお探しの私は、隣にいます

終日ひもの干す紐
恋愛
愛人がいるなら、さっさと言ってくれればいいのに! 妻に駆け落ちされた、傷心の辺境伯ロシェのもとへ嫁いでほしい。 シャノンが王命を受け、嫁いでから一年……とんでもない場面に立ち会ってしまう。 「サフィール……またそんなふうに僕を見つめて、かわいいね」 シャノンには冷たいの夫の、甘ったるい囁き。 扉の向こうの、不貞行為。 これまでの我慢も苦労も全て無駄になり、沸々と湧き上がる怒りを、ロシェの愛猫『アンブル』に愚痴った。 まさかそれが、こんなことになるなんて! 目が覚めると『アンブル』になっていたシャノン。 猫の姿に向けられる夫からの愛情。 夫ロシェの“本当の姿”を垣間見たシャノンは……? * * * 他のサイトにも投稿しています。

処理中です...