誤解は解きません。悪女で結構です。

砂礫レキ

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第一部

48.

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「貴方は屋敷内の危険な場所を捜して」
「かっ、かしこまりました」

 私はエミリエと呼ばれていたメイドに指示する。

 そう重点的に捜さなければいけないのは子供には危険な場所だ。
 レオがそこで見つからないならそれでいい。
 いや見つからないで欲しい。

 私は彼女と別れてホルガーのいる部屋に向かおうとした。
 しかし見覚えのある赤髪が目に入る。

「……奥様?」
「カーヴェル?」

 それは食事をしている筈のカーヴェルだった。
 しかし今いる場所は廊下だ。彼に待機を命じた応接室では無い。

「申し訳御座いません、奥様に何かあったかと思い……」
「私に……?」

 一瞬不思議に思うが、すぐ納得する。
 軽いノリで話をしてくると言って数十分経過しているのだから不思議がるのは仕方が無い。

「御子息やその使用人の方たちとの対話が難航しているというなら、お力になれればと」
「有難う、ただそれどころでは無くなってしまったの。一旦ホルガーの元に向かいましょう」
「父の元にですか、かしこまりました」


 私がそう言うとカーヴェルは疑問も挟まず快諾した。
 彼を連れホルガーが居る部屋の扉を叩く。許可を受け中に入るとブライアンも居た。

「二人ともここにいたのね、丁度良かったわ」
「奥様、私どもに何か御用がおありでしょうか?」

 ブライアンが尋ねてくるのに私は頷く。

「あるわ。レオ君が四十分前に泣きながら子供部屋から出て行ったみたいなの」 

 私がそう言うとカーヴェルは驚いた表情を浮かべたがホルガーとブライアンは煮え切らない表情を浮かべた。

「それは……レオ様に火急の用があるから見つけ出したいということでしょうか?」
「それもあるけれど、心配だからよ。行先もわからないまま泣いて出て行ったなんて」
「しかし、屋敷内なら自由に出歩いても特に問題無いのでは」
「屋敷内だとわからないから心配なんだろ」

 ホルガーの言葉にカーヴェルが反論を被せる。

「子供は感情だけで動きやすい、泣いて出ていった後に安全な場所にいるかなんてわからない」

 穏やかで理知的な雰囲気を纏っている彼にしては鋭い口調だった。
 しかしそれに違和感を覚えている場合では無い。

「ホルガーもブライアンもレオが泣きながら出て行った後に行きそうな場所に心当たりはないかしら」

 もしくは癇癪を起こした後にする行動でも良い。
 私がそう質問するとホルガーは少し考えた後に口を開いた。

「……レオ様は庭に植えてある花をむしっては捨てたり、拾った石を壁などに投げて心を落ち着けることがございます」

 聞いた内容に私は絶句した。問題行動過ぎる。

「それは……勿論見かけたら止めさせたのよね?」
「いいえ、それで気持ちが落ち着かれるなら何よりだと」

 何でそんなことを確認するのかという表情でホルガーは言う。
 そんな彼が私には宇宙人に見えた。
 でも家令は親でも教育者でもない。私はモヤモヤした気持ちを抱え戸惑う。
 私が黙っているとカーヴェルが一歩前に出た。

「止めないのはその方が楽だったからだろ。貴方は子供と向き合う事から逃げただけだ」
「何だと、カーヴェル!」

 その言葉に私は何故か酷く安堵した。
 前世の記憶を取り戻してから関わる人々の多くが私と考えや価値観が違い過ぎていて同意や共感に飢えていたのかもしれない。

「みっともないから怒鳴らないでホルガー、とりあえず庭を捜すわ。他に心当たりのある場所は」

 私がそう言うとブライアンが物言いたげな顔をする。

「ブライアン、知っているなら教えて頂戴」
「レオ様は……一度、庭の奥の方の池に立ち入られていたことがあります」
「庭の奥の池」
「はい、魚に石を投げていたので慌てて止めました……王家から下賜された貴重な観賞魚ですので」
「観賞魚……」

 思い出した。確かに庭の奥に隔離された池があって、そこには鯉が飼われていた。
 原作内でエリカがたまにクッキーをあげ可愛がっていた。隔離されていたのは知らなかったが。

「有難うブライアン、ならその池から捜しましょう」
「お供します、奥様」

 カーヴェルが即座に言う。私は頷いた。

「ブライアン、貴方は手すきの使用人に室内を捜させて」
「かしこまりました」

 指示を終えた私はホルガーへ視線を向け告げた。

「ホルガー、子供の破壊行為はね、誰かが止めて落ち着かせないと生物に向く危険性があるの」

 レオが庭の鯉に石を投げつけたように。
 ホルガーは顔を青くして俯いた。

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