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第一部
70.
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「私一人で働くなど無理です!」
凄い。中年男性が全力で泣き言を言ってくる。
私は紅茶を飲みなが内心盛大に呆れた。
朝食前にブライアンから火急の話があると告げられたからどんな内容かと思ったらこれだ。
「仕事量が多すぎます、使用人たちに自己解決を心がけるよう奥様からも訓示してください!」
「そう言われてもねえ……ホルガーもいることだし暫くは頑張って頂戴」
溜息を吐きつつのらりくらりと彼の言葉をかわした。
私の給仕をしてるアイリの目が普段以上にクールな気がする。
彼女を清掃担当に配置換えしたのがブライアンなのを知れば納得でしかない。
しかも当時家令だったホルガーにはアイリの希望だと嘘まで吐いていた。
なのでブライアン的にはアイリが公爵夫人付きの侍女になったのはかなり不味い事態の筈だ。
しかし彼は私の横にいるアイリが冷たい目で見ていることに全く気付いていない。
ちなみに私も朝食をお預けにされているので大分機嫌は悪い。
けれどブライアンは私たちのそんな様子に全く頓着せず言いたいことを言った。
「カーヴェルはまだ目覚めないのですか?!」
「そうよ、まだ目覚めない。レイン先生も不思議がっているわ」
家令補佐の立場で家令であるカーヴェルを呼び捨てにしたことはあえて無視する。
一々窘めて気を使われても面倒だ。
昨日レインを盛大に呆れさせたようにどんどんボロを出せばいい。
(しかし俯せで倒れたカーヴェルの顔を見たって、ブライアンは床と一体化でもしていたのかしら)
それを昨日レインに言ったらツボに入ったらしく暫く笑い続けていた。
彼女は顔を見たのが事実で俯せだったという申告が嘘なのではと分析していたが実際そうだろう。
私はカーヴェルの父親であるホルガーに聞いたと前置きしてブライアンに話す。
「カーヴェルは持病があって薬を飲んでいたらしいから、相性の悪い物を食べた可能性も出て来たところだし」
私がそう言うとブライアンは目に見えてぎょっとした。
そして自分の大変さを訴えることを止めて、カーヴェルについて問いかけてくる。
「相性の悪い食べ物とは……具体的にどういう物ですか?」
「私もそこまで詳しくは知らないけれど、お酒とか特定の薬が特に危険みたい」
「特定の、薬とは」
「言ったでしょう、詳しくは知らないって。ただ普段飲んでいる薬と反応して最悪の場合意識が戻らなくなるとは聞いているわ」
「意識が……」
「だからカーヴェルは飲酒はしないらしいけれど、相性の悪い薬をわざわざ飲むのも有り得ないわよね?」
私はブライアンの顔をじっと見つめる。彼はそれこそ苦い薬を飲まされたような顔をしていた。
魔が差しただけだったり少し性格が悪い程度ならこの時点で睡眠薬の件を白状するだろう。
だって私は今カーヴェルの意識が戻らないかもしれないと告げたのだ。
軽い悪戯や嫌がらせのつもりなら、そんなつもりじゃなかったと大後悔する筈だ。
しかしブライアンが悪事を白状することは無かった。
「そ、そうですか。でしたら新しく家令補佐を雇うことを御検討ください」
「……貴方今自分が何を言ったかわかる?」
流石に声に怒気が宿る。
ブライアン一人解雇するだけで良いならこの場で解雇を言い渡していた。
しかし彼だけ追い出しても意味が無いのだ。私は耐えた。
「で、ですが屋敷の秩序の為に必要な事なのです、それでは私はこれで!」
そう言い捨てるとブライアンは礼すらせず逃げるように私の前から去って行った。
彼が開け放した扉をアイリは閉めると又私の傍らに戻る。
「……新しい家令補佐は確かに必要だと思います」
「私もそう思っているから今探して貰っているわ」
珍しく聞かれる前に自分の意見を言うアイリに私はそう返した。
そして遅れた朝食をレインのいる場所に運ぶよう指示する。
私一人が食べるには多い量を注文してある。
そして同じかそれ以上の量がレインの所にも提供されている筈だった。
私とレイン二人の食事からカーヴェルの分の食事を分ける作戦だ。
「扉続きの部屋があって良かった」
救護室を占有する訳にはいかない為、カーヴェルは今レインの隣の部屋でゆっくりと休んでいる筈だ。
当然意識は戻っているし元気だ。
それをブライアンが知ったら頭から湯気を出して激怒するに違いない。
だが彼に怒る資格など無いのだ。
「……まあ別に怒りたければ好きにすればいいけれど」
今の時点で大分ボロが出ているが、もっとブライアンを追い詰める必要がある。
こちら側の思い通りの行動をして貰う為に。
「準備が出来るまでブライアンには家令代理として頑張って貰いましょう」
それが公爵邸での最後の働きになるのだから。
私は薄く微笑んだ。
凄い。中年男性が全力で泣き言を言ってくる。
私は紅茶を飲みなが内心盛大に呆れた。
朝食前にブライアンから火急の話があると告げられたからどんな内容かと思ったらこれだ。
「仕事量が多すぎます、使用人たちに自己解決を心がけるよう奥様からも訓示してください!」
「そう言われてもねえ……ホルガーもいることだし暫くは頑張って頂戴」
溜息を吐きつつのらりくらりと彼の言葉をかわした。
私の給仕をしてるアイリの目が普段以上にクールな気がする。
彼女を清掃担当に配置換えしたのがブライアンなのを知れば納得でしかない。
しかも当時家令だったホルガーにはアイリの希望だと嘘まで吐いていた。
なのでブライアン的にはアイリが公爵夫人付きの侍女になったのはかなり不味い事態の筈だ。
しかし彼は私の横にいるアイリが冷たい目で見ていることに全く気付いていない。
ちなみに私も朝食をお預けにされているので大分機嫌は悪い。
けれどブライアンは私たちのそんな様子に全く頓着せず言いたいことを言った。
「カーヴェルはまだ目覚めないのですか?!」
「そうよ、まだ目覚めない。レイン先生も不思議がっているわ」
家令補佐の立場で家令であるカーヴェルを呼び捨てにしたことはあえて無視する。
一々窘めて気を使われても面倒だ。
昨日レインを盛大に呆れさせたようにどんどんボロを出せばいい。
(しかし俯せで倒れたカーヴェルの顔を見たって、ブライアンは床と一体化でもしていたのかしら)
それを昨日レインに言ったらツボに入ったらしく暫く笑い続けていた。
彼女は顔を見たのが事実で俯せだったという申告が嘘なのではと分析していたが実際そうだろう。
私はカーヴェルの父親であるホルガーに聞いたと前置きしてブライアンに話す。
「カーヴェルは持病があって薬を飲んでいたらしいから、相性の悪い物を食べた可能性も出て来たところだし」
私がそう言うとブライアンは目に見えてぎょっとした。
そして自分の大変さを訴えることを止めて、カーヴェルについて問いかけてくる。
「相性の悪い食べ物とは……具体的にどういう物ですか?」
「私もそこまで詳しくは知らないけれど、お酒とか特定の薬が特に危険みたい」
「特定の、薬とは」
「言ったでしょう、詳しくは知らないって。ただ普段飲んでいる薬と反応して最悪の場合意識が戻らなくなるとは聞いているわ」
「意識が……」
「だからカーヴェルは飲酒はしないらしいけれど、相性の悪い薬をわざわざ飲むのも有り得ないわよね?」
私はブライアンの顔をじっと見つめる。彼はそれこそ苦い薬を飲まされたような顔をしていた。
魔が差しただけだったり少し性格が悪い程度ならこの時点で睡眠薬の件を白状するだろう。
だって私は今カーヴェルの意識が戻らないかもしれないと告げたのだ。
軽い悪戯や嫌がらせのつもりなら、そんなつもりじゃなかったと大後悔する筈だ。
しかしブライアンが悪事を白状することは無かった。
「そ、そうですか。でしたら新しく家令補佐を雇うことを御検討ください」
「……貴方今自分が何を言ったかわかる?」
流石に声に怒気が宿る。
ブライアン一人解雇するだけで良いならこの場で解雇を言い渡していた。
しかし彼だけ追い出しても意味が無いのだ。私は耐えた。
「で、ですが屋敷の秩序の為に必要な事なのです、それでは私はこれで!」
そう言い捨てるとブライアンは礼すらせず逃げるように私の前から去って行った。
彼が開け放した扉をアイリは閉めると又私の傍らに戻る。
「……新しい家令補佐は確かに必要だと思います」
「私もそう思っているから今探して貰っているわ」
珍しく聞かれる前に自分の意見を言うアイリに私はそう返した。
そして遅れた朝食をレインのいる場所に運ぶよう指示する。
私一人が食べるには多い量を注文してある。
そして同じかそれ以上の量がレインの所にも提供されている筈だった。
私とレイン二人の食事からカーヴェルの分の食事を分ける作戦だ。
「扉続きの部屋があって良かった」
救護室を占有する訳にはいかない為、カーヴェルは今レインの隣の部屋でゆっくりと休んでいる筈だ。
当然意識は戻っているし元気だ。
それをブライアンが知ったら頭から湯気を出して激怒するに違いない。
だが彼に怒る資格など無いのだ。
「……まあ別に怒りたければ好きにすればいいけれど」
今の時点で大分ボロが出ているが、もっとブライアンを追い詰める必要がある。
こちら側の思い通りの行動をして貰う為に。
「準備が出来るまでブライアンには家令代理として頑張って貰いましょう」
それが公爵邸での最後の働きになるのだから。
私は薄く微笑んだ。
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