【完結】嫉妬深いと婚約破棄されましたが私に惚れ薬を飲ませたのはそもそも王子貴方ですよね?

砂礫レキ

文字の大きさ
7 / 28
アイリスフィアの章

母と息子

しおりを挟む
「他国出身のそなたがこの国の宗教に馴染めぬのはわかっている。だが軽んじることは許さん」

「しかし、ガイウス様……!」

「黙れと言っている。それともセイレーンの涙について語ってくれるとでもいうのか?」

「な……」


 聖女レノアに対するサンドラ王妃の発言をガイウス陛下は窘める。

 けれどその台詞の中に聞き逃してはいけない単語が存在した気がした。

 何故王妃がジルク王子が利用したセイレーンの涙について語れるのだろう。



「……サンドラよ、そなたの故郷サイレンは海辺の街だったな」

「違います」

「何が違うのだ」


 王妃は先程までのレノアに対する剣幕が嘘のように青褪めて言葉少なになった。

 私はその態度と陛下の発言で察する。

 もしかしたら、いやきっとジルク王子に薬を渡したのは王妃なのだ。

 先程の彼女の発言を考えれば薬を使われた側の私の心なんてどうでもいいと思っているのがわかる。

 寧ろ私の努力が足りないせいでわざわざ薬を使う羽目になったと考えていてもおかしくない。

 そんなことを考えている内に王の追及はジルク王子に向けられていた。


「ジルク、お前がアイリスフィアに使った薬はどこから入手したものだ」

「ち、父上、それは……」


 母親とよく似た表情でジルク王子は口ごもる。愚かだと思った。

 何故わざわざ今日を選んで、よりにもよって大聖堂で彼は事件を起こしたのか。

 婚約解消をしたかったならもっと穏当な方法が幾らでもあった筈だ。

 彼だけの責任ではないが、ジルク王子の行動の結果王族の威容に傷が次々とついていく。主にジルクと王妃の二名にだが。

 人のことは言えない。私の評判だって地に落ちているだろう。王子との婚約を解消した後、新たな縁談は来ないかもしれない。

 私個人としては別にそれでも構わないのだけれど。寧ろ二度と婚約したくないという気持ちにさえなっている。

 サンドラ王妃が焦った様子で息子を叱る姿をぼんやりと私は見ていた。



「ジルク、なぜ口ごもるのです!行商人から買ったと言っていたでしょう!」

「は、母上。そうです、行商人から買ったのです!!」


 母親の言葉をそのまま繰り返すジルク王子の醜態に陛下が溜息を吐き、腹違いの兄であるグラン王子がいい加減にしろと怒鳴った。

 そういえばサンドラ王妃は婚姻前からジルク王子を孕んでいたそうだ。だから平気で息子にそんな薬を渡せたのだろうか。

 もし私が孕んでいても、その上でジルク王子は今日のように婚約破棄を言い立てていただろうか。

 きっともっと醜いことになっただろうなと私は自らの腹を服越しに撫でた。  

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

偽りの断罪で追放された悪役令嬢ですが、実は「豊穣の聖女」でした。辺境を開拓していたら、氷の辺境伯様からの溺愛が止まりません!

黒崎隼人
ファンタジー
「お前のような女が聖女であるはずがない!」 婚約者の王子に、身に覚えのない罪で断罪され、婚約破棄を言い渡された公爵令嬢セレスティナ。 罰として与えられたのは、冷酷非情と噂される「氷の辺境伯」への降嫁だった。 それは事実上の追放。実家にも見放され、全てを失った――はずだった。 しかし、窮屈な王宮から解放された彼女は、前世で培った知識を武器に、雪と氷に閉ざされた大地で新たな一歩を踏み出す。 「どんな場所でも、私は生きていける」 打ち捨てられた温室で土に触れた時、彼女の中に眠る「豊穣の聖女」の力が目覚め始める。 これは、不遇の令嬢が自らの力で運命を切り開き、不器用な辺境伯の凍てついた心を溶かし、やがて世界一の愛を手に入れるまでの、奇跡と感動の逆転ラブストーリー。 国を捨てた王子と偽りの聖女への、最高のざまぁをあなたに。

だから聖女はいなくなった

澤谷弥(さわたに わたる)
ファンタジー
「聖女ラティアーナよ。君との婚約を破棄することをここに宣言する」 レオンクル王国の王太子であるキンバリーが婚約破棄を告げた相手は聖女ラティアーナである。 彼女はその婚約破棄を黙って受け入れた。さらに彼女は、新たにキンバリーと婚約したアイニスに聖女の証である首飾りを手渡すと姿を消した。 だが、ラティアーナがいなくなってから彼女のありがたみに気づいたキンバリーだが、すでにその姿はどこにもない。 キンバリーの弟であるサディアスが、兄のためにもラティアーナを探し始める。だが、彼女を探していくうちに、なぜ彼女がキンバリーとの婚約破棄を受け入れ、聖女という地位を退いたのかの理由を知る――。 ※7万字程度の中編です。

存在感のない聖女が姿を消した後 [完]

風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは 永く仕えた国を捨てた。 何故って? それは新たに現れた聖女が ヒロインだったから。 ディアターナは いつの日からか新聖女と比べられ 人々の心が離れていった事を悟った。 もう私の役目は終わったわ… 神託を受けたディアターナは 手紙を残して消えた。 残された国は天災に見舞われ てしまった。 しかし聖女は戻る事はなかった。 ディアターナは西帝国にて 初代聖女のコリーアンナに出会い 運命を切り開いて 自分自身の幸せをみつけるのだった。

タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。

渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。 しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。 「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」 ※※※ 虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。 ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

田舎娘をバカにした令嬢の末路

冬吹せいら
恋愛
オーロラ・レンジ―は、小国の産まれでありながらも、名門バッテンデン学園に、首席で合格した。 それを不快に思った、令嬢のディアナ・カルホーンは、オーロラが試験官を買収したと嘘をつく。 ――あんな田舎娘に、私が負けるわけないじゃない。 田舎娘をバカにした令嬢の末路は……。

【完結】 ご存知なかったのですね。聖女は愛されて力を発揮するのです

すみ 小桜(sumitan)
恋愛
 本当の聖女だと知っているのにも関わらずリンリーとの婚約を破棄し、リンリーの妹のリンナールと婚約すると言い出した王太子のヘルーラド。陛下が承諾したのなら仕方がないと身を引いたリンリー。  リンナールとヘルーラドの婚約発表の時、リンリーにとって追放ととれる発表までされて……。

【完結】真の聖女だった私は死にました。あなたたちのせいですよ?

恋愛
聖女として国のために尽くしてきたフローラ。 しかしその力を妬むカリアによって聖女の座を奪われ、顔に傷をつけられたあげく、さらには聖女を騙った罪で追放、彼女を称えていたはずの王太子からは婚約破棄を突きつけられてしまう。 追放が正式に決まった日、絶望した彼女はふたりの目の前で死ぬことを選んだ。 フローラの亡骸は水葬されるが、奇跡的に一命を取り留めていた彼女は船に乗っていた他国の騎士団長に拾われる。 ラピスと名乗った青年はフローラを気に入って自分の屋敷に居候させる。 記憶喪失と顔の傷を抱えながらも前向きに生きるフローラを周りは愛し、やがてその愛情に応えるように彼女のほんとうの力が目覚めて……。 一方、真の聖女がいなくなった国は滅びへと向かっていた── ※小説家になろうにも投稿しています いいねやエール嬉しいです!ありがとうございます!

婚約破棄……そちらの方が新しい聖女……ですか。ところで殿下、その方は聖女検定をお持ちで?

Ryo-k
ファンタジー
「アイリス・フローリア! 貴様との婚約を破棄する!」 私の婚約者のレオナルド・シュワルツ王太子殿下から、突然婚約破棄されてしまいました。 さらには隣の男爵令嬢が新しい聖女……ですか。 ところでその男爵令嬢……聖女検定はお持ちで?

処理中です...