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レノアの章

王の器

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 私の奇異な外見が一部の人間にはやたら神聖に見えるらしい。

 信徒や司祭の内何人かは既に教会ではなく私に忠誠を誓っていた。

 セイレーンの涙の調査をしてくれたのもその者たちだ。

 そしてグラン王子に情報を伝えてくれたのも。

 ある意味それは賭けだった。彼がその情報を王妃に伝える可能性もあったのだから。

 けれどそうはならなかった。

 セイレーンの涙の被害者がアイリスフィア様だったから。

 婚約者を弟に奪われた嘆きと絶望は過去の懺悔で捨てられても、愛した人を弄ばれた怒りは消せなかったらしい。

 正直それさえも受け入れてしまうような男性なら私はジルク第二王子だけでなく現王家ごと見限っていただろう。 

 けれどグラン王子は奮起し、寧ろ十二分に働いてくれた。

 セイレーンの涙の大瓶が王妃の部屋に隠されていることを探り当てたのだ。

 これは彼にも忠実で有能な部下がいるということである。

 セイレーンの涙を使われた人間は対象者の命令に思考を縛られ逆らえなくなる。

 けれど対象者が傍にいない場合、いても命令をしていない場合は薬の効果からある程度逃れられるのだ。

 つまり今回の計画で重要なのは王妃サンドラが国王に命令する隙を与えないことだった。

 だから既に薬を使われている可能性が高い国王に事情を伝える訳にはいかなかったのだ。

 寝室で妻に一日の報告を義務付けられている可能性だってあるのだから。 

 式典当日まで城内で暮らしていたグラン王子の心的負担はかなり大きかっただろう。

 王妃に企みを気付かれれば最悪処刑される可能性さえあったのだから。
 
 だが彼も私も大きな賭けに勝った。

 王家とアイリ様を蝕んだジルク王子とその母親であるサンドラ王妃は罪人として捕らえられ国外追放された。

 その時にセイレーンの涙の解毒薬の材料もちゃんと入手できた。

 国王陛下も完全に正気を取り戻すだろう。今度こそグラン王子を王太子として擁立し役目を譲る日まで誇り高く生きてほしい。

 そして今回のグラン王子の働きに心から感謝し評価すべきだと思う。

 彼が居なければこの国の王家は浅ましい毒に蝕まれ続けたままだったのだろうから。 


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