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6話 台無しになった朝食
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その日はあまり眠ることが出来ず顔が浮腫んでいる気がした。
正直余り食欲はなかったが起きるのが遅かった為、既に料理は出来上がっていた。
メイドのシアが朝の挨拶とともに部屋まで朝食を運んでくる。
果物とプレーンオムレツと野菜のスープ、そしてパンにチーズと紅茶。シンプルだがどれも美味しそうだ。
しかし魅力的な料理を台無しにする要素があった。シアだ。
朝食を運んできた彼女だが、今日は顔色が尋常でなく悪い。
それだけでなく配膳をしながらガタガタと震えている。流石に黙って眺めているわけにはいかない。
「ちょっと貴女、大丈夫なの」
「ひっ」
私が声をかけると彼女は短い悲鳴と共に持っていたトレイを取り落とす。派手な音を立てて私の朝食は床に墜落した。
「ああ……」
オムレツや野菜スープが絨毯を汚す。中には割れている食器もあるようだ。
溜息を吐いた私にシアはまるで命乞いするかのように謝罪の言葉を叫び続けた。
「申し訳ございません奥様、お許しください!申し訳ございません、本当に、本当に申し訳ございません!!」
言葉というより悲鳴のようだ。流石に私も驚いてしまう。
彼女の声は部屋の外まで届いていたのか、人が集まってくる気配がした。
「シア、落ち着きなさい」
「私は、私はなんてことを……!」
ぶるぶると震えながら怯える彼女の様子は尋常ではない。
まるで私が普段から使用人を虐待している恐ろしい女主人のようではないか。当然そんな事実はない。
控えめに扉が外側からノックされる。誰何すると執事のグレイグだった。入室を許可する。
感謝の言葉と共に彼が姿を現す。扉が開かれた際に廊下にメイドたちが集まっているのを確認した。
どうせ扉が閉まった後も数人は残って聞き耳を立てるに違いない。
グレイグは床の状況を見て大体を理解したようだった。
けれど私がそのことを理由にシアを虐めていたと思われては困る。
「彼女の顔色が悪かったから声をかけたの。そうしたら手が滑ってしまったみたい」
「申し訳ございません、奥様、申し訳ございません……」
「別に私は怒っていないのに。ただ具合が悪いならちゃんと休むべきだわ」
私は妊娠中だし、病気が感染したらその方が大変だ。私の主張にグレイグがその通りだと同意する。
「シアの今日の勤務は他のメイドに代わって貰って。それと床の片づけを。代わりの朝食はいいわ」
「かしこまりました、奥様」
「それとグレイグ、悪いけれどカップにヒビが入ってないか見て頂戴。気に入りの物なの」
私の言葉に壮年の執事は少し躊躇いを見せたが床に膝を着く。
スープと紅茶で濡れたカップに彼が触れようとした途端シアが動いた。
「…っ、駄目!!」
声と共に彼女はグレイグを突き飛ばした。グレイグは尻餅をつき、勢い余ったシアもその胸に倒れこむようになる。
「……一体どうしたというのシア」
流石に私の声も固くなる。彼女は激しく泣きじゃくりながら言葉を吐き出した。
そのスープには毒が入っている。そしてそれを入れたのは自分なのだと。
グレイグが驚愕に目を見開くのを私は冷え切った心で見ていた。
正直余り食欲はなかったが起きるのが遅かった為、既に料理は出来上がっていた。
メイドのシアが朝の挨拶とともに部屋まで朝食を運んでくる。
果物とプレーンオムレツと野菜のスープ、そしてパンにチーズと紅茶。シンプルだがどれも美味しそうだ。
しかし魅力的な料理を台無しにする要素があった。シアだ。
朝食を運んできた彼女だが、今日は顔色が尋常でなく悪い。
それだけでなく配膳をしながらガタガタと震えている。流石に黙って眺めているわけにはいかない。
「ちょっと貴女、大丈夫なの」
「ひっ」
私が声をかけると彼女は短い悲鳴と共に持っていたトレイを取り落とす。派手な音を立てて私の朝食は床に墜落した。
「ああ……」
オムレツや野菜スープが絨毯を汚す。中には割れている食器もあるようだ。
溜息を吐いた私にシアはまるで命乞いするかのように謝罪の言葉を叫び続けた。
「申し訳ございません奥様、お許しください!申し訳ございません、本当に、本当に申し訳ございません!!」
言葉というより悲鳴のようだ。流石に私も驚いてしまう。
彼女の声は部屋の外まで届いていたのか、人が集まってくる気配がした。
「シア、落ち着きなさい」
「私は、私はなんてことを……!」
ぶるぶると震えながら怯える彼女の様子は尋常ではない。
まるで私が普段から使用人を虐待している恐ろしい女主人のようではないか。当然そんな事実はない。
控えめに扉が外側からノックされる。誰何すると執事のグレイグだった。入室を許可する。
感謝の言葉と共に彼が姿を現す。扉が開かれた際に廊下にメイドたちが集まっているのを確認した。
どうせ扉が閉まった後も数人は残って聞き耳を立てるに違いない。
グレイグは床の状況を見て大体を理解したようだった。
けれど私がそのことを理由にシアを虐めていたと思われては困る。
「彼女の顔色が悪かったから声をかけたの。そうしたら手が滑ってしまったみたい」
「申し訳ございません、奥様、申し訳ございません……」
「別に私は怒っていないのに。ただ具合が悪いならちゃんと休むべきだわ」
私は妊娠中だし、病気が感染したらその方が大変だ。私の主張にグレイグがその通りだと同意する。
「シアの今日の勤務は他のメイドに代わって貰って。それと床の片づけを。代わりの朝食はいいわ」
「かしこまりました、奥様」
「それとグレイグ、悪いけれどカップにヒビが入ってないか見て頂戴。気に入りの物なの」
私の言葉に壮年の執事は少し躊躇いを見せたが床に膝を着く。
スープと紅茶で濡れたカップに彼が触れようとした途端シアが動いた。
「…っ、駄目!!」
声と共に彼女はグレイグを突き飛ばした。グレイグは尻餅をつき、勢い余ったシアもその胸に倒れこむようになる。
「……一体どうしたというのシア」
流石に私の声も固くなる。彼女は激しく泣きじゃくりながら言葉を吐き出した。
そのスープには毒が入っている。そしてそれを入れたのは自分なのだと。
グレイグが驚愕に目を見開くのを私は冷え切った心で見ていた。
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