【完結】『真実の愛ごっこ』も『婚約破棄ごっこ』も死ぬまでやっていればいいわ

砂礫レキ

文字の大きさ
10 / 15

10話 生と死

しおりを挟む
 屋敷から運び出されたカリーナの遺体は数日後屋敷裏の森で発見された。

 どうやら彼女は散策時に「野犬に襲われた」らしい。流石に再度その亡骸と対面する気にはなれなかった。

 レイモンドは心臓発作による急死という扱いになった。私が妊娠中ということもあり葬儀は義父が取り仕切った。

 あくまで腹の中のレイモンドの子を考えてだと思うが有り難いことには変わりなかった。

 二人の人間が居なくなった屋敷内は奇妙な緊張感を保ちながら、それでも使用人たちは誰も辞めることがなかった。

 伯爵の業務は再度義父が行うようになった。私は無事に元気な子供を産むことだけを考えて生きた。

 夫が亡くなってから数か月後、私は元気な男児を出産することが叶った。それは私の人生の中で最も嬉しい出来事だった。

 レイモンドと同じ色の瞳を持った子供は義父により「ライナス」と名付けられた。

 義父は息子の面影を孫に見出したのだろう。生まれたばかりの彼を次期伯爵にすると宣言した。

 私は先代伯爵未亡人となり、幼いライナスにはレイモンドの従兄弟が後見につけられた。

 アーノルドいう名の後見人は伯爵の座を狙う野心とは無縁そうな男性だったが私は油断しなかった。

 かといって表立って釘を刺したり牽制したりなどはしない。

 恐れ過ぎもせず見下しもせず私はアーノルドに接した。

 メイドのシアについては結局警察に突き出すことはしなかった。理由は幾つかある。 
 
 指示役のカリーナが死亡していること。

 カリーナに過去の身分差を盾に脅されていたこと。

 私が口に入れるよりも前にシア自身が毒入りスープを床に落としていること。

 何より、このお粗末な殺人未遂事件を切っ掛けに警察が夫たちの件について嗅ぎつける可能性を義父も私も危惧した。

 シアはその後もメイドとして働き続けたが数年後に流感で死亡した。最後まで屋敷で面倒を見た。

 臨終間際の言葉は私への感謝と殺人者にならずに済んだことへの安堵だったという。

 迂闊で愚かで善良な彼女を私は少しだけ羨ましく思った。

 そして自分が死に瀕した時は決して誰も近寄らせず孤独に死ぬことを改めて決意した。

 何を口走るかわからないからだ。決して口外してはいけない秘密を抱えて私は死ぬのだ。

 レイモンドを殺したのは妻の私だった。  



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

嘘からこうして婚約破棄は成された

桜梅花 空木
恋愛
自分だったらこうするなぁと。

婚約破棄からの断罪カウンター

F.conoe
ファンタジー
冤罪押しつけられたから、それなら、と実現してあげた悪役令嬢。 理論ではなく力押しのカウンター攻撃 効果は抜群か…? (すでに違う婚約破棄ものも投稿していますが、はじめてなんとか書き上げた婚約破棄ものです)

悪役令嬢に仕立て上げられたので領地に引きこもります(長編版)

下菊みこと
恋愛
ギフトを駆使して領地経営! 小説家になろう様でも投稿しています。

目の前で始まった断罪イベントが理不尽すぎたので口出ししたら巻き込まれた結果、何故か王子から求婚されました

歌龍吟伶
恋愛
私、ティーリャ。王都学校の二年生。 卒業生を送る会が終わった瞬間に先輩が婚約破棄の断罪イベントを始めた。 理不尽すぎてイライラしたから口を挟んだら、お前も同罪だ!って謎のトバッチリ…マジないわー。 …と思ったら何故か王子様に気に入られちゃってプロポーズされたお話。 全二話で完結します、予約投稿済み

真実の愛ならこれくらいできますわよね?

かぜかおる
ファンタジー
フレデリクなら最後は正しい判断をすると信じていたの でもそれは裏切られてしまったわ・・・ 夜会でフレデリク第一王子は男爵令嬢サラとの真実の愛を見つけたとそう言ってわたくしとの婚約解消を宣言したの。 ねえ、真実の愛で結ばれたお二人、覚悟があるというのなら、これくらいできますわよね?

今更気付いてももう遅い。

ユウキ
恋愛
ある晴れた日、卒業の季節に集まる面々は、一様に暗く。 今更真相に気付いても、後悔してももう遅い。何もかも、取り戻せないのです。

冤罪で退学になったけど、そっちの方が幸せだった

シリアス
恋愛
冤罪で退学になったけど、そっちの方が幸せだった

【完結】死がふたりを分かつとも

杜野秋人
恋愛
「捕らえよ!この女は地下牢へでも入れておけ!」  私の命を受けて会場警護の任に就いていた騎士たちが動き出し、またたく間に驚く女を取り押さえる。そうして引っ立てられ連れ出される姿を見ながら、私は心の中だけでそっと安堵の息を吐く。  ああ、やった。  とうとうやり遂げた。  これでもう、彼女を脅かす悪役はいない。  私は晴れて、彼女を輝かしい未来へ進ませることができるんだ。 自分が前世で大ヒットしてTVアニメ化もされた、乙女ゲームの世界に転生していると気づいたのは6歳の時。以来、前世での最推しだった悪役令嬢を救うことが人生の指針になった。 彼女は、悪役令嬢は私の婚約者となる。そして学園の卒業パーティーで断罪され、どのルートを辿っても悲惨な最期を迎えてしまう。 それを回避する方法はただひとつ。本来なら初回クリア後でなければ解放されない“悪役令嬢ルート”に進んで、“逆ざまあ”でクリアするしかない。 やれるかどうか何とも言えない。 だがやらなければ彼女に待っているのは“死”だ。 だから彼女は、メイン攻略対象者の私が、必ず救う⸺! ◆男性(王子)主人公の乙女ゲーもの。主人公は転生者です。 詳しく設定を作ってないので、固有名詞はありません。 ◆全10話で完結予定。毎日1話ずつ投稿します。 1話あたり2000字〜3000字程度でサラッと読めます。 ◆公開初日から恋愛ランキング入りしました!ありがとうございます! ◆この物語は小説家になろうでも同時投稿します。

処理中です...