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12話 罪と悪
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朝の打ち合わせを簡単にして私はシアを寝室から出した。
その時に何故当主であるレイモンドではなく私の元へやってきたのかを改めて聞いた。
シアは少し沈黙した後で、私の夫は現在愛人と懇ろにしていると気まずそうに教えてくれた。
だからこそカリーナに発見されるリスクを回避して私の寝室まで来ることが出来たのだとも。
正直、夫へ感じたのは怒りではなく脱力だった。
彼自身もカリーナの野心については疎ましく思っていて、妻である私が彼女を追い出したがっていることも知っている。
それでも平気でカリーナを抱くことが出来るのがレイモンドという男だった。
シアを部屋から出した後、一人になった私は大きく溜息を吐いた。
元々はカリーナの家の物だった毒薬は今私の手元にある。
シアには、本人に聞いた致死量から計算し万が一飲んでも死なないだけ分を香水瓶に移して渡した。
それはシアの事を完全に信用してはいなかったからだ。いや、本当はそれだけではない。
私はこの毒薬を「欲しい」と思ってしまった。
服毒すれば眠るように安らかに死ねると言うことは、飲ませた相手に気づかれず殺すことが出来るということだ。
それでも毒薬は毒薬、自然死に見せかけることは無理だろう。つまりカリーナはシアに殺人犯役まで押し付けようとしていたということだ。
しかしカリーナはシアが黙って受け入れると本当に思っていたのだろうか。
立場が下の者は何でも自分の言うことを受け入れて従う。そう思っていたならカリーナとレイモンドは似た者同士だ。
そして私がシアを強く責められなかったのは、自分も理不尽を受け入れ続けていた側だからなのだろう。
だがそれも明日には終わる。どうせレイモンドはすぐに新しい愛人を作って真実の愛がどうだとか囁くのだろうけれど。
けれど浮気性で飽きやすい夫にしてはカリーナとの関係は随分と長く続いているように思える。
相性がいいなどと腹が立つことを言っていたが実際にそうなのかもしれない。
カリーナが高望みをせず私への殺意もなく愛人の座で満足していたら案外私たちは穏やかな関係でいられたのかもしれない。
けれどそうはならなかった。彼女は稚拙なやり方ではあるが私と腹の子を害そうとしてきた。正直殺されても仕方がないと思う。
だが殺すまではできないだろう。それでも一生伯爵家に近寄らせたくはない。可能なら遠い土地に追いやってしまいたい。
そんなことを考えながら悶々としていると扉を叩く音がした。誰だと尋ねるとそれは夫だった。
私は毒薬を素早く鏡台の引き出しに隠した。
招き入れたレイモンドは寝間着姿で髪が乱れていた。そしてへらへらと笑っていた。
彼がよく浮かべる明るく軽薄な笑顔ともそれは異なっていた。何度も見たようで初めて見る笑みだった。
そして夫は私に、愛人をこの手で殺してしまったと告げた。彼の目が奇妙に輝いていることにその時初めて私は気づいた。
その時に何故当主であるレイモンドではなく私の元へやってきたのかを改めて聞いた。
シアは少し沈黙した後で、私の夫は現在愛人と懇ろにしていると気まずそうに教えてくれた。
だからこそカリーナに発見されるリスクを回避して私の寝室まで来ることが出来たのだとも。
正直、夫へ感じたのは怒りではなく脱力だった。
彼自身もカリーナの野心については疎ましく思っていて、妻である私が彼女を追い出したがっていることも知っている。
それでも平気でカリーナを抱くことが出来るのがレイモンドという男だった。
シアを部屋から出した後、一人になった私は大きく溜息を吐いた。
元々はカリーナの家の物だった毒薬は今私の手元にある。
シアには、本人に聞いた致死量から計算し万が一飲んでも死なないだけ分を香水瓶に移して渡した。
それはシアの事を完全に信用してはいなかったからだ。いや、本当はそれだけではない。
私はこの毒薬を「欲しい」と思ってしまった。
服毒すれば眠るように安らかに死ねると言うことは、飲ませた相手に気づかれず殺すことが出来るということだ。
それでも毒薬は毒薬、自然死に見せかけることは無理だろう。つまりカリーナはシアに殺人犯役まで押し付けようとしていたということだ。
しかしカリーナはシアが黙って受け入れると本当に思っていたのだろうか。
立場が下の者は何でも自分の言うことを受け入れて従う。そう思っていたならカリーナとレイモンドは似た者同士だ。
そして私がシアを強く責められなかったのは、自分も理不尽を受け入れ続けていた側だからなのだろう。
だがそれも明日には終わる。どうせレイモンドはすぐに新しい愛人を作って真実の愛がどうだとか囁くのだろうけれど。
けれど浮気性で飽きやすい夫にしてはカリーナとの関係は随分と長く続いているように思える。
相性がいいなどと腹が立つことを言っていたが実際にそうなのかもしれない。
カリーナが高望みをせず私への殺意もなく愛人の座で満足していたら案外私たちは穏やかな関係でいられたのかもしれない。
けれどそうはならなかった。彼女は稚拙なやり方ではあるが私と腹の子を害そうとしてきた。正直殺されても仕方がないと思う。
だが殺すまではできないだろう。それでも一生伯爵家に近寄らせたくはない。可能なら遠い土地に追いやってしまいたい。
そんなことを考えながら悶々としていると扉を叩く音がした。誰だと尋ねるとそれは夫だった。
私は毒薬を素早く鏡台の引き出しに隠した。
招き入れたレイモンドは寝間着姿で髪が乱れていた。そしてへらへらと笑っていた。
彼がよく浮かべる明るく軽薄な笑顔ともそれは異なっていた。何度も見たようで初めて見る笑みだった。
そして夫は私に、愛人をこの手で殺してしまったと告げた。彼の目が奇妙に輝いていることにその時初めて私は気づいた。
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