44 / 73
44.
しおりを挟む
なら他に考えられることは急な減量による体調不良。
あそこまで一気に痩せたのならこちらも有り得る。
けれど体調不良なのにわざわざ菓子店に一人で来たりするだろうか。
イオンは公爵夫人の母親に溺愛されている筈だ。
なら具合が悪い彼を屋敷の外に出すと思えない。
それに短いが会話をして顔も何度か見つめたが不健康そうな様子は無かった。
妙に落ち込んだ様子だったが顔色も悪くなかった。
だからこの可能性も、低いと判断する。
そうすると他に考えられることは一つだ。
(……ディエが相変わらず冷たいままなのかな)
布巾を乾いた物に取り換えケースを乾拭きしながら思う。
確かに俺は痩せればディエに好きになって貰えるかもとは言った。
それを信じてイオンは痩せようと決意し努力したのかもしれない。
けれど彼の婚約者の態度は変わらなく、イオンは落ち込んだ。
消去法だがこれが一番有り得るかもしれない。そして一番同情出来る。
人を愛する理由として外見が全てでは無い。
ディエはイオンの外見以外の部分が気に入らず愛さないのかもしれない。
公爵家に産まれ母親に溺愛されているイオンと、父親に虐げられているらしいディエ。
住む世界が違う二人だがディエの美貌がイオンの心を射止めた。
そして強引に婚約した。この時点でディエがイオンに対し辛辣な感情を抱いてもおかしくは無い。
イオンとディエは恋愛感情でなく契約で結びついた関係なのだ。
イオンはディエを愛しているだろうが、それを理由に婚約した時点でディエの感情は無視されている。
どういう形で婚約したのかまでわからない。ディエ側に断る権利はあったのかも知らない。
俺が知っているのはイオンがディエにベタ惚れで、ディエはイオン以外の男と付き合いたがっている。それだけだ。
イオンがディエに愛して欲しいと願う気持ちも理解できるし、ディエがイオンを愛せない理由も理解はできる。
そしてディエがイオンを愛さなかったとしても俺のせいではないと思う。
でもイオンに愛して貰えるかもと期待させて糠喜びさせた罪は少しだけあるかもしれない。
そう考えると気分が重くなった。
すると後ろから声がかけられる。
「……アリオ、後は俺がやる」
そういって手を伸ばしてくる相手に俺は緩く首を振る。
「大丈夫だよ、もう少しで終わるから」
「……気分が悪いなら、今日は早く休め。暫く店番もしなくていい」
手を伸ばしたまま告げる父親に俺は目を丸くした。
今更気づいたのかと言われそうだが随分と過保護だ。
家族経営な上に父子家庭なのだから一家全員で働かないと菓子店なんて成り立たない。
確かにそろそろ従業員を増やそうかという話はしていたが、求人すらしていない段階だ。
「いや本当に平気だよ。ただ色々考えていただけ」
「……何を考えていたんだ」
今日の父は随分と食い下がってくる。
それだけ俺の様子がおかしいのかもしれない。自分ではそこまでではないつもりだが。
心配させているのは確かだ。いい年して頼りない息子で申し訳ないと思った。
多分ここで何もないとか曖昧な返事をしても父は納得しない。
ある程度の本音を語って納得してもらおう。俺は口を開いた。
「あのさ、今日ゴールディング公爵家の息子が来たじゃん」
「ああ」
「なんか別人みたいに痩せてて吃驚したんだ」
「そうか」
口下手で寡黙な父と会話すると返ってくるのは大抵短い相槌だけだ。
だが長い付き合いだから今更気まずくなったりはしない。
ちゃんと聞いてくれているのはわかっている。
あそこまで一気に痩せたのならこちらも有り得る。
けれど体調不良なのにわざわざ菓子店に一人で来たりするだろうか。
イオンは公爵夫人の母親に溺愛されている筈だ。
なら具合が悪い彼を屋敷の外に出すと思えない。
それに短いが会話をして顔も何度か見つめたが不健康そうな様子は無かった。
妙に落ち込んだ様子だったが顔色も悪くなかった。
だからこの可能性も、低いと判断する。
そうすると他に考えられることは一つだ。
(……ディエが相変わらず冷たいままなのかな)
布巾を乾いた物に取り換えケースを乾拭きしながら思う。
確かに俺は痩せればディエに好きになって貰えるかもとは言った。
それを信じてイオンは痩せようと決意し努力したのかもしれない。
けれど彼の婚約者の態度は変わらなく、イオンは落ち込んだ。
消去法だがこれが一番有り得るかもしれない。そして一番同情出来る。
人を愛する理由として外見が全てでは無い。
ディエはイオンの外見以外の部分が気に入らず愛さないのかもしれない。
公爵家に産まれ母親に溺愛されているイオンと、父親に虐げられているらしいディエ。
住む世界が違う二人だがディエの美貌がイオンの心を射止めた。
そして強引に婚約した。この時点でディエがイオンに対し辛辣な感情を抱いてもおかしくは無い。
イオンとディエは恋愛感情でなく契約で結びついた関係なのだ。
イオンはディエを愛しているだろうが、それを理由に婚約した時点でディエの感情は無視されている。
どういう形で婚約したのかまでわからない。ディエ側に断る権利はあったのかも知らない。
俺が知っているのはイオンがディエにベタ惚れで、ディエはイオン以外の男と付き合いたがっている。それだけだ。
イオンがディエに愛して欲しいと願う気持ちも理解できるし、ディエがイオンを愛せない理由も理解はできる。
そしてディエがイオンを愛さなかったとしても俺のせいではないと思う。
でもイオンに愛して貰えるかもと期待させて糠喜びさせた罪は少しだけあるかもしれない。
そう考えると気分が重くなった。
すると後ろから声がかけられる。
「……アリオ、後は俺がやる」
そういって手を伸ばしてくる相手に俺は緩く首を振る。
「大丈夫だよ、もう少しで終わるから」
「……気分が悪いなら、今日は早く休め。暫く店番もしなくていい」
手を伸ばしたまま告げる父親に俺は目を丸くした。
今更気づいたのかと言われそうだが随分と過保護だ。
家族経営な上に父子家庭なのだから一家全員で働かないと菓子店なんて成り立たない。
確かにそろそろ従業員を増やそうかという話はしていたが、求人すらしていない段階だ。
「いや本当に平気だよ。ただ色々考えていただけ」
「……何を考えていたんだ」
今日の父は随分と食い下がってくる。
それだけ俺の様子がおかしいのかもしれない。自分ではそこまでではないつもりだが。
心配させているのは確かだ。いい年して頼りない息子で申し訳ないと思った。
多分ここで何もないとか曖昧な返事をしても父は納得しない。
ある程度の本音を語って納得してもらおう。俺は口を開いた。
「あのさ、今日ゴールディング公爵家の息子が来たじゃん」
「ああ」
「なんか別人みたいに痩せてて吃驚したんだ」
「そうか」
口下手で寡黙な父と会話すると返ってくるのは大抵短い相槌だけだ。
だが長い付き合いだから今更気まずくなったりはしない。
ちゃんと聞いてくれているのはわかっている。
250
あなたにおすすめの小説
四天王一の最弱ゴブリンですが、何故か勇者に求婚されています
書鈴 夏(ショベルカー)
BL
「アイツは四天王一の最弱」と呼ばれるポジションにいるゴブリンのオルディナ。
とうとう現れた勇者と対峙をしたが──なぜか求婚されていた。倒すための作戦かと思われたが、その愛おしげな瞳は嘘を言っているようには見えなくて──
「運命だ。結婚しよう」
「……敵だよ?」
「ああ。障壁は付き物だな」
勇者×ゴブリン
超短編BLです。
ノリで付き合っただけなのに、別れてくれなくて詰んでる
cheeery
BL
告白23連敗中の高校二年生・浅海凪。失恋のショックと友人たちの悪ノリから、クラス一のモテ男で親友、久遠碧斗に勢いで「付き合うか」と言ってしまう。冗談で済むと思いきや、碧斗は「いいよ」とあっさり承諾し本気で付き合うことになってしまった。
「付き合おうって言ったのは凪だよね」
あの流れで本気だとは思わないだろおおお。
凪はなんとか碧斗に愛想を尽かされようと、嫌われよう大作戦を実行するが……?
結婚初夜に相手が舌打ちして寝室出て行こうとした
紫
BL
十数年間続いた王国と帝国の戦争の終結と和平の形として、元敵国の皇帝と結婚することになったカイル。
実家にはもう帰ってくるなと言われるし、結婚相手は心底嫌そうに舌打ちしてくるし、マジ最悪ってところから始まる話。
オメガバースでオメガの立場が低い世界
こんなあらすじとタイトルですが、主人公が可哀そうって感じは全然ないです
強くたくましくメンタルがオリハルコンな主人公です
主人公は耐える我慢する許す許容するということがあんまり出来ない人間です
倫理観もちょっと薄いです
というか、他人の事を自分と同じ人間だと思ってない部分があります
※この主人公は受けです
【短編】花婿殿に姻族でサプライズしようと隠れていたら「愛することはない」って聞いたんだが。可愛い妹はあげません!
月野槐樹
ファンタジー
妹の結婚式前にサプライズをしようと姻族みんなで隠れていたら、
花婿殿が、「君を愛することはない!」と宣言してしまった。
姻族全員大騒ぎとなった
Sランク冒険者クロードは吸血鬼に愛される
あさざきゆずき
BL
ダンジョンで僕は死にかけていた。傷口から大量に出血していて、もう助かりそうにない。そんなとき、人間とは思えないほど美しくて強い男性が現れた。
推し様たちを法廷で守ったら気に入られちゃいました!?〜前世で一流弁護士の僕が華麗に悪役を弁護します〜
ホノム
BL
下級兵の僕はある日一流弁護士として生きた前世を思い出した。
――この世界、前世で好きだったBLゲームの中じゃん!
ここは「英雄族」と「ヴィラン族」に分かれて二千年もの間争っている世界で、ヴィランは迫害され冤罪に苦しむ存在――いやっ僕ヴィランたち全員箱推しなんですけど。
これは見過ごせない……! 腐敗した司法、社交界の陰謀、国家規模の裁判戦争――全てを覆して〝弁護人〟として推したちを守ろうとしたら、推し皆が何やら僕の周りで喧嘩を始めて…?
ちょっと困るって!これは法的事案だよ……!
冷遇王妃はときめかない
あんど もあ
ファンタジー
幼いころから婚約していた彼と結婚して王妃になった私。
だが、陛下は側妃だけを溺愛し、私は白い結婚のまま離宮へ追いやられる…って何てラッキー! 国の事は陛下と側妃様に任せて、私はこのまま離宮で何の責任も無い楽な生活を!…と思っていたのに…。
悪役令息の兄って需要ありますか?
焦げたせんべい
BL
今をときめく悪役による逆転劇、ザマァやらエトセトラ。
その悪役に歳の離れた兄がいても、気が強くなければ豆電球すら光らない。
これは物語の終盤にチラッと出てくる、折衷案を出す兄の話である。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる